わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE19 再会 後編

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◇◇◇◇

学校からしばらく歩いて、辿り着いたファミレスは平日とはいえ、昼時で少しばかり混んでいた。


「ねぇねぇ!!体育祭、何出る?」


席に着いて注文を取ったあと、奈未が身を乗り出すようにその話題を言った。

奈未の隣の栄吉はダルそうに「あー…」と続けた。


「いつだっけ?もう近い?」


小夜はHRでもらったプリントを思い出した。


「えっと…来月の初めの金曜日…だっけ?」

「そうそう!テストが終わったし、準備も始まって忙しくなるよね!!高校の初行事だから楽しみ!!」


幸人は興味なさげに欠伸をした。


「別にどうでもいい。」

「あぁ。俺もユキに賛成。大体仕切んのは3年なんだから俺らも張り切る意味わかんねぇし。」


禁煙パイプをくわえて相槌を打つ栄吉に奈未は溜め息をついた。


「あーぁ、やだやだ。これだからやる気のない不良は…」

「あ…俺はめちゃくちゃヤル気っす!!」

「うん。上村くんはお祭りごと似合いそう!!」


褒めているのかよくわからない奈未の言葉も晋は手放しに喜んだ。

しかし奈未の関心はすぐに目の前にいる亜門に移った。


「波古山くんは?楽しみじゃない?体育祭!!」

「え…あぁ。わりと興味あって楽しみ。」

「俺の真似すんなや!!!」


晋のよくわからないいちゃもんに亜門はすかさず「違ぇよ!!」と言ったが、晋は聞く耳もたずに喚き続けた。


「違わねぇよ!!だってなんで"デーモン"が体育祭に興味あッッーブッ!!!!」


亜門は喚く晋におしぼりを投げつけた。

奈未はキョトンとした。


「え?何してるの?てか今、上村くん何か言っ…」

「「「言ってない言ってない!!!!」」」


小夜・亜門・栄吉は奈未に向かって全力で否定した。

不思議そうにする奈未に栄吉は話題を反らそうと話しかけた。


(でも硲くんとの再会の時は人前で"デーモン"とか出したら殴っていたのに……それがおしぼりで終わるなんて…亜門も成長したなぁ)


小夜は亜門に向かって目を細めて微笑んだ。


「…小夜、その顔やめろ。」

「なんで?亜門の成長の喜びを感じてんだよ?」

「意味わからんから、なおのことやめろ。」


そうこうしている内に皆のメニューがやってきた。

皆が料理を受け取っている隙に小夜は亜門に小声で話した。


「でも亜門が体育祭に興味あるのは私も意外だった。」

「…そうか?」

「うん。青春ものに敏感のわりにメンドウ事は嫌がることもあんじゃん。」

「あー…テストとかは単純に嫌いだから。でも体育祭は…」


話の途中で亜門は周りの確認をした。

奈未と栄吉と晋は別の話をしていて、こちらの会話に注目していないみたいだ。

亜門は更に声を潜めた。


「体育祭は俺、4年ぶりなんだよ。」

「……え?」

「中1以来。」

「なんで?サボって?」

「中1で参加した騎馬戦で……ちょっとした事故起こしてから…周りから止められて?」


それは事故ではなく、事件なのでは?

何も言えないでいる小夜に亜門は眉を下げて笑った。

皆で食べ始めた時、とある団体が通りすぎた。


「あれ?沢田?」


団体のうち一人が立ち止まった。

呼ばれた幸人はフォークを動かすのを止め、顔を上げた。


「…あ?」

「やっぱ沢田じゃん!!」

「…」


制服を着ていて、おそらく同い年ぐらいの高校生。

真面目そうで、それでいて爽やかな雰囲気で端正な顔立ちの男は一緒に来ていた友達に「先に行っとけ。」と断った。

しかし幸人は何の反応もせずに黙っていた。

そこで奈未が興味本位で喋った。


「えっと…沢田くんの知り合い?」


栄吉も晋も黙っている。

ようやく幸人が口を開いた。


「こんなやつ知らねぇ。」

「…はは。冷てぇな。…あれ?」


幸人の言葉を軽く交わしたあと、男は小夜の姿に目が止まった。

そして男の目は見開いた。


「……へぇ、意外な組み合わせ。」


遠くで男の連れが「おーい、この席にすんぞ」と遠くから声を掛けた。

男は友達に手を振って、「…じゃあな」と行ってしまった。


「…?」


男と目が合った小夜はポカンとした。

そうなったのは奈未も一緒だった。


「え?何?友達なの?違うの?」


答えたのは晋だった。


「ユキちゃん…あいつらの制服…世華學園だろ?」


小夜と亜門はそれだけでわかった。

つまり幸人の中学時代の知り合いというわけだ。

そしてそこから小夜は気付いた。


『意外な組み合わせ』


男は小夜を見て確かにそう言ったのだ。

小夜と幸人が一緒にいるのが珍しいと。

そしてその男は世華。


(もしかして…あの人、"私"を知ってる!!!!)


小夜はもう一度男が行ったほうを見たが、遠いテーブルに着いたのか、もう姿は見えない。


「あ…亜門。今の人…」

「え?」


小夜の推測を亜門に伝えようとしたその時、


「さっきの人が世華だからなんなのよ?」

「いいんだよ、町田は知らなくて。」

「何よ!!森川は逆になんで知ってるのよ!!」


栄吉と奈未がギャーギャー言い合いしているのを聞いて、皆がいることを思い出した。

記憶のことは亜門と二人の時に言おうと思い直した。


「……あとで言う。」

「…わかった。」


隣の幸人が立ち上がった。


「ん?ユキちゃんどこいくの?」

「ドリンクのおかわり。」

「あぁ、はいはい。いってらっしゃい。」


幸人が行ってから小夜は何気なく言った。


「…おかわりなのに、なんで注文しないの?てかどこ行ったの?」

「ここはドリンクバーっつーとこでおかわり自由なんだよ。セルフサービス。」

「へぇー。」


亜門との会話を聞いていた奈未は瞬きを繰り返した。


「…革城さん…ファミレス来たことないの?」

「え…うん。」


何かおかしいだろうかと不安になりながら小夜は頷いた。


晋と栄吉はそれぞれ「へー。」と珍しげに言った。


「今までないって、なんか貴重!箱入り娘だな!」

「まるでお嬢じゃん!!」


栄吉の言葉に小夜も亜門も心臓をビクつかせた。

咄嗟に亜門は喋った。


「お…俺も初めて!」

「マジ!?」

「そうなんだ?」


亜門は小夜にコップを持たせた。


「はい。ドリンクバー初体験行ってこい!」

「はい!行ってきます!!」


小夜も言われるがままコップを持って立ち上がって、幸人が向かった方へと歩き出した。

亜門と橘の問題もまだ終わっていないのに、また小夜の秘密を知る人が増えるのを恐れたからだ。


(亜門の過去と一緒で、秘密にするのって大変だな…)


人知れず小夜は溜め息をついた。


すぐに幸人の背中が見えた。

そこがおかわり自由のドリンクがあるところだとわかった小夜はすぐに行こうと思った。

しかし足は止められた。


幸人ともう一人が話していたからだ。

先ほどの世華の男子である。


小夜は厨房に続く廊下の隔たりに隠れた。

特に意味はないが思わずした行動だった。


男は幸人に向かって軽く笑った。


「ハハ…別に結果が一緒なんだから、もういいだろ?」

「違ぇよ…もういい。てめぇに聞くのが間違いだった。」

「間違いも何も…鬼原斗真は…」

「だからもういい。じゃあな…」


幸人は男を見ることなく、ドリンクバーから離れた。

小夜はその場に固まったままだ。

幸人は小夜に気付かず、そのまま通りすぎた。


(…今、鬼原斗真って言った?斗真って…亜門の友達だよね?なんで沢田くん達が…)


「あー、やっぱり。久しぶり…だな?」


小夜はギョッとして、持っていたコップを落としそうになった。

考え事をしていたせいで、世華の男が近くまできたのに気付かなかった。


「…え。あ...その…」

「ぷっ…慌てすぎ。何もしねぇーよ。夏ぶり…かな?印象がすごく変わってて、一瞬わからなかった」

「…はあ。」


小夜はかつてないパニックになりそうだった。

今までこんなにリアルに以前の自分を感じたことがない。

そして同時に小夜は確信した。

この男は中学の時の小夜を知っているのだと。


「…」


確信したところで、どうするべきかわからない。

カチンコチンに黙っていたら、男が眉間に皺を寄せた。


「…なんか、キャラ違くない?」


小夜はコップをギュッと握りしめた。

何も言わずに立っていると男は笑った。


「リアクション悪いけど、もしかして俺のことなんか忘れちゃった?」


笑っている男が言ったことは明らかに冗談だってわかった。

でも小夜は顔を上げた。


「あの…ごめんなさい!!」

「…はい?」

「実は…その…」

「……?」

「覚えてないんです。何も…」

「は?…今なんて?」


小夜はずっと自分について黙っているのに疲れてしまったのだと思う。

そして自分を知りたいと思った矢先に、昔の同級生に会えた。

そしてその男が「忘れた?」と口にした。

色々重なったから魔が差した…のかもしれない。


「私…記憶がないんです。」

「……記憶がない?」

「はい…この春からの記憶しかないんです。あの…あなたは私のことを知ってるんですか?」

「記憶ないって…"あの事故"が原因か?」

「!?…やっぱり知ってるんですね!!」

「知ってる…けど…」

「あ…あの!!いきなりですみませんが…何か…私のことを教えて…くれませんか!?」


男は絶句といった形で、口を開いたまま動かない。

しばらくして片手で口を押さえ、目だけがキョロキョロと落ち着かなかった。


「……悪い。少し…混乱して。」

「…はっ…はい。すみません…いきなりで…」

「いや…こっちも…」


小夜はようやくコップをドリンクバーに持っていき、オレンジジュースを入れた。


(言ったのは…やっぱまずかった?おかしかった?亜門に相談してから言えば良かった!!!)


そう思って焦るから、何かをせずにはいられない。

ジュースが満杯になって、ボタンを指から外した。


「あの…」


男が遠慮がちに言葉を繋げた。


「じゃあ俺が誰かも…わからない?」


小夜は男の顔を見て、コクンと頷いた。

男は考えているように視線を下げた。


「悪い…俺…ちょっと…」


男はすぐに背中を向けた。


「あ…あの!」


小夜の声は届かず、男は行ってしまった。


小夜は真っ白となった。


小夜が持つ並々と溢れたコップからジュースがこぼれて小夜の手を濡らした。
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