わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE16 恋か否か 前編

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「はぁーあ、わかった。俺の負けだよ。」


亜門はスマホのアラームを切ったあと、自分に抱き付いている小夜を見下ろした。


「急に走ったり、急に振り返ったり…マジびっくりした。なんで後ろにいるってわかったんだ?」

「…」

「…小夜?」

「…ッッ」

「お前…」


小夜が亜門の胸に顔を埋めて泣いていることに気付いたから、亜門はそのまま黙って立っていた。


「…亜門に聞いてほしいことがあるの。」


小夜が亜門にそう切り出したのは泣き止んでしばらくしてからだった。


「私…思い出したの。」

「…本当か!!??じゃあ誰かとか皆思い出し…」


亜門は慌てたように小夜の肩を掴み体を離した。


「違う。全部じゃなくて…ほんの少し。事故にあった時のことを…思い出したの。」

「…そうか。」

「私の接触事故ってのは…電車との衝突事故だった。」

「電車…って、だってお前は電車知らないって…」

「知らなかったんじゃなくて、忘れてた…だけだと思う。」

「…マジかよ。それで…他に何か思い出したか?」

「事故の時、私……ちょうどココを走ってた。あそこの駅、目指してたんだと思う。」


それは小夜と亜門が始めに待ち合わせた駅から一つ隣の駅を指差した。


鬼ごっこをしている内に隣の駅まで来てしまったのだ。


「……ホントか!?いつ!?それは一体何月何日!!??」

「そ…そこまではわからないけど…とっても暑い…夏の日だったんかな?」

「…小夜?」

「何?」

「…いや、なんでもねぇ。記憶が戻って…大丈夫か?頭とか、体は痛くないか?」

「…うん!!!」


涙が乾いた顔で小夜は笑った。

やっぱり亜門の隣は心地がいい。


亜門は後方に落ちていた帽子を拾って自分で被った。


「じゃあ…帰るか。家まで送るし。」

「うん!!私ん家、こっから歩いて行った方が近いよ!!」

「始めの場所からだいぶ走ってきたもんな、俺ら。小夜がいきなりダッシュしたから焦った。」

「ねぇ、私が勝ったってことは私が好きに決めてもいいんだよね?罰ゲーム!」

「…うわ。何させる気?」

「う~ん…考え中!!」


小夜と亜門は並んで歩き出した。

その最中、小夜は亜門にずっと聞いていたのにスルーされていた疑問をもう一度尋ねた。


「ねぇ、亜門?」

「ん?」

「なんで鬼ごっこ始めようって言い出したの?」

「…あー。」


亜門は空咳をしながらチラリと小夜を見た。


「まーなんつーか…気を紛らわしたかったと…ゆーか?」

「…何を?どういうこと?」

「小夜が俺に対してよそよそしいから…」

「あぁ、そういえば…」


小夜はすっかり忘れていた。

今ではいつも通りに接することができる。


「だから…その…」


亜門の妙に歯切れの悪い物言いに小夜は不思議そうにその答えを待った。


「逃げ回る小夜に…たまには追いかけてもらおうと思って…」

「…は?」


見ると亜門がいつの間にか顔を真っ赤にしていた。

小夜はそれにびっくりした。


「あもん…?なんで…」

「うるさい。キモいでもなんとでも言えばいいだろ。」

「キモいと…いうか…フッ。あ...ははは!!子供みたい!!ムキになっちゃって…」


帽子を深く被り直した亜門は小夜を置いてズンズンと足早に進んでいった。


小夜はそんな亜門を追い掛け、顔を覗き込んだ。


「何々~?もしかして亜門、私から避けられてて寂しかったの?」


いつまでも悪戯っぽく笑う小夜に亜門は軽いチョップを繰り出した。


「痛っ!!なんですぐ手を出すの!!??」

「黙れ。大体なんで俺のこと避けてたんだよ?」

「だってそれは…」


小夜はそこで言葉を止めた。

奈未と一緒にいた亜門を見て不安になった。

素直にそう言っていいものか迷った。


(だってそれじゃあまるで…)


「…まぁ、いいか。結果オーライってことで…」

「へ?結果オーライ?」

「おぅ。」


亜門は前を向いたまま、小夜の短い髪の後頭部をわしゃわしゃと撫でた。


「今じゃ小夜も逃げずに普通になった。鬼ごっこした甲斐あったよ。」


そう言ってゆっくり離れるその手を少し名残惜しく感じた。


(だってそれじゃあまるで…私、亜門に恋してるみたいじゃん…)


小夜は自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

小夜は深呼吸をしたところでアレ?と思った。


(…というか、友情の好きと恋の好きって何が違うの?)


いつもなら亜門を頼って聞いてしまうけど、この人選が適当なのか悩みどころだ。


「なぁ、小夜。」

「ふぁぇ!?な…何!?」

「いや…お前ん家の行き方、あんまわかってねぇんだが合ってんのか?」

「あ…うん!!!合ってる、合ってる!!!…なんだ、ビックリした。」

「…何が?」

「ッッなんでもないです!!!」


またも挙動不審に戻った小夜に亜門は眉間に皺寄せた。


「…マジでなんなの?最近のお前…」


しまったと小夜は思ったが、それでまた避けてしまっては意味のない繰り返しだ。


一人、決意のもと頷いた小夜は今思うことを亜門に素直に全部言おうと思った。


「亜門。」

「何?」

「…私…」

「…ん。」

「私、これから本気で思い出そうと思う。前の自分。」


確かに小夜が今思っていたことだが、言おうとしたことと内容が変わった。

…というよりズレた。


それでも亜門が静かに「うん。」と相槌を打ってくれるから、小夜は話を続けた。


「今までも思い出そうとはしてたつもりだけど、ビビってたっていうか、若干腰がひけてた。」

「…うん。知ってた。」

「口では調べるとか探すとか…言ってたけど、覚えてないことを知っていくって本当に怖かった。」

「うん。」

「亜門みたいにさ…何も覚えてないのを機に新たに人生やり直してもいいかもって思ったり…」

「…そんなこと思ってたのか?」

「うん。遠足会議の時とかに…大和撫子目指さないって思えたばっかだったし、亜門と一緒にいるようになって安藤さん達ともうまくいきだしてたし…それもアリかなって…」

「…お前、いつしか俺に言ってたことと逆じゃねーか。」

「その時はあんましはっきりとわかってなかったっていうか…開き直って世華高校行くって言ったり…とか…」

「…。」

「あんまり意識して言った言葉じゃないのに…亜門がそれ聞いて『俺も頑張れる』って言うから…」

「…まぁそうだな…」

「でも逆だよ。」

「…は?」

「そうやってドンドン亜門らしくなって周りに人が集まってきて…置いていかれたみたいに、不安に…なったけど…」

「…」

「亜門を見てたら、私が思えるよ……"頑張ろう"って。」


立ち止まった小夜に亜門も半歩遅れて立ち止まった。


「やっぱり過去も大切だよ。それを覚えてなくても…自分なんだから…」

「…あぁ。」

「亜門見てて、髪切った亜門見て、やっぱ私が言ったこと間違ってなかったなぁって思った。」

「よくわかってなかったくせに…」

「はは…まぁね!!」


軽く笑ったあとに小夜は一瞬俯き、上目遣いで不安そうに亜門を見た。


「それに…家族だってそう思ってるに違いない…」

「家?」

「うん。"無理に思い出さなくていいよ""自分のペースで頑張りなさい"って言ってくれるけど、お母さんはいつも泣き顔だし、お父さんは…」

「…。」

「お父さんは私の存在が恥ずかしいんだよ…」

「…。」

「一応お偉い社長の立場だし…私だって一応跡取りかもしれないのに…障害持っちゃって…お父さんは私が重荷なんだよ…」

「…なんだよ、それ。」


小夜は不安そうに……だけど亜門から目を反らさないまま、言葉を続けた。


「亜門…、」

「ん?」

「亜門が私の"頑張ろう"の源だから…これからもずっと、一緒に…傍にいてほしい…」

「…」


言ってからすごいことを口走ったと小夜は気付いた。

確かに始めに言おうとした事柄に軌道修正された。


(でもこれじゃあプロポーズになってしまう!!!)


顔が熱くなるのを感じて余計に視線が定まらなくなる。


(そもそも私、亜門のこと好きって決まったわけじゃないし!!)


一人でテンパっていると「小夜。」と亜門に呼ばれた。


「俺も考えてたことがある。」

「…え?何?」

「お前がなんで独占欲が強いのか…」

「…え、あ…その、」


亜門は小夜に向かって両手を差し出すように広げた。


「…え…何」


小夜の戸惑いをよそに、亜門は広げたまま真っ直ぐに小夜を見つめた。


「おいで。」


亜門の言葉に小夜の胸はドキッとした。

でもその声が、受け入れてくれる姿が、その魅力に吸い込まれるようにフラフラと亜門に近付いた。

スルリと入った亜門の懐に小夜は体を預ければ、亜門もギュッと小夜を抱き締めた。
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