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第二章 前途多難な学園生活
2-1. 嫌がらせ
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次の授業までの時間を自習室の一角で過ごしていたユウリは、声にならない悲鳴を上げた。
乱暴に置かれた辞書や事典が、机の上にあった彼女の左手を下敷きにしている。
「あら、ごめんあそばせ」
「い……っ!」
そんなに一度に必要なのか、という量の分厚い書物達を、わざと体重をかけるよう、ぐ、と押し潰すして退けたその女生徒は、ニヤニヤと嫌な笑いを携えながら友人たちの輪に戻っていった。
ジンジンと痛む左手を庇いながら、その嘲笑を背中に受け止めて、ユウリはまた教科書へと視線を移す。
今に始まった事ではない嫌がらせ、ただの日常。
嫉妬、羨望、嘲り、怒り、憎しみ。
カウンシルに関わる一般人、という称号は、そんな感情を一身に受けても仕方のないことなのだ、とそれらを抱く後ろめたさに大義名分を与えた。
結果、なんの疚しさも持たずに感情の赴くままに他人を攻撃することができる。
——『ユウリ』個人ではなく、自分たちでは得られなかった、その『称号』を攻撃しているのだ
入学してから僅か二週間ほどしか経っていないのに、飽きることなく繰り返される日常。
一種諦めの境地に達した彼女は、そうして自分を納得させていた。
学園での勉強は楽しい。
出来ることが増えていくのも楽しい。
厳しいカウンシルの指導も、真剣に取り合ってくれているのが分かるから、楽しい。
ただ、独りの時間は楽しくない、と思ってしまう。
独りなのは、慣れていると思っていた。
幼い頃の記憶のない、珍しい容姿の孤児。
それが今までのユウリの『称号』だった。
村にいた時は、村長以外は皆彼女を遠巻きにしていたし、『変な色』と面と向かって容姿を揶揄されて泣いたこともある。
でも、彼らは、ユウリを村の一員としては認めてくれていたように思う。
誰も、彼女を追放する算段や追い込むような真似だけはしなかったからだ。
学園では、最初は普通だったクラスメイトも、日を重ねる毎にユウリから段々と距離を置いていく。
カウンシルメンバーに声を掛けられているところを見られて、結局は皆向こう側に行ってしまう。
彼らが巧妙なのは、表に出ないように攻撃してくるところと、ユウリのようなタイプは積極的にそれを他者に相談しないと把握していることだろう。
それが分かるから余計に、負けず嫌いのユウリは誰にも頼らずに闘いたくなってしまう。
痛む左手に目をやる。少し腫れてきたようだ。
なんだか無性に、執務室へ駆け込んでレヴィのお茶が飲みたくなって、目の奥が熱くなる。
溢れそうになるのを必死で堪えて、ユウリは鞄を漁った。
最近必需品となった湿布が切れていることに気付いて、逃げることを許された気がする。
(弱ってるなー私)
自習室を出て廊下を歩きながら、彼女は自嘲した。
そこかしこに増える生傷に、嫌でも自分がされていることを認識させられて気が滅入る。
それでも、誰かに打ち明けようとは思わないし、自分で何とかしたいと思う。
ユウリ自身が関わることによって、その誰かが傷つくことになることは、一番避けたかった。
そうなるくらいなら、どんなに孤独でも、独りで闘い抜く方がよっぽどマシだ。
「ユウリだ」
その声に俯いていた視線を上げると、廊下の先で柔らかい笑顔のヨルンが手を振っている。ユウリは少し安心して、彼の側に駆け寄った。
「こんにちわ、ヨルンさん」
「どこ、行くの?」
「えっと、湿布を買いに売店へ」
湿布?と返されて、ユウリは左手を隠しながら曖昧に笑って濁す。知られたくない、と咄嗟に考えた故の行動だった。
そんなユウリを不思議そうに見て、ヨルンが首をかしげる。
「ユウリ、治癒魔法できる友達いない?」
その質問に、彼女は愛想笑いが崩せない。
ちょっと、視界がぐるぐるするような気がする。
「俺が、治してあげようか?」
手を取られて、ヨルンの顔が近づく。
よほどの重症でない限り、みな治癒魔法で治しているから湿布なんて必要ない。
そんなことは、百も承知だ。
けれど、ユウリには、湿布くらいしか治す術がない。
だから、知られたくないんだ、と苦しくなる。
ちょっと、足元がふわふわしてきた。
「大丈夫? なんか顔色が」
「ヨル……さ……」
気持ち悪い、とヨルンに伝える前に、ユウリの視界は暗転した。
乱暴に置かれた辞書や事典が、机の上にあった彼女の左手を下敷きにしている。
「あら、ごめんあそばせ」
「い……っ!」
そんなに一度に必要なのか、という量の分厚い書物達を、わざと体重をかけるよう、ぐ、と押し潰すして退けたその女生徒は、ニヤニヤと嫌な笑いを携えながら友人たちの輪に戻っていった。
ジンジンと痛む左手を庇いながら、その嘲笑を背中に受け止めて、ユウリはまた教科書へと視線を移す。
今に始まった事ではない嫌がらせ、ただの日常。
嫉妬、羨望、嘲り、怒り、憎しみ。
カウンシルに関わる一般人、という称号は、そんな感情を一身に受けても仕方のないことなのだ、とそれらを抱く後ろめたさに大義名分を与えた。
結果、なんの疚しさも持たずに感情の赴くままに他人を攻撃することができる。
——『ユウリ』個人ではなく、自分たちでは得られなかった、その『称号』を攻撃しているのだ
入学してから僅か二週間ほどしか経っていないのに、飽きることなく繰り返される日常。
一種諦めの境地に達した彼女は、そうして自分を納得させていた。
学園での勉強は楽しい。
出来ることが増えていくのも楽しい。
厳しいカウンシルの指導も、真剣に取り合ってくれているのが分かるから、楽しい。
ただ、独りの時間は楽しくない、と思ってしまう。
独りなのは、慣れていると思っていた。
幼い頃の記憶のない、珍しい容姿の孤児。
それが今までのユウリの『称号』だった。
村にいた時は、村長以外は皆彼女を遠巻きにしていたし、『変な色』と面と向かって容姿を揶揄されて泣いたこともある。
でも、彼らは、ユウリを村の一員としては認めてくれていたように思う。
誰も、彼女を追放する算段や追い込むような真似だけはしなかったからだ。
学園では、最初は普通だったクラスメイトも、日を重ねる毎にユウリから段々と距離を置いていく。
カウンシルメンバーに声を掛けられているところを見られて、結局は皆向こう側に行ってしまう。
彼らが巧妙なのは、表に出ないように攻撃してくるところと、ユウリのようなタイプは積極的にそれを他者に相談しないと把握していることだろう。
それが分かるから余計に、負けず嫌いのユウリは誰にも頼らずに闘いたくなってしまう。
痛む左手に目をやる。少し腫れてきたようだ。
なんだか無性に、執務室へ駆け込んでレヴィのお茶が飲みたくなって、目の奥が熱くなる。
溢れそうになるのを必死で堪えて、ユウリは鞄を漁った。
最近必需品となった湿布が切れていることに気付いて、逃げることを許された気がする。
(弱ってるなー私)
自習室を出て廊下を歩きながら、彼女は自嘲した。
そこかしこに増える生傷に、嫌でも自分がされていることを認識させられて気が滅入る。
それでも、誰かに打ち明けようとは思わないし、自分で何とかしたいと思う。
ユウリ自身が関わることによって、その誰かが傷つくことになることは、一番避けたかった。
そうなるくらいなら、どんなに孤独でも、独りで闘い抜く方がよっぽどマシだ。
「ユウリだ」
その声に俯いていた視線を上げると、廊下の先で柔らかい笑顔のヨルンが手を振っている。ユウリは少し安心して、彼の側に駆け寄った。
「こんにちわ、ヨルンさん」
「どこ、行くの?」
「えっと、湿布を買いに売店へ」
湿布?と返されて、ユウリは左手を隠しながら曖昧に笑って濁す。知られたくない、と咄嗟に考えた故の行動だった。
そんなユウリを不思議そうに見て、ヨルンが首をかしげる。
「ユウリ、治癒魔法できる友達いない?」
その質問に、彼女は愛想笑いが崩せない。
ちょっと、視界がぐるぐるするような気がする。
「俺が、治してあげようか?」
手を取られて、ヨルンの顔が近づく。
よほどの重症でない限り、みな治癒魔法で治しているから湿布なんて必要ない。
そんなことは、百も承知だ。
けれど、ユウリには、湿布くらいしか治す術がない。
だから、知られたくないんだ、と苦しくなる。
ちょっと、足元がふわふわしてきた。
「大丈夫? なんか顔色が」
「ヨル……さ……」
気持ち悪い、とヨルンに伝える前に、ユウリの視界は暗転した。
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