復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru

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第1章 3度目の人生

[11] 2度目の人生:因果の撓み(たわみ)

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 次の日、私は母の部屋に呼ばれた。
 母は私の手を握ると嬉しそうに笑った。
「ピオ、来年の春には、アカデミーの第1学年ね! 別邸の私の書斎の鍵を渡しておくわ。私が居ない時、自由に使いなさい」
 母は銀色の鍵を見せ、私の手に握らせた。
「たくさんの本があるの。アカデミーに入学する前にたくさん本を読んでおくといいわ」
 私は別邸にそんな場所があったなんて知らなかった。
 驚いて母からもう少し詳しく話を聞きたかったが、ノックの音がしたので、口をつぐんだ。
「奥様、お茶をお持ちしました」
 母のメイドがお茶と焼き菓子を持って来た。
 一瞬、母の顔が曇った。私の心も嫌な予感がしてざわついた。
「私もお母様も頼んでないわよ」
「旦那様からでございます」
「……わかったわ。置いて出て行って」
 私がそう言うと、メイドは、お茶をティーカップに入れた。
 メイドの顔を見るが、いつもと変わらない。メイドはお茶を入れ終えると、私たちの後ろに下がって、部屋に残った。
「置いて行ってと言ったはずよ。お母様に大事な話があるの」
 メイドは顔を引きつらせ、まごつきながら部屋を出て行った。
 私は、母と二人になった。
「お母様、これ」
 私が話そうとすると母は人差し指を立てて自分の口元へ持っていった。今は、この違和感を口にしてはいけないということだ。私はうなずいた。
「ね、お母様、お父様からですって! 美味しそうね。どれからいただこうかしら」
「そうね。この緑色のクッキーはどう?」
 私と母は演技をしながら、クッキーを紙に包み、陶製の壺にそっと入れた。さらにその上にメイドが持って来たお茶を注いだ。
 すると、シューと音がし、煙が出てきた。なにやら奇妙な臭いがする。
 母は慌てて、私の腕を引っ張り、陶製の壺から遠ざけた。そして、口をハンカチで塞ぐよう耳元で伝えると、窓を開けた。
 あっという間に冷たい風が部屋に満ち、煙と悪臭を連れ去っていく。
 クッキーかお茶か、もしくは、両方に毒物が入っていたに違いない。
 もしかして、1度目の人生の時に母が亡くなった原因も毒だったのではないか。
 母が『病』で亡くなったと、どうして父親や家令、メイドの言うことを信じてしまったのだろう。母の侍女のメリッサが自害したのも今となっては胡散臭い。
 私は怒りで顔が熱くなった。
 お母様には、私が一度死んでいることを正直に伝えなければ。
 そう思っていたのに、この荒唐無稽な話を話す勇気がなかった。
 ―どうやったら信じてもらえるのか。
 ―信じてもらえず、頭がおかしいと思われたらどうしよう。
 ―何も言わずに私一人で運命を変えれるのではないか。
 などと、私は何度も逡巡した。
 そして、私は母に何も言わず、私一人で運命を変えるために努力することにした。
 だが、私ごときが必死に抗おうと、運命の前では叩き潰されるだけだった。
 母は1度目と同様、私が15歳になる前に亡くなった。
 私は打ちひしがれた。
 毒には十二分に注意していた。
 それが理由なのか、奇妙なのは1度目と死因が違ったことだった。
 母とメリッサの死は、2人で乗った馬車が崖から落ちた転落死だった。
 馬車には死体が残っておらず、崖下の川に落ちて流されたと聞かされた。
 死因は違えど、私は、母を2度も守れなかった。
 泣き崩れ、嘔吐し続けて動けなくなった私をレノドン伯爵は無視し、すぐにスカビエス夫人とその連れ子をレノドン邸へ囲った。
 これは1度目と同じだった。
 スカビエス夫人と連れ子のダリアンを見たとき、私が断罪される運命の幕が上がるのを感じた。
 だが、私に落ち込んでいる暇などない。
 私は、日記帳を開いて、この先、起こるはずの未来を読み直した。
 母とメリッサの死因が変わった。
 私は自力でアカデミーに入学する。
 鉱山の権利は私にある。
 私には剣術があり、マリアドネが傍にいる。
 私には婚約者はいない。
 母からもらった別邸の書斎の鍵がある。
 私は、未来が少しずつ変わっているのがわかった。
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