異世界の魔女と四大王国 〜始まりの魔法と真実の歴史〜

祐*

文字の大きさ
90 / 114
第九章 真実の歴史

9-2. 黒い噂

しおりを挟む
「法皇」
「ああ、これはこれは。皆様お揃いでいらっしゃいますね」
「いや、まだ一人来ていない」

 《北の大地》に創られた教会本部に、国王達が集まっていた。何故かそこに、フィニーランドの姿はない。

「実は……今日は御三方だけお呼び申し上げました」
「……どう言うこと?」
「パリア陛下、ガイア陛下、ノーラン陛下、どうぞこちらへ。幹部会が始まります」

 怪訝な三人は、促されるままに席に着く。
 厳しい表情の教会幹部達が、ヒソヒソと耳打ちをし合っているのが見え、何か余り良くないことが起こるようだとわかった。
 苛ついた様子で、ノーランが口火を切る。

「法皇。いい加減、これはどういった集まりなのか、教えてくれるか」
「他でもない貴方方をお呼びしたのは……まことしやかに囁かれる噂についてです」
「噂?」
「教会内部では勿論、居住区や《北の街》では、最早知らないものはいないでしょう」

 法皇と呼ばれた壮年の男は、眉を顰めて、次に発する言葉を吟味しているようだった。
 それを眺める一人の幹部が、吐き捨てるように呟く。

「グルではないのか」
「何のことだ」
「ガイア陛下は、フィニーランド陛下とは旧知の仲とか」
「だから、何を言っているんだ!」

 立ち上がろうとしたガイアを制した法皇が放った言葉は、三人にとって、俄かには信じがたかった。

「《始まりの魔女》は、フィニーランド陛下と共謀して……世界を牛耳ろうとしていると」
「何だって!? 無礼な!」

 パリアがテーブルに拳を叩きつける。ガイアは深く溜息をついて、法皇を見返した。

「何だってそんな噂が」
「あくまでも、噂です。《魔女》が、フィニーランド陛下を大層お気に召していることは、周知の事実。それを悪意を持って受け取るものがいる、ということもあり得ます」

 法皇の言葉に、ノーランはちらりと先程の幹部を見る。フードから覗く金の髪に、その眼光が鋭くなった。

「なるほどな」

 金の髪と瞳は、クタトリアの色だ。《魔女》が赦したその中に、彼女を陥れようとしている輩がいるのかもしれない。
 ノーランの視線に気付いたその幹部は、顔を赤くして声を上げる。

「し、失礼な! 私は《魔女》に忠誠を誓った! 悪意があるわけではない!」
「では、何だというのだ」
「噂にしては、あまりに具体的ではないか!」

 《始まりの魔女》はその魔力の全てをフィニーランド王に渡し、彼を最強の王として君臨させようとしている。
 それが、噂の全貌だった。

「フィニーに限って、それはない」
「あの方は、そうでしょう。しかし」
「ああ、そうか」

 相手は、《始まりの魔女》である。全ての人々に分け与えても有り余る魔力と、魔法の知識。加えて、《始まりの魔法》の脅威。

「《魔女》はフィニーを溺愛している。彼女が、あいつが最も嫌がることをするとは思えない」

 ガイアは断言した。
 あの日、庭園で見たはにかむ笑顔は、嘘偽りなかったと信じている。

「それでも、この話が噂として広まっている限り、何か手を打たないわけにはいきません」
「それは……そうだねぇ。どうしようか」
「簡単なことだ。《魔女》とフィニーに頼めばいい」
「ああ、そうだな。あの二人に直接否定してもらった方が、信憑性があるだろう」

 どうだろうか、と提案する三人の王に、教会幹部会は満場一致で賛成した。



***



 教会からの移動魔法陣を出て、三人は管理局へと向かう。
 午後から《魔女》と王四人で、街道設備の話し合いが持たれる予定だったからだ。
 そこで早速フィニーランドと彼女に打診しようと意見が一致する。
 庭園の上空はどんよりと暗く、直ぐにぽつりぽつりと雫が落ちてきた。

「あれ、あそこにいるの、フィニーじゃない?」

 パリアが指す方向に目を向けると、ロズマリアの花のアーチの下に人影が見える。
 それに寄り添うように、一回り小さな影も見え、それが《始まりの魔女》だとわかる。

「しっ……何か様子が変だ」

 いつもお互いに慈しむような視線を交わしている二人の表情が、今は何処か暗く悲痛で、声をかけることが躊躇われた。
 しとしとと降り注ぐ小雨の中、《魔女》はフィニーランドの背中に手を回し、その頭を彼の胸に預けている。ぺったりと張り付いた黒髪の下の瞳は、雨粒のせいなのか濡れていて、それでも、真っ赤な唇は僅かに微笑んでいるようだった。

「……ね。だから、貴方に私の魔力全部を渡せば、出来るかもしれない。二人だけの秘密……」
「そんな危険な賭け……他の三人を裏切ることになっても、それでも《魔女》は良いの?」
「フィニーは?」
「俺は、貴女の望むことを叶えてあげたいけれど」

 それは、何の算段だったのか。
 三人の王達は、一人も言葉を紡げない。
 教会で今しがた耳にした疑惑が、形のある棘となって三人に突き刺さった。

『《始まりの魔女》は、フィニーランド王と共謀して、世界を牛耳ろうとしていると』

「馬鹿な……」
「そんな……嘘だよね」
「……行くぞ」

 茫然とするパリアとノーランを引き連れて、その瞳を怒りに燃やしたガイアは、教会への魔法陣を再発動していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...