83 / 114
第八章 襲撃
8-1. 仕掛けられた魔導具
しおりを挟む
サマーパーティーを終えた後の学園は、ぐっと生徒の数が減る。
授業自体も、補習のようなものばかりとなり、いよいよ夏季休暇に入るのだ。
実家に帰る生徒や避暑地へ旅行するもの、また、休暇中でも強化実習や集中講座などの特別授業も開催されているため、学園に残る生徒もそこそこにいる。
特に予定のないナディアだったが、今年はユウリの補習と実技強化実習に付き合って、休暇の前半は学園に残ることを選んだ。
「ユウリ、ナディアちゃん」
「あ、ヨルンさん!」
「ご機嫌よう、ヨルンさん」
実習を終えた二人に声を掛けたヨルンは、ふふ、と笑ってナディアに言う。
「畏まらなくて大丈夫だよ、ナディアちゃん」
一方、小首を傾げて微笑むナディアの、目が笑っていない。
ヨルンが自身の正妃候補を把握していないと聞いて、ナディアは怒り狂った。
ユウリは、だからこそ、彼が心から自分を選んでくれたのだ、と嬉しかったのだが、ナディアは違った。
把握していないということは、いないということとイコールではない。
現国王陛下が、もし仮に、ヨルンのあずかり知らぬところで候補を募っていた場合、それは紛れもなくユウリの障害となる。
ナディアは、そんなことを許すわけにはいかない。
よって、補習に付き合うという大義名分の元、ナディアはユウリとヨルンを邪魔しまくっていた。
朝も早くからユウリの寮へ迎えに行き、執務室にも送り迎えをし、夕食も一緒に、と、文字通りユウリを囲い込もうと必死だ。
ユウリは、彼女の心配もわかるため、なるべくそれに付き合いつつ、繰り返し大丈夫だとナディアを説得していた。
「もぉおおお、まだそんな目するぅ」
「私、正式に決まるまで、ユウリのこと諦めませんからね」
「私はナディアの恋人かなんかなの……」
ヨルンから視線を外さず、なんなら、結構ガン付けたまま、ナディアはよくわからない宣戦布告をする。
正式に、と言う彼女の言葉の中にある、正式に正妃になるまで、という意味を正しく理解して、ナディアがそれまで付き纏うつもりなのだろうかと、ユウリとヨルンは顔を見合わせて苦笑いした。
「認めてもらえるよう、頑張るよ」
未だ睨みつけるナディアに微笑んで、ヨルンはユウリを外套に包むと、額に口付ける。
幸せそうにはにかむユウリに、ナディアが叫んだ。
「きぃいいい! 羨ま悔しいぃぃぃ!」
「何それ……」
相変わらずのナディアに呆れ顔のユウリは、それでも心が温かくなる。
(幸せだなぁ)
自分が《始まりの魔女》であるとわかって、記憶が戻ると、ユウリの周りには沢山の仲間が出来ていた。
シーヴと同じ色で守ってくれる学園長、落ちこぼれでも文句一つ言わずにサポートしてくれたカウンシルの皆んな、どんな自分でも友達だと慕ってくれる親友、そして——大好きな男性。
学園に入学した時、自分の魔力の正体と、その制御の方法さえわかればいいと思っていたのに、まさか、こんな時間が手に入るとは思わなかった。
「さ、ユウリ! 貴女、次の授業があるでしょ!」
「あ、うん。ヨルンさん、また後で」
「いってらっしゃい。俺は執務室にいるから」
ナディアにヨルンの外套から引き剥がすように促されて、ユウリは名残惜しそうに駆け出す。
それを見送るヨルンの目に、一瞬、パリ、と空気中に走る魔力が映った。
「……ッ! 二人とも、止まれ!」
ヨルンが叫ぶ。
何事かと振り向いたユウリたちの両側の茂みからバチバチとした音が聞こえたかと思うと、鋭い閃光とともに、大規模な雷撃が二人を襲った。
「きゃあああ!」
二人の悲鳴と、雷撃の破裂音が重なる。
「ユウリ、ナディアちゃん、大丈夫!?」
地面に呆然と座り込む二人に、ヨルンが駆け寄った。
「二人とも、怪我は!?」
「だ、大丈夫です……」
「一体、何が……」
放った障壁が間に合ったようで、ヨルンはホッと息をつく。
警戒しながら探索魔法を詠唱して辺りを窺うが、誰の気配もしない。けれど、魔法の痕跡は両の茂みに色濃く残っていた。
「ヨルンさん、何だか、人じゃないみたい……」
「うん」
ヨルンと同じように辺りを探索したらしいユウリが、機械時計を握りながら紅い眼で呟く。
頷いて、ヨルンは茂みを探った。地面に穿った金属が見える。
「これは……魔導具? 誰が……」
ただの悪戯にしては、魔法の規模が大きかった。杭のようなそれを抜き取ってみて、ヨルンは眉根を寄せる。
あまり目にしたことのない、複雑な造りの魔導具。ヨルンですら直ぐには判別できないが、『失われた魔法』に似た気配がする。
こんなもの、一般の生徒が手に入れられるのだろうか。
だが、ヨルンは一番に浮かんだ可能性を否定していた。
いつも主張していた金の紋章は、どこにも見当たらないのだ。
(これは……どういうことだ)
授業自体も、補習のようなものばかりとなり、いよいよ夏季休暇に入るのだ。
実家に帰る生徒や避暑地へ旅行するもの、また、休暇中でも強化実習や集中講座などの特別授業も開催されているため、学園に残る生徒もそこそこにいる。
特に予定のないナディアだったが、今年はユウリの補習と実技強化実習に付き合って、休暇の前半は学園に残ることを選んだ。
「ユウリ、ナディアちゃん」
「あ、ヨルンさん!」
「ご機嫌よう、ヨルンさん」
実習を終えた二人に声を掛けたヨルンは、ふふ、と笑ってナディアに言う。
「畏まらなくて大丈夫だよ、ナディアちゃん」
一方、小首を傾げて微笑むナディアの、目が笑っていない。
ヨルンが自身の正妃候補を把握していないと聞いて、ナディアは怒り狂った。
ユウリは、だからこそ、彼が心から自分を選んでくれたのだ、と嬉しかったのだが、ナディアは違った。
把握していないということは、いないということとイコールではない。
現国王陛下が、もし仮に、ヨルンのあずかり知らぬところで候補を募っていた場合、それは紛れもなくユウリの障害となる。
ナディアは、そんなことを許すわけにはいかない。
よって、補習に付き合うという大義名分の元、ナディアはユウリとヨルンを邪魔しまくっていた。
朝も早くからユウリの寮へ迎えに行き、執務室にも送り迎えをし、夕食も一緒に、と、文字通りユウリを囲い込もうと必死だ。
ユウリは、彼女の心配もわかるため、なるべくそれに付き合いつつ、繰り返し大丈夫だとナディアを説得していた。
「もぉおおお、まだそんな目するぅ」
「私、正式に決まるまで、ユウリのこと諦めませんからね」
「私はナディアの恋人かなんかなの……」
ヨルンから視線を外さず、なんなら、結構ガン付けたまま、ナディアはよくわからない宣戦布告をする。
正式に、と言う彼女の言葉の中にある、正式に正妃になるまで、という意味を正しく理解して、ナディアがそれまで付き纏うつもりなのだろうかと、ユウリとヨルンは顔を見合わせて苦笑いした。
「認めてもらえるよう、頑張るよ」
未だ睨みつけるナディアに微笑んで、ヨルンはユウリを外套に包むと、額に口付ける。
幸せそうにはにかむユウリに、ナディアが叫んだ。
「きぃいいい! 羨ま悔しいぃぃぃ!」
「何それ……」
相変わらずのナディアに呆れ顔のユウリは、それでも心が温かくなる。
(幸せだなぁ)
自分が《始まりの魔女》であるとわかって、記憶が戻ると、ユウリの周りには沢山の仲間が出来ていた。
シーヴと同じ色で守ってくれる学園長、落ちこぼれでも文句一つ言わずにサポートしてくれたカウンシルの皆んな、どんな自分でも友達だと慕ってくれる親友、そして——大好きな男性。
学園に入学した時、自分の魔力の正体と、その制御の方法さえわかればいいと思っていたのに、まさか、こんな時間が手に入るとは思わなかった。
「さ、ユウリ! 貴女、次の授業があるでしょ!」
「あ、うん。ヨルンさん、また後で」
「いってらっしゃい。俺は執務室にいるから」
ナディアにヨルンの外套から引き剥がすように促されて、ユウリは名残惜しそうに駆け出す。
それを見送るヨルンの目に、一瞬、パリ、と空気中に走る魔力が映った。
「……ッ! 二人とも、止まれ!」
ヨルンが叫ぶ。
何事かと振り向いたユウリたちの両側の茂みからバチバチとした音が聞こえたかと思うと、鋭い閃光とともに、大規模な雷撃が二人を襲った。
「きゃあああ!」
二人の悲鳴と、雷撃の破裂音が重なる。
「ユウリ、ナディアちゃん、大丈夫!?」
地面に呆然と座り込む二人に、ヨルンが駆け寄った。
「二人とも、怪我は!?」
「だ、大丈夫です……」
「一体、何が……」
放った障壁が間に合ったようで、ヨルンはホッと息をつく。
警戒しながら探索魔法を詠唱して辺りを窺うが、誰の気配もしない。けれど、魔法の痕跡は両の茂みに色濃く残っていた。
「ヨルンさん、何だか、人じゃないみたい……」
「うん」
ヨルンと同じように辺りを探索したらしいユウリが、機械時計を握りながら紅い眼で呟く。
頷いて、ヨルンは茂みを探った。地面に穿った金属が見える。
「これは……魔導具? 誰が……」
ただの悪戯にしては、魔法の規模が大きかった。杭のようなそれを抜き取ってみて、ヨルンは眉根を寄せる。
あまり目にしたことのない、複雑な造りの魔導具。ヨルンですら直ぐには判別できないが、『失われた魔法』に似た気配がする。
こんなもの、一般の生徒が手に入れられるのだろうか。
だが、ヨルンは一番に浮かんだ可能性を否定していた。
いつも主張していた金の紋章は、どこにも見当たらないのだ。
(これは……どういうことだ)
0
あなたにおすすめの小説
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる