わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE11 思い出の片鱗 前編

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◇◇◇◇

「おらよ。」


沢田がスマホを放り投げて、小夜はそれを見事にキャッチした。


「亜門来るって?」

「知らね。返事聞いてねぇ。」

「ダメですよ。ちゃんと聞かないと。一緒に行くんでしょ?買い出し。」


亜門にまるで人質のような言いぶりだったが、小夜はただ沢田の口車に乗せられただけであった。

亜門と仲直りに一緒に遠足の買い出しに行きたいから呼ぶためにスマホを貸してくれ、と。


何も知らない小夜は亜門と沢田が友達になれるだろうと思い、浮かれてあっさり貸したのだ。


そうしてブランコを漕ぐ小夜の横で上村もブランコに腰かけて唸っていた。


「うーんー…まだ信じらんねーよ!ドモが"デーモン"だなんて!!ユキちゃん?やっぱ嘘なんじゃねーの?」

「本人なんは間違えねぇ!左胸に刺青が入ってた。後は強さが本物かどうかだよ!」


沢田は自分の掌に自分の拳を入れて気合いを入れている。


小夜はきょとんとした。


「…沢田くん達は亜門の中学時代を知ってるの?」


沢田は小夜をじっと見た。


「何。そういうあんたも知ってたんだ?あんたらマジどういう関係なんだ?幼なじみ…とか?」

「うぅん。友達!高校から。」

「…なんで?いつの間に?」


その話には森川も思わず聞いた。

その問いに対して小夜は思い出すように空を見上げた。


「うぅーん…不良に絡まれてるところを…助けてくれたのキッカケ…になるのかな?」

「は!!そんな今更マンガみたいに突然良い奴になったって…バカじゃねぇの?」


上村はそう言って鼻で笑った。

顔を蹴られた恨みをまだ持っているようだ。


しかし小夜はそれよりも上村が言った"良い奴"というフレーズに違和感を感じた。


「結果、助けてくれたけど…そんな感じじゃなくて…」





『殴ったよな?こういうのは正当防衛って言うんだってよ。』





「…殴られたのがムカついて、やり返したって感じ。」

「「「…あぁ。」」」


小夜のその表現に何故か三人とも納得をした。


「やっぱそんな感じの奴なんだ?」

「だから俺らは蹴られたのか!?ムカついて…」


小夜が「いや…こないだの亜門は……」と言いかけたけど、斗真のことをバカにしたからと言いかけたけど、斗真のことをいう必要はないかと思って黙った。

森川がふと疑問に感じた。


「っていうか確か噂では"鬼とデーモン"は俺らの年上じゃなかったか?」

「まぁ軽い都市伝説みたいなもんだったから、そこらへんの情報は適当なんだろ?」


森川の疑問に上村が軽く流そうした時に沢田が続けた。


「いや、モリの言う通り俺らの一個上のはずだ。」

「えー…留年とかか?なんか知らないの?あんた。」


上村の突然のフリに小夜は瞬きをした。

言われてみれば小夜も年上であることは知っているが、どういう経緯で一年遅れの入学となったかはまだ知らない。

黙っていたら森川が喋り出した。


「てかお前、名前なんて言うの?」

「あ…えっと、私?私は、革城小夜です。革手袋の"革に"お城の"城"で。あと小さい夜。はじめまして」

「へぇ~変わった名字だね。由緒正しそうな…」


そう言われて小夜は焦った。

自分が革城貿易株式会社の社長令嬢であることは一応内緒であるという家政夫の橘さんとの約束を思い出したからだ。


だから誤魔化そうとして苦笑いをした。


「へ…変な名前でしょ?」

「でも確かにいたよ。そういう名前のお嬢。」

「…え?」


小夜は目の前に立っている沢田を凝視した。

森川はそんな小夜を気にする風もなく沢田を促した。


「それってユキが世華にいた時か?」

「あぁ。俺は普通科だったから会ったことねぇんだけど、特進ですげぇ有名なお嬢がいて、そいつも『革城』だった。」


("世華"…"革城"…)


小夜は心不全が起きたかのように脈が乱れた。

目を見開く小夜の様子を上村は違う意味に受け取ったようで、自分のことのように自慢げに小夜に説明し出した。


「すげぇだろ?ユキちゃんはこう見えて世華中學校に通ってたんだぜ!!」

「…世華。」

「でもユキちゃんは最強だから世華なんかじゃ収まれなかったんだぜ!!だからそんなユキちゃんがデーモンなんかに負けるわけねーんだ!!」

「シン…少し黙れ。逆に恥ずかしい。」


沢田と上村のやり取りをスルーして森川が顎に手を当てて繁々と小夜を見た。


「なぁなぁ、同じ"革城"だったら親戚かなんかじゃねーの?知らない?世華の革城って。」


小夜は言葉につまった。

うまく誤魔化す機転が利かない。

森川はそんな小夜も気にせず続けて言った。


「…てか本人とか?」


核心をつく質問に小夜はますます言葉が出なくなった。

しかしそれに答えたのは何故か沢田だった。


「それはねーよ。親戚だろ?」

「は?なんでよ?」

「俺が転校してからだけど、噂で世華の革城のお嬢様は死んだって聞いたぞ?」


(…な、なんだってぇ!?)


小夜の口があんぐりと開いた。

呆然をする小夜をよそに会話が続く。


「あ、そうなんだ。」

「しかもすげぇ美人で頭いい人だったらしいって話だし。」

「…あぁ、そら違うな。」


(何ぃ!?勝手に殺しといて私に向かって『そら違うわ。』って失礼すぎるだろ!?つか死んでないんですけど!!!!)


「なんで死んだん?病気?」

「じゃなくて、電車に轢かれたって。」



心臓の音が、乱れるどころか逆に止まるかと思った。

え?

電車?


電車に轢かれた。

私の接触事故って…


電車?

電車って何?


あぁ

前に亜門から教えてもらった乗り物だ。


いや…

私はその前から…

知ってる。


違う。

知らない。


わからない。

電車って?


赤い塗装の
箱形の乗り物と
舞い上がる
白いスカーフ


『小夜!!』


そして私を呼ぶ声。

頭痛が走る。

小夜は自分の頭を押さえた。


「…ー夜!!!小夜!!!」


小夜を呼ぶ声が確かにした。


小夜だけでなく、それは沢田達にも聞こえた。


「よぉ、やっと来たぜ!マンガみたいなヒーロー、デーモン君がよ。」


沢田のその言葉で小夜は我に返った。

亜門が来たのだ。


「ユキちゃん!!負けんな!!あんなデーモンなんかに…って、あいつ何でジャージなんだ?」

「それは私も謎なのよ。水でもぶっかけられたのかな?」


亜門は公園につくなり膝に手を着け、激しい息を整えようと必死だった。


「小夜…てめ…デタラメ言うな…てか…おま…無事…なん…なんで……待って、マジ…しんどー…」


亜門のその姿に森川が叫んだ。


「ダセェ!?あいつなんかダセェぞ!?」

「全力疾走しすぎだろ?……てかあいつも誰だ?」


沢田の言葉に小夜は亜門の後ろにいる人を見つけた。


尚太も一緒に追いかけてきたのだ。


「ちょ…波古山さ…ん。そんな…走…って…何…」

「あ…思い出した。隣のクラスの…なんとか君だ。」


沢田の曖昧な思い出し方に尚太はショックを受けたが、それに言い返す体力がなかった。

その間に亜門は息が整い、背筋を伸ばした。


「沢田…来たぞ。だから…」


言いかけた亜門に小夜が


「じゃあ今から皆で買い出しに行きましょうか!!」


そう言ってブランコから降りて仕切った。


しかし誰も反応しなかった。

ただ尚太の息が荒いだけ。

亜門は沢田を見た。


「てかなんで小夜《こいつ》、普通なの?攫《さら》われたんじゃなかったのか?」

「俺らも別に拉致る趣味はねぇよ。こういうのは頭使ったら簡単だろ。」


小夜は状況が全く掴めずに二人が何を言ってるのかわからなかった。


わからないうちに両腕を森川と上村に押さえられて身動きが取れなくなった。


「な…何!?何これ!?えぇ!!??何が起こってるの!?」

「革城、悪いけどユキに付き合ってあげて。」


呆然とする小夜に森川がそう言った。

しかしそんなに強く押さえられているわけでもないし、この数十分の間だけ一緒にいて、この三人もヤンチャなだけで、悪い奴ではないのはなんとなくわかったから小夜も抵抗しようとしなかった。


沢田はブレザーを脱ぎネクタイも外した。


「波古山…ここに来たってことは俺と喧嘩する気になったってことでいいんだな?」


まだ少し荒い息のまま、亜門は沢田を見据えて「…あぁ。」と答えた。


「はは、革城《おんな》を利用した甲斐あったよ。じゃあ始めんぞ?」

「その前に条件がある。」

「あ?」

「もし俺が勝った時、お前にその条件を飲んでもらう。」

「なんだ?『今回みたいにもう俺の周りに手を出すな』ってか?」


嘲《あざけ》るように軽く笑う沢田と亜門のやり取りを小夜達は黙ってみていた。

なんとなくだが、小夜は亜門が言おうとしている条件というのが何なのかわかった。


亜門が言いそうなこと。

小夜にも条件を出した時と"同じ"もの。


「俺の友達になれ。」


「「「「…はい?」」」」


小夜以外の男四人は亜門の言葉に耳を疑った。

沢田はすかさず亜門に聞いた。


「友達?俺とお前でか?」

「うん。あ…あと出来たらあそこの二人も一緒に。」


そう言って指差された森川と上村は当然「「えぇ!?俺らも!?」」と驚いている。

沢田はぎこちなく笑った。


「は…は…はは、は。バカか?そんなんで友達になります、はいそうですってなれるわけないだろ?」

「そうか?案外簡単になれるんじゃねぇの?」

「は?」

「拳交えた昨日の敵は今日の友ってな。な?まさに"青春"だろ?」


疲れてずっと四つん這いの尚太はその言葉を聞いてピンと来た。

彼の心理を思い、「…波古山さん。」と思わず呟いた。


亜門は上のジャージだけ脱いでタンクトップになった。

そこからはみ出て見える鎖骨から左腕までの刺青のドクロが笑っている。

知っているはずだけど、その姿を見たのは最初に出会ったとき以来だったので、久々に見る厳つさに小夜も少し怯んだ。


上村も隣で唾を飲んだ。


「うわ…マジかよ。あの"ドモ"があの"デーモン"?」

「あぁ…俺も本物を初めて見た。」


森川と上村はすっかり亜門を凝視して小夜を腕から解放していた。

しかし小夜も亜門と沢田を見届けるためにその場を離れようとはしなかった。


沢田はようやく落ち着きを取り戻しファイティングポーズを取った。


「"友達"だとか"青春"だとか…ほんと話せば話すほどテメェは噂と違って、くだんねぇ。いいぜ!ただし俺が勝ったら『波古山デーモン』に勝ったって広めさせてもらうからな。今後、俺に逆らったりすんじゃねぇぞ?」

「もうひとつ言っとくけど…」

「あ?」

「俺、すげぇ強いからそれはない。」


珍しくニヤっと笑う亜門に沢田は眉間に皺を寄せた。


「…行くぞ。」

「あぁ。勝ったらよろしくな。」
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