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第十一章
若さと老練さ
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「はっ!?」
あの、ユイノさん? GKは手を使って良いんですよ?
『若い子は発想が自由だにゃん……』
ユイノさんがヘディングでクリアしたボールは――流石、元CFWと言うべきか――見事な曲線を描きドワーフ達の虚を突き、ペナルティエリアすぐ外のエリアを守備していたマイラさんの元へ飛んだ。パスになったのだ。
『……はっ! いや違う、マイラも若いにゃん!』
ユイノさんほか若干名を除きまだスタジアム中が驚きで固まるなか、マイラさんは飛んできたボールを左足のアウトサイドでトラップすると、軽く浮かし落ちざまを再び左足アウトサイドで蹴り上げた。
『うっわ! またハードル上げられたわ』
マイラさんの蹴ったボールの行き先はハーフライン手前にいたレイさんの所だ。セットプレー時の約束事どおり彼女は前線に残っている。
『つっ……潰せ! ファウルでも良いから潰せ!』
ポビッチ監督が苦しげになにやら叫ぶ。そう、今回はフリーではない。ドワーフのDFが1名はすぐ背後に密着、1名は3mほど離れてマークについているのだ。
『でもまあ……』
レイさんはマイラさんの若作りパス(ごめん!)を胸でピタっと止めると、身体を反らせてボールを胸の上に載せたまま振り返り、DF2枚と対峙した。
『こういうハードル上げなら大歓迎やわ。水着大喜利とちごて』
レイさんに密着していた方のDFは、目の前でナイトエルフの天才がボールを完全に静止し自分の方を不敵に睨みつけているのを見て、一歩も動けないでいた。
「oh……。スマホオッパイチャレンジネー!」
前にSNSで流行った『おっぱいの上にスマホを置けるか』という動画を思い出して俺は呟いた。しかも万が一、ナリンさんの耳に届いても意味が分からないように片言っぽい喋りで。
その程度には俺は冷静だった。しかしドワーフDFは冷静ではなかった。
『だー! なのじゃ!』
高い位置で保持されているボールを奪うのにはどうすれば良いか? 錯乱したドワーフDF2枚は頭からレイさんの胸へ突進していった。さながら、マテラッツィの胸元へ頭突きを行ったジダンの様に。
それではボール奪えないし取れてもファウルになるだろ? と内心でツッコム間に突っ込んだ2枚のDFはひらひらと交わされ、レイさんはボールを地面に落としてドリブルを開始する。
流石に今回は独走という訳にはいかない。レイさんがさっきのDF達と遊んでいる間に他の選手も戻りつつある。だが彼女は後ろからファウル気味にかけられたスライディングを飛び越え、斜め前のDFをパスフェイントで棒立ちにさせた後で一気に方向転換&加速し、更に10mほど進むとペナルティエリア少し外で右足を鋭く振った。
『うおおおおお!』
地響きのような歓声の中、レイさんの放った強烈なシュートはGKの伸ばした指先を軽く吹き飛ばし、ゴール左上に突き刺さる!
前半45分。1-3でエルフが追加点。
『うわー!』
敵味方関係なく全ての種族から感嘆の声が漏れる。それはレイさんが上げたゴラッソへの素直な称賛であった。
『どないや!』
熱狂の渦の中で、レイさんは両手を突き上げそれぞれ一本づつ指を立てて空――と言っても地底なので天井だが――をドヤ顔で指さした。
『レイ殿、流石でござる~』
『やばい! やばい!』
最速でレイさんの所へ駆けつけたリストさんとルーナさんが彼女に抱き付き身体を揺さぶる。更に仲間が駆けつけ手荒い祝福を行う間も、レイさんは空を指した指を降ろさなかった。
「ぴぴー!」
すぐさまドラゴンの審判さんが笛を吹き、ドワーフ側キックオフは行わずそのまま前半終了となる。皆と一緒に引き上げてきたレイさんはすれ違いざまに俺にウインクをし、ようやく両手を下げた。
それで俺は彼女の思惑を察した。上げた指は遠い空の下の誰かを思ってのモノなどではなく、彼女が上げたゴールの数を数えたものであり、そしてまたスタジアム外の上空を走るアレを指さしたものだったのだ。
ドワーフのゴンドラ。試合前に約束した通り、彼女と空中デートをする事が決まってしまった……。
「ボナザさんはどうでした?」
「心配ない。目眩は残っているが重傷ではないだろう、との事だ」
更衣室の外。俺とザックコーチ、男二人は壁に背を預け雑談しながら、選手達の着替えが終わるのを待っていた。
「ところで監督よ……」
「どうしました?」
「サッカードウとはこんなにも面白いものだったのだな」
「何を唐突に!?」
俺は急に真顔で――と言ってもミノタウロスの表情が完全に分かる訳ではないので想像だが――語りだしたフィジカルコーチの顔を見た。
「いや。俺も監督をそこそこ努めてきたが、選手の尻を叩いて走らせ鍛え気合いを入れ……何とも無味乾燥なコーチングしかしてこなかった」
「いえ、そういう部分も非常に大事ですよ」
「そう言って貰えると有り難いが、ミノタウロス代表チームと選手達には悪いことをしたな……と」
ザックコーチと彼の種族代表チームとの別れは決して美しいものではなかった。とは言え実はサッカーの監督とは、大きく分けると2種類しかないのだ。
解任された監督と、これから解任される監督。
「もしミノタウロス代表の監督に返り咲くチャンスがあったら……俺達のことは気にせず行って下さいね?」
「なんだと!? いや、そんなつもりはさらさら無いのだが……」
ザックコーチは円らな瞳を飛び出させて驚いた。この表情は流石に分かるな。
「いえ、それ位の気持ちでいて欲しいです。理由は三つ。一つ、貴男との対戦は本当に楽しかったから。ここで学んで更に強くなった貴男と貴男のチームと闘ってみたいんです。二つ、リーグ全体の監督のレベルを上げて欲しいから。まだ勝ってもいないのにおこがましいですが、アローズ一つが突出してしまっても面白くないですからね。三つ目は……」
ドアが開き、ナリンさんが合図を送ってきた。幾ら何でもまた着替え中という罠は無いだろう。俺はそちらへ向かう前に、急いでザックコーチに耳打ちした。
「もしザックさんが監督になって俺がエルフ代表をクビになってたら、そっちで俺を雇って下さい。次は主務とかデータ分析とか、監督より責任が軽い職務で」
俺がそう言うとザックコーチは耳をパタパタさせて笑った。
あの、ユイノさん? GKは手を使って良いんですよ?
『若い子は発想が自由だにゃん……』
ユイノさんがヘディングでクリアしたボールは――流石、元CFWと言うべきか――見事な曲線を描きドワーフ達の虚を突き、ペナルティエリアすぐ外のエリアを守備していたマイラさんの元へ飛んだ。パスになったのだ。
『……はっ! いや違う、マイラも若いにゃん!』
ユイノさんほか若干名を除きまだスタジアム中が驚きで固まるなか、マイラさんは飛んできたボールを左足のアウトサイドでトラップすると、軽く浮かし落ちざまを再び左足アウトサイドで蹴り上げた。
『うっわ! またハードル上げられたわ』
マイラさんの蹴ったボールの行き先はハーフライン手前にいたレイさんの所だ。セットプレー時の約束事どおり彼女は前線に残っている。
『つっ……潰せ! ファウルでも良いから潰せ!』
ポビッチ監督が苦しげになにやら叫ぶ。そう、今回はフリーではない。ドワーフのDFが1名はすぐ背後に密着、1名は3mほど離れてマークについているのだ。
『でもまあ……』
レイさんはマイラさんの若作りパス(ごめん!)を胸でピタっと止めると、身体を反らせてボールを胸の上に載せたまま振り返り、DF2枚と対峙した。
『こういうハードル上げなら大歓迎やわ。水着大喜利とちごて』
レイさんに密着していた方のDFは、目の前でナイトエルフの天才がボールを完全に静止し自分の方を不敵に睨みつけているのを見て、一歩も動けないでいた。
「oh……。スマホオッパイチャレンジネー!」
前にSNSで流行った『おっぱいの上にスマホを置けるか』という動画を思い出して俺は呟いた。しかも万が一、ナリンさんの耳に届いても意味が分からないように片言っぽい喋りで。
その程度には俺は冷静だった。しかしドワーフDFは冷静ではなかった。
『だー! なのじゃ!』
高い位置で保持されているボールを奪うのにはどうすれば良いか? 錯乱したドワーフDF2枚は頭からレイさんの胸へ突進していった。さながら、マテラッツィの胸元へ頭突きを行ったジダンの様に。
それではボール奪えないし取れてもファウルになるだろ? と内心でツッコム間に突っ込んだ2枚のDFはひらひらと交わされ、レイさんはボールを地面に落としてドリブルを開始する。
流石に今回は独走という訳にはいかない。レイさんがさっきのDF達と遊んでいる間に他の選手も戻りつつある。だが彼女は後ろからファウル気味にかけられたスライディングを飛び越え、斜め前のDFをパスフェイントで棒立ちにさせた後で一気に方向転換&加速し、更に10mほど進むとペナルティエリア少し外で右足を鋭く振った。
『うおおおおお!』
地響きのような歓声の中、レイさんの放った強烈なシュートはGKの伸ばした指先を軽く吹き飛ばし、ゴール左上に突き刺さる!
前半45分。1-3でエルフが追加点。
『うわー!』
敵味方関係なく全ての種族から感嘆の声が漏れる。それはレイさんが上げたゴラッソへの素直な称賛であった。
『どないや!』
熱狂の渦の中で、レイさんは両手を突き上げそれぞれ一本づつ指を立てて空――と言っても地底なので天井だが――をドヤ顔で指さした。
『レイ殿、流石でござる~』
『やばい! やばい!』
最速でレイさんの所へ駆けつけたリストさんとルーナさんが彼女に抱き付き身体を揺さぶる。更に仲間が駆けつけ手荒い祝福を行う間も、レイさんは空を指した指を降ろさなかった。
「ぴぴー!」
すぐさまドラゴンの審判さんが笛を吹き、ドワーフ側キックオフは行わずそのまま前半終了となる。皆と一緒に引き上げてきたレイさんはすれ違いざまに俺にウインクをし、ようやく両手を下げた。
それで俺は彼女の思惑を察した。上げた指は遠い空の下の誰かを思ってのモノなどではなく、彼女が上げたゴールの数を数えたものであり、そしてまたスタジアム外の上空を走るアレを指さしたものだったのだ。
ドワーフのゴンドラ。試合前に約束した通り、彼女と空中デートをする事が決まってしまった……。
「ボナザさんはどうでした?」
「心配ない。目眩は残っているが重傷ではないだろう、との事だ」
更衣室の外。俺とザックコーチ、男二人は壁に背を預け雑談しながら、選手達の着替えが終わるのを待っていた。
「ところで監督よ……」
「どうしました?」
「サッカードウとはこんなにも面白いものだったのだな」
「何を唐突に!?」
俺は急に真顔で――と言ってもミノタウロスの表情が完全に分かる訳ではないので想像だが――語りだしたフィジカルコーチの顔を見た。
「いや。俺も監督をそこそこ努めてきたが、選手の尻を叩いて走らせ鍛え気合いを入れ……何とも無味乾燥なコーチングしかしてこなかった」
「いえ、そういう部分も非常に大事ですよ」
「そう言って貰えると有り難いが、ミノタウロス代表チームと選手達には悪いことをしたな……と」
ザックコーチと彼の種族代表チームとの別れは決して美しいものではなかった。とは言え実はサッカーの監督とは、大きく分けると2種類しかないのだ。
解任された監督と、これから解任される監督。
「もしミノタウロス代表の監督に返り咲くチャンスがあったら……俺達のことは気にせず行って下さいね?」
「なんだと!? いや、そんなつもりはさらさら無いのだが……」
ザックコーチは円らな瞳を飛び出させて驚いた。この表情は流石に分かるな。
「いえ、それ位の気持ちでいて欲しいです。理由は三つ。一つ、貴男との対戦は本当に楽しかったから。ここで学んで更に強くなった貴男と貴男のチームと闘ってみたいんです。二つ、リーグ全体の監督のレベルを上げて欲しいから。まだ勝ってもいないのにおこがましいですが、アローズ一つが突出してしまっても面白くないですからね。三つ目は……」
ドアが開き、ナリンさんが合図を送ってきた。幾ら何でもまた着替え中という罠は無いだろう。俺はそちらへ向かう前に、急いでザックコーチに耳打ちした。
「もしザックさんが監督になって俺がエルフ代表をクビになってたら、そっちで俺を雇って下さい。次は主務とかデータ分析とか、監督より責任が軽い職務で」
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