わんもあ!

駿心

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第1部

TAKE21 衝撃2 前編

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「…では、先ほど言って頂いた通り、今後は小夜お嬢様とは交流を切って…」

「待ってよ!!橘さん!!」


小夜は両手で橘の手を掴んだ。


「ひどい!!!亜門は300位以下のところをこんなにも上げたんだよ!!」

「小夜お嬢様ッッ…」

「やるって言ったのは私だけど、こんなん私嫌だから!!」

「お嬢さッッ」

「橘さんの薄情もん!!冷徹!!バカバカバカ!!!!」

「ーッッ私の話を聞きなさい!!!!」


辺りは橘の怒鳴りでキンと響き、こだまとなって消えていった。

小夜は目をパチパチと瞬きをした。


(あれ…なんか今…)


小夜が呆然としていたら亜門が「…小夜。」と呼んだ。


「さっきも言ったが、約束は約束だ。負けた俺はお前から離れる。」

「ッッ!?亜門!!それは…」

「でも、」


亜門は大きく息を吸って、橘に向き直り、指を差した。


「…リベンジを申し込む。」


橘は面食らって眉をひそめた。


「リベンジ…とは?」

「約束通り、俺はこれから小夜とは関わらない。」

「…」

「でも…次の期末。期末テストで100位以内に入ったら、チャラにしてもらう。」

「…」

「どうだ?」


亜門が言ったことを小夜は何度も反芻して、理解した。

亜門は小夜と一緒にいることを選んだのだ。

亜門が嫌う面倒くさいことも引き受けてくれる。

負けてしまおうともあの短気な亜門がもう一度と粘る。

それでも亜門は小夜といることを譲らない。

小夜は胸と喉の間がキュッと絞られるような感覚になった。


「…亜門。」


声に出しても上手く呼吸が出来ない。

必要な酸素をちゃんと吸い込めないせいか心臓がドキドキと早くなる。

橘は溜め息交じりで鼻で息を吐いた。


「貴方達は話を聞かない子達だ。」


橘は小夜を一度見てから、亜門に向かって言った。


「いいですよ。」

「あぁ…じゃあ次の期末まで…」

「じゃ…なくて。もういいですってこと。」

「「は?」」


小夜と亜門は声を合わせて理解に苦しんだ。

亜門は首を傾げた。


「なんだよ…『もういい』って。リベンジ受けてくんねぇのか?」

「…だから話を最後まで聞きなさい。リベンジも今までの条件も、もう無しで結構です。二人、お好きにしてください。」

「はあ?」

一介いっかいの手伝いがお嬢様の交友関係に口を出すなんて、出過ぎた真似をしました。」


橘は深く頭を下げて、家に入ろうとした。


「待てよ!!もっと解りやすく説明しろ!!なんだよ、いきなり。」


亜門の怒鳴り声に橘は立ち止まり振り返った。


「…別にいきなりではありません。…前から波古山様は小夜お嬢様のご友人として…よろしいのかもしれないとは思っていました。まぁ迷ってはいましたが。」


それは亜門が小夜の家で勉強会をした時のこと。



『は?何…いきなり笑って…』

『あははは!!だって!!『つまらないものですが』って!!亜門!!ホントにあんな場面…初めて見た!!』


橘は部屋に入る前にその様子が聞こえたのだ。


「腹から笑っている小夜お嬢様は…"お目覚め"になってから…久しぶりに見ました。」


亜門にとって小夜はいつも口開けて笑っているイメージだから、よくわからなかった。


「それに100位には及ばなかったものの304位から104位というのは普通に考えて素晴らしい結果だと思います。」

「…」

「なので、波古山様と小夜お嬢様のお好きにして…」

「…待てよ。」


亜門は目を細めた。

そして小さく舌打ちをした。


「これだから大人は嫌いだ…」

「…はい?」

「それでも気に食わねぇから、言い出したんだろ?何を今更、小夜の理解者ぶってんだよ…。あんたの気持ちは?」

「…ぶってるのではなく、事実です。それに私の気持ちは関係ないです。」

「それがムカつくんだよ…散々言ってたくせによぉ?しちめんどくせぇこと言ってねぇで、リベンジ受けろや!!」

「面倒くさいのはどっちですか!?私が『いい』って言ってるんだから、もういいでしょう!?」

「はあ?なんでてめぇの言うこと聞かにゃなんねぇんだ!!??」

「黙れ?!ヤンキーが!!」

「てめぇ、勝ち逃げしてぇだけじゃねぇのか?」

「なんだと!?」

「ストーーーっプ!!!!!」


小夜はだんだんデーモン化してくる亜門と顔が険しくなっていく橘の間に入った。


「亜門!!落ち着いて!!顔がデーモンだよ!?」

「あぁ?だってアイツが…」

「小夜お嬢様になんという口の利き方ッッ…」

「――――っ、もとい!!」


小夜はハッキリと大声で橘を呼んだ。

その声に橘は目を見開いた。


「…小夜お嬢様…今なんて…?」

「…基!!」

「…」

「…って、前の私は呼んでなかった?橘さんのことを。」


小夜は首を傾げて恐る恐る聞いてみた。

橘は言葉を失ったかのように驚いてる。

それを見て、小夜はニッコリと笑った。


「ね?そうでしょ?」

「小夜お嬢様…なんで…記憶…」

「さっき橘さんに『私の話を聞きなさい!!』って怒鳴られた時に、なんか違和感っていうか…むしろ懐かしさを感じたんだよね。」


亜門も驚いて小夜の肩を掴んだ。


「小夜、記憶が戻って…?」


小夜は首を振った。


「うぅん…まだわからない。橘さんとの思い出もよく覚えてない。…でも、」


橘の顔を見た。


「私が記憶を無くす前の…基って、もっと口うるさかった気がする。"今の私"になってからの基って注意とかしてくれるけど、いつも穏やかな感じで…でも本当は、いつも心配してくれてるお兄ちゃんみたいな人だったって思う!!」


橘は声が出ない。


「私に怒鳴ったり、亜門と言い合ってる基を見て…本当の基を見れた気がする。」


小夜はゆっくり目を閉じる。

決定的な出来事は思い出せないが、断片的に橘の顔が思い浮かぶ。


『小夜お嬢様ッッ!!!』

『アハハ!!基、そんな怒んないでよ?』


それはいつの時の出来事かまで思い出せないが、その時の小夜は確かに『基』と呼んでいた。


「もしかして、今までは記憶の無い私に気を遣ってたのかな?」

「…」

「…基?」


ずっと黙って俯いていた橘はそこでようやく顔を上げた。

歩き出したその先にいた亜門の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「なッッ…もと…」

「小夜!!」


止めに入ろうとした小夜を亜門は名前を呼んで、それを制した。

そして睨み合っていた亜門と橘に一歩下がる小夜はそこから動けなかった。


橘は亜門に耳打ちをした。


「…君のおかげとは、言いたくないが小夜お嬢様の記憶が少しでも戻るキッカケとなったのは確かに君だ…。それは感謝する…。」


橘の言い回しに亜門は舌打ちをした。


「…そして、記憶が戻りかけているなら話は変わった。小夜お嬢様の事情を知ってる君はできるだけお嬢様の傍を離れるな。小夜お嬢様を調を守れ」


そこで亜門は胸ぐらを掴んでいる橘の腕を振り払った。


「…指図すんじゃねぇよ。言われなくてもそうする。」


橘は片方の口角を上げた。


「少しは信頼したということだ。しかし小夜お嬢様への手出しはまだ許してねぇからな…」


橘は小夜に向き直って、頭を下げた。


「小夜お嬢様。それでは仕事もありますので、先に戻らせていただきます。」

「え…う…あ…亜門との…条件は?」


亜門に言った橘の言葉が聞こえなかった小夜は状況が読めずに少し戸惑った。

小夜にそう聞かれた橘は亜門の方を見て、小さく笑った。


「…彼に任せます。」


もう一度深くお辞儀をした橘は革城家へと戻っていった。


残された小夜はポカンと立ち尽くした。


「えっと…OKってこと?」

「……納得がいかねぇ…。」


思い切り目を細める亜門は橘が行った方向を睨んだ。


「認められたってこと?ん?亜門と基、仲良くなったの?」

「んなわけねぇだろ!!!」


亜門はなんとも言えないむしゃくしゃを抱え、空気を掴む両手はワナワナと震えた。


「あー…俺、アイツと相性悪りぃ…。すげぇムカつく。イケスカねぇ大人エリートって感じが…そんで上から目線…」

「でも…基…私のこと、陰ながらすごい心配してたんだね…。本当に言いたい気持ちも堪えて…、記憶の無い私に遠慮して…」

「遠慮じゃねぇだろ?あれはただの二重人格だ!!」

「…でも亜門と基ってなんか似てる…」

「似てねぇよ!!」


小夜と亜門が言い合ってるその後ろから一人の影が近付いてきた。


「…あの、」

「「!?」」


突然のことで二人とも驚き、振り返った。


「あ…よかった。やっぱり小夜だ。」


そこにいたのはファミレスで出会った世華学園のあの男だった。
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