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第八章 襲撃
8-2. 嫌がらせ激化
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「今週だけで、もう五件か……」
腕組みしたまま、ユージンが厳しい顔で呟いた。
「いい加減にして欲しいね、全く! ユウリを何だと思ってるんだろ」
「もう、本当、殺してやりたい……」
憤慨するリュカの横で、ヨルンが物騒な一言を発する。
それには目をくれず、淡々と作業していたロッシが分析結果を掲げた。
「その内三件が同じような攻撃型魔導具、二件が欠片しか回収できていないが、魔法劇薬の小瓶が使われていた」
今カウンシル執務室で話題の中心になっているのは、あの雷撃を筆頭に、今週ユウリが被害を被った嫌がらせについてである。
いまだにユウリに対する小さな嫌がらせは続いているが、しかし、あの日を境に、まるで人目を盗むように繰り返されるそれは、今まで以上の攻撃力を持ってユウリを襲った。
しばらくぶりに満身創痍のユウリは、レヴィに治癒魔法をかけられながら、ヴァネッサとナディアに包帯を巻き直してもらっている。
「ヨルン、お前にも原因の一端はあるぞ。反省しろ」
「え? 何で俺??」
きょとんとしたヨルンに、ユージンが呆れたように溜息をついた。
生徒が減ったといっても、所構わずヨルンがユウリに構い倒していることは、既に周知の事実だった。
サマーパーティーでのエスコートの件も合間って、実はヨルンが、リュカへの義理でなく、本当にユウリを溺愛しているということが広まった。
それに伴い、カウンシルに構われるいけ好かない《奨学生》の小娘が、とうとう会長を射止めたのか、と主に女生徒の間で物凄い反発が起こっているらしい。
「そ、そうなの!?」
ヨルンが視線を移すと、ユウリが困った顔で笑っている。その表情は、ユージンの言葉を肯定していた。
「本当なんだ……何で言ってくれないの」
「だって……」
ちら、とヨルンを見上げて、ユウリは言い淀む。それを、リュカが冷めた瞳で見ながら、不満げに呟いた。
「ユウリも、ヨルンに甘えたいんだもんねぇ」
「リュ、リュカさん……!」
そんなことない、と言おうとして、ヨルン以外のみんなが、ユウリに生暖かい視線を向けている。
(バ、バレてるの!?)
ユウリは愕然とした。そこまでわかり易かったのだろうか。
「それにしても、悪質すぎないでしょうか」
真っ赤になって押し黙ったユウリを見ながら、強張った声で言うレヴィに、一同は頷いた。
手口自体はいつもと変わらないのだが、その規模と使われた道具が恐ろしく高等レベルなのだ。
確かめるように分析表を捲りながら、ロッシがその結果を告げる。
「魔法劇薬の方を調べてみたが、ノーラン製ではないな。禁術とまではいかないが、『失われた魔法』の可能性がある」
「そんなもの、一般生徒達がどうやって……」
そう言って、ナディアは思わず、ユージンを見てしまった。彼は、苦笑いで肩をすくめる。
「兄上は、未だ拘束されている」
「ご、ごめんなさい、ユージン様。そういう意味じゃあ……」
「いや、いい。俺も真っ先に疑ったからな」
ユージンが調べた、一番最初の魔導具。それにも複雑な魔法工学と『失われた魔法』に通ずる術式が使われていた。自国製ではないものの、技術的にも、流通にしても、ガイアの関与は可能性として考えられる。
その時点で、ユージンはフォンに頼んで、ウェズを面会したのだ。
申し訳なさそうに謝るウェズは、決して自分ではないと言い、疑うなら教会裁判にかけられても文句はないとまで言い切った。
以前のような胡乱な目でなく、真摯に、真っ直ぐと自分の目を見た兄を、ユージンは信じている。
「それでは……またクタトリアが動き出したと?」
ヴァネッサの言葉に、ヨルンが首を傾げた。
「今まで紋章を使って、これでもかと主張してきていたのに、それが全くないとなると、断定しきれないね」
確かに今まで、クタトリアの紋章は、その存在を印象付けるようにユウリの目の前に現れていた。ウェズの従者達に襲われた時、あの金の紋章がなかったことも、ユウリを油断させた一因だった。
「けど、だからと言って、ほっとくわけにもいかないしね」
コクリと頷いて、ユウリは決心したように言う。
「やっぱり、学園長に相談しようと思います。あれから、何の報告もないし」
***
学園長室に足繁く通ったユウリが、実際に学園長に会えたのはそれから三日経ってからだった。
「すみません、丁度教会の仕事が立て込んでいて」
「大丈夫です。こちらこそ、お忙しいのにすみません」
ヨルンの横でぺこりと頭を下げるユウリの袖口から覗いている包帯に、ラヴレは怪訝な顔をする。
それに気付いたユウリは、言いにくそうに続けた。
「最近、また嫌がらせが酷いんです」
「ああ、それで包帯を」
「ただ……今までと少し違っていて」
「違うとは?」
「学園長、これを」
眉根を寄せるラヴレの前に、ヨルンが魔導具とロッシの分析レポートを広げると、その目が見開かれた。
「何故、このようなものが……」
「俺たちも、わからないんです」
不安そうに見上げるユウリを、ヨルンは大事そうに外套で包む。その一連の動作に、白銅色の瞳がす、と細くなった。
——ああ、やはり
「激化した原因に、心当たりは?」
「えっと……それは……」
聞かれて、頬を染めて言い淀むユウリと苦笑するヨルンに視線を這わせ、ラヴレは何かを悟ったように微笑む。
「ユウリさん、ヨルン君」
魔導具と分析表を手に取ると、ラヴレは二人に告げる。
「私はこれらを持って、今一度教会へ戻ります」
——イェルディス様
退室する二人の背中を見ながら、ラヴレは心の中でその名を呟いた。
——やはり《始まりの魔女》は彼を選んだ
喜ばしさと、同時に絶望に似た不安がラヴレに押し寄せる。
けれど、その色を持って生まれた彼は、ただひたすらに自分の使命を全うするだけだ。
腕組みしたまま、ユージンが厳しい顔で呟いた。
「いい加減にして欲しいね、全く! ユウリを何だと思ってるんだろ」
「もう、本当、殺してやりたい……」
憤慨するリュカの横で、ヨルンが物騒な一言を発する。
それには目をくれず、淡々と作業していたロッシが分析結果を掲げた。
「その内三件が同じような攻撃型魔導具、二件が欠片しか回収できていないが、魔法劇薬の小瓶が使われていた」
今カウンシル執務室で話題の中心になっているのは、あの雷撃を筆頭に、今週ユウリが被害を被った嫌がらせについてである。
いまだにユウリに対する小さな嫌がらせは続いているが、しかし、あの日を境に、まるで人目を盗むように繰り返されるそれは、今まで以上の攻撃力を持ってユウリを襲った。
しばらくぶりに満身創痍のユウリは、レヴィに治癒魔法をかけられながら、ヴァネッサとナディアに包帯を巻き直してもらっている。
「ヨルン、お前にも原因の一端はあるぞ。反省しろ」
「え? 何で俺??」
きょとんとしたヨルンに、ユージンが呆れたように溜息をついた。
生徒が減ったといっても、所構わずヨルンがユウリに構い倒していることは、既に周知の事実だった。
サマーパーティーでのエスコートの件も合間って、実はヨルンが、リュカへの義理でなく、本当にユウリを溺愛しているということが広まった。
それに伴い、カウンシルに構われるいけ好かない《奨学生》の小娘が、とうとう会長を射止めたのか、と主に女生徒の間で物凄い反発が起こっているらしい。
「そ、そうなの!?」
ヨルンが視線を移すと、ユウリが困った顔で笑っている。その表情は、ユージンの言葉を肯定していた。
「本当なんだ……何で言ってくれないの」
「だって……」
ちら、とヨルンを見上げて、ユウリは言い淀む。それを、リュカが冷めた瞳で見ながら、不満げに呟いた。
「ユウリも、ヨルンに甘えたいんだもんねぇ」
「リュ、リュカさん……!」
そんなことない、と言おうとして、ヨルン以外のみんなが、ユウリに生暖かい視線を向けている。
(バ、バレてるの!?)
ユウリは愕然とした。そこまでわかり易かったのだろうか。
「それにしても、悪質すぎないでしょうか」
真っ赤になって押し黙ったユウリを見ながら、強張った声で言うレヴィに、一同は頷いた。
手口自体はいつもと変わらないのだが、その規模と使われた道具が恐ろしく高等レベルなのだ。
確かめるように分析表を捲りながら、ロッシがその結果を告げる。
「魔法劇薬の方を調べてみたが、ノーラン製ではないな。禁術とまではいかないが、『失われた魔法』の可能性がある」
「そんなもの、一般生徒達がどうやって……」
そう言って、ナディアは思わず、ユージンを見てしまった。彼は、苦笑いで肩をすくめる。
「兄上は、未だ拘束されている」
「ご、ごめんなさい、ユージン様。そういう意味じゃあ……」
「いや、いい。俺も真っ先に疑ったからな」
ユージンが調べた、一番最初の魔導具。それにも複雑な魔法工学と『失われた魔法』に通ずる術式が使われていた。自国製ではないものの、技術的にも、流通にしても、ガイアの関与は可能性として考えられる。
その時点で、ユージンはフォンに頼んで、ウェズを面会したのだ。
申し訳なさそうに謝るウェズは、決して自分ではないと言い、疑うなら教会裁判にかけられても文句はないとまで言い切った。
以前のような胡乱な目でなく、真摯に、真っ直ぐと自分の目を見た兄を、ユージンは信じている。
「それでは……またクタトリアが動き出したと?」
ヴァネッサの言葉に、ヨルンが首を傾げた。
「今まで紋章を使って、これでもかと主張してきていたのに、それが全くないとなると、断定しきれないね」
確かに今まで、クタトリアの紋章は、その存在を印象付けるようにユウリの目の前に現れていた。ウェズの従者達に襲われた時、あの金の紋章がなかったことも、ユウリを油断させた一因だった。
「けど、だからと言って、ほっとくわけにもいかないしね」
コクリと頷いて、ユウリは決心したように言う。
「やっぱり、学園長に相談しようと思います。あれから、何の報告もないし」
***
学園長室に足繁く通ったユウリが、実際に学園長に会えたのはそれから三日経ってからだった。
「すみません、丁度教会の仕事が立て込んでいて」
「大丈夫です。こちらこそ、お忙しいのにすみません」
ヨルンの横でぺこりと頭を下げるユウリの袖口から覗いている包帯に、ラヴレは怪訝な顔をする。
それに気付いたユウリは、言いにくそうに続けた。
「最近、また嫌がらせが酷いんです」
「ああ、それで包帯を」
「ただ……今までと少し違っていて」
「違うとは?」
「学園長、これを」
眉根を寄せるラヴレの前に、ヨルンが魔導具とロッシの分析レポートを広げると、その目が見開かれた。
「何故、このようなものが……」
「俺たちも、わからないんです」
不安そうに見上げるユウリを、ヨルンは大事そうに外套で包む。その一連の動作に、白銅色の瞳がす、と細くなった。
——ああ、やはり
「激化した原因に、心当たりは?」
「えっと……それは……」
聞かれて、頬を染めて言い淀むユウリと苦笑するヨルンに視線を這わせ、ラヴレは何かを悟ったように微笑む。
「ユウリさん、ヨルン君」
魔導具と分析表を手に取ると、ラヴレは二人に告げる。
「私はこれらを持って、今一度教会へ戻ります」
——イェルディス様
退室する二人の背中を見ながら、ラヴレは心の中でその名を呟いた。
——やはり《始まりの魔女》は彼を選んだ
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けれど、その色を持って生まれた彼は、ただひたすらに自分の使命を全うするだけだ。
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