わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE20 衝撃1

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◇◇◇◇

「お前…それはすぐ俺に言えよ。」


ファミレスの帰り道に亜門と二人になったので、世華の男子との関係の推測と、その後の出来事を亜門に言ったら案の定、呆れたように目を細められた。

小夜は今一度、大きな溜め息をついた。


「やっぱり焦りすぎたかな…?」


肩を落とす小夜の頭に亜門はノックするようにコツンと小突いた。


「まぁ…自分を知るのを恐れてた小夜にしては上出来じゃね?」

「…そうかな?」

「あぁ。それに誰だって知り合いが急に記憶喪失とかになられたら戸惑うって、普通。」

「…うん。そうだよね。」

「で、そいつ何て奴?」

「…へ?」

「…名前。」

「知らない。聞いてなかった…」

「…連絡先は?」

「…わかんない。」

「…」

「…」

「あー、じょーでき、じょーでき。」


薄めた目であからさまに棒読みの亜門の態度で小夜はますます落ち込んだ。

だが小夜の落ち込んだ気持ちは3日も経てば回復した。


「顔はわかってるわけだから、世華學園で張り込みってどう!?」


3日経った次の日、小夜は良いことを思い付いたと言わんばかりの笑顔で登校してすぐの亜門にそう提案した。


亜門は寝起きなのか、ボンヤリと小夜を見た。


「…亜門?昨日バイト遅くて疲れた?」

「…いや、そんなんじゃねぇけど…。…張り込み、いい手だと思う。」

「でしょ!!さっそく今日してみようと思うんだけど、亜門って今日ヒマ?」

「え?俺も同伴?」

「うん!こないだみたいに変に早とちりたくないし。一緒にいてほしいんだけど?」

「…小夜、忘れてねぇか?」

「…何が?」

「今日は中間の順位返されんだけど?」

「だから?」

「…」

「…」

「…」

「…あ!!橘さんとの!!」

「…遅ぇよ。」


亜門は深く頭を項垂れた。

亜門は一応、今日という日を気にしていたらしい。

小夜達の学校は進学校ではないので、順位の貼り出しはしないが、HRに自分の点数と順位が書かれた小さな紙を本人達に渡されるのだ。


小夜はテストが終わり、すっかりすべて終わった気がしていた。


「えっと…じゃあどうする?」

「…どうするって?」

「中間の結果、今日にでも橘さんに報告する?」

「それはやっぱ俺が直接言うべき?」

「嫌だったら私から言うけど…」

「…いや、俺が言う。」


亜門は自分の席に着いて「はあー」と長い溜め息をついた。

小夜は亜門の背中を叩いた。


「まぁまぁ、じゃあ張り込みは明日にしてもいい?」

「…お前、根本的なこと忘れてねぇ?」

「うん?」

「……いや、なんでもない。」


(俺が今日、100位以内に入れなかったら、一緒にいれねぇってのは黙っとこう。こいつは目先のことしか覚えらんねぇみたいだし。)


そして小夜はテストの結果が出るまで、亜門に近付いたらダメって約束も忘れていることにも亜門は気付いていたが黙っていた。


目先のことに囚われがちなのは確かだが、小夜がそれを忘れているのはもう一つ気になることがあったからだ。


授業が始まり、クラスは各自席に着いた。


小夜はノートをとりながら左前に座っている幸人をチラッと見た。


ダルそうに腰浅く座っているが、今日は授業に出席している。



『間違いも何も…鬼原斗真は…』



(…なんで沢田くんはあの男の子と今更"斗真"の話をしてたんだろ?)


幸人は何かを隠してる。

小夜は直感的にそう思った。

しかし幸人と斗真のことはハッキリ何かわかるまで亜門には言わないでおこうとも思っていた。


(でもハッキリって…どうすればわかるんだろ?)


今までの小夜なら本人に直接聞いていたものを、ファミレスでの一件で闇雲に直球でいっても上手くいくとは限らないと頭によぎっていた。


かと言って、それとなく聞く技術を小夜は持っていないことを自負している。

何より、あの幸人相手に聞き出そうなんて難易度が更に高そうだ。


小夜は考えることが多すぎて授業に集中できなかった。


休み時間の間も亜門はHRが気になり、憂鬱ゆううつとなっていた。


(亜門って意外にデリケートなんだな…)


トイレに行った帰り、小夜はそんなことを思っていた。

教室に入る前に小夜は呼び止められた。


「あ、姐さーん!!」


小夜をそんな風に呼ぶのはただ一人である。


「硲くん…その姐さんっての…まぁ、もういいや。」

「ん?なんすか?」

「や、もういいって!!…で、何?」

「あ…波古山さん呼んで?」

「いいけど…亜門は今、うつモードだよ?」

「は?なんで?」

「テストの結果が気になってて…」

「へー。波古山さんでも気にするんだ?」

「……中学の時も勉強してなかったの?」


いつもの好奇心で小夜は尚太に聞いた。

亜門の中学時代ってどんなだったのだろうかとウキウキする。

尚太は思い出すように天を仰いだ。


「ん~…学年違ったから成績は知らないけど、勉強してるとこ見たことないね。」

「あーやっぱり?」

「でも頭はいいんじゃない?」

「…は?」


尚太の言葉に小夜は目を見開いた。


「頭良い?なんで?」

「勉強に興味ないだけで地頭はいいんだと思うよ。波古山さんの通り名あるじゃん?」

「あぁ…悪魔の…」

「うん。波古山さんの名前をもじってるのもあるけど、それは波古山さんの喧嘩のスタイルからもきてんだ。」

「喧嘩?」

「波古山さんって独特っていうか、仕掛け方がトリッキーなんだよね。」


尚太は昔を思い出すように惚れ惚れと語った。


「直線的だけじゃなくて、組手も交えて相手の不意を付く。相手の体格の大小も力の強弱も関係なく、波古山さんは全部自分のテリトリーの内にまとめちまうんだよ…その発想はいつもカンドーもんだよ…」

「へぇー…。」

「同じ一発でも予想してた軌道と意外な軌道では痛みの感じ方が全然違うかんな!!波古山さんはマジすげぇよ!!」


喧嘩に興味のない小夜はほぼ生返事である。

尚太と温度差があるまま、小夜は思ったことをただ言った。


「私てっきり悪魔みたいな非情さとか暴れっぷりからの"デーモン"と思った。」

「…確かに波古山さんの短気さは脊髄反射ばりだな…」

「うん。あとは殴っても殴っても復活するとか…」

「デーモンっていうか、それはゾンビだな。」

「喧嘩が強いってそんなタフで腕力が強いってことかと思ってた。」

「それはどっちかってーと斗真さんだな。」

「…え?」


"斗真"というフレーズに小夜は反応した。


「波古山さんって細身だし、斗真さんと比べたら腕力ないから頭使って喧嘩してたのはその理由もあるかもな。」

「確かに亜門って体力がなさそう。」

「その点、斗真さんはいつでも真っ直ぐぶつかって逃げず曲げずにブッ飛ばすって感じだったな…」

「…"斗真"…さんって…」

「え?」


小夜は上目遣いでおずおずと聞いた。


「…どんな人だった?」


幸人と何か関係があったのかと聞いてもよかったが、尚太に言えば亜門にも伝わると思った小夜はそう聞くのが精一杯だった。


尚太はニッコリ笑った。


「波古山さんと一緒!!すっげぇ人だった!!でも波古山さんとは逆の人でもあったかな…二人の喧嘩のスタイルって、二人の性格の表れでもあったな。」

「逆?」

「波古山さんは変化球で斗真さんは直球って感じ?」


亜門や尚太の心に残る彼が一体どんな人なのか、聞けば聞くだけよくわからない。

尚太は「あ!」と声を出して思い出した。


「俺らが中学の時の写真持ってんぞ!!見る?」


"斗真"に関しての詮索とか抜きで小夜の興味のバロメーターが振れた。


「あるの?見たい!!」


尚太はポケットから出した財布から一枚の写真を取った。

なんで財布にいれてるのかツッコミどころは満載だがそれよりも小夜は早く中学時代の亜門が見てみたかった。


「ほら。」


しかし渡された写真を見た時、小夜は大きな衝撃と頭痛が走った。



◇◇◇◇


「亜門…」

「ん?」


亜門は教室で机に伏せていた顔を上げた。


「硲くんが呼んでた…」

「あ…おぉ、ありがとう…って、あいついねぇじゃん。」

「呼んでたけど、もう授業始まるから昼休みに来るって。」

「なんだそれ。そんなギリギリに来なきゃいいのに…」

「あ…違うの。私と喋ったから時間過ぎちゃったの!」

「…へー。小夜と尚太ってわりと仲良いよな。二人でどんな話するわけ?」


小夜は言葉を詰まらせた。

先ほどの頭痛がチリッと焼ける。

小夜は頭を片手で押さえて笑ってみせた。


「ほとんどが亜門の話だよ。」

「あー…悪口じゃねぇだろな?」


教室の扉が開き、次の授業の先生が入ってきた。

小夜は「違うよ。」と笑いながら亜門から離れた。


いつも通りの今日を過ごしたクラスもHRとなったら皆どこかソワソワと落ち着きをなくした。


担任が入ってきて教卓についたら、その顔はニヤリと笑った。


「さて、皆も"お楽しみ"の中間試験の結果を配るから席に着け!!出席番号順に呼ぶから、呼ばれたら取りに来い!!…安藤!!」


波古山と呼ばれるまで、亜門は黙ってその時を待った。


「次…波古山。」


亜門はゆっくり立って教卓まで行った。


「はい…波古山。今回はよく頑張ったな。」

「…え?」


亜門は紙に書いてある順位を見た。


ゆっくりと席に戻って紙をもう一度ジッと見た。


その間も点数は次々と返されていった。


「さて…中間は全員に返したかな?じゃあ今日のHRはこのまま体育祭のこと決めるぞー。」



◇◇◇◇


「別に大丈夫だって!!手ぶらでも!!」


下校中、二人は小夜の家を目指して歩いていた。


「…でも小夜ん家ってデケェから、なんか持ってかねぇと焦るっつーか、落ち着かねぇ。」

「わかるわかる!!」

「…自分ん家なのにわかるんだ?」

「私でもデッカ!!って思うもん。未だに知らない部屋とかもあるし…」

「マジで?」

「個人的に『開かずの間』って呼んでる。」

「開かないのか?」

「うぅん!!入ったことないだけ。」


「へー。」と返事する亜門を見て、小夜はソワソワした。

亜門の気になる中間の結果を聞けてないのだ。

しかし亜門は教えてくれない。


「あー…亜門は体育祭は何の競技出んの?」

「200m走と綱引き。」

「なんだ、男子の全員参加と大人数競技じゃん。」

「運動部でもないから当たり前だろ…」

「…で、中間何位だった?」

「…あとでな。」

「…」

「…」

「硲くんの用事って、結局なんだったの?」

「行きたいとこあるから、話聞いてほしいって。」

「ふーん…で、中間何位だった?」

「…あとでな。」

「…さっきからそればっか。」


小夜は溜め息を吐く。

亜門はそれでも表情を変えずに進んでいく。


「小夜は体育祭、何出んだ?」

「…ねぇ、亜門?」

「…聞いてる?」

「聞いてるよ!!でも今は私が聞く番!!」

「…自由だな。」

「本当に離れるの?」

「…何が?」

「100位以内…取れなかったら、本当に私と離れる気なの?」


亜門はチラッと小夜を見た。


「…覚えてたんだ。」

「さっき思い出した。」

「…ホント自由な頭だな。」

「亜門は万が一私と離れても…いいってこと?」


亜門は唸りながら頭を掻いた。


「離れたがってるわけじゃねぇけど…約束は約束だから。守るつもりではいる。」

「…」

「…でも、」


亜門の言葉に続きがあると気付いた小夜は亜門を見た。

亜門も立ち止まり二人は向かい合う形になった。


「その言葉に偽りはないですね?」


小夜の家近くまで来ていた二人の目の前に橘が家の門まで出ていた。


「た…ちばな、さん。」

「…」


小夜が驚いたのとは反対に亜門は黙って橘を見ていた。


「…それで、結果はどうでしたか?」


亜門は黙ったまま、カバンをまさぐった。

そして取り出したのは中間テストの結果が示されている小さな紙。

小夜と橘は二人でその紙に目を凝らした。


「…10…4…位」

「…104位。」


亜門は無表情のまま、呟いた。


「賭けは…俺の負けだ。」


小夜も橘もそれぞれの思いで言葉を発しなかった。


200番上げようとも、担任に「よくやった。」と言われようとも、亜門は橘の条件をクリア出来なかった。
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