異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜

祐*

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第二章 前途多難な学園生活

2-3. 縮んだ距離

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 一頻り泣いた後、ユウリはぽつりぽつりと、彼女の置かれている学園での状況を話し始めた。

 ——嫌がらせのこと
 ——怪我のこと
 ——どこにいても爪弾きにあう、自分のこと

 一息ついたところで、ユージンにごつんと拳骨を貰う。

「そういうことは、逐一報告しろ」
「——っ! ユージンさん、私の話聞いてました!? 一人で頑張りたかったって、言ったでしょ!」

 頭を押さえて、真っ赤になった目で膨れるユウリに、ユージンはよく分からない苛立ちを覚えていた。

 ——魔力だけに恵まれた、無能な女。

 それが、彼の中でのユウリの評価だった。
 無能が自分だけで何かに立ち向かうと、必ずそのしわ寄せがやってくることを、彼は知っている。
 頼り、守られることしかできない無能が、自ら闘って勝ち目などあるはずはない。
 それなのに、この女は。

「何が一人で闘える、だ。そこまで満身創痍になって、その価値があるのか。しかも結局は廊下で倒れるという愚行を晒し、学園カウンシル会長の手を煩わせる結果になっている」
「う……それは……」
「お前がちゃんと報告していれば、早急に鎮火していた問題だ」

 ユージンのお説教に、レヴィがくすりと笑みを零した。
 何がおかしい、と睨まれて、笑って誤魔化すレヴィはもちろん、ヨルンも何やら笑いを含んだ声で言う。

「そんなんじゃ、伝わってないと思うよ」
「なんのことだ」

 この無表情の冷血漢は、本気で気づいていないようだった。
 彼の苛立ちは、彼女が、というところから来ていることに。

「まぁ、俺もユージンと同意見だけど」

 ヨルンがユウリの二の腕を取る。所々瘡蓋になって、赤く引き攣れているその傷は、それでも薄くなったと言う彼女の言葉から、かなり深い傷だったことが伺える。

「そこは、特にドジ踏んだんです。教科書に仕込まれた針金に気付かなくて、脇に抱えようと持ち上げたらズバーっと」
「聞いただけでも痛いね……」

 ヨルンが溜息をつくのを、ユウリは何故か居心地悪く感じた。
 呆れられているのではない、何かもっと、言うなれば、悪戯を隠していたことを咎められるような気不味さだ。

「ユウリ。俺たちは確かに学園長の命令で《始まりの魔女》である君のサポートをしてる。だけど、ただそれだけの関係だと思っているなら、寂しいよ」
「はい……」
「俺は《魔女》っていうフィルター越しじゃなくて、ちゃんとユウリを知りたい。一生懸命頑張っている君だからこそ手伝いたいと思うし、助けたいとも思う。だから、もっと頼ったり、相談したり、甘えてもいいんだよ」

 甘えては余計だ、とユージンに咎められるものの、ヨルンは気にせず、また俯いてしまったユウリの頭を撫でる。
 その心地よさに、ユウリは乾いた涙がまた溢れそうになって、益々顔が上げ難くなった。

「なるべく、相談します」
「逐一報告と言われたことを、もう忘れたのか、お前は」
「だって、ユージンさん、絶対直接注意しにいくでしょ」
「それの何が問題だ」
「だーかーらーなんで私が嫌がらせされるか分かってます!?」

 ちゃんと話を聞いてください、と笑って、ユウリの心は少し軽くなる。
 少し前までは、カウンシルメンバーと親しくすることに後ろめたさを感じていたのに、今はもっと仲良くなりたいとすら思う。
 目の色も、髪の色も、異常な魔力も、偏見なく全部『ユウリ』として扱ってもらえることに、こんなに安心感があるとは思わなかった。

「ユウリさん、傷の箇所を教えていただけますか」
「え?」
「魔法が効かない、と言っても、少しは薄くなるのでしょう?」

 レヴィの言葉に、ああ、とヨルンが立ち上がる。

「そっか、全く通らないというわけではないんだ」
「はい、上級魔法なら何とかうっすら効くというか……でも村にいた時は診察料が高いので、診療所で医薬品だけ買って、自宅で手当てしてました」
「じゃあ医務塔のオットー先生にも話してた方がいいよね。学園長に許可を貰っとこう」

 はい、とレヴィが頷いて、机に書類らしきものを浮遊させる。
 ヨルンとユージンが腕まくりをした理由に気づいて、ユウリは慌てて首を振った。

「いや、大丈夫です! お二人のお手を煩わすわけには」
「いきなり畏まってどうしたの? ちょっとでも治した方がいいんだし、幸い俺もユージンもレヴィも、上級治癒魔法なら複数回打てるくらいの力はあるよ」
「そうは、いわれましても」

 舌打ちして、ユージンが右腕にある見えない痣をぎゅっと的確に掴んできて、ユウリは顔を顰めた。

「痛っ」
「出せるとこだけでいい、見せろ」



 ブラウスの襟から鎖骨を見せ、袖を両方とも捲り、さらにスカートを太ももギリギリまでたくし上げて治癒魔法を受けているユウリの姿に、一緒に執務室に入ってきたリュカとヴァネッサはそれぞれ全く別の意味の悲鳴を上げた。
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