244 / 700
第十四章
耐える樹
しおりを挟む
『お待ち下さい! 今のはこちらが先にキックモーションに入っていましたわ!』
アローズサポーターの大ブーイングを背にムルトさんが副審さんに詰め寄り抗議の声を上げる。他の選手達も一部はその場に加勢し、一部は倒れて痛がるオークのFWを囲んでいた。
「抗議は無意味だ、ナリンさん選手を下がらせて……」
そうナリンさんへ告げようとする俺の前を、いつの間にかボールを拾ったシャマーさんがオーク代表から逃げる様に走り去って行く。風景としては
「PKのボールを確保したい攻撃側の選手と、無駄な抵抗をする守備側の選手」
というよくある図式に過ぎないが、こんな所まで来るのはあまりある事ではないし通りすがりに見せたシャマーさんの表情も意味深だった。
「違うな。ナリンさんジノリコーチを呼んで下さい」
俺は指示を変更した。シャマーさんの表情の意味はこうだ。
『時間は稼いでやるから対策をとれ』
最終的には審判さんが上から舞い降りて事態は収拾を迎え、つつがなくPKが行われオーク代表が同点ゴールを上げた。いざとなればドラゴンの威光を使えるところがサッカードウの利点でもあるな。
因みにアイラさんの処遇はイエロカードで済んだ。背後からFWを蹴った形ではあるがさほど危険なファウルでも得点機会の妨害でもなかったからだろう。
「恐らく前半はロングスローで試合が殺されます。リストさんの上下動も負担なので彼女をボランチに下げて14321のクリスマスツリーで行きましょう」
その間を利用して俺はフォーメーションと作戦の変更を伝えていた。
「クリスマスツリー……でありますか?」
ナリンさんが不思議そうに訪ねるので俺はボードに配置を書いて説明を始める。
「FWを上にしてフォーメーション図を見た時に、その姿が木のように見える並びです。ロングスローのボールはヘディングでクリアしても思ったほど飛ばないしかといってサイドに逃げるとまたスローインでハメられるので、三名に増やしたボランチで拾うのを重視で。攻撃はもうカウンターしかできないので、FWのダリオさんとトップ下のアイラさんレイさんのドリブルに頼りましょう」
俺の言葉をナリンさんが通訳し、左右の並びやカウンターの優先順位についてジノリコーチが意見を加える。これでもしPKが決まらないとそれを選手達へ伝えるタイミングが難しくなるが、幸か不幸かボナザさんの手はオーク代表FWのキックを止めるには至らず、アローズのキックオフで再開するまでの間に指示が伝達された。
「思ってたより手札を切らされるもんだな……」
俺は思わず本音を漏らした。ドワーフ戦の戦術にせよ今のクリスマスツリーにせよ、こんなに早く、しかもぶっつけ本番で使うつもりはさらさら無かった。俺がこの世界の戦術レベルを見誤っていたか、俺がいろいろ持ち込んだ事で予想外の化学反応が起きてしまったか……。
いずれにせよ、それを考えるのは後だ。今は目の前の試合に勝たねばならない。俺は試合状況を注視しつつ、HTでチームに授けるロングスロー対策を脳内で練りメモに書き綴った。
そこからしばらく冷静に試合を見守ってみたが、アローズとオークのロングスローは一言で言えば相性は最悪だった。ここまで俺がエルフの選手達に植え付けてきたオフサイドトラップ、攻守の切り替えの早さ、ゾーンプレス等の主要武器は、オークの長距離砲戦術によって悉く無力化されたからだ。
まずルール的に言ってスローインにはオフサイドが適用されない。次に毎度、ボールがタッチラインを割る度に――遅延行為でカードが出ないギリギリの遅さで――ペイトーン選手が投げに向かうので試合のテンポは遅くなる。またオーク代表の攻撃はロングスロー一辺倒でボール保持を放棄するしスローインも短いのを使用しないので、エルフ代表がプレスで奪いに行くタイミングが無い。
これについては完全に俺の分析ミスだ。ただ強いて言い訳をするのであれば、視察してきた腕力のあるチーム、ミノタウロスやトロールといった面々が悉くロングスローを行っていなかったからだ。
いや正確に言えば、彼女らも試みた事はあるかもしれない。しかし両者とも言ってみれば強者のチーム。そのような奇襲を必要としないし、メンタリティにも合わないだろう。それになにより、己の持つ角や鉤爪といった身体的特徴が、ロングスローはおろかスローインそのものにまったくそぐわない。と言うか邪魔だ。
そういう意味では身体に余計なな突起物を持たず、腕力があり、固い守備からセットプレーでワンチャンスをモノにする事を狙うオーク代表がこのリーグでもっともロングスロー戦術に向いていた。むしろ昨シーズンまで使っていなかった事が意外だ。
ならば何故このシーズンから使い出したのか? というのを突き詰めて考えると、烏滸がましいがさっき考えたように「俺のせい」との推論が出てしまう。
いや、少なくとも今日このエルフ戦で披露される事になった理由は間違いなく俺であろう。オフサイドトラップを多用し、ドワーフ戦で一風変わったスローインを見せ、本来ならばリーシャさん対策に専念していたであろうペイトーン選手を結果的にフリーにしてこの戦法をとり易いようにし向けてしまったのだから。
つまりは自業自得ということだ。
アローズサポーターの大ブーイングを背にムルトさんが副審さんに詰め寄り抗議の声を上げる。他の選手達も一部はその場に加勢し、一部は倒れて痛がるオークのFWを囲んでいた。
「抗議は無意味だ、ナリンさん選手を下がらせて……」
そうナリンさんへ告げようとする俺の前を、いつの間にかボールを拾ったシャマーさんがオーク代表から逃げる様に走り去って行く。風景としては
「PKのボールを確保したい攻撃側の選手と、無駄な抵抗をする守備側の選手」
というよくある図式に過ぎないが、こんな所まで来るのはあまりある事ではないし通りすがりに見せたシャマーさんの表情も意味深だった。
「違うな。ナリンさんジノリコーチを呼んで下さい」
俺は指示を変更した。シャマーさんの表情の意味はこうだ。
『時間は稼いでやるから対策をとれ』
最終的には審判さんが上から舞い降りて事態は収拾を迎え、つつがなくPKが行われオーク代表が同点ゴールを上げた。いざとなればドラゴンの威光を使えるところがサッカードウの利点でもあるな。
因みにアイラさんの処遇はイエロカードで済んだ。背後からFWを蹴った形ではあるがさほど危険なファウルでも得点機会の妨害でもなかったからだろう。
「恐らく前半はロングスローで試合が殺されます。リストさんの上下動も負担なので彼女をボランチに下げて14321のクリスマスツリーで行きましょう」
その間を利用して俺はフォーメーションと作戦の変更を伝えていた。
「クリスマスツリー……でありますか?」
ナリンさんが不思議そうに訪ねるので俺はボードに配置を書いて説明を始める。
「FWを上にしてフォーメーション図を見た時に、その姿が木のように見える並びです。ロングスローのボールはヘディングでクリアしても思ったほど飛ばないしかといってサイドに逃げるとまたスローインでハメられるので、三名に増やしたボランチで拾うのを重視で。攻撃はもうカウンターしかできないので、FWのダリオさんとトップ下のアイラさんレイさんのドリブルに頼りましょう」
俺の言葉をナリンさんが通訳し、左右の並びやカウンターの優先順位についてジノリコーチが意見を加える。これでもしPKが決まらないとそれを選手達へ伝えるタイミングが難しくなるが、幸か不幸かボナザさんの手はオーク代表FWのキックを止めるには至らず、アローズのキックオフで再開するまでの間に指示が伝達された。
「思ってたより手札を切らされるもんだな……」
俺は思わず本音を漏らした。ドワーフ戦の戦術にせよ今のクリスマスツリーにせよ、こんなに早く、しかもぶっつけ本番で使うつもりはさらさら無かった。俺がこの世界の戦術レベルを見誤っていたか、俺がいろいろ持ち込んだ事で予想外の化学反応が起きてしまったか……。
いずれにせよ、それを考えるのは後だ。今は目の前の試合に勝たねばならない。俺は試合状況を注視しつつ、HTでチームに授けるロングスロー対策を脳内で練りメモに書き綴った。
そこからしばらく冷静に試合を見守ってみたが、アローズとオークのロングスローは一言で言えば相性は最悪だった。ここまで俺がエルフの選手達に植え付けてきたオフサイドトラップ、攻守の切り替えの早さ、ゾーンプレス等の主要武器は、オークの長距離砲戦術によって悉く無力化されたからだ。
まずルール的に言ってスローインにはオフサイドが適用されない。次に毎度、ボールがタッチラインを割る度に――遅延行為でカードが出ないギリギリの遅さで――ペイトーン選手が投げに向かうので試合のテンポは遅くなる。またオーク代表の攻撃はロングスロー一辺倒でボール保持を放棄するしスローインも短いのを使用しないので、エルフ代表がプレスで奪いに行くタイミングが無い。
これについては完全に俺の分析ミスだ。ただ強いて言い訳をするのであれば、視察してきた腕力のあるチーム、ミノタウロスやトロールといった面々が悉くロングスローを行っていなかったからだ。
いや正確に言えば、彼女らも試みた事はあるかもしれない。しかし両者とも言ってみれば強者のチーム。そのような奇襲を必要としないし、メンタリティにも合わないだろう。それになにより、己の持つ角や鉤爪といった身体的特徴が、ロングスローはおろかスローインそのものにまったくそぐわない。と言うか邪魔だ。
そういう意味では身体に余計なな突起物を持たず、腕力があり、固い守備からセットプレーでワンチャンスをモノにする事を狙うオーク代表がこのリーグでもっともロングスロー戦術に向いていた。むしろ昨シーズンまで使っていなかった事が意外だ。
ならば何故このシーズンから使い出したのか? というのを突き詰めて考えると、烏滸がましいがさっき考えたように「俺のせい」との推論が出てしまう。
いや、少なくとも今日このエルフ戦で披露される事になった理由は間違いなく俺であろう。オフサイドトラップを多用し、ドワーフ戦で一風変わったスローインを見せ、本来ならばリーシャさん対策に専念していたであろうペイトーン選手を結果的にフリーにしてこの戦法をとり易いようにし向けてしまったのだから。
つまりは自業自得ということだ。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる