わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE23 苛立ち 前編

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時を少しだけ、さかのぼる。

…ー

奈未に未完成のポンポンをたくさん渡されたので、亜門はそれらを抱えて幸人達の所へ行った。


「なぁ、ポンポン作り手伝えよ。」


「げぇ?」と一番嫌な顔をしたのは晋だった。


「悪いけど、そういうのめんどくさいから俺はパス!!だりぃ。」


雑誌から目を離さない栄吉もそう言った。


「そんなん俺だけに押し付けんなって、ほら。」


亜門は無理矢理、晋に渡した。

そして亜門が抱えるポンポンを1つ、幸人が取った。


「てか波古山に体育祭って似合わねぇな。」

「沢田ってマジで口が減らねぇな。俺だってそりゃあ似合わないのわかってるし、めんどくせぇけど…ま、これも青春のうちというか、経験のうちのつもりで…」

「アンタって"友達"とか"青春"がお気に入りの言葉みたいだけど…テストが苦手、体育祭の準備もめんどくさいって言って、アンタ…"青春"は向いてないんじゃない?」

「な!?」


意外にショックを受けた亜門を見て、幸人はケタケタ笑った。

ビニールテープの塊を細かく裂き始めた幸人と違い、晋は亜門にポンポンを返しながら言った。


「つーか、自分で"青春"っつってる時点で"青春"じゃなくねぇ?」


まさか晋から追い討ちをかけられるとは思ってなかった亜門は更なるショックに絶句した。

幸人は更に笑った。


「まぁ、『喧嘩上等・最狂最悪のハコヤマデーモン』がこんなチマチマした作業してるなんざ、青春より貴重なんじゃね?」

「はは!!確かに!!シン、ユキ、写真撮ってネットにバラまくか?」


栄吉の悪ふざけに亜門はちょっと睨んだ。


「マジでやめろ。それで俺を狙ってくる奴が復活したらどうしてくれんだよ!!せっかく途絶えたのに…」

「ここらへんの不良校でいうと黒高が有名かな?」


幸人はそんなことを呟きながら「ポンポンなんて小学生ぶりだな。」なんてことも言った。

その時、教室に大声が響いた。


「…はあ?」


奈未が小夜に向かってそう言っていた。


何事かと思ったが、奈未はすぐに小夜を連れて廊下に出ていってしまった。


晋もその光景を不思議に感じたらしい。


「奈未ちゃんと革城って仲良かったっけ?」

「…さぁ。」


しかし奈未も別に小夜に何か危害を加えることはしないだろうと思ったので、亜門は晋にしつこくポンポンを手渡した。


「おら、このポンポンはそんな"奈未ちゃん"からのお願いだぞ?おめぇらもやれよ。」


栄吉はやっと雑誌を閉じた。


「なぁ?前から思ってたんだが、波古山はアイツをどう思ってんだ?」

「…は?」

「町田だよ。町田がなんで波古山の周りをウロチョロしてんのかなんて、だいたい察しがつくだろ?」

「…」


亜門は最近、似たようなことを聞かれる状況に半ば諦めてきた。


「…で、アンタは町田が好きなのか?革城が好きなのか…」


心底めんどくさいと感じて亜門は眉を顰《ひそ》めたが、やけに真剣に聞いてくる栄吉を見て、ピンときた。


「…森川、町田さんのことが好きなのか?」

「………………は!!???ーッッば!!!バカじゃねぇの!?てか俺の質問答えろよ!!!」


慌てふためいて体を仰《の》け反《ぞ》る栄吉の態度が答えのようなもんだった。


「バカヤローハコ!!モリはこう見えて純情な硬派なんだから、んなデリカシーもない聞き方すんな!!」


晋の言うことに栄吉はますます顔を紅潮させた。


「な…な…シン、おま…」


取り乱す栄吉も珍しい。

そして栄吉の気持ちに気付いていた晋も亜門には意外だった。


「上村は前から知ってたのか…」

「シンはバカだけど、頭悪くねえんだよ。」


幸人は夢中で裂いているポンポンから目を離さず、軽くそう言った。


「でも上村も町田さんがお気に入りなんだろ?いいのか?上村的には…」


亜門は何度も返されるポンポンを晋に渡し続ける。


「町田さんはそういうんじゃなくて、あくまで俺の心の癒しなの!!」


晋は頑としてポンポンを作ろうとしない。


「ポンポンやれっての!!てか"ただの心の癒し"なら、俺ん時もギャーギャー言うなよ。」

「ああ!?『俺ん時も』だあ!!??それはモテ男の自慢ですか!!??奈未ちゃんから好かれてる余裕ですか?波古山てめぇ、体育祭休めよ!!このやろう!!」


晋は亜門にポンポンを投げつけた。

亜門もいい加減、何度も返されることに苛立ち始めた。


「あぁ?うっせぇよ。俺は何個ポンポン作りゃあいいんだよ…」


顔を赤くしたまま、栄吉も気持ちが復活したらしい。


「波古山!!話反らすな!!」

「反らしてねぇよ!てか森川がさっさと(町田さんに好きだって)言えばいいだろ?」

「黙れ!!」


小夜達が教室に帰ってきたことにも気付かずに言い合いは続いた。


しかし言い合いの中で、ある種の疑問を抱いた。

それを聞くためにHRが終わって亜門は幸人のところへ行った。


質問に答えてもらうのに、一番適した人物と思ったからだ。


「お前らって、なんでこの高校を選んだんだ?」

「は…?何が?」

「お前ら三人は俺と違って、別に喧嘩やめたいわけでもねぇし…少なくとも沢田はちょっと有名な奴だったんだろ?不良高の黒高とか行く気なかったのか?」


幸人は鼻で笑うように目を細めた。


「はっ!何を突然…別に俺らがどこ行こうとどうでもいいだろ?」

「…まぁそうなんだけど、今日の昼休みでやっぱお前ら血の気多いなって思ったから。森川だって喧嘩っ早いみたいだし、上村とか無理してこの学校よりも黒高のが成績も合うだろうし。」

「…なんてこたぁねーよ。俺がココに受験するっつったら、二人がそれに合わせてくれただけだ。」

「なんで普通の公立に…」

「別に。家から近い。それだけ」

「……」

「そこらの奴らに喧嘩で負ける気はしねぇけど、喧嘩に命掛けてるわけでもねぇ。不良高でも悪かねぇけど…意味もなく雑魚に喧嘩を毎回吹っ掛けられんのはダリぃ。」

「…変だろ?」

「は?」

「なのになんで沢田は俺に喧嘩を挑んだんだ?ダリぃんだろ?俺に勝てば最強になれるとかほざいてたけど、別に強くなることに命掛けてもねぇんだろ?…矛盾してる。」

「…ふーん。」


幸人は一層、片方の口角を上げてニヤッと笑った。


「アンタってほんと、意外に鋭いよね?」

「…言い方がなんかムカつくな。」

「ただ俺は嘘は言ってねぇぜ?強くありたいとは思ってるし、ダルいもんはダルい。意味がなければな…」

「…俺との喧嘩は意味があったてのか?」

「俺にとっちゃな。」


言葉の意味を探るように亜門は黙って眉間に皺を寄せた。

幸人は机の上に座った。


「なぁ、ぶっちゃけ"ハコヤマデーモン"と"鬼のトーマ"はどっちが強かったんだ?」

「…は?」


突然の切り返しに亜門は止まった。


「なんでいきなり斗真?どっちが強いのか関係あんのか?」


そこまで言って、亜門は自分で気付いた。


幸人と喧嘩になる前に尚太が言っていた言葉を思い出したのだ。






ーーーー『え~っとですね…なんか斗真さんの顔知ってたみたいです!』

ーーーー『なんで俺の顔は知らねーで、斗真の顔は知ってんだ?』





「沢田お前…斗真と会ったことあんのか?」


そう考えるのが自然だった。


「やっぱり鋭いな。」


事の状況に亜門はますます眉間の皺が寄る。


「え…一体いつ?」

「…」

「…なんかあんのか?」

「いや、別に隠すことじゃねぇよ。俺が世華にいた時、やたら鬼原斗真が世華中學を彷徨いてた時があったんだよ。そん時だ。」

「…は?」


亜門は驚いてそれ以上言えなかった。


斗真が世華に行ったことがあるなんて聞いたことがない。

亜門が戸惑っていたら、後ろから小夜の声がした。


「亜門?」


亜門が動くよりも先に幸人が亜門に耳打ちで小声で言った。


「話の続きは今度。俺も聞きたいことあるしな。」


肩を小突いて「じゃあな。」と幸人は帰った。


亜門だって聞きたいことがたくさんあったが、明日にでもまた聞こうと自分を落ち着かせた。

一息吸って小夜の方に向き直った。


「じゃあ帰るか。」

「今日は一人で帰ろうかと思って…」

「あぁ、わかった。なんか用事?」

「うん。慶介くんに会いに世華學園に行こうと思って…」


(…慶介?)


その名前に反応した。

幸人と斗真の繋がりの驚きをせっかく切り替えたのに、亜門は再び落ち着かない気持ちになった。


「…何?それは俺がいない方がいいわけ?」

「え?いや…そういうわけじゃないけど、ただ…」

「…あ?」


亜門の中がザワザワする。

体が痒いようなダルいような…

だが力が溢れそうなくらい有り余ってるのがわかる。


「一人でも頑張ってみようかな…って?」


一人で頑張る。

記憶が戻りかけている小夜には良い傾向である。

しかしそうなれたキッカケは一体なんだと亜門は考える。

キッカケは明らかだ。


(数ヵ月も俺と一緒にいてもグダグダだったのに…明神の登場でたった二回しか会ってねぇのに小夜が前向きになっていく…)


亜門の中は更にザワザワと広がった。


「…元カレだから久々にデート気分味わってみたいって?」

「な!?違う!!私も前に進みたいって思っただけで、」

「別に俺がいたって一緒だろ?…デートの邪魔ってんなら帰るけど?」

「だから違うって!!それに亜門が邪魔なんて言ってない!!」


小夜が戸惑っているのは当たり前だ。

見当外れを言っているのもいいところだと分かっている。


「じゃあいいだろ。行くぞ。」


でも亜門の口はそうとしか言えなかった。



なんでこんなにも冷静さを欠いたのかは考えたくもなかった。


世華學園に行く前に亜門は自分のビルに寄らせてもらった。

私服に着替えて伊達眼鏡と帽子を装着して出てきた。


そして改めて駅を目指した。


「…で、何時までに行きゃあいいんだ?」

「え?」

「明神と。」

「何時とかないよ?」

「…約束してねぇの?」

「うん!!さっき思い付いたから!!」

「…向こうに用事あったら無駄足じゃねぇか。」

「う~ん。そん時はそん時で!!もしかして世華の誰かの顔見るだけでも、また何か思い出すかもだし!!」

「…でも今から行くことは連絡しろ。」

「ん!!」


さっそくスマホで連絡を打つ小夜を見下ろして歩を進める。

慶介と連絡してる小夜を見たら、また亜門の中がざわついた。


連絡を終えた小夜は亜門の全身を見た。


「…あと気になってたんだけど、なんで変装してるの?」

「あ?」


亜門の物言いに小夜は一瞬ムッとした顔をしたが、負けじと言った。


「最初は学校の人達に見られても大丈夫なようにそうしてたけど、今はクラス皆は私達が一緒にいるの知ってんだから別に良くない?わざわざ着替えなくても。」

「……そうだな。気付かなかった。」


亜門は生返事をした。


「亜門、なんか怒ってるの?」


小夜は眼鏡越しの亜門の目を見た。


(相変わらず、聞き方がストレートだな…)


亜門は少し小夜を見てはまた前を向く。


「…怒ってねぇよ。」


亜門だって自分が怒っているのかはよくわかっていない。


しかし小夜に黙っていることがあるのはわかっている。

何故わざわざ着替えた理由を言っていないということを。
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