わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE31 デメリットデジャヴ

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「もしもし。波古山亜門くん…の電話でよろしいですか?ちょっと君に用があるっていう俺の友達がいるんだよね?場所は……黒岩高校…でいいかな?」


慶介は小夜の方を一瞥してから口角を上げた。


「小夜はこっちで一緒にいるから…それで、……大体の意味はわかるよね?」


通話の向こうで亜門が何を言っているのかはわからないが、慶介のその表情を見て寒気がした。


「じゃあ後でね、ばいばぁい!!」


慶介は電話を切った。

そして小夜に向かってニッコリ笑った。


「…てなわけで、君は人質だからね。よろしく。」


小夜はようやく立ち上がった。


「な…何が"てなわけ"よ!!勝手に人質とか、わけわかんないこと言って…」


慶介から距離を取ろうとした。

しかしすぐに腕を捕まれた。

そしてその時、爆音がビリビリと轟《とどろ》いた。


「おーい、明神!!」

「ハコヤマデーモン来るって本当か!?」

「それがお前が言ってたデーモンの女か?」


数台のバイクに乗ってやってきた男達が公園に入ってきた。

その改造バイクや男達の空気で小夜はなんとなく気付いた。


――――『場所は……黒岩高校…でいいかな?』


きっと彼らが黒岩高校の人達だと。

亜門から聞いた不良で有名だという高校。

何故、彼らと慶介が一緒なのかと疑問に思う。

しかしその前に逃げ出さなくてはと、肌で感じた。

強く掴まれてる腕を振り払おうとするが、なかなか取れない。


「離して!!」

「…………いいよ。」

「…へ?」


そういいながら慶介の手は掴んだまま。

意味がわからず瞬きをする小夜に慶介はグッと顔を近付けた。


「俺と付き合うんだったらね?」


慶介の笑顔に嫌な鳥肌がたった。


「は?何言ってるの?」

「こいつらね…前にハコヤマデーモンにになったことあるんだって。」


小夜と慶介の周りを「早くしろ!!」だの「デーモンどこだよ!!」と、男達はバイクにまたがりながら口々に喚く。


「付き合ってくれんなら、こいつらがハコヤマデーモンを襲うの止めてあげてもいいし、この手離してあげてもいいよ?」

「…あなた、そんなに私のこと好きなの?」


小夜の言葉に慶介は一瞬キョトンとしたが、すぐに口を横いっぱいに広げて笑った。


「うん。好きだよ、とっても。君の名前…」

「……え?名前?」


小夜はその言葉のニュアンスがわからず、目を細めた。

その時、慶介の顔がゆっくり近付いてきた。

周りは口笛、歯笛でヒューヒューとひやかしの音が始まった。


(…ーッッキス…される!?)


慶介の手が小夜の腕を掴んだままで避けられない。

小夜は強く目を瞑った。

足を後ろに踏ん張る。

その時、亜門の顔がよぎった。


「ッッごめん!!!!やっぱり無理!!!!」


小夜は慶介の顔面に向かって頭突きした。


お互いに鈍い音がした。


慶介の手が緩まるのを見逃さず、小夜は目眩がするまま走った。

囲まれるバイクの横をダッシュで避ける。


「おい!!」

「捕まえろ!!」


野太い不良達の声が飛んでくるが、構わず小夜は公園を抜けようと走る。


(人通りが多い駅に戻れば…)


抜けた瞬間、たまたま通りかかった男の人にぶつかってしまった。

慶介に頭突きをしたあとの衝突で小夜の頭の中が一周したように目が回った。

しかしすぐ近くに迫ってくる声で早く逃げなきゃと気が焦る。

男も慌てた様子で謝った。


「ごめんなさい!!人が飛び出てくるとは…………あ。」

「…ッッ!!ーッッ右京くん!!」


ぶつかった男は亜門の弟、右京だった。

でもそんなことは今はどうでもいい。

ともかく、先に駅に向かいたい。


なのに小夜はすぐ走り出そうとしたところを右京に止められた。


「お…おい、あんた…」

「ごめんなさい!!今、とっても急いでて!!」

「で…でもあんた、額から血が…」


おそらく慶介に頭突きをかました時に、慶介の歯が当たったのだろう。

しかし今の小夜にはそこまで考えられずに必死であった。


「大丈夫だから!!」

「いや…一応、傷を…」


その時、右京が消えた。


勢いよく伸びてきた腕が視界に入る。


右京が殴られ、ブッ飛ばされたのだ。


「ーッッ右京くん!!!!」


黒高の不良の一人に小夜は後ろから捕まった。

ガンガンに痛む頭で大声を出して、余計に目眩がする。

気持ちが悪い。

しかし叫ばずにはいられない。


「右京くん!!!!右京くん!!!!」


地面に横たわる右京を数人の不良が囲い「誰だ、こいつ?」と確認をする。


「やめて!!右京くんから離れて!!」


クラクラに意識が遠退きそうになりながら小夜は叫んだ。


そこに顔を押さえながら「痛てて…」と慶介が小夜達のところへ来た。


そして慶介は右京に気付いて、乾いた声で笑った。


「ハハハ、お前も不運だな…兄貴がデーモンなんかやってっから、変なことに巻き込まれんだよ!!」

「ア…ニキ…?明、神…お前…」


勝手に巻き込んだのは亜門ではなく慶介だ。

そう言ってやりたいのに頭がグラグラする。

右京が片目を開けて、重たい体を慶介に向けようとした。

そんな右京を慶介は見下ろす。

しかしすぐになかったかのように振り向いた。


「じゃあ、行くぞ。」


慶介の一言で黒高の人達も動き出した。

必死で抵抗したが、小夜はそこで意識を無くしてしまった。


◇◇◇◇


前にもこんなことがあった気がする。

不良高校生達に拐われたのだ。

でもそれは小夜が拐われた本人ではない。

まるで映画のように第三者からの視点でその事件を思い出す。

小夜は手足を必死に動かして、ひたすら走っている。

どこを走っているのだろう?

走って行き着く先は…


『斗真ぁ!!』


髪を黒に戻した赤鬼の元。

斗真の輪郭が浮かんでくる。


『助けて!!お願い!!――が拐われたの!!――が…』


今…

誰の名前を呼んだ?

華奢な女の子の背中が浮かぶ。

綺麗な長い黒髪で…

でも顔は見えない。


(私は…"誰"を忘れてる?)


『小夜。』


場面が変わる。


"彼女"が泣いている。


『小夜…―――…でも――……』


今、なんて言った?

聞こえない。


セーラー服を着ている自分が叫んだ。


『…そんなの意味がない!!私はそんなの望んでなんかッッ…』


"彼女"の背中が遠退く。

細い繭のような艶やかな髪が広がる。

咄嗟に手を伸ばしても…届かない。


『――三冬ッッ!!!!』



 み ふ ゆ 。


確かに小夜はそう叫んだ。

そして…


『小夜ッッ!!』


斗真の叫び声が聞こえた。

そこで夢は途切れた。

瞳を閉じている瞼の向こう側に光を感じる。

体が軋む。

ゆっくりと目を開けた。

ホコリっぽくて、ひんやりと冷たい。

マットに跳び箱、ボールが入っている籠《かご》を見て、ここが体育館倉庫とわかった。


「あ…起きた?」


小夜は自分が体操のマットの上に横たわっているのだと理解した時、視界に慶介が向かいの跳び箱に座っているのが見えた。


「急に気を失うからビックリした。だから急遽、車も呼んで大変だったよ。時間もないってのに…」


何が可笑しいのか、慶介は終始クスクスと笑う。

体が少し痛いのは、手を後ろに縛られているからだ。


「ここは…?今何時?」

「意外に冷静だね?ここは黒高の倉庫だよ。君が気を失ってたのは30分ぐらい。そんなに長くないよ?でも…」


慶介がマットの縁に腰掛けてきた。

そのまま横になっている小夜を見下ろす。


「もうそろそろデーモンが来てもいい時間だよね?」

「……なんで?なんで亜門なの?亜門をどうする気?」

「どうするかなんて知らないよ。黒高の…アイツらがやりたいようにやるだけなんだから。俺には関係ないよ。」

「何…言って…マジで何考えてるの?慶介くん…おかしいよ?」

「……おかしいのは君の方だろ。そして悪いのはデーモンだ。」

「…」

「だって考えてもごらん?」


小夜に影が落ちる。

いつの間にかゆっくりと慶介が覆い被さっている。


「奴は最狂最悪と謳われたハコヤマデーモンだよ?黒高だけじゃなくてもアイツを良くないと思ってる奴らはゴマンといるに決まってんじゃん。」


ポロポロと言葉が落ちてくるが、慶介がどんな顔をしているのかはわからない。


「まぁでもアイツの強さにもうやりたくないって奴も結構多いみたいで今回集めるのに苦労したけど。」

「…」

「…頭悪いの?君…」

「…何が?」

「デーモンと一緒にいるってことは俺じゃなくても"こういう事"なんて、これから腐るほどあるってことだよ?なんだったら小夜はもっと酷いことされるのかもしれないよ?」


小夜の胸の奥がズキッと痛んだ。

ギクッというのが正しいかもしれない。

亜門が…デーモンであること。

でも…


「亜門はもう不良をやめたんだから…」

「……だから何?そんなの周りは知ったこっちゃないよ。」


横に向いている体を回転させられ、小夜は仰向けとなった。

小夜の上に乗っている逆光の慶介と微かに目が合う。


「わかった?ヤツと付き合うのは良いどころかデメリットしかないんだ。」


小夜はビクッと震えた。

腰をなぞられている。


「どっちと一緒にいるのがいいか、もうわかるだろ?アンタは俺の言うこと聞けばいい。」

「…や」

「今さら昔をなかったことしたって…やり直しなんてきかねぇんだよ…」


やり直しなんて…




うおおおおおぉー!!!!


その時、大人数による雄叫びが外から聞こえた。

その振動のせいか倉庫がカタカタと揺れた気がした。

それを合図に慶介はゆっくりと小夜から体を離れた。


「あぁ…やっと来たのかな?」


よく状況がわからないでいる小夜に慶介は小夜の胸ぐらを掴んで、無理やり起こした。


「こんだけデメリットだって言ってるのにわからないなら、その目で直に見るといいよ。」


脇下に手を通されて、無理やり立たされる。


されるがままの小夜は慶介に背中を押されて光が洩れている扉へと向かった。


慶介が重たげな扉をギギギと音を立てて横に開けた。


階段の下に広がるグラウンドを小夜は見渡した。

黒高の生徒が数十人いる。

そして彼らの目の前に十数人の人が立っていた。


幸人、栄吉、晋…尚太もいる。


(沢田くんはともかく…なんで皆が…?きてくれたの!?)


あと知らない顔も何人か…

そしてその中央には…


「亜門…」


この距離で小夜の呟きが聞こえるわけがないが、亜門は小夜と慶介の方を見た。

黒高の集団の中から一人、声を張った。


「おい!!ハコヤマ!!人数はたったのこんだけか!?」

「…」

「なめられたもんだな。去年勝ったからって調子乗ってんじゃねぇぞ!?前と違ってキハラがいねぇんだぞ?」

「…勝つ?」

「こっちにはテメェの女とやらもいんだからな!!」


亜門はその言葉にピクッと反応する。

黒高の一人がわざとらしく小指を立てる。

周りもニヤニヤ、クスクス笑っている。


「おん…な…?」


しばらくして、それが自分であることに小夜は気付いた。


(う…そ…。まさか私が…亜門の足手まといに…)


ようやく慶介の言葉に自覚をしはじめた。

自分が亜門の重荷になっているのだと。

しかしその時…

亜門も笑った。

音もなく、口元だけゆっくりと。

それだけで辺りは静かになった。

小夜からは亜門の目がよく見えない。

でも背筋が寒くなった。


「俺は別に勝ちに来たんじゃねぇよ…」


悪魔は笑った。


「ムカつくテメェらを黙らせにきた。」


罵声も悲鳴もあげない。

全員が息を飲んだ。

その中、幸人だけが溜め息をついて頭を掻いた。


「先に波古山の逆鱗に触れたんはテメェらだかんな…」


とてもよくない空気が流れているのがわかる。

ザワザワと胸騒ぎがする


「慶介くん…これは、ど…どうなっちゃうの?」

「どうって…よくないことかなぁ、多分」


疑問系で言ってるが慶介はどうなるのかなんてわかっているみたいに笑う。

慶介は小夜の肩を抱いて引き寄せる。


「まぁ黙ってみてたら、その内わかるよ。そして…」


慶介から耳打ちは続く。


「今から起こることを…君がデメリットと感じたのだとしても、いつでも止めることは出来るよ。」 

「…え?」

「君がただ一言、言えばいい…」


低くゆっくりと…しかし決して優しくない囁きが小夜に届く。


「君が…俺の女になると…一言…」


小夜の見開いた瞳に慶介が映る。

黒高生徒が叫んだ。


「ーッッ来いやあぁぁぁぁ――!!!!!!!!!!」

「ぅおおおおー!!!!!!」


雄叫びの中、二つの集団がお互いに向かって走り出した。
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