28 / 66
第1部
TAKE16 恋か否か 後編
しおりを挟むトクン…
トクン…
小夜は自分の心臓の音と動きをゆっくりと感じた。
先ほど鬼ごっこで亜門を捕まえた時の小夜の一方的なしがみつきとは違い、抱き締めてもらうことはどんなに気持ちよいことか。
トクン…
トクン…
「お前のそれは…もうしょうがねぇよ。」
「…なんで?」
「お前は俺のこと…」
小夜は亜門を見上げた。
「俺のこと…父親のように感じてんだろ?」
「………え?」
小夜は亜門を見たまま瞬きした。
「…ち、父親…!?」
「あぁ、記憶なくて大変なのはお前なのに、周り気ぃ遣って…そりゃ不安なって当たり前だよな。」
「う…うん…」
「親に甘えた記憶もなけりゃ、今更素直に甘えられる年齢でもないしな。お前ん家の家柄とか状況知んねぇけど。」
「…」
「お前にとっちゃ俺は誰よりも長い時間を過ごした身内…だよな。」
「そう…かな。」
「乗り掛かった船だし、ちゃんと小夜の不安がなくなるまで一緒にいてやるから。」
亜門は小夜の頭をゆっくりと撫でた。
「まぁ俺だって親になったことないから、どんなんかわからないけど父親とか兄とか、そう思って好きなだけ頼ってもらっていい。」
「…うん。」
亜門は小夜を抱き締めたまま上を向いて「ついに本人公認の保護者だよ…」と呟きと溜め息を同時に出した。
(父親…そっか。私、お父さんと上手くいってないから余計に亜門に父親を求めて、嫉妬とかしてたんかな。)
なるほどと納得しかかったが、小夜の胸に重いモヤモヤがのしかかった。
亜門の背中に回していた手は亜門の服をギュッと握った。
「亜門…」
「なんだ?」
「私はホントに亜門にお父さんを求めてたんかな…」
(これは…恋じゃない…ってことなのかな…)
「そうなんかな…」
「そうなんかなって、それ以外なにがあるって…」
小夜と亜門は目と目が合って時間が止まった。
(私…恋じゃないことが…残念だと…感じてる。)
小夜はそう思った。
「小夜、おま」
「小夜お嬢様ッッ!!!!!」
暗い夜道で小夜を呼ぶ叫びがコダマした。
小夜と亜門は咄嗟に互いの手を放し、離れた。
「た…たた…橘さん!!!」
目を凝らした先には買い物袋を両手に持っている橘がいた。
いつものスーツと違い、買い出し用の私服を着ているが、どう見ても橘である。
「小夜お嬢様…一体…一体何を!!??」
「た…橘さん!!あのね!!」
「…誰?あの男。」
亜門は突然の橘の登場にポカンとして言った。
そんな亜門に橘は思い切り睨みを効かせて怒鳴った。
「貴様こそ誰だ!?小夜お嬢様に何してた!!??変質者か!!??」
小夜は慌てて橘のもとへ行った。
「違うのッッ!!あの人は友達で…」
「友達?友達があんないやらしく抱いてきますか?大丈夫ですか?他に何かされてませんか?」
「だ…大丈夫です。」
「ここの夜道は危険です!!早く帰りましょう!!」
橘は小夜の手を取り、亜門の横を通り過ぎようとした。
しかし亜門が橘の肩を掴み、それを阻んだ。
「待て。誰だか知んねぇけど、なんだこの扱い。だいたい変質者ってのも誤解だ。」
橘はそんな亜門に冷ややかな目を向けた。
「…小夜お嬢様のご友人と存じ上げず、失礼いたしました。しかし、あなたも全くの下心がなかったと言い切れるんですか?」
「…はあ?」
「本日のお出掛けはお二人で?」
「…まぁ。」
「それはどちらからお誘いしたのですか?」
「はあ?別に誘ってなんか…」
「小夜お嬢様、どちらですか?」
話の矛先が小夜に代わり、小夜は「う~ん…と。」と思い出そうとした。
『日曜だったら俺もバイトないから、昼に駅前で待ってろ。』
『え…う…うん。』
(あ…思い出した。今回は…)
「亜門の提案で、今日は駅前まで待ち合わせして……」
「やっぱり!!」
橘がすぐさま亜門を睨み、歩き出した。
「待て!!それが下心って極端じゃ…」
「…じゃあもうひとつお尋ねしますが、先ほどの…コホン、抱擁はどちらからなさったんですか?小夜お嬢様。」
いつもの穏やかの欠片もない表情に小夜は慌ててまた思い出そうとした。
『おいで。』
(…えっと、さっきの場合は…)
「亜門になるのかな?」
「やっぱり!!!!!」
「おい!!!待てって!!!小夜!!!真実は時として誤解を生む!!!っていうか言葉が足りねぇ!!!」
亜門が小夜に誤解を解いてもらおうと腕をひこうとしたら、橘がすかさずその間に割って入った。
「小夜お嬢様に近づくな!!!この変態がぁ!!!」
橘は持っていた袋から取り出して、亜門に投げつけた。
キャベツ一玉を。
ゴ イ ィ ー ン ッッ !!!
キャベツは明らかに鈍い音を立てて亜門の顔面にヒットした。
亜門は後ろへ卒倒した。
「きゃあぁぁ!!!!橘さん!!!!!食べ物を粗末にしちゃいけないんだよ!!!」
違う。
言うべきところはそこじゃあない。
倒れた亜門はそう思ったが、言える状況じゃなかった。
そして小夜の亜門を呼ぶ声が遠ざかることしかわからなかった。
小夜は瞬く間に橘に連れてかれ、家へと着いた。
着くなり、小夜は橘に言った。
「なんで?橘さん!!話を聞いてよ!!」
「お嬢様…ひとまずお部屋へ行きましょう。」
「橘さん!!」
一瞬、母が何事かと顔を出したが特に何かを言うわけでもなし、小夜と橘が二階に上がるのを眉を下げて黙って見ていた。
部屋に入って小夜はもう一度、橘に訴えた。
「確かに今回はもろもろ、亜門からだったけど、亜門はちゃんと私の友達なんです。」
「小夜お嬢様がそう思われても、向こうは違うかもしれないでしょう?」
「そんなことない!!亜門も私をちゃんと大事に…」
「小夜様?」
いつも以上のきっぱりとした物言いに小夜は口を噤んだ。
「いいですか?あなたは自分の立場というのを改めて自覚なさってください。」
「立場?」
「そうです。確かに環境も考慮し、近所で知り合いがいないという条件や、ご入学に間に合わそうと急いだため、あんな庶民の高校に通うことになりましたが、あなたは革城社長のご令嬢なんですよ?」
「…」
「さらに小夜お嬢様は…その……"体調"が万全ではありません。お金のない馬鹿共や、社長を目の敵にする輩に漬け込まれて危険な目に合う可能性だって充分にあります。」
「…何?じゃあ私に友達作るなってこと!?」
橘は小夜の肩を両手で掴み、ゆっくりと首を振った。
「…違います。高校に馴染むことはとても大事なことです。ある程度の民度がある高校を選びましたし、一般家庭の人達との交流も勉強になります。……ですがやはり、人は十二分に気を付けてお選びください。」
「人を選べったって…」
「少なくともあの人相の悪い男はダメです。小夜お嬢様に万が一のことがあれば、私め社長や奥様に申し訳がありません。」
小夜は泣きそうになった。
(なんで亜門はダメなの?だって…亜門は…)
「橘さん…見た目で判断しないでほしい。」
その言葉に橘はピクッと反応した。
「小夜お嬢様こそ、口車にのせられているのでは?」
「少なくとも橘さんより私は亜門のことわかってる!!!!」
小夜にとって家族の中で一番近い存在の橘だからそんな風に言ってほしくないと思った。
「どう言ったらわかってくれるの?」
小夜の肩を放し、橘はジッと考え、そして「わかりました。」と切り出した。
「確かに見た目や今日だけで判断するのは私も小さなことをしました。」
「…橘さん。」
「小夜お嬢様がそこまで言うなら条件を出しましょう。」
「…へ?条件?」
「そうです。小夜お嬢様を預かる身として、そこは厳しくさせて頂きます。」
小夜は不安そうにチラリと橘を見ておずおずと聞いてみた。
「条件って…なんですか?」
「はい!!!小夜お嬢様の言う通り、見た目ではなく中身で判断させてもらいます!!」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる