わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE17 一週間前 前編

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◇◇◇◇

「…で、今度は誰とケンカしたわけ?」


昼休み。

中庭で昼食をとっている幸人に亜門はそう聞かれた。

亜門は黙って日本史の教科書から顔を覗かすようにして幸人に目線だけ送った。


そんな亜門に晋がお腹を抱えて笑っていた。


「ギャハハ!!波古山ぁ!!見事なパンダ痣《あざ》ぁ~!!可愛いじゃーん!!ギャハハハァ!!何度見ても笑える~!!」


目線を晋に移し、睨んでやったのに晋はずっと笑っていた。

その隣で禁煙パイプをくわえた栄吉は亜門に不思議そうに聞いてきた。


「波古山のそれは負けたのか?てか誰にやられたんだよ。」

「……キャベツ。」

「「キャベツぅ~!?」」

「言っとくが、キャベツだって立派な凶器になんだぞ!?一種の殺人未遂だった!!あれは!!」


ハモる晋と栄吉にそう言った亜門は今朝の小夜との会話を思い出していた。



『橘基《たちばな もとい》さん。27歳。革城家の側近の家系で大学は海外でも有名なS大出身。今は私の身の回りのお世話をしてる人です。』

『俺が聞いてんのはそういう事じゃなくて、なんで俺が昨日あんな目に合わなきゃなんねぇんだってことだ…。』


朝、登校した亜門は校門で待ち伏せをしてソッコーで小夜を捕まえて、橘について聞き出していたのだ。


『あ…あと、亜門に伝えなきゃいけないことが…』

『あぁ?』


キャベツが当たった顔面は痣となり、片目の周りが特に腫れていた。

おかげで眼帯をして登校した。

それが亜門のイライラを膨張させて、小夜が悪くないとわかってても、つい声を荒げた。


『昨日それで、橘さんから亜門とのことも色々言われちゃって…』

『…』

『私もカッとなって言い返したら、橘さんに言われたの…』

『…何を?』


上靴を履き替えた亜門は、まだ上靴を手に持ち、俯く小夜の答えを待った。


『条件満たしたら…友人関係を認めるって…。』

『条件?』

『うん。その条件っていうのが…』




亜門はそんな今朝を思い出しては、脱力した。


まだわらっている晋の相手がめんどくさくて眼帯で隠したかったが、それだと上手く教科書が読めないので諦めるしかなかった。


幸人だけが冷静に亜門に問いかける。


「そのキャベツ投げたのが誰なんだよ?」

「……小夜のお兄さん……みたいな人。」


幸人達には小夜が社長令嬢であることは伏せないといけない。

それは亜門が昔"デーモン"だったと言ってはいけないというのと同じ、二人が出会った時からの約束だった。


なのでお手伝いさんとは言えず、あくまでお兄さん"っぽい人"と言うしかなかった。


「へぇ~…なんで革城の兄貴なんかにキャベル投げられたんだ?」

「そんなの俺が聞きたい。」


亜門がふと見たら幸人はニヤニヤして笑っていた。


「な…何笑ってんだ?」

「いや?それって革城に変なことしてたからじゃねぇの?」

「変なことってッッ!!俺は別に…」


気が付いたら晋と栄吉も同じようにニヤニヤしながらこちらを見ていた。

そして容赦なく幸人が問い詰める。


「じゃあ何もしてないんだ?」


亜門はグッと言葉を堪えた。

ハッキリとしてないと言ってやりたいが、全くないと微妙に言い切れないのだ。


(いや…違う。始めはちゃんと下心もなく、純粋にアイツを元気づけてやりてぇって思って…)


でも亜門の中で一瞬その想いも揺らぎそうになったのだ。


しかし『…そうなんかな。』と、亜門の腕の中で上目遣いの小夜の顔に紛れもなく"女"を感じてしまった。


亜門は休まることなく、色々ある出来事に溜め息をつかずにはいられなかった。

そんな亜門に幸人は軽い感じで話を続けた。


「まぁアンタがムラムラしてようが革城の兄貴の機嫌を損ねようが、俺には関係ない話だけど、」

「…沢田、お前ホント俺に対してキツイよな…。」


ギャハハと晋だけが笑った。


「それよりも…」


幸人は亜門から教科書を取り上げ、それを摘まむようにして繁々と眺めた。


「なんで昼休みにまで勉強してんだ?」

「てめ…何すんだ。」

「ドモの時は確かに休み時間の度に勉強してたけど、最近はしなかったじゃん?てっきり勉強は単なるドモという役のパフォーマンスかと。」

「…今日からテスト一週間前だろ。」


亜門は「返せ。」と幸人の手から教科書を取り返し、また範囲に目を移らせる。

晋は驚いたように瞬きをした。


「へぇ~…"デーモン"でも勉強すんだ…。…波古山って頭いいのか?」

「…別に。」

「別にってなんだよ!!」


ムキーッと腹を立てる晋の横で栄吉が「じゃあさ…」と亜門に聞いた。


「一番最初の実力テストで何位ぐらいだった?」

「…。」

「言えよ。何位?」

「……~4」

「は?なんて?」

「…ッッ304位だ!!!」


亜門は全校生徒320人中のまさかの304位だったのだ。

幸人と栄吉は「マジかよ…」と呆然とした。


「最下位じゃないってのがまたリアルだな。笑えない悪さだ…」


幸人がしみじみと言った。


「あぁ…言っちゃなんだが俺のがまだ頭良いぞ。」


栄吉も続いて言ってくるから、亜門は「黙れ!!」と短く黙った。


幸人と栄吉の言葉につい怒鳴った亜門の横で「俺は波古山に負けた…」と晋が項垂れていた。


しかし亜門はそんなのに構っていられない。


何故なら…


『橘さんのいう条件は亜門が【次の中間テストで良い点を取ること】……だって』

『…は?テスト?てか、良い点ってまた抽象的な…』

『具体的にいうと…100位以内は絶対って…。亜門って…頭良い?』

『……待て、それってもしかして俺との相談もなしに勢いで"やる。"って返事したんじゃねぇだろな?』

『…えへへ。なんでわかったの?』


教室へと向かうはずだった小夜は亜門に引っ張られて、屋上へ来た。

そこで亜門はようやく叫んだ。


『バカか!!??てめぇは!!』

『だ…だって!!』

『大体、俺はやるとは言ってねぇぞ!!その橘ってやつにそう言え!!たかがテストの点数でそんなん決めんなって!!』

『でも知能はわかりやすい中身の判断のひとつだって橘さんが…』

『ひとつで決められてたまるか!!』


何より亜門は自分の成績をわかっているから、余計に食い止めさせようと必死になった。

何もわかっていない小夜は眉を下げた。


『…やってくれない?』

『…あのな、条件をクリアする、しないの話じゃなくてな。』

『…わかった。』

『あぁ…』

『鬼ごっこの勝者の願い、決まった…』

『あぁ…って、あ?』

『最後に鬼だった人は今度の中間テストを頑張ること!!!』

『………え?』

『最後に鬼だった亜門は頑張って100位目指して!!お願い!!』


すっかり忘れていた。

亜門が提案した鬼ごっこは単に小夜の謎の挙動不審を無くしたいと思い、ゲーム性がある方が小夜が食い付くと思っただけだ。

勝ち負けの自信に関係なく、ゲームを盛り上げるためになんとなく罰ゲームをつけただけだった。


亜門は口を開けたまま何も言えず、小夜を見ることしか出来なかった。


まさかこのタイミングで利用されるとは…

そして亜門はもう頷くしかなかった。


予鈴が鳴る前に教室に戻ろうと、お互い何も話さず歩き出した。


ただ教室に入る直前に亜門は小夜にひとつだけ聞いた。


『なぁ、小夜。』

『…ん?』

『もし…俺が100番内とれなかったらどうなるんだ?』

『…わかんないけど、友達解消?』


亜門は眉間に皺を寄せた。


(あの橘って奴は何の権限があってそこまで言ってくるんだ?しかもテストって何様だ…)


亜門は痣となった目を片手で押さえた。

だけど、亜門は小夜に返事をした。


『わかった。その条件…飲んでやろうじゃねぇか…』
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