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第2部
TAKE22 戸惑い
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「…小夜。いま……なんて?」
波古山亜門《はこやま あもん》の思考はぐるぐる回った。
今、小夜は自分のことを死んだ親友の斗真《とうま》と呼んだ?
亜門は来た道を引き返して、革城小夜《かわしろ さよ》のところまで行った。
しかし近付いてみれば、言った小夜自身もすごく吃驚《びっくり》した顔をしている。
「…私、いま……なんて?」
「…あぁ、うん。そんな顔してる。」
「…」
「…」
しばしの沈黙の中、小夜は深呼吸をして顔を上げた。
「あの、ね!!」
「…うん。」
「今日、硲くんから昔の亜門達の写真見せてもらったの!!」
「…は?」
話が飛んだかに思えたが、小夜がそう切り出した意図はすぐにわかった。
「でね…その時に"斗真"って人の顔も見た。」
「…。」
「でね、それで、沢田くんは、」
「…待て。なんで沢田がそこに出てくる?」
「え?その、だって、慶介くんも、」
「…おい?」
「ファミレスで…あれ?あの…斗真はッッ」
「待て待て待て待て!!…落ち着け。」
「う、…その………うん。」
小夜は深呼吸したのに、いつの間にか息が荒くなっていた。
「…お前自身も混乱してんのはよくはわかったから、落ち着け…」
「…うん。」
「今日は…その、俺も色々整理させたいから…今日は帰って休めよ。」
「…でもッッ」
「ちゃんと聞く。」
「…え?」
「落ち着いたなら、話をちゃんと聞く。お前の考えも、記憶も、………斗真のことも。」
「…うん。」
亜門はやけに真剣な顔で言った。
「俺も…小夜に聞きたいこと、あるから…」
「え?…聞きたいこと?」
「おぉ。」
小夜は視線が泳いだ。
一体、何を聞かれるのだろうかと言い表せない不安が再び襲う。
亜門はそんな小夜の様子をすぐに察知した。
小夜の頭に手を乗せた。
「大丈夫だ。小夜…」
『小夜!!大丈夫だ!!!』
亜門の言葉はまた、誰かの言葉とダブる。
ずっと聞こえていた小夜を呼ぶ声。
今ならわかる。
それは…きっと鬼原斗真《きはら とうま》の声だったのだ。
亜門は手を離した。
「小夜、また明日。」
でも今はそんな面影や残像よりも亜門が必要で安心だ。
「うん、また明日!」
小夜も自分が思うより明るく返事をすることが出来た。
家路へ歩き出した亜門の背中を小夜はしばらく見ていた。
シャープでスラッとした背中。
トクントクンと弾む気持ちのまま、小夜も家に帰った。
明るくスッキリした小夜と違い、亜門は未だ混乱を引きずっていた。
(なんで小夜の口から斗真の名前が?…でも確かに小夜の前で斗真の名前を出したことある。けど…)
亜門は立ち止まって、さっきの出来事を思い出していた。
『待って!!!斗真ぁ!!!』
(あれは前から斗真をそう呼んでいたような…感じだった…)
亜門は手の甲を額に当てて、また歩き出した。
(まぁ、ひとまず俺は落ち着け。俺が落ち着かなかったら、当の本人の小夜が不安がるのは当たり前だ…だけど斗真と聞いて…つい取り乱した。)
亜門は手に拳を作り力んで、足も知らず知らずに早足となっていた。
(それに小夜は今、自分の事故や橘のことや、少しずつ思い出してきて…記憶の方もアンバランスな感じだ。加えて、明神って奴も現れて…)
亜門はまた立ち止まった。
そう、小夜には明神慶介《みょうじん けいすけ》という元カレがいた。
その事実には亜門もひどく驚いた。
(考えてみりゃ、中坊でお付き合いなんて今時珍しくもないし…小夜も可愛くないこともないし…悪い奴でも…ない。)
先ほどの慶介の爽やかな笑顔を思い出した。
亜門は目の前の自動販売機を蹴った。
(…くそ。なんかすげーイライラする。)
蹴った足の痺れが余計に苛立ちを増幅させ、やり場のない謎の苛立ちを舌打ちに変えて、亜門は家へと帰った。
◇◇◇◇
次の日から、中間テストが終わった学校はすっかり体育祭のムードとなっていた。
「でね、慶介くん曰く、私と付き合ってたのも今は楽しい思い出だって言ってた。」
「…へー。」
「で、大和撫子って周りには言われてたけど慶介くんからしたら少しドジなところもあったんだって!!私。」
「…へー。」
「…聞いてる?」
「…へー。」
「…」
昼休み。
体育祭の応援に使うポンポンを作るため、ビニールテープを裂きながら小夜は昨日の慶介とメッセージのやり取りを亜門に話していた。
亜門はひたすらテープを割いて、小夜の方を見ようとしなかった。
小夜は亜門の手にある作りかけのポンポンを取り上げた。
「ちゃんと聞いてくれるんじゃなかったの?」
強めに見てくる小夜を亜門は流し目で確認した。
確かに聞くと言ったが、それは斗真のことやら、小夜が混乱しているひとつひとつであって、当時のノロケを聞きたいわけではない。
亜門は冷たく言った。
「…別に良くないか?そんな話。」
「はい?」
小夜は眉間にシワを寄せたが、亜門はその表情を知らないふりで小夜の手からポンポンを取り返した。
完成は間近だ。
そこにまだ細かくされていないポンポンを数個持って、町田奈未《まちだ なみ》がやってきた。
「波古山くん!!終わったらこれもお願いしていい!?」
「…いいけど、多くない?」
「大変だったらそこらの不良達にも言ってあげて?『協力しろ』って。」
奈未はチラッと教室の端にいる沢田幸人《さわだ ゆきと》、上村晋《うえむら しん》、森川栄吉《もりかわ えいきち》を見た。
「俺が言うより町田さんが頼んだ方がいいと思うよ?」
「えー、だってなんか文句言われると思うと…怖いし…。」
そう言いながら奈未はさりげなく亜門の隣の席に座った。
亜門は奈未から未完成のポンポンを取って、スッと立ち上がった。
そして幸人達のところへ行ってしまった。
残された奈未と小夜は目が合った。
奈未は机に肘をついて、溜め息混じりに言った。
「…ねぇ?」
「は…はい!!」
思えば小夜は奈未と二人きりで話すのが初めてなのだ。
奈未は小夜を一瞥《いちべつ》した。
「革城さんって本当に波古山くんとは何もないんだよね?」
「…はい。…友達です。」
「じゃあ、なんで私避けられてるんだろ?」
「…はい?」
「避けられてるよね?どう見ても!!革城さん、なんか聞いてない?」
「いや…特には…」
「…それとも波古山くん、他に好きな人とかいんのかな?」
「えぇ!?亜門が!?」
「聞いてない?もしくはそれっぽいアクションとかなかった?」
「全然!!気付かなかった!!」
「そっかー…。なんだろー…私じゃダメなんかなぁ…?」
奈未から一喜一憂に表情豊かで気さくな印象を受けた小夜はなんだか奈未が可愛く見えた。
(これが恋する女の子なのかな?)
机にうつ伏せていた奈未はガバリと起き上がり、小夜に向いた。
「革城さんは、波古山くんとクラスで一番仲良いよね?」
「え…いや、どうだろ…」
奈未は小夜の返事に構わず、両手を取った。
「協力とか出来ない?」
「えぇ!?協力!!??」
「…ダメ?」
そういって上目遣いでお願いする仕草は女の小夜でも可愛いと思うものがあった。
しかし小夜は返事に困って黙ってしまった。
その沈黙に奈未は手を離した。
「やっぱダメか…」
「いや、ダメってわけじゃ…」
「だって革城さん、波古山くんのこと好きなんでしょ?」
「!?」
小夜は目を大きく開いてはパチパチと瞬きをした。
「私が…亜門を?」
「いいって!!そんな隠さなくても。ちょっと前まですごい噂だったし…」
「…あの…」
「…何よ?」
小夜は奈未の耳元でコソッと小声で聞いた。
「好きって一体どういうのを言うんですか?」
「…はあ?」
奈未の大声で一瞬、クラスの注目の的になった。
それに少し気を利かせた奈未は小夜を廊下に連れ出した。
「どゆこと!?」
「だから…友達の好きと恋の好きの違いって何ですか?」
呆れたように奈未は「あのねー…」と言った。
「そんなもん自分が好きかもーって思ったら恋だし、自分が友達って思ったら友達でしょ?」
「そ…そっか。」
「…で、革城さんはどっちなの?好き?嫌い?」
「え…っと、と…友達です。」
「へー…まっ、無自覚ってのもいるけどね…最近。」
「無自覚?」
「自分でも知らない間に恋しちゃったってやつ。自分のことなら自分でわかってろっつーの!!」
「無自覚だった場合ってどうやって気付くの?」
小夜は普通に疑問に思った。
それに同い年の女の子と恋バナはなんだか新鮮に感じた。
「そうねー…周りに言われて初めて気付くとか?」
「あー、なるほど!!」
「あと他の人と比べるとか?」
「何を?」
「え~?他の人よりも必要!!とかー、他の人よりも一緒にいてドキドキするとか?」
「なるほどぉ!!」
「……ねぇ?さっきからそんなに気になんのなら、やっぱ波古山くんのこと好きなんじゃなくて…?」
「…町田さんは亜門のどこがいいの?」
「町田さんとか固い。奈未でいいよ!!」
色っぽくなったりキツかったり柔らかに笑ったりと、奈未は可愛い人だと小夜は思った。
そして遠慮がちに「奈未…ちゃん。」と呼んだ。
「うん!!私もまさか"ドモ"を気になるなんて思わなかったけど…ギャップ?意外に普通だし、抱き締めてくれた腕が実は逞しかったり!?」
両手で自分の顔を包んで、奈未は楽しそうに語った。
恋をするというのは楽しいことなのか?
小夜はふと比べた。
亜門は必要だが、家のお手伝いの橘基《たちばな もとい》だって家族の一人で必要だ。
亜門といて楽しかったりするが、昨日の慶介とのメールで見知らぬ自分が少しずつわかり、ドキドキもしたり楽しかった。
でも亜門との"ドキドキ"や"楽しい"とはまた違う気もする。
果たして恋とは?
("前の自分"はどんな感じで恋して、慶介くんと付き合ってたのかな…)
自分で聞いといて奈未への返事も曖昧にしながら、二人は教室に戻った。
教室では亜門と晋と、あと珍しく栄吉も加わり、ギャンギャン言い争っていた。
「波古山てめぇ、体育祭休めよ!!このやろう!!」
「あぁ?うっせぇよ。俺は何個ポンポン作りゃあいいんだよ…」
「波古山!!話反らすな!!」
「反らしてねぇよ!てか森川がさっさと言えばいいだろ?」
「黙れ!!」
小夜はその様子を見て、この一ヶ月の変化をしみじみと感じた。
不良からの文句も言っている内容も4月の時から似たようなことを亜門は今も言われている。
しかしあの時の一方的なイジメとはかなり異なる形となっているのがわかる。
4月と違って亜門も我慢せずに思ったことを口にして、幸人もそのやり取りを冷たい目でなく素直に笑っている。
『お前を見てると俺も頑張りたいと思うんだ。下手なりに作ったろ?友達…』
公園で幸人と喧嘩した時の言葉を亜門はちゃんと実現させた。
(私も…頑張る。自分と向き合うって…決めた。私は自分の気持ちをハッキリと自信をもってわかるようになるために…まず"自分の記憶"をハッキリと知ろう!!)
亜門への曖昧な気持ちの前に小夜はやることを見つけた。
(自分がわかってから…亜門に向き合う。)
◇◇◇◇
小夜はそう決断し、さっそく放課後に幸人と喋っていた亜門の所へ行った。
「亜門?」
亜門よりも先に気付いた幸人は亜門の肩を小突いて「じゃあな。」と帰っていった。
小夜を確認した亜門も「じゃあ帰るか。」と促した。
一体いつから一緒に帰ることが暗黙の了解になったのかわからないが、いつしかそれが当たり前となっていたので小夜は言った。
「今日は一人で帰ろうかと思って…」
「あぁ、わかった。なんか用事?」
「うん。慶介くんに会いに世華學園に行こうと思って…」
「…はあ?」
亜門は一瞬、顔を険しくさせた。
そして亜門は少し間を空けてから口を開いた。
「…何?それは俺がいない方がいいわけ?」
「え?いや…そういうわけじゃないけど、ただ…」
「…あ?」
「一人でも頑張ってみようかな…って?」
「…元カレだから久々にデート気分味わってみたいって?」
「な!?違う!!私も前に進みたいって思っただけで、」
「別に俺がいたって一緒だろ?…デートの邪魔ってんなら帰るけど?」
「だから違うって!!それに亜門が邪魔なんて言ってない!!」
「じゃあいいだろ。行くぞ。」
今日の亜門はいつもより不機嫌でどこか冷たさと違和感を感じた。
波古山亜門《はこやま あもん》の思考はぐるぐる回った。
今、小夜は自分のことを死んだ親友の斗真《とうま》と呼んだ?
亜門は来た道を引き返して、革城小夜《かわしろ さよ》のところまで行った。
しかし近付いてみれば、言った小夜自身もすごく吃驚《びっくり》した顔をしている。
「…私、いま……なんて?」
「…あぁ、うん。そんな顔してる。」
「…」
「…」
しばしの沈黙の中、小夜は深呼吸をして顔を上げた。
「あの、ね!!」
「…うん。」
「今日、硲くんから昔の亜門達の写真見せてもらったの!!」
「…は?」
話が飛んだかに思えたが、小夜がそう切り出した意図はすぐにわかった。
「でね…その時に"斗真"って人の顔も見た。」
「…。」
「でね、それで、沢田くんは、」
「…待て。なんで沢田がそこに出てくる?」
「え?その、だって、慶介くんも、」
「…おい?」
「ファミレスで…あれ?あの…斗真はッッ」
「待て待て待て待て!!…落ち着け。」
「う、…その………うん。」
小夜は深呼吸したのに、いつの間にか息が荒くなっていた。
「…お前自身も混乱してんのはよくはわかったから、落ち着け…」
「…うん。」
「今日は…その、俺も色々整理させたいから…今日は帰って休めよ。」
「…でもッッ」
「ちゃんと聞く。」
「…え?」
「落ち着いたなら、話をちゃんと聞く。お前の考えも、記憶も、………斗真のことも。」
「…うん。」
亜門はやけに真剣な顔で言った。
「俺も…小夜に聞きたいこと、あるから…」
「え?…聞きたいこと?」
「おぉ。」
小夜は視線が泳いだ。
一体、何を聞かれるのだろうかと言い表せない不安が再び襲う。
亜門はそんな小夜の様子をすぐに察知した。
小夜の頭に手を乗せた。
「大丈夫だ。小夜…」
『小夜!!大丈夫だ!!!』
亜門の言葉はまた、誰かの言葉とダブる。
ずっと聞こえていた小夜を呼ぶ声。
今ならわかる。
それは…きっと鬼原斗真《きはら とうま》の声だったのだ。
亜門は手を離した。
「小夜、また明日。」
でも今はそんな面影や残像よりも亜門が必要で安心だ。
「うん、また明日!」
小夜も自分が思うより明るく返事をすることが出来た。
家路へ歩き出した亜門の背中を小夜はしばらく見ていた。
シャープでスラッとした背中。
トクントクンと弾む気持ちのまま、小夜も家に帰った。
明るくスッキリした小夜と違い、亜門は未だ混乱を引きずっていた。
(なんで小夜の口から斗真の名前が?…でも確かに小夜の前で斗真の名前を出したことある。けど…)
亜門は立ち止まって、さっきの出来事を思い出していた。
『待って!!!斗真ぁ!!!』
(あれは前から斗真をそう呼んでいたような…感じだった…)
亜門は手の甲を額に当てて、また歩き出した。
(まぁ、ひとまず俺は落ち着け。俺が落ち着かなかったら、当の本人の小夜が不安がるのは当たり前だ…だけど斗真と聞いて…つい取り乱した。)
亜門は手に拳を作り力んで、足も知らず知らずに早足となっていた。
(それに小夜は今、自分の事故や橘のことや、少しずつ思い出してきて…記憶の方もアンバランスな感じだ。加えて、明神って奴も現れて…)
亜門はまた立ち止まった。
そう、小夜には明神慶介《みょうじん けいすけ》という元カレがいた。
その事実には亜門もひどく驚いた。
(考えてみりゃ、中坊でお付き合いなんて今時珍しくもないし…小夜も可愛くないこともないし…悪い奴でも…ない。)
先ほどの慶介の爽やかな笑顔を思い出した。
亜門は目の前の自動販売機を蹴った。
(…くそ。なんかすげーイライラする。)
蹴った足の痺れが余計に苛立ちを増幅させ、やり場のない謎の苛立ちを舌打ちに変えて、亜門は家へと帰った。
◇◇◇◇
次の日から、中間テストが終わった学校はすっかり体育祭のムードとなっていた。
「でね、慶介くん曰く、私と付き合ってたのも今は楽しい思い出だって言ってた。」
「…へー。」
「で、大和撫子って周りには言われてたけど慶介くんからしたら少しドジなところもあったんだって!!私。」
「…へー。」
「…聞いてる?」
「…へー。」
「…」
昼休み。
体育祭の応援に使うポンポンを作るため、ビニールテープを裂きながら小夜は昨日の慶介とメッセージのやり取りを亜門に話していた。
亜門はひたすらテープを割いて、小夜の方を見ようとしなかった。
小夜は亜門の手にある作りかけのポンポンを取り上げた。
「ちゃんと聞いてくれるんじゃなかったの?」
強めに見てくる小夜を亜門は流し目で確認した。
確かに聞くと言ったが、それは斗真のことやら、小夜が混乱しているひとつひとつであって、当時のノロケを聞きたいわけではない。
亜門は冷たく言った。
「…別に良くないか?そんな話。」
「はい?」
小夜は眉間にシワを寄せたが、亜門はその表情を知らないふりで小夜の手からポンポンを取り返した。
完成は間近だ。
そこにまだ細かくされていないポンポンを数個持って、町田奈未《まちだ なみ》がやってきた。
「波古山くん!!終わったらこれもお願いしていい!?」
「…いいけど、多くない?」
「大変だったらそこらの不良達にも言ってあげて?『協力しろ』って。」
奈未はチラッと教室の端にいる沢田幸人《さわだ ゆきと》、上村晋《うえむら しん》、森川栄吉《もりかわ えいきち》を見た。
「俺が言うより町田さんが頼んだ方がいいと思うよ?」
「えー、だってなんか文句言われると思うと…怖いし…。」
そう言いながら奈未はさりげなく亜門の隣の席に座った。
亜門は奈未から未完成のポンポンを取って、スッと立ち上がった。
そして幸人達のところへ行ってしまった。
残された奈未と小夜は目が合った。
奈未は机に肘をついて、溜め息混じりに言った。
「…ねぇ?」
「は…はい!!」
思えば小夜は奈未と二人きりで話すのが初めてなのだ。
奈未は小夜を一瞥《いちべつ》した。
「革城さんって本当に波古山くんとは何もないんだよね?」
「…はい。…友達です。」
「じゃあ、なんで私避けられてるんだろ?」
「…はい?」
「避けられてるよね?どう見ても!!革城さん、なんか聞いてない?」
「いや…特には…」
「…それとも波古山くん、他に好きな人とかいんのかな?」
「えぇ!?亜門が!?」
「聞いてない?もしくはそれっぽいアクションとかなかった?」
「全然!!気付かなかった!!」
「そっかー…。なんだろー…私じゃダメなんかなぁ…?」
奈未から一喜一憂に表情豊かで気さくな印象を受けた小夜はなんだか奈未が可愛く見えた。
(これが恋する女の子なのかな?)
机にうつ伏せていた奈未はガバリと起き上がり、小夜に向いた。
「革城さんは、波古山くんとクラスで一番仲良いよね?」
「え…いや、どうだろ…」
奈未は小夜の返事に構わず、両手を取った。
「協力とか出来ない?」
「えぇ!?協力!!??」
「…ダメ?」
そういって上目遣いでお願いする仕草は女の小夜でも可愛いと思うものがあった。
しかし小夜は返事に困って黙ってしまった。
その沈黙に奈未は手を離した。
「やっぱダメか…」
「いや、ダメってわけじゃ…」
「だって革城さん、波古山くんのこと好きなんでしょ?」
「!?」
小夜は目を大きく開いてはパチパチと瞬きをした。
「私が…亜門を?」
「いいって!!そんな隠さなくても。ちょっと前まですごい噂だったし…」
「…あの…」
「…何よ?」
小夜は奈未の耳元でコソッと小声で聞いた。
「好きって一体どういうのを言うんですか?」
「…はあ?」
奈未の大声で一瞬、クラスの注目の的になった。
それに少し気を利かせた奈未は小夜を廊下に連れ出した。
「どゆこと!?」
「だから…友達の好きと恋の好きの違いって何ですか?」
呆れたように奈未は「あのねー…」と言った。
「そんなもん自分が好きかもーって思ったら恋だし、自分が友達って思ったら友達でしょ?」
「そ…そっか。」
「…で、革城さんはどっちなの?好き?嫌い?」
「え…っと、と…友達です。」
「へー…まっ、無自覚ってのもいるけどね…最近。」
「無自覚?」
「自分でも知らない間に恋しちゃったってやつ。自分のことなら自分でわかってろっつーの!!」
「無自覚だった場合ってどうやって気付くの?」
小夜は普通に疑問に思った。
それに同い年の女の子と恋バナはなんだか新鮮に感じた。
「そうねー…周りに言われて初めて気付くとか?」
「あー、なるほど!!」
「あと他の人と比べるとか?」
「何を?」
「え~?他の人よりも必要!!とかー、他の人よりも一緒にいてドキドキするとか?」
「なるほどぉ!!」
「……ねぇ?さっきからそんなに気になんのなら、やっぱ波古山くんのこと好きなんじゃなくて…?」
「…町田さんは亜門のどこがいいの?」
「町田さんとか固い。奈未でいいよ!!」
色っぽくなったりキツかったり柔らかに笑ったりと、奈未は可愛い人だと小夜は思った。
そして遠慮がちに「奈未…ちゃん。」と呼んだ。
「うん!!私もまさか"ドモ"を気になるなんて思わなかったけど…ギャップ?意外に普通だし、抱き締めてくれた腕が実は逞しかったり!?」
両手で自分の顔を包んで、奈未は楽しそうに語った。
恋をするというのは楽しいことなのか?
小夜はふと比べた。
亜門は必要だが、家のお手伝いの橘基《たちばな もとい》だって家族の一人で必要だ。
亜門といて楽しかったりするが、昨日の慶介とのメールで見知らぬ自分が少しずつわかり、ドキドキもしたり楽しかった。
でも亜門との"ドキドキ"や"楽しい"とはまた違う気もする。
果たして恋とは?
("前の自分"はどんな感じで恋して、慶介くんと付き合ってたのかな…)
自分で聞いといて奈未への返事も曖昧にしながら、二人は教室に戻った。
教室では亜門と晋と、あと珍しく栄吉も加わり、ギャンギャン言い争っていた。
「波古山てめぇ、体育祭休めよ!!このやろう!!」
「あぁ?うっせぇよ。俺は何個ポンポン作りゃあいいんだよ…」
「波古山!!話反らすな!!」
「反らしてねぇよ!てか森川がさっさと言えばいいだろ?」
「黙れ!!」
小夜はその様子を見て、この一ヶ月の変化をしみじみと感じた。
不良からの文句も言っている内容も4月の時から似たようなことを亜門は今も言われている。
しかしあの時の一方的なイジメとはかなり異なる形となっているのがわかる。
4月と違って亜門も我慢せずに思ったことを口にして、幸人もそのやり取りを冷たい目でなく素直に笑っている。
『お前を見てると俺も頑張りたいと思うんだ。下手なりに作ったろ?友達…』
公園で幸人と喧嘩した時の言葉を亜門はちゃんと実現させた。
(私も…頑張る。自分と向き合うって…決めた。私は自分の気持ちをハッキリと自信をもってわかるようになるために…まず"自分の記憶"をハッキリと知ろう!!)
亜門への曖昧な気持ちの前に小夜はやることを見つけた。
(自分がわかってから…亜門に向き合う。)
◇◇◇◇
小夜はそう決断し、さっそく放課後に幸人と喋っていた亜門の所へ行った。
「亜門?」
亜門よりも先に気付いた幸人は亜門の肩を小突いて「じゃあな。」と帰っていった。
小夜を確認した亜門も「じゃあ帰るか。」と促した。
一体いつから一緒に帰ることが暗黙の了解になったのかわからないが、いつしかそれが当たり前となっていたので小夜は言った。
「今日は一人で帰ろうかと思って…」
「あぁ、わかった。なんか用事?」
「うん。慶介くんに会いに世華學園に行こうと思って…」
「…はあ?」
亜門は一瞬、顔を険しくさせた。
そして亜門は少し間を空けてから口を開いた。
「…何?それは俺がいない方がいいわけ?」
「え?いや…そういうわけじゃないけど、ただ…」
「…あ?」
「一人でも頑張ってみようかな…って?」
「…元カレだから久々にデート気分味わってみたいって?」
「な!?違う!!私も前に進みたいって思っただけで、」
「別に俺がいたって一緒だろ?…デートの邪魔ってんなら帰るけど?」
「だから違うって!!それに亜門が邪魔なんて言ってない!!」
「じゃあいいだろ。行くぞ。」
今日の亜門はいつもより不機嫌でどこか冷たさと違和感を感じた。
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