わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE10 勝負宣告 前編

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◇◇◇◇

「お…おはよう。」


学校に着いて、小夜は勇気を出して自分から瑞希と結子と仁美に挨拶してみた。


でもチラッと小夜を見ただけで、何も言わずゆっくりと小夜から離れていった。

その際に仁美だけが遠慮がちに「おはよう。」と返してくれたが、仁美も瑞希達を追ってその場を離れた。


その様子を亜門は遠くから見ていた。


落ち込む小夜を見て亜門は言わんこっちゃねぇ…と溜め息をついた。

同じように遠巻きに見ていたクラスメイト達が

「あの子がドモと一緒に行ったって子?」

「なんて子?」

「確かカワシロ…?」

「始めの頃、ずっと休んで子だよな?」

「あぁ、いたね。そんな子。」

「まぁ浮いてる同士でお似合いじゃない?」

と、口々に言っていた。

これが亜門と関わった結果。

こないだの騒ぎは隣クラスまで瞬く間に広がり、もう取り返しのつかないところまで噂された。

もう後戻りは出来ない。

だからこそ亜門は小夜のところに行った。


こそこそする必要はないと思ったし、自分を選んでくれた小夜を一人にするわけにはいかなかった。


「おはよう。」

「あ…亜門!おはよう。」


小夜は一変にして顔をキラキラとさせた。


(なんか…最近…始めのころより更に拍車をかけて…懐かれてるような)


祝日の突然の訪問といい、『友達』と言ったり、言われる度に嬉しそうな顔といい、亜門は若干の戸惑いを覚えていた。


「なんか…教室で亜門と堂々と喋んのって変な感じ…だね?」

「あぁ。いつも屋上か放課後の学校から離れた所だったしな。」

「あ…でもこれからも屋上でお昼食べたいかも!!」

「……いいけど、小夜の手作り弁当はもういいからな。」

「え?なんで?」

「料理センスないから。」

「なんでよ!?カレー美味いって言ったじゃん!!」

「味はな…野菜の形が悲惨だった…ってかあれは後半ほぼ俺が作ったようなもんだろ!!」

「私も作ったうちに入るんです~!!共同作業です!!」

「……も、いいよ。それで。」


小夜をスルーして亜門は席に着いた。

小夜はまだ納得できず、亜門についていった。


「何?その"俺が譲ってやるぜ"的な!!」

「いや…思ってないって。」


これ以上、面倒になる前に亜門は身を引いた。

しかし小夜はその態度にますます火がついた。


「いいよ!明日の遠足覚えてろ!?」


悪役みたいな台詞を吐き捨て、小夜も自分の席に着いた。

チャイムが鳴ったのだ。


周りの好奇の目が変わらず注がれる。

その様子から見て、亜門が元ヤンであることは結果バレていないないようだ。

ただ地味な奴が我慢出来ずに突然キレた…という風に受けたのだろう。

元々キモい奴が更にキモかったってだけである。

そしてそのキモい奴と何故か一緒に逃げた謎の女。


クラスは"ハコヤマデーモン"や"鬼のトーマ"の噂もむしろすっかり忘れて、そのことに注目がいった。


(まぁ小夜が元気なら…いいか。)


思っていた高校生活とはかなり違うが、そう思うことで亜門はそれらを受け流した。


休み時間は教室の中で小夜の記憶の話を迂闊《うかつ》に出来ないし、亜門の昔を話すこともしない。

なんてことない他愛もない話を小夜がして亜門が相づちを打つ。


昼休みになり、ようやく屋上へ行けると思ったところで二人に声が掛かった。


「おい!!ドモ!!…とそこの女!!」


振り返れば沢田達だった。


「放課後は用事あっから、明日の決めること今決めんぞ。」


いつもの亜門なら無視していた。

しかし今は小夜も一緒だ。

そして以前と違って、亜門はもう上村・森川に手も出しており、二人は亜門に対して殺意を放っている。


逆らわない方がいいが、一緒にいるのも危険だ。


「いいよぉ。わかった!」


亜門が迷いかねてるのも知らずに小夜は軽い返事をした。


そんな小夜を思わず睨むと「え?なんでまたその顔!?」と普通にビックリしていた。


沢田達に促されて用意された席に瑞希達もすでに座っいる。


彼女達は亜門と小夜を見て避ける様に俯き、上村と森川は亜門を思い切り睨んでいる。


非常に気まずい空気が流れたまま弁当を広げ、話し合いが始まった。


その中で気にしていない様子の沢田が話を仕切って…


「もう日にちねぇから買い出しは各自な。何が焼きたい?」

「はい!出来たらお肉多めに食べたいです!!」


…と何故か小夜も気にしていない様子で参加した。

妙に活き活きとしている小夜に亜門は耳打ちをした。

(なんでそんな普通にしてんだ?状況わかってんのか?)

(え?なんで?遠足のための話し合いなんて亜門の好きな青春だよ?)

(今はそんな場合じゃねーだろ?っていうか素のキャラ出しすぎじゃね?)


事実、元気よく発言している小夜と教室での大人しさのギャップを見て瑞希達が若干驚いて、箸を止めている。


(だってさ、ほら!!亜門と一緒だから!!)

(…ん?)

(そう思うと安心してより自由にできるっていうか、素でいれるっていうか!)

(…お前…)


それはまるで…


親が見守る中、その範疇で公園デビューした子供。


俺は親か!?


亜門のそんな心の叫びが伝わるわけもなく、小夜はニコニコしている。


沢田は肘を着いてパンをかじり、そんな二人を見て言った。


「…お前ら付き合ってんの?」


沢田の一言に亜門と上村と森川が同時に首を振った。

それに亜門が驚いた。


「は?なんでてめぇらが首振んだよ!?」

「ありえねーよ、ドモに彼女とか。」

「だとしたらムカつく。」


亜門の顔が徐々に般若化しそうになるところを小夜が遮った。


「そんなんじゃなくて普通に友達!!」

「…というより保護者だな。俺が…」

「…はぁ!?」


完全な亜門の八つ当たりに小夜は睨んでみたが、亜門も目を細めて睨み返した。

それを聞いて瑞希が好奇心を抑えられず話を広げた。


「で…でも…仲良いんでしょ?」

「仲は…良い…んかなぁ?」


かなぁ?で小夜は亜門の顔を見て同意を求めるが、そうされても困る。

そして小夜のその目があわよくば"仲良い"と言ってもいいよと期待している。


小夜は何かを吹っ切れたのか"友達"とか"青春"を亜門よりも気に入っている。

亜門が言葉に迷って弁当をつついていたら、仁美が口を挟んだ。


「でも二人とも昼休みのあとの五限サボってること割と多かったよね?前から…」

「「ぶっ!?」」


亜門と小夜は共に吹いた。

そしてそれを聞いた瑞希と結子は驚いた。


「え?そうなの!?てかなんでヒィが知ってんの?」

「知ってるっていうか…なんとなく気付いただけ。だから…」


仁美は小夜の目をじっと見た。


「二人が繋がってるんだろうな…は思ってた。ずっと前から…」


小柄で大人しいイメージとは裏腹に仁美の鋭さに小夜は瞬きをした。

その時、森川が小さく「あっ。」と声を出して思い出した。


「そういや始めの頃、ドモが女と一緒に逃げてたの見たことあるような…それってアンタ?」


それは確実に小夜である。

二人は周りに繋がりがあることを悟られないようにしてきたつもりが、ボロを出しすぎであったことを今更ながらに知った。

思わず苦笑いをする亜門に上村はフンと鼻を鳴らした。


「女が一番の友達ってお前はノビ太か!?」


意味がわからないがバカされたのはわかったので亜門は眉をひそめた。


「は?わけわかんねぇし…」

「シズカちゃんいるだろ!?」

「シズカだけじゃねーだろ?」

「わかんねーけどてめえはノビ太なんだよ!!」

「…ノビ太に謝れよ。」


亜門と上村のやり取りに小夜が真顔で「誰それ?」と聞いている。

結子はそれよりも「いや、まず先に自分に謝ってもらおうよ…一応。」と気になっていたことを言った。


それまで黙っていた沢田が亜門の顔を見て言った。


「お前、ドモらずに普通に喋れんだな…」


そう言われて亜門も上村もそれに気付いた。


「…そういえば。」


亜門はそう呟いて小夜の顔を見た。


(緊張せずに素でいれるのは…俺も同じか…)


そんな亜門の考えに気付かず亜門を見つめ返して小夜は首を傾げた。


沢田は食べ終わったパンの袋をくしゃりと丸めて話だした。


「それより早く決めんぞ!!肉のほかは?」

「バナナ!!」


手を挙げて意見を言うのはやはり小夜だった。


でもいつの間にか始めよりも少し空気が和らいでいて、そのあとポツポツと材料の意見が出始めた。


…ー


「よし!じゃあ当番になった材料は各自で買い出しだね!!」


話が終わり、瑞希が話をまとめて弁当を直した。


結子と仁美もそれにならって弁当を片付け始める。

昼休みはまだ終わりではないが次が体育なのだ。


「じゃあ明日はよろしくね。」


瑞希は亜門と小夜と沢田達に向かって言った。

体育の準備をしようと立ち上がった時、仁美が小夜に声かけた。


「革城さんも行こ?遅れちゃうよ?」


小夜は目を見開いた。

そのまま亜門に顔を向けたら亜門は小夜にコクンと頷いた。

それを見た小夜は慌てて立ち上がった。


「う…うん!!準備する!!あ…亜門、じゃあね!!」

「おぉ。」


小夜を見送って亜門も立ち上がった。


(なんだかマジで娘に友達が出来た心境だな…)


隣でまだ席に座っている沢田を見下ろした。


「……じゃあな。」

「…あぁ。」


亜門は自分の席へと行き、自分も体育の準備をした。


(俺は小夜と違ってあいつらとは友達にはなれねぇな…)


そう思いながら沢田達を残して教室を出た。


亜門が出ていってから上村と森川は伸びをした。


「次、体育とかダリぃ。ユキ、サボるか?」

「てか俺はまだドモと同じ班ってのがダリぃ。もう遠足もサボりてぇ。ユキちゃん…あいつどうにかなんねぇ?」

「そうだよ!ユキが遠足の話を仕切ったりとかダリぃことして…お前何考えてんだよ。マジで!!」


沢田はそんな二人に対して「あぁ。」と生返事をして立ち上がった。


「…?ユキちゃんどこ行くの?」

「あ?便所だよ。」


沢田はそれだけ言って二人を残して、亜門を追いかけるため歩き出した。


亜門は体操着に着替えるために誰もいないのを確認してトイレに入り、個室へと足を踏み入れようとした。


しかしそれは阻まれた。


「トイレで着替えとか…てめぇは女子か!?」


その声に亜門は驚いた。

振り返った先には、腕を組んだ沢田が扉にもたれていた。


「…俺の勝手だろ?」


よりにもよってコイツかよと亜門が溜め息をつくと、沢田もトイレへ入ってきた。


「そういや体育の時いつもてめぇは更衣室には来ねぇよな…てめぇはオカマか?それとも……着替えを見られるのが…マズイ、とか?」


亜門は沢田の言葉にピクッと眉を動かした。


「なんだよ、てめぇこそ。そんな俺の着替えに着いてきたりして…お前こそ変態か?」

「おぉ、言うじゃねぇか。少しはなってきたんじゃねぇの?」


亜門は確信を持ち始めていた。

沢田は…"気付いている"と。


「一体どんな奴なのかと思って、ちょっと近付いてみたら…"噂"なんてのはアテになんねぇのな。」


沢田はゆっくりと右手で亜門の胸ぐらを掴み、亜門は黙って沢田を睨み続けた。


「女とヘラヘラ笑って、シンとの言い合いにしたって低レベル。遠足の会議みたいなんにも黙って、こじんまりと収まりやがって…マジくだんねぇ。」


掴んでいた胸ぐらを突然、勢い良く壁まで突き押した。

壁に押し付けられた亜門は思わず「ーッッ。」と息を詰まらせた。

咄嗟に相手の腕を捻ろうと手を出したが、沢田は亜門に掴まれる前にシャツを掴んだまま腕を勢い良く右に引く。


トイレでシャツが裂ける音が響いた。


「あぁ、アテになんねぇ噂も…これは本当だったんだ?
悪魔の左胸に刻まれている…ドクロの刺青。」


何も言わずに睨み続ける亜門に沢田は少し笑って亜門に問いかけた。


「なぁ、そうだろ?デーモン…波古山亜門。」



亜門の胸に刻まれているのは煙を吐いて笑う漆黒の髑髏(ドクロ)。


「いくらダサく変身しようと刺青それは隠せねぇよな?そりゃ一人で着替えるしかねぇな。」

「…てめぇは何がしたいんだ?」

「…なんてことねぇよ。中学ん時に噂になった"デーモンと鬼"ってのが実際どんなもんなんかと思っただけだよ。」


亜門は破けたシャツを気にすることなく、沢田と睨み続けて動こうとしない。


(沢田を今ここで気絶させてウヤムヤにしてやろうか?)


だがそんなことをしたところで、始めから勘づいている沢田にそれが有効とは言えない。

何よりついこないだ亜門は教室で暴力をふるっている。

またここで暴力を起こして今回も見逃されるとも限らない。

これ以上、問題を起こすことは避けたい。


判断できずに、動かない亜門に沢田が思いがけない提案を口にした。


「なぁ?俺と勝負しないか?」
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