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第四章 壊れる日常
4-5. 友情
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「ダメ!」
素早く詠唱を始めたラヴレに気付き、ユウリは叫んだ。
「ぐ……」
《始まりの魔法》を、機械時計の制御なしに喰らったラヴレは、まるでその魔力ごと声を削り取られたように、詠唱を継続できない。
「ユウリ!」「チッ……」
ヨルンがユウリへ、ユージンがナディアへと駆け出すも、僅か一歩のところで見えない障壁に吹き飛ばされる。ロッシ、リュカ、レヴィは、元いた場所へ縫い止められたように動けない。
「お願いです。ナディアに、話をさせてください」
色を失くした顔で口元を両手で覆い、その場から動けないでいるナディアを見つめたまま、ユウリは震える声で懇願する。ラヴレが頷くと、皆を拘束していた魔力が解かれた。
(桁違いですね……)
《始まりの魔法》の威力に嘆息して、ラヴレは一歩後ろへ退く。
ユウリはナディアに近づき、その手を取った。びくりと跳ねた肩に、苦しくなる。
「ナディア、ごめん」
「……」
「ずっと、黙っていて、ごめん」
もう見慣れてしまった、不安を色濃く写す表情に、ナディアはそれが本当に彼女の友人であることを知る。
紅く燃える瞳。歴史書の記述。
「私は《始まりの魔女》なんだって」
耳を澄まさないと聞こえないほど小さく呟かれた言葉。
「……怖い?」
「まさか!」
反射的にナディアは叫んで、その震える手を強く握り返した。驚きに見開かれる紅を、真っ直ぐと見つめる。
「私、ずっと言わなくっちゃって思ってたの。あのお茶会の後からずっと」
例え何の役に立たなくても、はじめて出来た友達だと笑ったその顔を守りたいと思った。
時たま哀しそうな色をする瞳の理由を知りたかった。
どんな答えが返ってきても、ナディアの真実は変わらない。
「貴女がどんな秘密を抱えていても、貴女が何者であっても、ユウリは私の可愛くて大切な友人よ」
「……っ」
「まさか貴女が《魔女》だったなんて、『ちょっと違ったお友達って素敵ね』」
見る見る溢れていく瞳に、ナディアはどこかで聞いたセリフを口にしながら悪戯っぽく微笑む。
つられて泣き笑いの表情になるユウリの頰をハンカチで拭く彼女に、ラヴレが一歩近づくのが見えて、ユウリはナディアを背中に庇った。
「嫌です、学園長! お願い、やめて……!」
「落ち着いてください、ユウリさん」
苦笑するラヴレは、もうナディアの記憶を操作しようとは思っていなかった。ただ、学園長としてのけじめは必要である。
「ナディアさん」
「はい、学園長」
「ご覧の通り、ユウリさんには《始まりの魔女》しか持つことの出来ない無限の魔力があります。魔力測定よりこちら、カウンシルは彼女のサポートをしていました。医務塔のオットー先生もです。私の命令により、それ以外の誰にも知られていない事実。その意味がわかりますか」
問われて、ナディアは頷いた。
狂った《魔女》は、一国の王を手玉に取り暗示をかけると、その際限なく溢れ出る魔力を王に与え、王が民衆を操ることで独裁国家を作り上げようとした。
教会とその他の王達により討たれ、封印された《魔女》が、またこの世に現れたという事実は、世界中を震撼させるだろう。
それだけではない。
《魔女》の力を持ったユウリ自身に危険が及ぶこと必至だ。
「貴女がもし、これを黙秘できなかった場合、わかっていますね?」
「見くびらないでくださいます!?」
鋭い眼光で釘を刺したラヴレに、人差し指を突き付けて、ナディアは吠えた。
誰もが、指を差されたラヴレすら、ぽかんとした表情で、腰に手をあてて仁王立ちになっているその姿を見つめていた。
「この私が、可愛い可愛いユウリが危ない目に合う可能性があることを、そうそう口外するわけがありませんわ!」
「ちょっぉぉぉお! ナディア、あれ、学園長! 偉い人!」
ナディアの啖呵で意識を取り戻したユウリが慌てる様子に、ラヴレはふ、と笑みを漏らす。彼の心配は取り越し苦労のようだ。
「では、カウンシルの皆さん。あと、貴女達も。片付けを済ませて、帰りましょうか」
「はい」
各々に詠唱を始め、荒れた広場を整えていく。
次第に空がどんよりと雲を広げ、湿った空気が肌を撫でた。近くなった雨の兆候に、皆足早に作業を済ませる。
空気が一瞬、ピリと張り詰めた。
「……?」
ラヴレは空を仰ぎ見る。
何かがおかしい。
「学園長」
「はい、何やら、空気に魔力が含まれていますね」
ユージンとヨルンも空を見上げて、ラヴレ同様怪訝な顔をしている。
ピリピリとした空気が上空で渦巻いて、他の皆も不安げにだんだんと暗くなっていく辺りを見回した。
「あれは……」
「何か、来ます!」
レヴィが示す方向の上空に、ポツリと現れた黒い点が急速に広がり、形を成していく。
ばさりという羽音とともに頭上に翻るそれは、双頭の蛇を尾にうねらせた巨大な獅子。
誰ともなく緊迫した声が叫ぶ。
「危険種……っ!」
素早く詠唱を始めたラヴレに気付き、ユウリは叫んだ。
「ぐ……」
《始まりの魔法》を、機械時計の制御なしに喰らったラヴレは、まるでその魔力ごと声を削り取られたように、詠唱を継続できない。
「ユウリ!」「チッ……」
ヨルンがユウリへ、ユージンがナディアへと駆け出すも、僅か一歩のところで見えない障壁に吹き飛ばされる。ロッシ、リュカ、レヴィは、元いた場所へ縫い止められたように動けない。
「お願いです。ナディアに、話をさせてください」
色を失くした顔で口元を両手で覆い、その場から動けないでいるナディアを見つめたまま、ユウリは震える声で懇願する。ラヴレが頷くと、皆を拘束していた魔力が解かれた。
(桁違いですね……)
《始まりの魔法》の威力に嘆息して、ラヴレは一歩後ろへ退く。
ユウリはナディアに近づき、その手を取った。びくりと跳ねた肩に、苦しくなる。
「ナディア、ごめん」
「……」
「ずっと、黙っていて、ごめん」
もう見慣れてしまった、不安を色濃く写す表情に、ナディアはそれが本当に彼女の友人であることを知る。
紅く燃える瞳。歴史書の記述。
「私は《始まりの魔女》なんだって」
耳を澄まさないと聞こえないほど小さく呟かれた言葉。
「……怖い?」
「まさか!」
反射的にナディアは叫んで、その震える手を強く握り返した。驚きに見開かれる紅を、真っ直ぐと見つめる。
「私、ずっと言わなくっちゃって思ってたの。あのお茶会の後からずっと」
例え何の役に立たなくても、はじめて出来た友達だと笑ったその顔を守りたいと思った。
時たま哀しそうな色をする瞳の理由を知りたかった。
どんな答えが返ってきても、ナディアの真実は変わらない。
「貴女がどんな秘密を抱えていても、貴女が何者であっても、ユウリは私の可愛くて大切な友人よ」
「……っ」
「まさか貴女が《魔女》だったなんて、『ちょっと違ったお友達って素敵ね』」
見る見る溢れていく瞳に、ナディアはどこかで聞いたセリフを口にしながら悪戯っぽく微笑む。
つられて泣き笑いの表情になるユウリの頰をハンカチで拭く彼女に、ラヴレが一歩近づくのが見えて、ユウリはナディアを背中に庇った。
「嫌です、学園長! お願い、やめて……!」
「落ち着いてください、ユウリさん」
苦笑するラヴレは、もうナディアの記憶を操作しようとは思っていなかった。ただ、学園長としてのけじめは必要である。
「ナディアさん」
「はい、学園長」
「ご覧の通り、ユウリさんには《始まりの魔女》しか持つことの出来ない無限の魔力があります。魔力測定よりこちら、カウンシルは彼女のサポートをしていました。医務塔のオットー先生もです。私の命令により、それ以外の誰にも知られていない事実。その意味がわかりますか」
問われて、ナディアは頷いた。
狂った《魔女》は、一国の王を手玉に取り暗示をかけると、その際限なく溢れ出る魔力を王に与え、王が民衆を操ることで独裁国家を作り上げようとした。
教会とその他の王達により討たれ、封印された《魔女》が、またこの世に現れたという事実は、世界中を震撼させるだろう。
それだけではない。
《魔女》の力を持ったユウリ自身に危険が及ぶこと必至だ。
「貴女がもし、これを黙秘できなかった場合、わかっていますね?」
「見くびらないでくださいます!?」
鋭い眼光で釘を刺したラヴレに、人差し指を突き付けて、ナディアは吠えた。
誰もが、指を差されたラヴレすら、ぽかんとした表情で、腰に手をあてて仁王立ちになっているその姿を見つめていた。
「この私が、可愛い可愛いユウリが危ない目に合う可能性があることを、そうそう口外するわけがありませんわ!」
「ちょっぉぉぉお! ナディア、あれ、学園長! 偉い人!」
ナディアの啖呵で意識を取り戻したユウリが慌てる様子に、ラヴレはふ、と笑みを漏らす。彼の心配は取り越し苦労のようだ。
「では、カウンシルの皆さん。あと、貴女達も。片付けを済ませて、帰りましょうか」
「はい」
各々に詠唱を始め、荒れた広場を整えていく。
次第に空がどんよりと雲を広げ、湿った空気が肌を撫でた。近くなった雨の兆候に、皆足早に作業を済ませる。
空気が一瞬、ピリと張り詰めた。
「……?」
ラヴレは空を仰ぎ見る。
何かがおかしい。
「学園長」
「はい、何やら、空気に魔力が含まれていますね」
ユージンとヨルンも空を見上げて、ラヴレ同様怪訝な顔をしている。
ピリピリとした空気が上空で渦巻いて、他の皆も不安げにだんだんと暗くなっていく辺りを見回した。
「あれは……」
「何か、来ます!」
レヴィが示す方向の上空に、ポツリと現れた黒い点が急速に広がり、形を成していく。
ばさりという羽音とともに頭上に翻るそれは、双頭の蛇を尾にうねらせた巨大な獅子。
誰ともなく緊迫した声が叫ぶ。
「危険種……っ!」
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