83 / 700
第五章
男と女の真理
しおりを挟む
「こ、これを!」
フェルさんだ。長髪をなびかせながら走り、手には例の魔法の眼鏡と紙の束を抱えている。あぶね、危うく回収するのを忘れる所だった。
「あ、レイさんのお父さん!」
「ほっ、ほんまに色々とすんまへん! これを、ちゃんと、お返ししたいんですが……。できればそのままかけて、こっちを読んで貰えますか?」
フェルさんはそこまで言い切ると腰を折って肩で息をする。すぐに追いついてきたレイさんが
「おとうどうしたん? そない無理して」
とその背中をさする。
「これは何ですか?」
「フィーが、ちっ、地上の男から、貰った手紙どすわ」
フィーさんが貰った手紙……例のラブレターらしき文書か? 息も絶え絶えにそう言うフェルさんから両方を受け取り、俺はまず眼鏡をかけてからその束に目を通した。
「えー!?」
俺は最初の一枚を読むなり膝から崩れるような衝撃を受けた。
「お待たせしました」
「早う逢いたかったわ」
暗闇が周囲を包むイリス村の外れの小屋。その一室に男女がいた。何度もここで密会を繰り広げてきたのだろう、慣れた手つきで大きなベッド……や机の上に様々な資料や道具を広げ、向かい合わせに座ってせわしなく手を動かす。
「しかしフィー先生……いよいよ最終章ですね」
「ええ。あと一年で綺麗に風呂敷畳んでみせますわ」
男は人間の若者、女性はナイトエルフの壮年だった。二名は視線を手元の原稿に向けたまま、言葉を交わす。
「なんかカイ君……背景上手くなっていませんか?」
「せやな。でも仕事だけやのうて家事全般、上手うなってるで。頭が上がらんわ。やっぱ喫茶店やってるおとうちゃんの血やなあ。レイには真似できん。ボール蹴らしたらミケランジェロやのに、筆を持ったらヘボヘボやねん」
「ちょっとおかん、それひどない!?」
止める間もなく、レイさんが声を上げて机を叩いた。
「ひい!」
「うわ、なんでやねん!」
跳ねたインク瓶が倒れて紙の上に中身をこぼす前に、俺はさっと手を伸ばして原稿を拾い上げた。
「あーやっぱこれか。ステフ、魔法を解いてくれるか?」
俺がそう告げるとステフは黙って透明化の魔法を解除した。驚く男女の前に俺、ステフ、ナリンさん、リストさん、レイさん、フェルさんの姿が現れる。
全てを悟った俺が選抜した『透明化して尾行して、フィーさんを問い詰め隊』のメンバー一行である。
「めっちゃいるやん! あ、あんた!」
「お前……」
「初めまして、レイさんのご母堂フィーさんですね。いや、大人気サッカーBL漫画『タイガー&タイガー』の作者、フランプさんとお呼びした方が良いですか?」
夫であるフェルさんと目を合わせ驚くフィーさんに俺は丁寧に頭を下げた。
「貴男は?」
「サッカードウエルフ代表の監督をしています、ショーキチと言います。日本から来た男でありますし、貴女の原稿を救った救世主でもあります」
俺はすんでの所でインクまみれから逃れた原稿をもう一度、しっかり見る。長髪GK――どことなくフェルさんに似ている――が肘打ちでシュートをはじき返しているシーンだ。間違いなくフェルさんの漫画喫茶で読んだヤツだろう。
「あーそれ、ありがとうございます」
原稿に手を伸ばす男性をさっと避け、俺は意地悪な笑みを浮かべた。
「返しても良いけど条件があります。俺は漫画業界を人並みにと言えども知っていますから比較的、状況が分かっていますが他のみんなは全然でしょう。ちゃんと説明してくれますか? 特にレイさんに」
俺は腕を組んで母親を睨みつけるレイさんの方を見た。その剣幕に気づきフィーさんは少し怖じ気付いたが、人数の圧や命より大事な原稿を人質に取られた事に観念しゆっくり話し始めた。
結論から言えばフィーさんは確かに『イエス、尊み。ノー、タッチ』の戒律を破った。但しそれはナイトエルフ達が想像していた『地上の男性と不倫の恋に落ちた』ではなかった。『地上で優秀な編集者兼アシスタントの男性と出会ってしまった』のである。
出会った当時、彼女は家族や統率していた尊み略奪隊にも内緒でずっと漫画を書いていた。だがある日、地上でそれを何ページも落としてしまった。(略奪隊公務の最中の休憩時などにも執筆してたらしい。プロや)
それをイリス村の男性――フープさんという、優れた頭脳と漫画テクニックを持つ男――が偶然、拾った。彼はその作品に惚れ込み是非ともお手伝いしたい! とそれを地上で出版したいとの文書を原稿に添え、拾った付近に残した。謎の作者へ向けて。
その謎の作者ことフィーさんはフィーさんで原稿と文書を拾い、地上の人間の言葉を学んで中身を知った。そして最初は警戒して手紙でのやりとりに終始したものの、やがて正体を明かして語り合い意気投合し、正式にコンビを組んで創作活動へ入った。
二人の協力は予想外の相乗効果を発揮し漫画は地上と地下でヒット。しかし略奪隊との二足の草鞋はそろそろ辛い……という時期に例のレターをフェルさんが発見。以降は知っての通り……。
フェルさんだ。長髪をなびかせながら走り、手には例の魔法の眼鏡と紙の束を抱えている。あぶね、危うく回収するのを忘れる所だった。
「あ、レイさんのお父さん!」
「ほっ、ほんまに色々とすんまへん! これを、ちゃんと、お返ししたいんですが……。できればそのままかけて、こっちを読んで貰えますか?」
フェルさんはそこまで言い切ると腰を折って肩で息をする。すぐに追いついてきたレイさんが
「おとうどうしたん? そない無理して」
とその背中をさする。
「これは何ですか?」
「フィーが、ちっ、地上の男から、貰った手紙どすわ」
フィーさんが貰った手紙……例のラブレターらしき文書か? 息も絶え絶えにそう言うフェルさんから両方を受け取り、俺はまず眼鏡をかけてからその束に目を通した。
「えー!?」
俺は最初の一枚を読むなり膝から崩れるような衝撃を受けた。
「お待たせしました」
「早う逢いたかったわ」
暗闇が周囲を包むイリス村の外れの小屋。その一室に男女がいた。何度もここで密会を繰り広げてきたのだろう、慣れた手つきで大きなベッド……や机の上に様々な資料や道具を広げ、向かい合わせに座ってせわしなく手を動かす。
「しかしフィー先生……いよいよ最終章ですね」
「ええ。あと一年で綺麗に風呂敷畳んでみせますわ」
男は人間の若者、女性はナイトエルフの壮年だった。二名は視線を手元の原稿に向けたまま、言葉を交わす。
「なんかカイ君……背景上手くなっていませんか?」
「せやな。でも仕事だけやのうて家事全般、上手うなってるで。頭が上がらんわ。やっぱ喫茶店やってるおとうちゃんの血やなあ。レイには真似できん。ボール蹴らしたらミケランジェロやのに、筆を持ったらヘボヘボやねん」
「ちょっとおかん、それひどない!?」
止める間もなく、レイさんが声を上げて机を叩いた。
「ひい!」
「うわ、なんでやねん!」
跳ねたインク瓶が倒れて紙の上に中身をこぼす前に、俺はさっと手を伸ばして原稿を拾い上げた。
「あーやっぱこれか。ステフ、魔法を解いてくれるか?」
俺がそう告げるとステフは黙って透明化の魔法を解除した。驚く男女の前に俺、ステフ、ナリンさん、リストさん、レイさん、フェルさんの姿が現れる。
全てを悟った俺が選抜した『透明化して尾行して、フィーさんを問い詰め隊』のメンバー一行である。
「めっちゃいるやん! あ、あんた!」
「お前……」
「初めまして、レイさんのご母堂フィーさんですね。いや、大人気サッカーBL漫画『タイガー&タイガー』の作者、フランプさんとお呼びした方が良いですか?」
夫であるフェルさんと目を合わせ驚くフィーさんに俺は丁寧に頭を下げた。
「貴男は?」
「サッカードウエルフ代表の監督をしています、ショーキチと言います。日本から来た男でありますし、貴女の原稿を救った救世主でもあります」
俺はすんでの所でインクまみれから逃れた原稿をもう一度、しっかり見る。長髪GK――どことなくフェルさんに似ている――が肘打ちでシュートをはじき返しているシーンだ。間違いなくフェルさんの漫画喫茶で読んだヤツだろう。
「あーそれ、ありがとうございます」
原稿に手を伸ばす男性をさっと避け、俺は意地悪な笑みを浮かべた。
「返しても良いけど条件があります。俺は漫画業界を人並みにと言えども知っていますから比較的、状況が分かっていますが他のみんなは全然でしょう。ちゃんと説明してくれますか? 特にレイさんに」
俺は腕を組んで母親を睨みつけるレイさんの方を見た。その剣幕に気づきフィーさんは少し怖じ気付いたが、人数の圧や命より大事な原稿を人質に取られた事に観念しゆっくり話し始めた。
結論から言えばフィーさんは確かに『イエス、尊み。ノー、タッチ』の戒律を破った。但しそれはナイトエルフ達が想像していた『地上の男性と不倫の恋に落ちた』ではなかった。『地上で優秀な編集者兼アシスタントの男性と出会ってしまった』のである。
出会った当時、彼女は家族や統率していた尊み略奪隊にも内緒でずっと漫画を書いていた。だがある日、地上でそれを何ページも落としてしまった。(略奪隊公務の最中の休憩時などにも執筆してたらしい。プロや)
それをイリス村の男性――フープさんという、優れた頭脳と漫画テクニックを持つ男――が偶然、拾った。彼はその作品に惚れ込み是非ともお手伝いしたい! とそれを地上で出版したいとの文書を原稿に添え、拾った付近に残した。謎の作者へ向けて。
その謎の作者ことフィーさんはフィーさんで原稿と文書を拾い、地上の人間の言葉を学んで中身を知った。そして最初は警戒して手紙でのやりとりに終始したものの、やがて正体を明かして語り合い意気投合し、正式にコンビを組んで創作活動へ入った。
二人の協力は予想外の相乗効果を発揮し漫画は地上と地下でヒット。しかし略奪隊との二足の草鞋はそろそろ辛い……という時期に例のレターをフェルさんが発見。以降は知っての通り……。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる