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第1部
TAKE9 変わる世界 後編
しおりを挟む「あ!亜門!!皮剥き機ってある?」
昨日の放課後の事を思い出していた亜門だが、小夜に話し掛けられたので、そこで回想はやめた。
「…皮剥き機ない。」
「え?どうすればいいの?ジャガイモとか!!」
「包丁で剥けば?」
「…怖い。」
「練習だと思って…」
「一回、亜門が見本してよ?」
「…」
友達というのは…
難しい。
やっぱり何が友達でどう付き合うのが友達か、わからない。
亜門は黙って小夜から包丁を取り、皮剥きを始めた。
「あ…髪あげる?前髪ジャマじゃない?」
「いつもだから…慣れてる。」
「…てか普通に前髪長すぎない?切らないの?」
「高校で顔隠すために伸ばしてたようなもんだったから。」
「陰湿っぽくて高校デビューには逆効果だったと思うよ、その髪」
「うるせ」
「でも…もう必要ないんじゃない?」
「…ん?」
「友達出来たし?」
嬉しそうに言っている小夜を見て、彼女はただ友達と言いたいだけなのでは…と亜門は妙にそのワードがだんだん恥ずかしくなってきた。
「なんで沢田君があんなこと言い出したかわかんないけど…結果よかったね?」
「何が?」
「んー、私達…同じ班になれて!!」
「そう……か?」
「え!?嫌!!??」
「だって小夜、料理出来ねぇーもん。バーベキューで変なことすんなよ?」
「バーベキューなんて焼く以外やりようなくない?」
「…ま、頑張ってくれ。ジャガイモ。」
「だからまず見本…って早ッッ!!!もう剥けたの!?」
「ちっちゃいヤツ選んだし。」
「…見てなかった!!!」
「…知らねーよ。」
亜門は包丁を置いて、また座った。
そして沢田の真意について考えた。
(本当に今さら俺に何のつもりで同じ班なんか…あの噂の後だったし、俺の昔に気付いたとか?でもそんな素振りもなく未だに"ドモ"ってバカする。それか本気で俺と仲良くしようと?いや、それもありえねー…)
「硲くんから聞いてたけど…」
「…え?」
「本当にいつもは無愛想なんだね。普段の亜門って…」
「尚太がそう言ってたのか?」
「うん。あ…無愛想というか不機嫌って言ってた。」
「…あいつ殺す。」
「今までの亜門と…なんだか全然違うね。」
「………嫌か?」
「え?」
「敬語使ってた前の俺と今と比べて…普段の俺は…嫌か?」
「う、ん…うぅ、うん!!」
「え?なにそれ?どっち?」
小夜は包丁とジャガイモと両方手元に置いて「うーん…」と唸った。
「前の時の方が優しかったかな…って思って『うん』って言ったけど、考えてみたら前も言うほど優しかったわけでもなかったな…と思って『うぅん』って言った。」
「……」
「ほら、その顔!」
「うん?」
「目細めて、なんとも言えない…嫌そうな顔。」
「…」
「亜門が敬語使ってた時も同じ顔してた…し、実は大概嫌がるか断るかしてた。だから前も今も思い返すとあんまり変わってないよね…」
亜門はいつもみたく溜め息をついた。
友達を作ろう、周りに馴染もうと奮闘していた敬語の自分の3週間は所詮、付け焼き刃であって、意味がなかったのかもしれないと思った。
(…というより、俺の考えも実践も甘かったんだな…)
所詮自分は周りに馴染める人柄ではないし、自分らしくない"なりたい自分"になるには並大抵の努力じゃ難しいのだ。
ひっそりとショックを受けていることに小夜は気にもとめず、「でも…」と続けた。
「でもいつもそう言いながら、そんな顔しながらも最後は私に付き合ってくれるよね。前も今も。」
小夜は皮の剥けたひとつのジャガイモを顔の横まで持ち上げ、亜門に見せた。
さっき亜門が見本で剥いてみたジャガイモだ。
「だから嫌じゃないよ!亜門と一緒にいるの!!」
ニシシと笑っている小夜を見て亜門は気付いた。
「今何した?」
「……え?」
「小夜、今なんか隠した?」
「……え?」
「何隠した?」
「えっと…あ!ちょっと!?」
亜門は後ろに隠したジャガイモを持っている手とは反対の手を取った。
表に出してみると、それもまたジャガイモだった。
しかしそれは…
「ちっっっさ!!!!」
小夜の両手にそれぞれジャガイモを乗せているが、大きさに差がありすぎる。
「…またこれは…」
「あ!!やめて!!その顔!!そんな呆れたみたいに目を細めないで!!」
「みたいじゃなくて実際呆れてます。うわ…皮にほとんど身がついてますね…」
「ぎゃ!!やめて!!わざとそんな距離ある喋り方しないで!!敬語に戻さないで!見捨てないで!!」
「むしろここまでよく怪我しないで剥ききりましたね…」
「練習!!練習中だから…ね?」
小夜は気合いを入れ直してまた皮付きジャガイモと包丁を持って剥き始めた。
その背中を亜門は黙って見ていた。
その包丁の入りからして、皮はおろか大半以上は身まで剥いている。
本当に以前は料理が上手かったのだろうか。
そういうのは体が覚えているということはないのだろうか。
「小夜…」
「…何も言わないで。言わんとしてることはわかってるから…頑張って亜門と同じ大きさに剥くから…」
「じゃなくて…」
「…?」
亜門は小夜から包丁を取り上げて、その顔をジッと見た。
「何も思い出さないの?」
「…え?」
「こうして何気ない生活して、料理してみたりしてて、なんか思い出すこととかないの?」
「え~…特にないかな?今のところ。」
あっけらかんと答える小夜を見て、亜門はほぼ確信を持っていた。
小夜は記憶がないからこそ、自分自身に現実味を持っておらず他人事に捉えている。
デリケートな質問にもいつも真っ直ぐありのまま答え、むしろそれを笑ったり、ジョークに交えたりする。
…でも
『…別に?特に考えてないよ。なんとなく…。なんか…私もよくわかんないんだけど、そうしたくなったの。』
(でもその素直な自由さのおかげで俺は少なからず…)
小夜はそっと亜門の服を掴んだ。
「…え?なんだ?」
「でも…時々…声がするの。」
「声?」
「"小夜"って。私を呼ぶの。」
「…」
だんだん俯きそうになる小夜の眉間に思い切り親指で押し上げた。
「いででで。亜門!?」
「お前の性格も安定してきたな…」
「え?なんのこと?」
「まっ、こっちの話。俺がお前の性格把握してきたっつーか、」
「…?」
「お前が俺の"よくする顔"を知ってるってのと同じだよ。」
「う…うん?」
「とりあえず出掛けるか…」
「…は?」
「買い物するか。」
「へ?だって…カレー途中…」
「皮剥き機。買いに行くぞ。怪我されても困る。」
「え?えぇ?」
「最近は100均でも売ってるしな。行くぞ、おら。」
「ま…待って!?」
上着を来て玄関で靴を履く亜門に慌てて小夜も着いていく。
「もう一度言うけど、」
そんな小夜に亜門ははっきりと声を出した。
「大丈夫だから。」
「…え?」
「お前が前の俺と今の俺どっちでもいいって言ったみたいに、お前が"前"に戻ったとしても大丈夫だから。不安なったらすぐ言え。」
そんな風に言えるのも小夜がいるおかげ。
「…ホント?」
「なんか思い出したら、すぐ言え。協力出来たらしてやるし、そういう契約だったからな。」
「え…?契約?」
「そう。協力とボディーガード。」
小夜が無言で明らかに期待ハズレみたいな顔している。
(ホントに素直っつーか。子供みてぇ…。)
亜門は顔をそらした。
「それに…友達だしな。」
小夜の顔を見ないまま亜門は小さく呟いた。
小夜に落胆されたままもやりずらいが、聞こえてなくてもかまわないと思っていた。
部屋を出て鍵を閉めた。
その時に小夜を見た。
…明らかに笑っている。
『友達』というワードはちゃんと聞かれていたらしい。
『亜門!!お前も来いよ!!高校。うまく問題起こさず大人しくしてたらお前だって友達出来るよ。今しか出来ない青春って最高だぞ?』
(…斗真。大人しくしてたって友達出来ねーし、問題ばっかだし、誰かと新しく関係作んのだってめんどくせーけど…)
「亜門!!帰りにさぁ、たい焼き買おう?」
「え?カレーは?」
「たい焼きはおやつ。」
「…時間的にカレーもおやつになりそうだな…」
笑う小夜を見て亜門は思った。
世界が変わった。
斗真がいる世界。
斗真がいない世界。
変わり続ける世界で亜門の世界がまた変わった。
変わり始めたばかり。
それはめんどくさい。
でも…
「でもおもしれーな。」
「え?何?」
「ん?いや?別に。たい焼きは小夜のおごり?」
「…えぇ!?」
でも変わり始めたせいで、亜門の予想を遥かに越えるめんどくさいことが待っていた。
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