わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE12 独占欲 後編

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…ー

「…で実際のところどうなの?」

「…え?」


皆でバーベキューした場所とは少し離れたところで食器を洗っていたら瑞希にそう問いただされた。


それは亜門についてだった。


「付き合ってはないって言っても、革城さんはどうなの!?実は好きだったりってことはないの?肉焼いてくれたり結構イイ奴みたいだし?」

「な…ない、ない!!別にそんなんじゃないですよ!!」

「え~?でも実は波古山くんカッコ良かったしさ!!アリなんじゃない?恋しちゃっても!!」


きゃーとテンションを上げる瑞希と結子に交互に絡まれて小夜は返事に戸惑った。

洗い終わった食器の水気を拭きながら仁美は「二人とも…」と溜め息をついた。


小夜も心の中で溜め息をついた。


(なんでこんなに周りに勘違いされるんだろ?そもそも『好き』ってことも頭ではわかってるけど、どんなものか…私は"知らない"し…)


小夜も食器を拭いた。


(…というより亜門ってカッコ良い…のか?)


思い出す亜門の顔。

確かに髪を切ってさっぱりはしたが、顔立ちは前となんら変わらない。

いつもの亜門だ。


(私には記憶が浅いからカッコ良いの基準がないのかな…?)


妙な不安に駆られた時、遠くで金髪の頭が見えた。

それを見て、小夜は閃いた。


「ちょっとごめんなさい!!お手洗いに行ってくる!!」

「いいよぉ、わかったぁ。残りはうちらでやっとくし!!」


まだ片付けの途中だが、一度気になってしまうと…という小夜の悪い癖が出た。


少し小走りで行くと硲尚太の背中を見つけた。


「硲くん!!」

「え…わっ!?姐さん??」


いつしかの場面と同じ光景となり、デジャヴを感じた。


「来てたんだね!!遠足!!不良だからサボってるんかと思ってた!!」

「…や、俺はファッションヤンキーみたいなもんなんで。喧嘩もからっきしだし。…でどうしたの、姐さん?」

「質問なんだけどさ…亜門ってカッコ良いの?」

「そりゃあ波古山さんは最強ですし、最高にイカしてますよ!!!」

「そうじゃなくて!!!一般的見てってこと!強いってことじゃなくてビジュアル的に見て…」

「あー…でもそれ差し引いても、カッコ良い方なんじゃねぇ?」

「…やっぱそうなんかな…。」

「今まで思わなかった?」

「うん…と、言われてみれば…って感じ?」

「まぁ確かに波古山さんって爽やかな正統派イケメンって感じじゃないもんな。」

「…怒られるよ、亜門に。」

「こうなんか、藤原と松田を足して…あ、中村でもいいですよ。足して2で割ったような顔ですよね。」

「…ごめん。全員わかんない。」

「それにやっぱ年上だからか俺達よりも背高いっすよね?」

「あぁ、確かに。…ところでなんで硲くん一人なの?友達いないの?」

「……え?呼び止めといて、それ?」


だって今は遠足中で尚太が隣のクラスであろうと班行動するのは同じのはずなのに、緑の広い高原の中を一人で歩いてるのが急に不自然に感じた。

尚太は小夜の考えに反して、溜め息をついた。


「俺はちゃんとクラスと上手くいってるっての!!今は鉄板を返しに行って帰ってるところ。」

「そうなんだ。不良なのに上手くいってんだ…」

「…なんかトゲのある言い方っすね。」

「だって亜門は過去に失敗したみたいだし…」

「波古山さんの最狂伝説はハンパねぇかんな。それに俺は人当たり良いし!!」

「悪かったな…人当たり悪くて…」


ごくごく自然に会話に入ってきたから小夜と尚太は「うんうん。」と頷いたが…そこで固まった。


「って!!!わあぁぁ!!!!波古山さん!!!!」

「尚太…今度少し…僕とお話をしようか…」

「いや…勘弁っす!!!てか誤解っす!!俺は波古山さんがカッコ良いって話をしてたんす!!!」

「…なんじゃそりゃ。」


亜門は疑いの目で尚太をガン見した。


「ていうか、亜門こそどうしたの?1人でここまで。」


小夜にそう言われて亜門は手に持っていた鉄板を持ち上げて見せた。


「沢田達とじゃんけんして負けたから、これ返しに行くところ。」

「じゃ…んけ!!??波古山さん!!いつの間に沢田幸人とそんな仲良くなったんすか!?」

「仲良くしてねぇっての。」


そう言ったら亜門は二人を抜かして、鉄板の返却場所へ歩き出した。

少し遠退いた亜門の姿を見た尚太は小夜に向かって、もう一度聞いた。


「ね?やっぱ思いません?」

「…え?」

「カッコ良いって。今日とかはいつも違って私服だし。」

「でも私服も普段見るしな…」


硲の問いかけに変わらず、小夜を首を傾げた。

ピンとこない。

そんな中、突然……


「きゃああぁ~!!!!」


新緑の中で、女の子の叫び声が辺り一帯に響いた。


「奈未《なみ》!!下手に動いちゃダメだって!!」

「やだやだやだ!!!!取ってぇ~!!!!」


何事かと思いその叫びの方を小夜も尚太も注目した。

違う班だけど、小夜と同じクラスの女子達が騒いでいた。

二人で鉄板を返しに行ったあとのところだろう。


奈未と呼ばれた女の子は上半身を倒して嫌だ嫌だと地面に向かって叫ぶように体を揺らし暴れている。

傍にいる友達は落ち着けと言うわりに奈未に近付こうとしない。


「何々?一体なんなの?」


その正体は目を凝らした先の奈未の肩にあった。


「…カエル。」


何故そんなことになったのかわからないが、小さな雨蛙が奈未の体に貼り付いて離れないのだ。

友達も助けてやりたいが怖くて蛙を触れないでいる。



ぐわわん…



蛙を肩に付けたまま震える奈未の近くにいた亜門が鉄板を落とした。

正しくは落としてしまったのだ。

そうして顔を青くしている亜門を見て小夜は気付いた。


(あ…そうだ。亜門の柔らかい生き物恐怖症の原点の…)


そのオタマジャクシの最終形態…


蛙。


(これは絶対、亜門が無理なヤツだ…)


亜門は真っ青な顔で完全に固まってしまっている。

おそらく鉄板を落としたすら、自分でも気付いていないかもしれない。


「あれ?波古山さん…」


尚太が不審がる声を出して小夜はついに亜門の弱点がバレたと思った。


(あ~ぁ、憧れの先輩のイメージが壊れただろうな…)


「波古山さん…髪切った?」

「そっち!!??てか遅ッッッッ!!!!!」

「やっぱカッコ良いっす!!」

「わかったって!!!」

「言ってくれたら俺のワックス貸したのに…」

「今はそっちの話じゃないっての!!!」


小夜は仕方なく助けようと亜門のところまで行こうとした。


「きゃーやあぁぁ!!!」

「う…わ…」


だが、そうこうしてる内に下を向いたまま暴れた奈未が亜門にぶつかった。


ぶつかって初めて奈未は人がいたことに気付いたようで涙目の顔を上げた。

しかし亜門は大パニックだ。

顔を上げた奈未の横に同じく顔を出した蛙と目が合ったからだ。


声に出ない叫び。


「あも…」


小夜の声も聞こえないまま、亜門は片手で奈未を自分の胸に収め、抱き止めた。

「きゃ…あ…あの…?」


パニックの中、亜門はしっかりと奈未を抱きしめて耳打ちをした。


「…そのまま動くんじゃねぇぞ。」

「…は……はぃ…」


亜門は素早く反対の手で蛙を掴んで茂みへと投げ込んだ。


事が終わると亜門は手を弛め、奈未を放した。


「あ…あ…ありが…」


亜門は急いで鉄板を拾い、ダッシュでその場から走り去った。


(…えぇぇ!?なんで?)


訳がわからないが小夜は仕方なく亜門を追おうと走り出した。

尚太もしばし呆然としたが、我に返って二人を追った。


残された方も事態を呑み込めずにいたが、友達が奈未のところまで来た。


「なんかわかんないけど、良かったね。大丈夫だった?」

「う…うん。あ…あの人…お礼、最後まで言えなかった。どこのクラスの人だろ…」

「…え?ドモでしょ?」

「え!?…嘘!?ドモって…同じクラスの…!!??あんなだったっけ!!??」

「わかんないけど多分そうじゃない?近くに革城さんいたし…」

「そ…そっか…」


奈未は先ほどのことを思い出して、少し頬を赤くした。



鉄板の返却場所も通りすぎしばらく行って着いた先は誰もいない茂みに囲まれた広場。


亜門はその場で手を着けて息を切らした。

小夜も追い付いて息を切らした。


「な…な…なんで…走ったの…亜門…わけ…わかんない…はぁ…はぁ」

「あんな人が沢山いるとこで…叫べるか…」

「…叫びたかったの?」

「あぁ…あーもーすげぇビビったあ!!わー…手のゴムの感触消えねぇ…うわー…」


わーわーと叫びながら手を振る仕草をする亜門を見て小夜は少し笑ってしまった。


「あ、やっぱ怖かったんだ。」

「ったりめーだろ!!…無理。一生分のカエル触った…」

「そんなに怖いのに助けてあげたんだ?」

「あれ以上暴れられて、またぶつかられてカエル潰れてみろ!!それのが無理!!だから押さえこんだ。」

「押さえこんだってか、端から見て完全に抱き締めてたよ。」


亜門の片腕にすっぽりと収まった女の子を思い出した。


ズキン…


小夜は笑おうとしたのに急に息が苦しくなった。


「…?」

「…小夜?なんだ?」

「いや…なんでもない。多分運動不足!!」

「は?」

「まっなんていうか、亜門の優しさは乱暴だよね…基本。」

「はあ?」


ぶつかりたくなかったら、始めから走って逃げれば済むのに…ヤモリも触れない亜門はちゃんと取ってやった。

回し蹴りをしてまで尚太を止めて、今ではパシりや貢ぎがない対等な関係をちゃんと作ってやった。

幸人との喧嘩も始めからいつもみたいにすぐに殴って蹴ってやれば勝負はすぐについたのに、投げて腕をひねるだけで最後まで手を出さなかった。

目を細めて「めんどくせぇ」と言うそれは、小夜に付き合ってくれるOKの合図。

チョップは小夜への励まし。


亜門の優しさは本当に不器用だ。


「私、近くにいたから代わりに取ってあげたのに。」

「…気付かないくらい、頭真っ白だった。」

「うん。そんな感じだったね。」


クスクスと笑う小夜に向かって亜門は目を細めてみせた。

それは照れの仕草。


(亜門のこの乱暴な優しさもカエルとかの弱点もわかってんのは多分私だけだな…)


そう思うとさっきの息苦しさがスッと消えた。

しばらくカエルの感触を振り切ろうとする亜門に付き合ってやり、改めて返却場所に向かった。


「あ…波古山さん達…どこ行ってたんすか?急に走ったりして…」

「あ…尚太。悪りぃな。急に気分が悪くなったもんで。」


尚太は途中で小夜達を見失ったらしく、うろうろと探していたらしい。


鉄板を返したあと、小夜は伸びをした。


「バーベキューも終わったし…帰りまで何すんの?」

「自由時間って言ってましたよ。」

「…硲くんってなんで私に敬語なの?同い年なのに…」

「使う気はないんだけど、姐さんが波古山さんと一緒にいるからなんか混ざんだよね…」


そんな二人のやり取りをすぐ後ろから見ていた亜門は声をかけられた。


「あ…あの…」


振り返れば先ほどの奈未が立っていた。


「あ…」

「さっきは…その…ありがとう。」

「別にいいですよ。」


亜門は(カエルが嫌いな気持ちわかるし…)と心の中で思ったが、それは口にはせず、軽く笑った。


「そんぐらい別に大丈…わっ!!」


小夜も後ろから笑って言おうとしたら、尚太に腕を掴まれ、連れてかれた。

そのままずんずんと進み、亜門達から少し遠ざかった。


「な…何!?硲くん!!」

「何って…気利かせたんすよ!!」

「利かせたって!?」

「見てわかんなかった?あの子は波古山さんにお礼が言いたかったのはもちろん、話がしたかったんじゃねぇの?」

「…へ?」

「波古山さんに興味持ち始めたんでしょ?」

「…」

「男として…」


小夜はすっかり遠くなった二人を見た。


こっちからは亜門の表情はわからず、ポケットに手を入れている事ぐらい後ろ姿と奈未の俯きながらも嬉しそうな顔しか見えなかった。


尚太はハッとして小夜の顔を見た。


「えっ!?二人は別に付き合ってないんすよね?よ…良かった?」

「うん…別にいいけど…」


遠い亜門の背中をぼんやりと見た。


ズキン…


『お前のそれどうにかなんねぇの?嫉妬っつーか…独占欲?』



ズキン…



いつもの嫉妬とは違う音をたてながら、小夜は確かに独占欲というものを感じていた。
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