わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE26 離れても

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―――
亜門へ

手紙ありがとう。

斗真のことは私もよく思い出せていません。
でも前に、はざま君から昔の写真を見せてもらったことがあって、その時に斗真の顔を見て何か引っ掛かりを感じました。

私も思い出したいです。


家出というのは喧嘩でもしたのですか?
叔父さんはどんな人でしたか?

私なんかに亜門を支えることは無理かもしれないけど亜門のことは聞きたいです。


最近安藤さん達とも仲良くなってきました。

慶介くんともメールをよくするようになりました。

体育祭のことを言ったら、その日は学校が午前で終わるから午後から遊びに来てくれるそうです。

だから明日(というか亜門が読む頃には今日かな?)体育祭にいるかもしれません。

いい人なので亜門も仲良くなれると思います。


お返事待ってます。
―――


家に帰ったあと、亜門の手紙を読み返してさっそく返事を書いてみた。


いつも返信がすぐ来るメールと違い、新鮮で緊張した。


自分の手紙を何度も読み返しておかしなところがないか確認する。

亜門のことが言えないほど、自分の手紙も小学生の作文レベルだなと感じた。

本当はもっと聞きたい。

本当はもっと書きたい。


もっと綺麗な文や上手にまとめた言い方はないか悩むが、仕方がないので不安のまま封をした。


次の日、いつもより早く登校して亜門の下駄箱を確認した。

まだ亜門が来てないとわかったあと、その上靴にソッと手紙を置いた。


(…ちゃんと読んだかな?)


そのまま亜門の顔も見れないまま、体育祭は始まってしまった。

チームのテントでそわそわしてたら「小夜ちゃん。」と声をかけられた。


「安藤さん。」

「波古山くんとは仲直り出来た?」

「…やっぱり昨日のアレ、安藤さんの企みだったんだ?」

「……うん、ごめんね。余計なことだった?」

「……うぅん。ありがとう。」


グラウンドの中央では100m走のスタート合図のピストルが鳴る。

それに合わせて声援も大きくなる。


「でも波古山くんっておもしろいね?」

「え?」

「始めのイメージはずっと下向いてだんまりな感じだし…髪切ってからも沢田くん達といたし、目付きとかも鋭くて……もっと怖い人かと思ってた。」

「…わかる気がする。」

「昨日もちょっと怖かったけど…波古山くんが書いた手紙を私から渡すよって言ったら、波古山くん…ものすごい悩んで『やっぱ自分で渡す!!』って。ふふふ…悪いけど笑っちゃった…。あの熊さん。」

「はは!!確かにアレはないよね!!あの熊さん!!」


二人で昨日の亜門を思い出して笑った。


勝手に借りてきたその熊さんはちゃんと返したらしく、今日は誰だかわからないチームメイトが被って、100m走を応援中である。


「それで波古山くんは?一緒にいないの?」

「え…うん。亜門は次の200m走に出るから…。」

「そっか!!」

「……てか、昨日あんなにも気を利かせてもらったのに申し訳ないんだけど…まだまともに話してないんだ…。」

「え…あれ?」

「えへへへ…」

「…もしかして、私が下手なことしたから余計にこじれちゃった?」

「え…うぅん!!全然!!そんなんじゃない!!ただまだ戻ってないってだけで…手紙の返事はしたけど…」

「そっ…か。うん!!ちょっとずつ仲直り出来たらいいね?」

「…安藤さん。一応言っとくけど私ら別に喧嘩してたわけじゃないんだよ?」

「小夜ちゃん…」


仁美は小さな拳を小夜の頬にコツッと当てた。


「"安藤さん"はそろそろ淋しいな?」


仁美のその優しい笑顔に小夜は少し照れながら「ひぃちゃん…」と呼んでみた。


「あ!!小夜ちゃん、100m終わったみたいだよ!!」

「ホントだ。100m出てた今井さん達も帰ってくるんじゃない?」

「まぁそれもあるけど…」

「…ん?」

「次の200m走…波古山くんの応援しなきゃね?」

「……うん。」


小夜は眉を下げてハニカんだ。


仁美と一緒に人だかりのテントから離れて、見えやすいところに移動した。


「いちについて、よーい…」


小夜は亜門の無気力なその走りを見て、すごくすごく声が聞きたくなった。


◇◇◇◇


亜門って走るの遅いんだね?

もっとやる気出せよ!!

手紙呼んだ?

おはよう!!


(あくまで普通を装って…"気軽に""それとなく""何気なく"…声をかける!!)


お昼休憩を挟む前に小夜はそう心に決めて、何度も深呼吸をするが、やっぱり遠目にしか亜門を見ることが出来ない。


自分の意気地無し具合にほとほと呆れる。


(何日ぐらい亜門と喋ってないだろ…昨日のアレは熊の被り物してたし、ほぼ喋ったうちに入んないし。なんなら会ったうちに入るのかも微妙…)


幸人達と一緒にいるその背中を見るだけ見て、小夜は瑞希、仁美、結子とお昼を食べに教室へ戻ろうとした。

しかし呼び止められた。


「小夜。」


驚いて振り返ってみれば、私服姿の慶介だった。


「あ…慶介くん…か。」


今日は慶介が来ることをそういえばと思い出したものの、一瞬だけ亜門かと思って、どこかガッカリした。


「慶介くん、早かったね?」

「うん、一旦家に帰ってから来たんだけどね。」


慶介と話していたら、その後ろで瑞希達が戸惑った様子を見せた。

それに気付いた小夜は「ごめん、先に行ってて。」と一言告げた。


その様子を見ていた慶介は小夜の顔を覗きこんだ。



「えっと…よかったの?先に行ってもらって…俺タイミング悪かった?」

「うぅん!!大丈夫!!それにせっかく来てくれたし。」

「そっか。あ...小夜のチームは勝ってるの?」

「微妙。4位…。そういや慶介くんはお昼食べた?」

「んー?まだだけど。」

「じゃ今から食堂に行こ?私もまだだし!!」


小夜は慶介に向かって笑顔で誘った。

体育祭の食堂はやはりいつも以上に混んでいたが、弁当も何も持ち合わせていない慶介がいるので人混みに揉まれながら注文して、なんとか席を確保した。


「なんか…ごめん。こんな混んでる食堂に付き合わせて…」


小夜は席に着いて、軽く息切れをしながら慶介に謝った。


慶介はニコニコしながら、うどんを前にして割り箸を割った。


「いいよ!!公立の食堂ってなんか新鮮だし。」


慶介は決して金持ち故の世間知らずという感じではないが、その穏やかさから育ちの良さは確かに感じられる。

小夜もお弁当を広げた。


「小夜はこのあと何か出るの?」

「んー?綱引き?」

「だけ?」

「うん。だってもう他に出るやつ午前中に終わったよ。」

「はは、そっか。」


慶介は「いただきます!!」と言って、うどんを啜り始めた。


「…ねぇ?なんで今日来ようと思ったの?授業ないとはいえ…」

「ん?なんでって…」

「私も残り出る競技それぐらいだし…あんまり知り合いがいない体育祭なんてつまらないんじゃない?」


小夜は箸を口に付け、首を傾げた。

慶介は肘ついた手に顔を乗せ、ジッと小夜を見た。


「まぁ…久々に、小夜に会いたかった…から?」


小夜はポカンとした。

そんな小夜のリアクションに「寒い台詞だったか…」と慶介はクスクス笑った。


「えっと…会いたかった…って…」

「うん?いやだってメールや電話は来るけど、なかなか会う日にち合わないし…」


小夜の過去を聞くために慶介と会う話になっていたが、亜門がいないまま聞くのはどこか気が引けた小夜はずっと何かと理由を付けて断っていたのだ。


「あ…ははは。体育祭が…忙しかったし?」

「うん。だから遊びにきた!!」


爽やかに目を細めた笑顔を向けたあと、慶介はうどんをまた啜った。

どう反応したらいいかわからず小夜も箸を進めた。


「で…でも、一人じゃ退屈じゃない?友達とか誘わなかったの?」

「……誘ってよかったの?小夜は記憶喪失なのに?」

「え?あ?えっと…」

「ね?困るでしょ?」


ニッコリ笑う慶介に小夜は落ち着きがなくなってきた。


(なんでだろ…なんかやっぱ…亜門と違うからかな?それとも…)


亜門というワードで小夜は思い出した。


「ねぇ、そういえば…」

「何?」

「慶介くんの知り合いに波古山くんっていない?えっと…波古山……波古山右京くん!!」


慶介も右京も世華學園に通っているなら、その可能性は大いにあると思えた。

波古山右京。

亜門の弟。


慶介の答えを待ったら案の定、慶介は頷いた。


「うん。同じクラスの奴だよ。」

「へ…へぇー…どんな子?」

「…どんな子?…なんでそんなこと聞くの?なんで波古山?」


眉をひそめて慶介は少し怪訝そうに聞いた。

そんな風に聞かれるとは思ってなかった小夜は焦った。


「えぇ!?……えーっとぉー……風の噂で…興味を持ち?」


俯いて吐いたその言葉は無理がありすぎたかと小夜は自分で苦笑してしまった。


「あぁ…!!波古山の家って有名だしな…。」


しかし意外に受け入れてもらえて小夜は驚きのあまり『有名なの!!??』と言いそうになったが、堪えて「…うん。」と頷いた。


「まぁ知っての通り…波古山の親は有名なT大の教授だけど…波古山自身はそんな偉そうぶってる感じはしないな…」

「へぇー。」

「聞くまで俺もあの"波古山"とは気付かなかったし。」


(T大の教授…か…そんな有名だったんだ。……あれ?)


胸がチクンと痛んだ。


「…小夜?」

「え!?あ…ごめん!!ぼーっとしてて…」

「いや…別にいいけど。あのさ…」

「え?」

「いや…なんでもない。」


慶介はやっぱりニコニコと笑った。


小夜も一緒になってヘラヘラと笑った。


でも胸の奥がズキンズキンと痛んだ。


(なんで…軽はずみに、右京くんのこと聞いちゃったんだろう。亜門の口から…聞きたかったなんて思うのは…今更すぎる。私…バカだ。)


いつもの興味本位なのに小夜は胸に石がつまったような気持ちになった。

ご飯も食べ終えて、午後の部が始まろうとしている。


「綱引きってこのあとすぐ?」


食堂から出て、慶介は伸びをしながらそう聞いた。


「うん。確かそうだよ……あ。」


小夜が声を上げた。

慶介は不思議そうに小夜を見てから、小夜の視線の先を追った。


食堂を出てすぐの植え込みの繁みに蛙がいたのだ。

慶介はそれを見つけて笑った。


「お!!蛙だ。もうすぐ梅雨の季節になるもんな。」


慶介はそう言って、あっさり横切ろうとした。


「ふふふ…」

「ん?なんだ?なんか俺おかしかった?」

「うぅん!!違う。ちょっと思い出しただけ…」


小夜も繁みを横切りながら堪えるが、笑いはこぼれた。


デーモンがビビってしまう蛙。

嫌そうに青ざめる亜門の顔が容易に想像できる。


(亜門と一緒だったら多分こんなあっさりと渡れなかっただろうな…)


近くにいないからこそ、小夜は亜門のことばかりが頭に過った。


しばらくクスクス笑う小夜を慶介はジッと黙って見ていた。
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