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第1部
TAKE11 思い出の片鱗 後編
しおりを挟む前触れもなく、沢田は一発目から攻め、顔を目掛けてパンチを繰り出した。
亜門はガードしようとしたが沢田のもう片方でボディーパンチを決められた。
亜門もパンチを出そうとしたが素早く避けられた。
そして沢田は顔の近くまで持ってきている拳を素早く出してはすぐにまた顔まで持ってきて構える。
その姿は…
「…ボクシング?」
小夜の呟きに上村は「あぁ。」と答えた。
「ユキちゃんはボクシング習ってたんだ。一発のパンチの重さはもちろん、スピードもすげぇ!!しかも試合ルールに縛られない"ユキちゃんの喧嘩"も出来て最強だぜ!」
「てか革城。デーモンは本当に強いのかよ?さっきからユキに当たらないぜ?」
沢田のフェイントにかかってガードをするたびにみぞおちを殴られ亜門は顔を歪めた。
そして素早く逃げられ沢田はまた自分のリーチの射程距離内につめる。
明らかに沢田が一方的に攻めていて優勢だ。
一発目に狙われる顔をガードすれば、素早くシフトチェンジしガードの甘い腹を狙われ、腹を狙われてフェイントと思って深読みをしてもそのまま腹を殴られる。
そしてパンチを連続に出していったと思いきや、アドリブに回し蹴りが加わり、亜門の顔へと入った。
「亜門!!!」
「波古山さん!!!」
「「よっしゃあぁ!!!」」
亜門はふらついて倒れそうなのを持ちこたえ、とっさに後ろに飛び退き、沢田から距離を取った。
「ホントに何十人をもなぎ倒した"デーモン"なのか?それともこのしばらく"ドモ"として過ごしすぎて平和ボケしたか?」
「てめぇ…」
「なんだ?こんなもんか、波古山?」
「……顔に蹴んじゃねぇよ!!」
「は?俺の自由だろ?」
「もし顔に傷出来たらどうすんだ!!??」
「……………はぁ?…お前は乙女か?それとも芸能人か?」
「顔に怪我したら明日の遠足行けねぇじゃねぇか!!!!!」
一瞬、理解出来なかったのは沢田だけじゃなかった。
小夜は亜門に向かって声をかけた。
「どういうこと?明日の遠足で喧嘩したって思われるのが嫌なの?」
「てかドモだったら皆には"イジメられた"って思うんじゃねぇか?」
隣で相づちを打つ森川に亜門は遠くから返事をした。
「どっちも嫌!!」
沢田は亜門の顔面を殴った、容赦なく。
「ちょ!!沢田くん!?今のは不意打ちすぎない?」
「…いや、思わずイラっときて。」
「だからって…あ…亜門!!血がッッ…!?」
パタタと滴る鼻血を亜門は自分の腕で拭った。
しかし止めどなく鼻血は流れる。
沢田はもう一度構えて亜門に近付いた。
「明日の遠足を考えるとか余裕かましてんじゃねぇぞ」
亜門は繰り出された沢田の右ストレートの手首を片手で掴み、そのまま回るように沢田の外側へ行った。
沢田のパンチの勢いを殺さないまま、それを利用して亜門は沢田を投げた。
腹這いに倒れた沢田から砂ぼこりが舞った。
「ユキちゃんが…」
「飛ばされた…?」
呆《ほう》ける上村と森川の言葉も聞こえず、沢田はすぐに手をついて体を起こした。
「…く。こんぐらいで調子乗んなよ?」
「…てめぇほどじゃねぇよ?」
お互いパンチが繰り出す。
上村が力んで叫んだ。
「悪魔だかなんだか知んねぇけど、単なる喧嘩野郎にユキちゃんが負けるわけねぇよ!!」
わずかに沢田のリーチの方が長い。
亜門の頬をかすめた。
小夜は息を飲む。
「あも…」
しかし亜門はそのまま頭を突っ込んだ。
一気に距離を詰める。
亜門は沢田と一緒に突き出した手を開き首を狙っている。
沢田の首に亜門の手がかかった瞬間、沢田も素早く反応して亜門の手を掴んだ。
…が
「悪いけど…俺の勝ち。」
自分の手を捻るようにして、掴まれている沢田の手を取った。
一気に沢田の手を捻り、沢田が前のめりになった。
亜門はそれを見逃さずに片足で引っ掻ける。
腕は放さない。
後ろに回り込んで体重をかけた。
「ぐぅ…うぅ…」
沢田はうつ伏せとなり腕をひねられたままで、亜門は自分の体重でおさえて、完全にマウントを取られた。
「て…てめぇ…」
「はぁ…はぁ…沢田、俺の勝ちで…いいよな?」
沢田の上に乗ったまま、亜門はそう言った。
「ざけん…な!!ゴホ…ゴホ…俺のがたくさん…お前に決めて…た…グハ…」
「でもこの体勢だったら俺のボコり放題だろ?俺の勝ちだ。」
「ふざけんな!!!だったら最後までやりやがれ!!…グッッ…痛ぇ…」
「いや…お前はもう友達だから…」
「はぁ?」
「あんまりボコりすぎたり、顔に怪我さすと一緒に遠足行けねぇじゃん。」
「きっしょ!!てめぇふざけんな!!」
「でも…俺の勝ちだし……あ。」
「なんだよ!!」
「…悪い。シャツの背中に俺の鼻血ついた。」
「あぁ!!???」
「あ…悪い…鼻血止まらん。あ~ぁ。」
「あ~ぁって!!??ぎゃ!!生ぬるい!!なんか生ぬるいのが背中に広がってる!!!」
「なんかって…だから鼻血だって。それに元はといえばお前に殴られたから…」
「そんなん言ってねぇで早く俺から降りろ!!!うぎゃあぁあ!!!!きもりわりー!」
「…でもお前、勝ちって認めねぇから…友達にならないって…」
「なる!!!!わかった!!!!なる!!!だから早く降りろおっー!!!!!」
それでようやく亜門は沢田の腕を解放し、体から降りた。
上村と森川は急いで沢田に駆け寄った。
「ユキちゃん!!大丈夫!?」
「って…うぉ!!??お前、背中刺されたみたいにシャツ真っ赤になってんぞ!!??」
「…俺、立てねぇ。精神的ダメージで…」
そんな沢田をよそに亜門のところに小夜と尚太が駆け寄った。
「あ…あ…亜門。血…血…だ…大丈夫!!??」
「あぁ。平気。なぁティッシュある?」
戸惑う小夜と違い、尚太は笑顔で「さすが波古山さんっす!!」とテンションが上がっている。
森川は沢田を気遣った。
「ユキ…立てるか?」
「あぁ…てか、まずシャツ脱ぎたい。」
「あっちにある水道で一応流そう!行くぞ。」
沢田を支えて森川達が公園の端にある小さな水辺の蛇口まで歩いていった。
小夜はカバンからティッシュをようやく見つけて亜門に手渡した。
「なぁ…小夜。」
「ん?」
すると何故か尚太が慌てた。
「あ…あの、自分なんか飲み物買ってきます!!」
「へ?…あぁ…頼む…よ?」
気を利かせたつもりだろうが亜門も小夜も何故、尚太がこのタイミングでそれを言ったのか、意図をわかっていなかった。
「小夜…」
「何?」
「俺、髪切ろうと思うんだ。」
「え?」
「顔隠すために伸ばしてたけどお前の言う通り、それも…"デーモン"も俺だから…これからもおおっぴらに公開する気はもちろんねぇけど、もう変に隠すのもやめるわ。」
「…どうしたの?急に。」
「急にっていうか割りと考えて…特に今日はすげぇ思った。」
鼻にティッシュを摘めたあと、さすがに疲れたようでその場でしゃがんだ。
小夜もお尻をつけず座った。
「俺、小学校の頃にすげぇ仲良い奴がいてよ。鬼原斗真って名前のやつでよ。」
「…………うん。」
「一緒に悪さしたり喧嘩したり…中学の時も変わらずずっと一緒にいた。」
「…そっか。」
「そいつのお気に入りの言葉が…“青春”だった。」
「…」
「俺も高校入ったら、そいつ見習って"青春"マジで目指した。…斗真になりたいって思った。」
「うん。」
「何が青春で何が友達なんてやっぱわかんねぇし…うまくいかねぇ。」
「うん。」
「でも…今日、小夜がクラスに馴染め始めて…小夜が昔の友達会うって言って、自分と向き合い始めた。」
「うん。」
「で…お前が沢田に捕まったって聞いて…」
「はい?」
「そんな小夜見て、ここ来るまで…走りながら…俺、すげぇ考えて…決めた。」
「え?」
「…俺も頑張るって。」
「頑張る?」
「だから下手なり…作ったろ?友達…」
そう言って亜門は水道場で何やらギャーギャー言っている沢田・森川・上村に目線を向けた。
「今は無理矢理でも…キッカケになったらって思ってる。」
「うん。」
「正直、お前ともそう。」
「うん?」
「今はまだお前と友達って実感は…ない。」
「…うん。」
「お前の言う"青春"や"友達"に戸惑った。」
「うん。」
「でもまぁ、お前と…青春するつもりって決めた。」
「…。」
「なんかわかんねぇけど…お前見てると俺も頑張りたいって思うんだよ。」
「…え?」
「俺…斗真になりたいって思ってたけど、無理そうだから。俺なりに…やるよ。」
亜門は自分の前髪を触り、そう言った。
「うん…そっか。」
亜門が何故そんな風に考えるようになって、自分に打ち明けたのかわからなかったが、やけにすっきりした顔でいるから小夜はそれだけ言った。
「なぁ小夜。」
「うん?」
「俺もお前と一緒だ…」
「何が?」
「自分らしいがわかんねぇから、手探りだ。もしかしたら今までの"ドモ"って以上に変な目で見られたり、ややこしいことに巻き込まれるかもしんねぇけど…」
「まぁいいんじゃない?色々試してみたら…」
「だな。つまり、喧嘩もやりすぎなかったらいいんだろ?今日の沢田とのぐらいに!!」
「私には充分の喧嘩だったけど、…やりすぎって…前はどんくらい相手を怪我させたの?」
「…ん?まぁ……ははは」
「…」
視線を反らす亜門に小夜は溜め息をつく。
「確かにやりすぎちゃダメだね。私をややこしいことに巻き込まないでよ!!今日みたいに!!」
「今日みたいって…別に結果、利用されただけで捕まってはなかったんだろ?」
「……まぁそうだけど。万が一よ!!」
「…万が一そうなっても、絶対一緒に守ってやるよ」
「……っ!!」
亜門は真顔で言うもんだからか、小夜は何故だかそれ以上なにも言えなかった。
「てか捕まってなかったんなら、沢田達と何してたんだ?」
「え…あ~と…喋ってた!!」
「お前らで何喋んだ?」
「え~っと……」
…
…
?
「なんだっけ?忘れた!!」
「…なんだそれ?」
いつの間にかびしょ濡れになっている沢田・森川・上村が亜門と小夜の元へ帰ってくる。
人数分のジュースを抱えて尚太も帰ってくる。
公園に日が傾いて二つの影に4人が加わる。
射し込む夕日に小夜の記憶がまた霞む。
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