わんもあ!

駿心

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第2部

TAKE33 お泊まり

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◇◇◇◇

病院には行きたくない。

時間もお金もかかるし、喧嘩したことを誰かに知られるのも面倒だ。

そういう話になったから黒高との喧嘩に参加してくれた男達全員に亜門は自分の家に来いと提案した。


しかしいつもの生活をしている3階ではなく、空きとなっている1階の鍵を開けた。


ガランとした部屋に以前のテナントが残したソファーと机だけがあった。

そこでコンビニで買った消毒液と絆創膏、ガーゼ、テープを広げた。

その時、一番顔にひどい怪我をしている尚太が「あれ?」と声を上げた。


「姐さん、もうデコに貼ってたんすか?」

「え?」

「絆創膏。」


小夜もキョトンとして自分の額を触った。


「ホントだ、貼ってる。気付かなかった。」


亜門は繁々と小夜の額を眺めた。


「怪我?大丈夫か?」

「え?大丈夫大丈夫!!忘れてたくらい今は痛くもなんともないし。」

「…そうか。」


その時、剃りこみをしている坊主が亜門を呼んだ。


「波古山さん!!呼ぼうとして今になって、電話来た奴らどうしますか?呼びますか?何か今後の作戦とか……」

「あー…大丈夫だ。今日はもう何もしねぇ。悪かったな…急に来てもらって…。」


坊主の隣にいた茶髪の髭男が大袈裟に首を振った。


「へ、へ…平気っす!!!!波古山さんの呼び出しならいつでも行くっす!!!!あ…謝らんでください!!!」

「そうか?お前らも今日は帰っていいから…来てくれてありがとな。」

「は…はい!!!!」

「波古山さんに謝ってもらうどころかおおお…お礼を言ってもらえる…なななんて…」

「あー言葉だけで悪い。お礼になんか奢る…」

「「とんでもないっす!!!!」」


亜門よりも厳つく見える二人が亜門にヘコヘコしていて小夜には不思議な風景に思えた。

小夜の隣で尚太がクスクス笑う。


「俺らにとって波古山さんの『謝罪』と『お礼』は珍しくて超怖いからな…」

「硲くん?」

「なんすか?」

「黒高の時から疑問だったんだけど、あの人達は誰?」

「あぁ…同じ中学の仲間だったヤツ!!波古山さんの後輩とか同級生。」

「あれで亜門の年下なのかという疑問はこの際おいといて、なんで黒高に一緒に…?」


ある程度手当を終えた幸人も小夜達の所に来た。


「俺が提案したんだよ。」

「沢田くん。」

「明神からの電話がきたあと、波古山がまぁ……一人で行こうとしてたから。」

「?」

「そんで俺はシンとモリに連絡して、波古山は硲に連絡したんだよ。」


尚太は後ろ頭を掻いた。


「まぁ突然だったんで、こんだけしか集まれませんでしたけど…大体、今頃に返事来るのが多いっす。」


そんな話をしていたら亜門の元仲間達が扉に向かって帰ろうとした。

その様子に尚太も腰を上げた。


「あ…俺も帰ります!!」

「あぁ…尚太。」


亜門は尚太を手招きした。

フラフラと亜門のところまで来た尚太の頭をそのまま腕で引き寄せた。


「こんなに立て続けに頼んで悪りぃんだが…お前に調べてほしいことがある。」


尚太の目が光った。


「……なんでしょう?」

「世華の1年特進科の『明神慶介』について。小さなことでもなんでも…」


尚太は真剣な瞳で口元だけ笑い、頷いた。


「特に急いでるわけじゃねぇけど…わかり次第、連絡くれ。」

「わかりました。」


亜門は尚太を腕から解放した。


「じゃあ…」

「「「おつかれさぁーっした!!」」」


男達は部屋を出ていき、バタンと扉が閉まった。

栄吉が煙草をふかす。


「ハコ、意外に後輩とかとまだ繋がってたんだな。」

「俺じゃなくて尚太が呼んだんだよ。俺は全然後輩の面倒見てなかったし…」

「でも今日だって来てくれたわけじゃん?"デーモン"慕われてるぅ~。」


亜門は無意識に傷を触りながら、溜め息をついた。


「だから俺じゃねぇって…斗真のおかげだよ。アイツは誰とでも仲良かった。後輩が今でも俺に合わせてくれんのは斗真のおこぼれだよ。」


あとはもしかして未だ亜門に対しての恐怖かもしれない。

亜門は傷だらけの自分の掌を見る。

しかしすぐに我に返る。


「やべ…今何時?」


晋がスマホで確認する。


「えーっと…18時半すぎ?」

「あー…微妙だな。小夜、早く帰るぞ。」


突然呼ばれた小夜は「え?」と瞬きをする。

それに対して幸人は察しが早い。


「何?革城ん家って門限でも厳しいの?」


それで小夜もようやく「あ!!」と声を上げた。


「き…厳しいってか、時間が決まってるわけじゃないけど…基に、れ…連絡しなきゃ!!」

「え~?革城帰るの?一緒に遊べばいいのに~。」


ソファーで寝転ぶ晋が呑気に言った。

亜門は目を細めた。


「…こんな状態でこのあと遊ぶのか?お前元気だな…」

「遊ぶってか、ここでタムロう?」

「人ん家に居座る気か!?」

「いーじゃん!!ピザとか頼もうぜ!!なんなら今日はここに泊まる!!」


亜門はそのまま晋のこめかみをグリグリした。


栄吉は携帯灰皿に煙草を入れて、小夜を見た。


「…そうだよ。いいじゃん、泊まれば。明日は日曜なんだし。」


ヤンキー達の身軽な提案に、微妙に感覚がやはり違うんだなと小夜は苦笑いをした。


「と…とりあえず、家に電話するからね?」


小夜は遅くなってしまったのを謝るのと、これから帰ることを伝えるつもりで、自分のスマホから基の番号を出した。

呼び出し音が鳴った瞬間、幸人にスマホを取り上げられた。


「へ?沢田…くん?」

「シン!!パース!!」

「はいよ!!」


幸人が小夜のスマホを投げ、ソファーに座っていた晋はそれを見事にキャッチした。

受け取った晋はすぐさま電話を自分の耳に当てた。


「…………あ!!もしもし~。あたし、小夜ちゃんの友達の上村と言います!!」


晋の裏声は男とは思えないほど可愛らしいものだった。


「今日、実はこれからみんなで急にお泊まり会をしようって盛り上がったんです。明日は日曜ですし……あ!!あたしの家です!!はい!!…それでも、小夜ちゃんところは厳しいってのを聞いたんですけど…どうしてもダメですか?」


晋の完全な女子化に亜門は鳥肌がたってきた。


「う~ん…そうですか…。でも…小夜ちゃんって最初の頃学校いなかったんで、こういう機会で親交深めたいんですよね。…………あ!!もちろんお酒なんて飲みませんって!!当たり前ですよー!!あたし達…未成年ですよ!!」


それから5分ぐらいの説得で向こうが折れたらしい。


「きゃっ!!ホントですか!!嬉しいです!!よかったらあとで小夜ちゃんが楽しんでるところ写メ送ります!!」


晋は電話を口から離し、軽く咳払いをしてから小夜に渡した。


「ほら…向こうが替われって…」

「え…う…うん。」


ほぼ呆気に取られて、ただ見ていた小夜はそこでやっと反応できた。


「えっと…基?」

『小夜お嬢様…くれぐれも気をつけてくださいね?自分の立場を忘れないことと羽目を外さないこと。』

「う…うん。」

『何かありましたらすぐに連絡すること。すぐにでもお迎えにあがります!!』


小夜は時間差でようやく勝手にすごい方向に持っていかれたことに気付いた。


「も…基!!」


電話の向こうからさっきまでのきびきびしたものとは違う穏やかな声が聞こえてきた。


『クラスの方と馴染めてきたみたいで良かったですね。あと、お家の方にはきちんと挨拶とお礼も忘れないでくださいね?では…』


ツー…ツー…ツー…


亜門と小夜はことの一部始終を理解しようと黙って頭を整理させた。


「…」

「…」

「えぇ!?どういうこと!!??」


小夜の叫びに晋はVサインを作ってみせる。


「これでアリバイ工作は完璧よ?あとは革城の好きになさい?さっ、ピザ頼もう!!ピザ!!」


裏声のままケラケラ笑う晋に、亜門は呆れたように溜め息をついた。


「お前ら…そういう知恵と行動力すげぇな…。」


戸惑う小夜に亜門は呼びかけるように言った。


「小夜、こいつらの悪ノリに合わせなくていいからな。」


晋が不満そうに「せっかく説得したのに!!」と言った隣で幸人も亜門に言った。


「まぁ、一緒に飯食うぐらいはいんじゃねぇの?」

「…」

「今日は革城も大変な目に合ったんだからよ?」

「…あぁ、そうだな。」


亜門は少し考えてから背中を向けて、部屋を出ようとした。


「あ…亜門?どこ行くの!?」

「…ポストにデリバリーのチラシ入ってると思うから…取ってくる。」


晋と栄吉の「「ヤッター♪」」という声がしたあと、亜門は外へ出た。

幸人は小夜のそばまで来て、顔を覗きこんだ。


「本当に泊まらないの?」

「いや…急に言われても無理だよ。」

「ふーん…でもさ」

「ん?」

「今夜、亜門一人にしていいのか?」

「え?なんで?」

「だってアイツすげぇ殴られたしさ、」

「うん。」

「革城は喧嘩したことないから知らんだろうけど、打撲で発熱すんだよ。」

「…え?」

「それに波古山、今日貧血で倒れたしなぁ…」

「…」

「ひどくはないけど俺達も怪我してるしな…」

「…うん。」

「今夜あたり波古山、熱出すかもしんねぇから…"怪我してない誰か"の看病必要かもな…。」

「…」


小夜が俯いて思考を巡らせた。

扉がもう一度開く。


「おい…どれ頼む?電話すんぞ。」


チラシを手にした亜門はスマホも手にして部屋に戻ってきた。

晋と栄吉が意気揚々と選んだメニューを注文した。

二人とも怪我してるとは思えない…怪我しているからこそなのか、食欲旺盛で届いたピザを次々と口に入れていく。


「小夜、こいつらに食われる前に今のうちに確保しとけ。」

「う…うん。」


お茶をコップに注ぎながら亜門は小夜の静かな様子が心配になった。


「どうかしたか?」

「え?」

「やっぱり橘が気掛かりなら、無理にこいつらに付き合わんでいいぞ。家まで送る。」


そう言って立ち上がろうとした亜門を小夜が止めた。


「いや…それよりも、亜門の怪我…大丈夫?」

「怪我?」

「痛い?熱い?」

「あ?…あぁ、まーな。でも大したもんじゃねぇよ。」

「…」

「…小夜?」

「大丈夫!!」

「何が?」

「今日は私もいるから!!」

「は?」

「こうなったのも私が原因なところもあるし…万が一、亜門の具合が悪くなっても泊まり込みで看病するから!!」

「はあ!!??」


亜門が眉間に皺を寄せて、大声を出したタイミングで幸人達、三人はソファーから立って帰る準備を始めた。

亜門はその三人の行動にもますます皺寄せた。


「おい?何してんだ?」

「とりあえず、空気読んで気を利かせたってことで貸しイチな。」


栄吉が指を一本立てる。


「俺はアリバイまで用意してやったんだから貸し二な!!」


晋も指二本を立てる。


「俺の影ながらの後押しの貢献なんかが絶大だから貸しサンじゃねぇと、割りが合わねぇからな。」


幸人が悪そうに片方の口角を上げた。


「あ?何言って…」

「じゃあまたな~」

「ごっそさん!!」


口々に言って、三人は部屋を出て行き、ビルを出る足音が外から響いていった。

亜門は呆気にとられて、立ち尽くす。

小夜はテキパキと机に広がっているゴミを片付け始めた。


「だから亜門は今日は安心して、ゆっくり休んでね!!」

「小夜さん…」

「はい、なんでしょう?」

「マジで泊まる気?」

「うん!!任せて!!」

「いやいやいや…意味わかってる?」

「もちろん!!亜門の安静第一のためだからね!!」

「…」


普段から亜門の家を一人で上がり込み、最近漫画を読んだ様な小夜が、男の独り暮らしに女の子が泊まるということを深く考えてないのは容易に予想できた。

でも後片付けをする小夜の後ろ姿に理性と下心がグラグラ揺れる。

亜門は頭を掻いた。


「あー…なんつーか…お前が思ってるほど、重症じゃねぇから。だから帰って大丈夫だ。」

「…本当?」

「あぁ。」

「亜門…」

「ん?」


小夜は黙ったまま亜門を見た。

亜門は思わず目を細めた。


「…それとも、お前のそれは、」

「うん?」

「誘ってんの?」

「…」

「…」

「え…どこへ?」

「うん…言うと思ったけど。」


亜門は大きく息を吐いた。

そんな亜門の腕の痣を小夜はソッと触った。


「…うん。やっぱ打撲部分……熱を持ってる」

「…」

「今日は一緒にいるから!!」


ニコニコ笑う小夜に亜門は白旗を、むしろ下心が勝利した。


「…はー。お前…マジ困る。」


亜門は小夜を自分のところに引き寄せる。


「亜門?」


小夜の呼ぶ声に更に強く抱き締めた。



「やっぱ帰るって言いたくなっても知らねーからな…」

「う……うん。」


(まぁ…小夜には3階のベッド使わせて、俺は1階で寝たらどうにかなるか…な。)


そう思いながら、亜門は小夜を解放した。


「じゃあ片付けるか。」

「や…だから亜門は安静に…」

「平気。」

「でも、」

「せっかく二人の時間が長いんだから、早く終わらせた方がいいだろ?」

「え…」

「それにな、」


亜門は小夜に手を伸ばした。

そして小夜の額の絆創膏を親指でなぞる。


「お前には、もういい加減話しておきたいこともあるし。」

「……何?」

「斗真のこと。」


小夜は口を閉じて、ふと動きを止めた。


「小夜と斗真の事故。小夜の元カレの暴走。マジで小夜は記憶を取り戻していかねぇと…今後、やべぇ予感がする。」


小夜も頷いた。

亜門は軽く小夜の頭を撫でた。


「おし、決まりな。どうしてもしんどくなったら言え。喋んのやめっから。」

「うん。」

「あと…今日一日は風呂、我慢しろ。」

「…ん?ここのビル、お風呂ないの?」

「あるけど、お前は使うな。諦めろ。」

「なんで?何のいじめ?」

「むしろ入ることが俺へのいじめだと思ってくれ。」

「やだよ!!なんか今日の私、砂っぽいから借りたいです!!」

「…………やっぱお前、今日泊んのやめとけ。」

「えぇ!?」


亜門はガックリと肩を落とす。


「今晩、俺は耐えれるのか?」

「何に?」
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