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第十一章
グリフィス?
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翌朝。遂に俺たちは試合当日を迎えた。アローズにとって新しい船出の日、そして俺がフルに采配を振るう――学生との練習試合も紅白戦も実は俺が指揮してはいない――初めての試合でもある。
当日のルーティーンなどは前もって聴取の上、おかしな所はなかったので今までアローズがやってきた通りにしておいた。例えば今日は昼――と言っても地下では分かり難いが――の試合なので朝に起き、朝食をし、散歩や柔軟などで軽く身体を動かしてからスタジアムへ向かう、とか。
基本的には選手が平常心で試合へ挑む事を重視する。強いて言えば食事会場に魔法の鏡を設置しドワーフ代表の失点シーンのリプレイを繰り返し流す、柔軟体操にラビンさん仕込みのヨガを組み込む、などの細かい違いはあったが。
そうする間にも主にスタメンの選手を中心に、コンディションや精神状態をさりげなく観察する。集中できてない事を気にしているのではない。相手はエルフの宿敵、ドワーフだ。むしろ入れ込み過ぎている事を心配しているのだ。
「ナリン、それなに~!」
そんな中。スタジアムへの移動前の点呼を行うナリンさんへ、そんな声が飛んだ。
「どう? すてきでしょ?」
「ないわ~」
応えるナリンさんの顔の上半分は、鉛色に鈍く光る鉄仮面で覆われていた。鳥類の頭部を思わせるそれは鼻先が鋭く尖り、目の部分はアーモンド型に切り抜かれ彼女の切れ目を隠すことなく強調している。
「ナリンさん! めっちゃ良いやん!」
「まあレイさん。ありがとう!」
数少ない賛美者であるレイさんに、ナリンさんは微笑みを返す。鉄仮面の下から覗く緩やかなカーブの口元は、なんだか少し妖艶だ。
「ええわ~! エロい強そうかっこいい! ウチも着けたいなー!」
レイさん褒め方! と思ったが彼女は本心からそう思っている様だし言われたナリンさんもまんざらではなさそうだ。さすがレイさん、特撮の悪の女幹部の様な水着を選んだ女だ。
「意外と重くないし、視界もそこそこ確保できるんですよ」
一方のナリンさんも普段なら謙遜するのにこういう賞賛の仕方なら平気なのな。まあ綺麗とか偉いとかは言われ飽きているのかもだけど。
「ムルトもサッカードウ用眼鏡は辞めてああいうのにしたら?」
「はぁ!? しません!」
「確かにアレにレンズまでつけたら完全にゴーレム……」
「それな!」
ルーナさんのツッコミに全員の笑いが起こった。どうやら過度の緊張も無いようだ。
「全員揃っているようですね? じゃあいきましょう!」
騒動が収まるのを待って俺は宣言した。再びミスラル・ボウルと対面。しかし今度は観客入りだ。
「バス待ち」という行為がサッカーにはある。選手を乗せたバスが会場入りするルートの脇にサポーターが待ちかまえ、声援や太鼓で歓待し鼓舞する行為の事である。いちおう帰る時のもそう言うが、そちらは労いの声かけが主なので優勝した後など特別な時でない限りあまり派手ではない。まあこの世界にはバスは無いので「馬車待ち」とかになるんだろうが。
しかし俺たちは前回の前日練習時と同じく地下通路を使ったので、それを経験する事はできなかった。少し残念だ。遠路まで駆けつけるサポーターや現地在住のエルフがどれくらいいるか知らないが、見てみたかった気がする。
現地と言えばエルフのホームでは船でスタジアム入りするんだったな。船……運河を行くのか。岸辺に特別エリアを設けて、最前線で船待ちできる権利付きの特別席とかを売れば儲かるだろうか? まあそういう事をやりたがるのは熱のあるサポーターが主なのであまり高くは設定できない。できれば毎回来て欲しいし。ならばいっそ、シーズンチケットの早期購入特典として……。
「(ショーちゃん、また悪い顔になってる……これ好き)」
「(直前で何か策を思いつかれたのかもしれませんね!)」
隣で何か囁くシャマーさんとナリンさんの声に我に返って、俺は顔を上げた。目の前はもうドレッシングルームだ。流石に中には入れない。
いや、一度入ったけどさ。俺が地球から飛ばされて来た日に。そうか、アレから俺の監督人生が始まったんだ。
「ショーちゃんどうしたの? 一緒に入って着替え手伝ってくれるの?」
「しません! じゃあみんなしっかり準備して!」
「「はい!」」
選手達は皆、気合いの入った声でそう応えた。俺は彼女たちに背を向け、コーチ陣と一緒に別室の方へ向かった。
審判団やマッチコミッショナーさん達との打ち合わせ、仮設の作戦室の設営などを行っている間に試合への準備はみるみる進んで行った。
スタジアム、サッカードウ協会、ドワーフチーム、そしてもちろんアローズの優秀なスタッフがてきぱきと働いているのを、俺は眺めている事しかできなかった。監督としては――いや監督としても、だが――兎も角、試合を運営する事に関して俺は完全に素人だ。幸い、コーチ陣もそれらは何度も経験しているし、ザックコーチに至っては元監督だ。俺は前もって打ち合わせていた通り彼やナリンさんに手綱を握って貰い、ただ隣に立って手続きを観察しメモをとり、まれに質問したり形式的に決定を下す風を装ったりした。
それでも、というかそれだからこそ全ては順調に進み試合開始1時間前になった。さっき大きなどよめきやブーイングが聞こえたから、選手たちはもうピッチに出て芝生の上でのウォーミングアップを始めている筈だ。
俺はナリンさんを伴ってコンコースから熱狂の渦へ足を踏み入れた。
当日のルーティーンなどは前もって聴取の上、おかしな所はなかったので今までアローズがやってきた通りにしておいた。例えば今日は昼――と言っても地下では分かり難いが――の試合なので朝に起き、朝食をし、散歩や柔軟などで軽く身体を動かしてからスタジアムへ向かう、とか。
基本的には選手が平常心で試合へ挑む事を重視する。強いて言えば食事会場に魔法の鏡を設置しドワーフ代表の失点シーンのリプレイを繰り返し流す、柔軟体操にラビンさん仕込みのヨガを組み込む、などの細かい違いはあったが。
そうする間にも主にスタメンの選手を中心に、コンディションや精神状態をさりげなく観察する。集中できてない事を気にしているのではない。相手はエルフの宿敵、ドワーフだ。むしろ入れ込み過ぎている事を心配しているのだ。
「ナリン、それなに~!」
そんな中。スタジアムへの移動前の点呼を行うナリンさんへ、そんな声が飛んだ。
「どう? すてきでしょ?」
「ないわ~」
応えるナリンさんの顔の上半分は、鉛色に鈍く光る鉄仮面で覆われていた。鳥類の頭部を思わせるそれは鼻先が鋭く尖り、目の部分はアーモンド型に切り抜かれ彼女の切れ目を隠すことなく強調している。
「ナリンさん! めっちゃ良いやん!」
「まあレイさん。ありがとう!」
数少ない賛美者であるレイさんに、ナリンさんは微笑みを返す。鉄仮面の下から覗く緩やかなカーブの口元は、なんだか少し妖艶だ。
「ええわ~! エロい強そうかっこいい! ウチも着けたいなー!」
レイさん褒め方! と思ったが彼女は本心からそう思っている様だし言われたナリンさんもまんざらではなさそうだ。さすがレイさん、特撮の悪の女幹部の様な水着を選んだ女だ。
「意外と重くないし、視界もそこそこ確保できるんですよ」
一方のナリンさんも普段なら謙遜するのにこういう賞賛の仕方なら平気なのな。まあ綺麗とか偉いとかは言われ飽きているのかもだけど。
「ムルトもサッカードウ用眼鏡は辞めてああいうのにしたら?」
「はぁ!? しません!」
「確かにアレにレンズまでつけたら完全にゴーレム……」
「それな!」
ルーナさんのツッコミに全員の笑いが起こった。どうやら過度の緊張も無いようだ。
「全員揃っているようですね? じゃあいきましょう!」
騒動が収まるのを待って俺は宣言した。再びミスラル・ボウルと対面。しかし今度は観客入りだ。
「バス待ち」という行為がサッカーにはある。選手を乗せたバスが会場入りするルートの脇にサポーターが待ちかまえ、声援や太鼓で歓待し鼓舞する行為の事である。いちおう帰る時のもそう言うが、そちらは労いの声かけが主なので優勝した後など特別な時でない限りあまり派手ではない。まあこの世界にはバスは無いので「馬車待ち」とかになるんだろうが。
しかし俺たちは前回の前日練習時と同じく地下通路を使ったので、それを経験する事はできなかった。少し残念だ。遠路まで駆けつけるサポーターや現地在住のエルフがどれくらいいるか知らないが、見てみたかった気がする。
現地と言えばエルフのホームでは船でスタジアム入りするんだったな。船……運河を行くのか。岸辺に特別エリアを設けて、最前線で船待ちできる権利付きの特別席とかを売れば儲かるだろうか? まあそういう事をやりたがるのは熱のあるサポーターが主なのであまり高くは設定できない。できれば毎回来て欲しいし。ならばいっそ、シーズンチケットの早期購入特典として……。
「(ショーちゃん、また悪い顔になってる……これ好き)」
「(直前で何か策を思いつかれたのかもしれませんね!)」
隣で何か囁くシャマーさんとナリンさんの声に我に返って、俺は顔を上げた。目の前はもうドレッシングルームだ。流石に中には入れない。
いや、一度入ったけどさ。俺が地球から飛ばされて来た日に。そうか、アレから俺の監督人生が始まったんだ。
「ショーちゃんどうしたの? 一緒に入って着替え手伝ってくれるの?」
「しません! じゃあみんなしっかり準備して!」
「「はい!」」
選手達は皆、気合いの入った声でそう応えた。俺は彼女たちに背を向け、コーチ陣と一緒に別室の方へ向かった。
審判団やマッチコミッショナーさん達との打ち合わせ、仮設の作戦室の設営などを行っている間に試合への準備はみるみる進んで行った。
スタジアム、サッカードウ協会、ドワーフチーム、そしてもちろんアローズの優秀なスタッフがてきぱきと働いているのを、俺は眺めている事しかできなかった。監督としては――いや監督としても、だが――兎も角、試合を運営する事に関して俺は完全に素人だ。幸い、コーチ陣もそれらは何度も経験しているし、ザックコーチに至っては元監督だ。俺は前もって打ち合わせていた通り彼やナリンさんに手綱を握って貰い、ただ隣に立って手続きを観察しメモをとり、まれに質問したり形式的に決定を下す風を装ったりした。
それでも、というかそれだからこそ全ては順調に進み試合開始1時間前になった。さっき大きなどよめきやブーイングが聞こえたから、選手たちはもうピッチに出て芝生の上でのウォーミングアップを始めている筈だ。
俺はナリンさんを伴ってコンコースから熱狂の渦へ足を踏み入れた。
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