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第1部
TAKE12 独占欲 前編
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「あの後、結局沢田くん達と硲くんも連れてみんなで買い出しに行ったよね?」
「俺が無理矢理に連れてったようなもんだけどな…」
「帰る頃にはすっかり遅くなったのに、いつ切る暇あったの?髪。美容院なんてどこも閉まってたんじゃ?」
「そんなもん自分で切った。」
「え?すご…」
遠足の高原を目指し、バスの中で小夜と亜門はそんな話をしていた。
「前髪はまだわかるとして、後ろはどうすんの!?見えないじゃん!」
「大体の勘。」
「危なッッ!!言ってくれたら私が切ったのに…」
「…多分、そっちのが危ない。」
「はぁ?何だと!?」
貸し切りのバスの運転で揺れる中でクラスはカラオケ大会となっていた。
騒ぐ中で二人は一番後ろの席で喋っていた。
そこに後ろを向いて、席から頭を出した上村が二人の会話に加わった。
「なぁ、お前らは歌わねぇのか!?」
「あ?いい。俺がクラスの奴らの前に出ても変だろ?」
「私もいい。歌…あんま知らないし。」
上村は隣の席にいた沢田幸人《さわだ ゆきと》に横腹を軽く殴られた。
「シン。こいつらなんかに構うな!!」
小夜達からは見えないが恐らく沢田は不機嫌である。
上村晋《うえむら しん》は体を後ろに向けたまま、顔だけ隣の沢田を見下ろした。
「え~?…確かに俺もユキちゃんが負けたのは不服だけど…」
「負けたっていうな!!」
「でももう良くね?こいつ"デーモン"だけど、なんか変な奴だし!!かと言ってデーモンと揉めんのは俺ももう御免だし!!」
上村はギャハハとお得意の下品な笑いをした。
しかし亜門は不思議と嫌な感じには受けなかった。
不良三人の中で一番バカっぽいが、意外にも亜門を受け入れるのは一番早かったようだ。
そして上村は亜門をジッと見た。
「ていうか波古山の顔。やっぱ腫れたんだ?」
「…大袈裟なもんじゃねぇよ。」
昨日の鼻血は止まったが、幸人に蹴られたところが次の日には青くなっていた。
だから仕方なく湿布を貼ったのだ。
「さすがユキちゃんのキックは強いだろ?」
「なんでお前が自慢気なんだよ…」
そういう幸人の顎にも擦り傷が出来ている。
「まぁだから昨日は俺的には引き分けだからな!波古山!!調子乗んなよ!?」
上村はニヤニヤしながら謎の捨て台詞を言ったあと「やべ…酔ってきた。」と前に向き直り、幸人に「ずっとうしろ向いてっからだよ…バカ。」と注意された。
今度は小夜が亜門をジッと見た。
「…何。」
「…なんか亜門が沢田くん達と仲良く喋ってんのが違和感で…」
「別に仲良くではないだろ…」
「しかもドモらずにタメ語で喋ってんのが余計に違和感!!」
「…お前、ホント失礼。」
「私だって敬語無くさせるの苦労したのに!!沢田くん達ズルい!!」
「何の嫉妬だよ…」
「確かに亜門が開き直って青春目指すのは応援するけど…」
「開き直りって…。お前さっきからちょいちょい言葉おかしいぞ?」
何故だか少し拗ね出す小夜に亜門はしっかりと顔を向けて「あのな…」と小夜を諭し出した。
「まぁ…こう言ったらあれだけど…なんだ?その~……つまりお前といたおかげで周りにも変に敬語使おうとは思わなくなったし…昨日も言ったけどお前いなかったら……開き直れなかったわけだ。わかるか?」
「…ほんと?」
「…………うん。」
大いに間を空けた返事だったが小夜はそれで十分だったみたいでニッコリ笑った。
しかし亜門は小夜のその子供のようなところに些《いささか》か手を焼いていると正直思ってしまう。
「別にいいんだけど…お前のそれ、どうにかなんねぇの?」
「何が?」
「なんての?嫉妬っつーの?」
「…嫉妬って言うと語弊がある!!それじゃあ私が亜門のこと好きみたいじゃん!!」
「わかってるっての。じゃあ他になんて言やいいんだ?あー…独占欲?」
「独占欲?」
「なんか…友達意識で対抗っての?そんなんしたところで意味ねぇし、めんどくせぇからやめない?」
「しょうがないじゃん!!だって亜門は私にとって特別なんだよ?」
「…端から聞いたらスゴいこと言ってんぞ?お前…」
「だから沢田くん達に負けるわけにはいかないの!!」
「相手…沢田かよ。」
「ちなみに硲くんが私よりも先に亜門の連絡先ゲットしたの、まだ根に持ってるから。」
「…マジかよ。じゃあ尚太が一番ライバルか!」
思わず笑ってしまった亜門に小夜は「違う違う。」と否定した。
「一番のライバルは斗真くん!!」
「…はい?」
「だって親友だったんでしょ?だったら負けられないじゃん!!オタマジャクシの斗真くん」
「…あのさ、」
「でもそういうのは嫉妬じゃないでしょ?」
いつもの悪戯っぽい笑顔の小夜を見て、もう何を言っても無駄だなと亜門はわかったので溜め息をついた。
思えば小夜は人格が安定してない頃から、そういう子供っぽいところを持ち合わせていたので仕方がないと亜門は諦めた。
「…今日の遠足。バスでよかったよ…」
「ん?だね!!歩きじゃ高原まで遠いしね。」
「じゃなくて。電車じゃなくてよかったって意味。」
「でんしゃ?」
「そしたらお前、余計にハシャぐだろ?今はしばらくお前の子供っぽいテンションにはついていけねぇわって思って…」
「……でんしゃって…何?」
「………………は?」
互いに言葉につまり、しばらく見つめあった。
「こないだ一緒に乗ったろ?切符買うにも窓開けるにもはしゃいでたろ?」
「…こないだ…。」
亜門は必死で考えを巡らすが、意味がわからなかった。
そうこうしていたらバスが停止した。
『みんなー。太陽高原に着いたぞー。前から降りて。荷物は全部持ってけよ?』
担任のアナウンスで皆立ち上がり、ワイワイとバスから降りていこうとする。
しかし亜門は依然として動けなかった。
小夜は気にせず、そんな亜門をポカンと見ていた。
「何してるの?亜門。早く行くよ?」
小夜に促されて、ようやくバスから降りた。
(忘れんの早すぎじゃねぇか?あんなに電車を喜んで乗ってたのに…)
亜門は狐につままれたような気分を拭えなかった。
―――…
ジュー…
ジュー…
「上村くん!!それまだ焼けてないよ!!」
「へ?は?そうか?でも腹減ってきちまったよ…」
「シンは野菜でも食べとけよ。生でも平気だし。」
「タマネギいっとけ、タマネギ。」
「俺は野菜が嫌いだぁ!!!」
到着して各班に別れてさっそくバーベキュー大会が始まった。
高原で用意されている各釜戸で小夜達も持ってきた食材を焼き始めた。
焼くことを仕切るのは瑞希…そして意外にも亜門も熱心に焼き加減を見ていた。
「おい、こっちは焼けてるぞ。…はい。…はい、はい。」
「波古山くん…ありがとう。」
「ありがとう。」
「おい!!!!波古山!!!!何、女子にばっか焼けたの配ってんだよ!!!!スケベが!!!!俺にも肉よこせ!!!」
「…わかったよ。上村にも、はい。」
「って、これタマネギじゃねぇか!!!いらねぇよ!!!生!!!!」
ギャーギャー文句を言う上村を亜門、幸人達もスルーした。
そんな中、瑞希は繁々と亜門の顔を見た。
「しかし大分印象変わるもんなんだね。髪切っただけで。」
肉を食べながら結子も亜門を見た。
「確かに。私、最初ド…いや、波古山くんって気付かなかったもん。」
急に女子達にジッと見られて、亜門は目を細めた。
(あ…またあの顔だ。)
小夜は心の中で思った。
目を細めるその仕草は今回の場合呆れてるのではなく、女子との会話に多分少し困っているのだと感じた。
「…こうして見たら、綺麗な顔立ちだね。」
(…ん?)
「…ホントだ。割りと整ってる。」
(んんん?)
小夜も一緒に亜門をじっくり見た。
それを「なんだよ。」と亜門が言って目を細めた。
今度は呆れてる方だ。
(…言われてみれば…)
「でも見ようによっちゃあ、人相悪いね。目付きがちょっと怖いというか…」
「「「なっ!!??」」」
結子のその一言に小夜と幸人達は焦った。
デーモンに対してそんな口をきくのを初めて聞くからだ。
ただ1人、上村だけがこもる様に笑った。
「ククク。そりゃそうだろ!!だって波古山はデー…ぐはッッ!!!!」
上村の横腹を森川栄吉(モリカワエイキチ)が肘で強く突いた。
「シン。ほら!!肉焼けてっぞ!!」
幸人も上村の皿に肉を置いていき、話を反らそうとした。
話も盛り上がり、食べ物も瞬く間に無くなり小夜の班はバーベキューを終えようとした。
女子が食器を洗いに行き、男子だけで炭火を鎮火させると役割が別れて、男子だけになった時にやっと上村が不満を訴えた。
「そういや、さっきのなんだったんだよ!?モリは横腹殴るし、ユキちゃんもなんか誤魔化そうとしたし!!」
上村の言葉に対して森川は「バカか!?」と言った。
「デーモンは自分のこと周りに秘密にしようとしてたんだろ?それであっさり俺らがバラしてみろ。俺らが殺されるよ!!」
「や…別に殺さねぇよ。」
そう言って否定する亜門に森川は疑いの目で見た。
森川はまだ亜門を受け入れかねているのだ。
幸人が亜門の方を見て、疑問を言った。
「じゃあよ…さっき、女史達にお前は昔大暴れしてた元ヤンで噂の"デーモン"だって言ってよかったのか?」
「…」
「やっぱダメなのかよ。」
「違う。ダメとかじゃなくて、それ言ったらやっぱ周りは引くかなって…」
「…普通引くわな。」
「まぁ、だとしてもお前らは引かなかったな。そういえば」
「「「はあ?」」」
三人はハモらせて亜門の顔を見た。
「友達の条件したの、お前らでよかった。」
「「「…」」」
それぞれ思うところがあり、黙って亜門の言葉を受け入れた。
(そしてアイツも…。)
自然と亜門は小夜を思い浮かべた。
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