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第七章
実に面白い
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「こんな言葉を知ってますか? 『良いストライカーを穫れば試合に勝てる。しかし良いディフェンダーを穫れば、タイトルが穫れる』と」
俺は架空のティーカップの中の架空のダージリンティーを揺らすそぶりをしながら言った。
「つまり?」
「シャマーさんとコンビを組める、冷静で頭脳的で優秀なセンターバックがいれば、無駄に予算を使うことなく勝てるということですよ。ムルトさんみたいな選手が、ね?」
「そんな!」
ムルトさんは褒められて照れたか驚きで焦ったか顔を真っ赤にして少し後ろへ逃げた。
「言ったでしょう!? 私はサッカードウなんかしない、って!」
「でしたら、やっぱりさっきの手段で行くしかないっすね。マネーマネーマネー」
最後の方は歌うように言った。
「ひっ卑怯ですわ!」
「こういう言葉を知っていますか? 『恋とサッカーと戦争では全ての手段が正当化される』って」
「これ以上辞めて! あとその変な手つきも辞めて下さいですわ!」
ムルトさんは机に隠れるようにしゃがみ込んだ。シャマーさんがそこへ追いつき顔を覗き込みながら言う。
「ねえねえ会長。正直な話、わたし会長と組めたら点を取られる気がしないんだよね~。サッカードウで点を取られないってことは……」
「少なくとも負けはしない、ですの?」
ムルトさんは僅かに顔を上げて呟く。
「そう。引き分けならセンシャはしなくて済むの」
「それにここだけの話ですけど……。シーズン前の監督カンファレンスでセンシャの廃止を訴えようと思っているんすよね」
俺は訳知り顔で頷きながらいった。
「それは本当ですの? その提案は通りますの?」
「分からない。でも地球から来た俺が言えば、話は聞いて貰えるんじゃないかな?」
これは本音だ。正直、知らん。俺の言葉にどれくらいの権威があるか分からないし、降格寸前だったチームの監督の意見がどれくらい重いかも分からない。
「なるほど」
ムルトさんはすくっと立ち上がり、眼鏡を直した。
「さっきも言ったけど負けなきゃ良いのよ。てかもしかしたら優勝しちゃうかも!? 優勝したら、もっと意見が通りやすくなって、今シーズンは無理でも来シーズンは完全に撤廃できるかも?」
シャマーさんがそう続けてくれたが、その言葉がムルトさんに届いているかは分からなかった。何故ならムルトさんは眼鏡に手をかけ直立不動になったまま、何らかのゾーンに入っていたからだ。
「現時点での予算における勝ち点の増加、新戦力、昇格チームとの相性、新戦術の優位性……ぶつぶつ……」
「あの~ムルトさん?」
「しっ、ショーちゃん! 会長はこうなったら高速計算モードだから! 話しかけちゃ駄目!」
確かにそんな感じだった。身体は動かないまま脳だけが高速回転している雰囲気があり、なんなら眼鏡に数式とか謎のそれっぽい図形とか写り込みそうな感じだ。いきなり床にチョークで数式とか書き出されなかっただけマシかもしれない。
「実に面白い」
ムルトさんがボソリと呟いた。やっぱ湯川、じゃない床をあける!?
「分かりました。ノリますわ」
「やったあ!」
「ただし条件がありますわ!」
手を取り合い喜ぶ俺とシャマーさんにムルトさんが告げる。
「一つ。会計の仕事は引き続き行います。今の仕事を放り出すような事なんて私には出来ませんから! 二つ。もし一度でもセンシャするような羽目になりましたら私は完全にチームから離脱しますわ!」
「ええっ!? 会長、それは厳しくない?」
「どうです監督?」
シャマーさんはムルトさんの条件に焦りの表情を見せたが、今度は俺がムルトさんのように高速計算モードに入っていた。
「なるほど、今の仕事への責任を放棄したくない。そして仰っていたようにセンシャもしたくない。そちらの希望はごもっともですね」
彼女と違うのは相手に話しかけながらその裏で思考や計算を働かせるところ――コールセンターで養われた「応対としての会話を続けながら解決法を探るスキル」――だ。彼女に返答しつつ、俺はある勝算を見いだして結論を出していた。
「良いでしょう。『負ければチーム解散』とか『優勝しなければ廃部』てのはスポ根ものではお約束です。それに比べれば軽いもんです。宜しくお願いします」
そう言って俺は右手を差し出す。
「『スポ根』? なんだか分かりませんが、ではその条件で宜しくお願いします、ですわ!」
ムルトさんはやや困惑した表情を見せたが、同じように右手を差し出し俺の手を握った。
「こちらこそ。あー会計の仕事も続ける、とのことですが、少しでも負担を減らしたいので近々増員をかけます。少なくともこんな時間まで残業しなくても良いように、ね」
俺は窓の外を見ながら言った。既に外は真っ暗で、この世界の月らしきものが中天にかかっている。
「そちらも良いですけど、無駄遣いを減らすのも有効ですわよ? それでは失礼します」
ムルトさんは最後にそう言い残して監督室を出る。そのまま会計室に書類を置き、おそらくロッカー――選手のではなく従業員用――の方向へ歩み去っていった。
俺は架空のティーカップの中の架空のダージリンティーを揺らすそぶりをしながら言った。
「つまり?」
「シャマーさんとコンビを組める、冷静で頭脳的で優秀なセンターバックがいれば、無駄に予算を使うことなく勝てるということですよ。ムルトさんみたいな選手が、ね?」
「そんな!」
ムルトさんは褒められて照れたか驚きで焦ったか顔を真っ赤にして少し後ろへ逃げた。
「言ったでしょう!? 私はサッカードウなんかしない、って!」
「でしたら、やっぱりさっきの手段で行くしかないっすね。マネーマネーマネー」
最後の方は歌うように言った。
「ひっ卑怯ですわ!」
「こういう言葉を知っていますか? 『恋とサッカーと戦争では全ての手段が正当化される』って」
「これ以上辞めて! あとその変な手つきも辞めて下さいですわ!」
ムルトさんは机に隠れるようにしゃがみ込んだ。シャマーさんがそこへ追いつき顔を覗き込みながら言う。
「ねえねえ会長。正直な話、わたし会長と組めたら点を取られる気がしないんだよね~。サッカードウで点を取られないってことは……」
「少なくとも負けはしない、ですの?」
ムルトさんは僅かに顔を上げて呟く。
「そう。引き分けならセンシャはしなくて済むの」
「それにここだけの話ですけど……。シーズン前の監督カンファレンスでセンシャの廃止を訴えようと思っているんすよね」
俺は訳知り顔で頷きながらいった。
「それは本当ですの? その提案は通りますの?」
「分からない。でも地球から来た俺が言えば、話は聞いて貰えるんじゃないかな?」
これは本音だ。正直、知らん。俺の言葉にどれくらいの権威があるか分からないし、降格寸前だったチームの監督の意見がどれくらい重いかも分からない。
「なるほど」
ムルトさんはすくっと立ち上がり、眼鏡を直した。
「さっきも言ったけど負けなきゃ良いのよ。てかもしかしたら優勝しちゃうかも!? 優勝したら、もっと意見が通りやすくなって、今シーズンは無理でも来シーズンは完全に撤廃できるかも?」
シャマーさんがそう続けてくれたが、その言葉がムルトさんに届いているかは分からなかった。何故ならムルトさんは眼鏡に手をかけ直立不動になったまま、何らかのゾーンに入っていたからだ。
「現時点での予算における勝ち点の増加、新戦力、昇格チームとの相性、新戦術の優位性……ぶつぶつ……」
「あの~ムルトさん?」
「しっ、ショーちゃん! 会長はこうなったら高速計算モードだから! 話しかけちゃ駄目!」
確かにそんな感じだった。身体は動かないまま脳だけが高速回転している雰囲気があり、なんなら眼鏡に数式とか謎のそれっぽい図形とか写り込みそうな感じだ。いきなり床にチョークで数式とか書き出されなかっただけマシかもしれない。
「実に面白い」
ムルトさんがボソリと呟いた。やっぱ湯川、じゃない床をあける!?
「分かりました。ノリますわ」
「やったあ!」
「ただし条件がありますわ!」
手を取り合い喜ぶ俺とシャマーさんにムルトさんが告げる。
「一つ。会計の仕事は引き続き行います。今の仕事を放り出すような事なんて私には出来ませんから! 二つ。もし一度でもセンシャするような羽目になりましたら私は完全にチームから離脱しますわ!」
「ええっ!? 会長、それは厳しくない?」
「どうです監督?」
シャマーさんはムルトさんの条件に焦りの表情を見せたが、今度は俺がムルトさんのように高速計算モードに入っていた。
「なるほど、今の仕事への責任を放棄したくない。そして仰っていたようにセンシャもしたくない。そちらの希望はごもっともですね」
彼女と違うのは相手に話しかけながらその裏で思考や計算を働かせるところ――コールセンターで養われた「応対としての会話を続けながら解決法を探るスキル」――だ。彼女に返答しつつ、俺はある勝算を見いだして結論を出していた。
「良いでしょう。『負ければチーム解散』とか『優勝しなければ廃部』てのはスポ根ものではお約束です。それに比べれば軽いもんです。宜しくお願いします」
そう言って俺は右手を差し出す。
「『スポ根』? なんだか分かりませんが、ではその条件で宜しくお願いします、ですわ!」
ムルトさんはやや困惑した表情を見せたが、同じように右手を差し出し俺の手を握った。
「こちらこそ。あー会計の仕事も続ける、とのことですが、少しでも負担を減らしたいので近々増員をかけます。少なくともこんな時間まで残業しなくても良いように、ね」
俺は窓の外を見ながら言った。既に外は真っ暗で、この世界の月らしきものが中天にかかっている。
「そちらも良いですけど、無駄遣いを減らすのも有効ですわよ? それでは失礼します」
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