わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE24 パニックの結果

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出端でばなをくじかれたとはこのことだ。


亜門と変な別れ方をしたあと、小夜は自分の部屋に直行して、ベッドにうずくまった。


やる気を出して自分を探る覚悟を決めたのに、亜門はなんだか協力的な感じではなかった。

そして慶介への連絡も世華に着くのも遅かったせいでタイミングが合わず、何の収穫もなく帰る形になった。


小夜は先ほどのことを思い出しては寝返りを打ち、溜め息をつく。



『だから言ったろ?無駄足になるって…』



亜門の言う通りの空振り。

小夜は普通にヘコんだ。

そこで再会したGWの彼。



『波古山右京。俺の弟だ。』



思えばはじめて会った時から右京にどこか亜門の面影を感じていた。


(私は本当に…亜門のことを何も知らないんだな…)


記憶があるということはその生きてきた軌跡がその分厚くて重いということ。


(その点、私は軽くて薄っぺらだ。)


小夜は天井に仰向けになり、意味もなく電気に手をかざした。


皮膚からわずかに光が漏れる。


斗真の死。

不良をやめた過去。


それで亜門の全てを知ったつもりでいた…という自分に気付かされて恥ずかしい。


自分の新たな過去を知ることに気がいきすぎて、亜門の過去を受け止める覚悟が、不意打ちだったとはいえ出来てなかったのだ。

考えもしなかった。


亜門に何があったかわからないのに、すでに自分がぶれない自信がない。


(それに亜門は"家出した"って言ってた。それだけでただ事じゃないってわかる。)


支え支えられる友達。


小夜と亜門は今、そんな関係で成り立ってないということもわかった。

一方的に甘えている小夜は亜門にとって子供なのは当たり前なのだ。


支えられない自分が傷付く前に聞くことを拒否し、それでも小夜を慰めようとした亜門の暖かさに腹を立て…


足早に帰った。


(薄っぺらなだけじゃなくて、小さいんだな…私。)


両手で目を覆い、盛大な溜め息をもう一度吐く。


ずっと悩んでいたら枕元に置いてあったスマホが震えた。


小夜は体が重く、ゆっくりと手を伸ばした。



―――
慶介くん

返事遅くなってごめん!!
今部活が終わったとこ!!
気付かなくてごめんね。
もう帰っちゃった?
―――


小夜が家に着いてから一時間遅れで慶介からメールが届いた。


やっぱりあそこで待つより先に帰っていて正解だったと、ちょっとしたことにもホッとした。


頭も良くて、先輩後輩に慕われて、大和撫子と周りに言われていた自分。

きっと今よりももっと大人で、自分はもちろん人のことまでも気を回せる人だったんだろうと再び落ち込む。


スマホ画面を仰向けのままジッと見て、思い立ったようにスマホを打ち電話をかけた。


『は…はい。もしもし?』


少し戸惑った様子で慶介が出た。


「もしもし。部活お疲れ様。今、電話してもいい?」

『大…丈夫…だけど、急にどうしたの?』

「はは、なんとなく!!」

『なにそれ。』


スマホ越しに慶介のクスクスとした笑い声が聞こえてきた。


その雰囲気に気持ちが落ち着いた。


「今日はいきなり無理なメールしてごめんね。」

『いいよ、気にしないで。一体何の用だったの?』

「うん。慶介くんから話が聞きたいと思って。」

『…………何を?』

「色々!!昨日も前の私がどんなだったかって教えてくれたけど、他にもないかなって…」

『うん!!いいけど…小夜は本当…どこまで覚えてないの?』

「んー…言っちゃえば、ほとんど…か、な?」

『えぇ?俺らだけじゃなくて?親も兄弟も?』

「そうなんだよね…あ!!ちなみに私は一人っ子だよ?」

『あー……そうだっけ?』

「…なんかごめん。変なことに巻き込んで…」

『大変なのは小夜だろ?それに俺、そんなふうにも思ってないから!!気にすんなって!!』


(慶介くんって優しいな…口調も優しいからかな。穏やかな気持ちになる。)


別れたとはいえ、慶介と付き合うことにした"前の小夜"の気持ちがわかる気がした。


『覚えてないって言っても何か思い出したこととかもないの?』

「思い出したことも…あんまり…。あ、お手伝いさんの呼び名とか?あとは周りから教えてくれた情報ぐらい?」

『へー、例えば?』

「私が世華中學に通ってた時は成績優秀・容姿端麗の大和撫子だったって…」

『…えぇ!?小夜が?』

「え、あ、え!?わ…私が言ったんじゃないよ!!!!そんな…自分で大和撫子とか思ってないからね!!別にナルシストってわけじゃ…」

『フフフ。わかってるって!!冗談冗談!!意地悪してごめんね。』


終始止まらない慶介の笑いがクスクスとずっと聞こえる。


次第に慶介の笑いに小夜もつられて笑った。


なんだかとても別れた恋人とは思えない穏やかな空気に包まれた。


「私達ってなんで別れたの?」


ふとした疑問を口にするのは小夜の癖である。

しかし大概は大したことない内容だったり相手が亜門だから許されたことであったが、今回は相手が元カレ本人でデリカシーの欠片もないことを聞いてしまった。


慶介の沈黙でそれは確実に間違ったのだと今更気付いて、小夜は焦った。


「ご…ごめん!!!今のなし!!!」


急いで待ったをかけたが、慶介がまた笑った。


『いいよ。言ったろ?今は良い思い出って。』

「でも…」

『俺らは…なんていうの、自然消滅?…っていうとちょっと違うか…』

「え?」

『付き合ってた頃はそれはそれで楽しかったんだけど、意識しすぎてギクシャクしちゃったところもあって。』

「うん。」

『友達のままの方が自然じゃない?ってことになったんだよね。』

「あー…喧嘩とかしたわけじゃないんだ?」

『まぁね…俺もなんつーか、ガキだったんだよ。よくわかってなかったっての?付き合うってのがなんなのか。』

「あぁなるほどね。」

『だからわけわかんないまま別れちゃったって感じだな。』


ますます二人がどんな付き合いだったのか、わからなくなった。

いっそ劇的な展開があれば、"小夜"がどんな人柄だったのか少しでも感じれたのにと小夜は思った。


『だからなんかな?』


少しだけ違うことを考えていたら、慶介の声が続いた。


『ちょっと悔いが残ってるかな…小夜のこと嫌いじゃないのに別れたから。…今も…』

「………え?」

『…なんてね!!』

「…え?…え、…えぇ!!?」

『いや、なんでもないよ!!』


またクスクスと笑っているが、今一瞬さっきから感じた慶介の穏やかさとは少し違う雰囲気がした。


『ねぇ?思い出話が聞きたいならやっぱり会った方が早くない?』

「う…うん。それは私も思う!!」

『うん!だから空いてる日教えて?思い出の場所とかにも行こうよ!!何か思い出すかもしんないし。今週の土日とか空いてる?』

「えっとね……あっ。」

『ん?なんか予定あった?』


小夜は亜門の顔が思い浮かんだ。

自分の過去を知るために出掛ける時はいつも亜門と一緒だった。


(亜門も誘おうか…でも…)


亜門の話が聞けてないのに、亜門に自分のことばっか相談していいのだろうかと気まずく感じて、迷った。


『あ…ごめん!!小夜、今から電車に入るから電話切るね?』

「え?あ…ご、ごめん!!!!変な時にかけて…」

『いいって!!俺がそもそもメールに気付くの遅かったせいだし。』

「いや、それは私こそ…」

『じゃあ、また連絡するね?』

「うん!!」

『あ!!ごめん!!やっぱ最後に…』

「ん?」

『こないだ小夜ん家に行く途中で会った時に、一緒にいた男の人いたじゃん?』

「…亜門のこと?」

『いや、名前は知らないけど多分そう。その人ってさ………小夜と今付き合ってたりするの?』


小夜は咳き込みそうになったのを堪えた。

何故、こうにも亜門との関係を勘違いされやすいのだろうかとむしろ笑いそうになる。


「ち…違うよ!!友達!!」

『そっか…よかった!!』

「…え?」

『じゃあまたね!!』


切れた電話を小夜はしばらく見ていた。


(よかったって……何が?)


小夜は呆然と考えた。


明日、亜門に聞いてみようと思ったが亜門と気まずいままなのを忘れていた。


(えっと…明日どんな感じで亜門に会えばいいの?何もなかったかのように?さっそく亜門の事情を聞く?……聞きたいけど、聞くの怖いー!!!!)


小夜は自分で頭をわしゃわしゃと掻きむしった。

小夜はかつてないパニックを起こしそうだった。

初めて亜門と喧嘩した日だって、なんだかんだ寝れたのに、明日になって亜門になんと言えばいいのか考えて寝れなかった。


初喧嘩は上の空な感じだが、今回の考え事は苦悩という感じだった。


夜になって明日の準備もして電気も消して、後は寝るだけなのに時計の音が耳障りだ。


夜が長い。


朝になって制服を身にまとって、ようやく決めたことがある。


(とりあえず笑顔で亜門に挨拶をしよう!!)


鏡の中の自分にそう意気込んだ。

小夜の相談をするか、亜門の話を聞くか、それは挨拶したあとの亜門のリアクション次第で考えようと思った。

大した考えではないが、それが小夜の精一杯の決断だった。


朝食をしっかり摂って、小夜は学校に向かった。


今までの傾向から考えて、おそらく亜門の方が早い登校である。


(教室に着いたら、まず亜門のところに行って、挨拶!!!)


何度も深呼吸をして歩いた。


上靴を履き替える間も階段を上っている間も小夜は頭の中で何度も『おはよう!!』とイメージトレーニングをした。


改めて最後に一回、深呼吸をした。

そして教室に入っていった。


教室の中で案の定、亜門は先に登校していた。

亜門は席に着いて勉強している。


(よし!!)


小夜は亜門に近づいていった。


あともう少しというところで亜門も小夜に気付いて顔を上げた。


小夜は足を止めた。

亜門と目が合い緊張した。

何より亜門もめんどくさがるような困ったような、いつもの目を細める仕草をした。


その顔を見て小夜は余計に固まった。


お互いの緊張が走る。


周りのざわめきがやけに聞こえる。


(挨拶しなきゃ…挨拶しなきゃ、挨拶しなきゃ!!!)


何度もイメージしたことを思い出す。


『…俺、小夜に言ってないことがある。』


ドキンドキン


『バカにしないで!!!』


ドキンドキン


『亜門のことを知るのは怖いし、疲れた。』


ドキンドキン


声が出ない。


でも挨拶をしなくては。


でも…


小夜は亜門に向かって深々と頭を下げた。


そして何も言わずに自分の席へ行ってしまった。


これを機に二人は一週間、言葉を交わさないことになる。
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