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第十八章
相性の悪いシステムと愛嬌のあるエルフ
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今回インセクターがとってきた1325というシステムは、俺たちの1442に対して最も相性が良い配置と言っても間違いではなかった。
まず4枚のDFが並ぶ俺たちのDFラインに対してあちらの前線は5枚。単純に数でも優位だが、等間隔に並ぶDFに対して同じく等間隔にFWを並べると、何も考えなくてもFW達はDFのちょうど中間に立つ事になる。そう、ちょうど中間。DFにとってどちらが守備ににつくか一番、迷う位置だ。
一方、あちらのDFはSBが上がりケンドール選手が落ちてきて差し引き3名。こちらがFW2名でプレスをかけても向こうが1名多い。ましてそこには無骨なDFだけでなく、もともと戦術眼が高くボール扱いも上手いボランチ、あの蠍の姉さんがいるのである。
もちろん中盤になるとインセクターは2名の蜂しかいないし、逆にこちらはオーバーロードもしているしで極めて不利だ。だがそこは飛ばしてしまえば良い。
つまり不利な所はあっさり捨て、DFラインでは1名多いのとケンドール選手の個性を生かして良い状態でロングボールを蹴り、そのボールを位置と人数の有利な前線で受けて攻める、という戦術なのだ。
しかもそれをキックオフ時からではなく、試合の中で変形することで、だ。ご丁寧な事に前線に個性の違う選手を入れてこちらの視線がそちらへ集まった隙に。たぶん、これを仕込んだ奴は相当よい性格をしている。
そいつは試合前と同じように、暖かみすら感じさせる目で俺を見下ろしていた。
「母性ってあれかな。虫と人間で種族が違ってもあるんかな?」
インセクターの女王ボクシーさん。恐らく彼女がこの戦術を考え、指揮しているらしかった。昆虫族だけでなく俺までも掌で転がすように。
『きゃ、ごめんなさい!』
「あ、ごめんこちらこそ……て誰?」
余所見する俺に柔らかい感触がぶつかり、反射的に謝罪する。そちらにはアローズのユニフォームを来た見慣れないエルフの姿があった。
『眼鏡を、ムルト先輩に渡しちゃって、見えなくてですね』
デイエルフ共通の長い黒髪に美しい切れ目。しかしナリンさんやムルトさんのような冷たさを感じる様な美ではなく、微かに浮かべる笑みも合わさって親しみを感じる。ナリンさんが『月夜の百合』ならこの女性は『日中のチューリップ』だ。
あと体つきもアスリートと言うよりは女の子で、セクハラにならない様に心の中でこっそり呟くが抱き心地が良さそうだ。たぶんアローズの中でも若い方だろう。
「眼鏡を、あれで……ああ!」
何度か同じジェスチャーを繰り返されて、ようやく合点が行く。
「シノメさんか! 眼鏡がないから分からなかったよ!」
言葉は通じないだろうから俺も眼鏡をつけたり外したりする仕草をして、理解した事を伝えた。
そう、彼女こそムルトさんと同じく会計担当の事務員さんであり、サッカードウの選手でもあるシノメさんだった。
『ムルト先輩、無事だったのでやってくれると思います!』
「そっか!」
分からないながらなんとなく雰囲気で話す。その筋の人々にとって重要な情報だが彼女はムルト、リストに続く第3の眼鏡っ娘であり、本質的情報としてこの世界にコンタクトレンズは無いので彼女も常に眼鏡だった。しかし今は外しており、それで彼女だと気づかなかったのだ。
『私はロッカールームに眼鏡の予備をとってきますね』
「ああ、了解です」
彼女が何か言ったので、セクハラにならない程度に肩を叩いて行動を促す。すたすたとコンコースに消えたのでおトイレか何かかな?
「うーん、癒されるなあ」
シノメさんの可愛らしい後ろ姿を見ながら呟く、彼女は仕事こそ会計だがムルトさんのように冷徹でなく、拝み倒せば書類の締め切りを延ばしたり修正を手伝ってくれたりするので一部――不備だらけの申請書を出したり用途の説明が難しい領収書を出したりする俺のような野郎ども――に大人気であった。そうでなくても拝み倒せば何とかなりそうな女子って人気だしね! 何がだ?
「まあ今日も出番は無しか」
いま、トイレへ行く暇があると言うことはコーチ陣の交代策にも入っていないって事だろう。彼女は事務の仕事だけでなくサッカードウのプレイもムルトさんとは違う。頭脳的ではあるがサイズも身体能力も先輩ほどではなく、リーシャさんに代表されるような戦闘的なアタッカーのメンタルもない。むしろ身を粉にして他者の為に尽くすタイプなので、中盤で周りを助け廻る役割に向いていた。
あと事務員としてはムルトさんの後輩だが、アローズの選手としては彼女の方が先輩だ。昨シーズンもスタメン出場はゼロだが交代で10試合ほど出場している。ムルトさん加入の際、シノメさんが相談に乗ってあげたであろう事は想像に難くない。
「って交代策どうなってたんだっけ!」
シノメさんに見とれている場合ではない。俺がベンチ前に戻ると、コーチ陣の指示も終わって試合が再開されていた。
まず4枚のDFが並ぶ俺たちのDFラインに対してあちらの前線は5枚。単純に数でも優位だが、等間隔に並ぶDFに対して同じく等間隔にFWを並べると、何も考えなくてもFW達はDFのちょうど中間に立つ事になる。そう、ちょうど中間。DFにとってどちらが守備ににつくか一番、迷う位置だ。
一方、あちらのDFはSBが上がりケンドール選手が落ちてきて差し引き3名。こちらがFW2名でプレスをかけても向こうが1名多い。ましてそこには無骨なDFだけでなく、もともと戦術眼が高くボール扱いも上手いボランチ、あの蠍の姉さんがいるのである。
もちろん中盤になるとインセクターは2名の蜂しかいないし、逆にこちらはオーバーロードもしているしで極めて不利だ。だがそこは飛ばしてしまえば良い。
つまり不利な所はあっさり捨て、DFラインでは1名多いのとケンドール選手の個性を生かして良い状態でロングボールを蹴り、そのボールを位置と人数の有利な前線で受けて攻める、という戦術なのだ。
しかもそれをキックオフ時からではなく、試合の中で変形することで、だ。ご丁寧な事に前線に個性の違う選手を入れてこちらの視線がそちらへ集まった隙に。たぶん、これを仕込んだ奴は相当よい性格をしている。
そいつは試合前と同じように、暖かみすら感じさせる目で俺を見下ろしていた。
「母性ってあれかな。虫と人間で種族が違ってもあるんかな?」
インセクターの女王ボクシーさん。恐らく彼女がこの戦術を考え、指揮しているらしかった。昆虫族だけでなく俺までも掌で転がすように。
『きゃ、ごめんなさい!』
「あ、ごめんこちらこそ……て誰?」
余所見する俺に柔らかい感触がぶつかり、反射的に謝罪する。そちらにはアローズのユニフォームを来た見慣れないエルフの姿があった。
『眼鏡を、ムルト先輩に渡しちゃって、見えなくてですね』
デイエルフ共通の長い黒髪に美しい切れ目。しかしナリンさんやムルトさんのような冷たさを感じる様な美ではなく、微かに浮かべる笑みも合わさって親しみを感じる。ナリンさんが『月夜の百合』ならこの女性は『日中のチューリップ』だ。
あと体つきもアスリートと言うよりは女の子で、セクハラにならない様に心の中でこっそり呟くが抱き心地が良さそうだ。たぶんアローズの中でも若い方だろう。
「眼鏡を、あれで……ああ!」
何度か同じジェスチャーを繰り返されて、ようやく合点が行く。
「シノメさんか! 眼鏡がないから分からなかったよ!」
言葉は通じないだろうから俺も眼鏡をつけたり外したりする仕草をして、理解した事を伝えた。
そう、彼女こそムルトさんと同じく会計担当の事務員さんであり、サッカードウの選手でもあるシノメさんだった。
『ムルト先輩、無事だったのでやってくれると思います!』
「そっか!」
分からないながらなんとなく雰囲気で話す。その筋の人々にとって重要な情報だが彼女はムルト、リストに続く第3の眼鏡っ娘であり、本質的情報としてこの世界にコンタクトレンズは無いので彼女も常に眼鏡だった。しかし今は外しており、それで彼女だと気づかなかったのだ。
『私はロッカールームに眼鏡の予備をとってきますね』
「ああ、了解です」
彼女が何か言ったので、セクハラにならない程度に肩を叩いて行動を促す。すたすたとコンコースに消えたのでおトイレか何かかな?
「うーん、癒されるなあ」
シノメさんの可愛らしい後ろ姿を見ながら呟く、彼女は仕事こそ会計だがムルトさんのように冷徹でなく、拝み倒せば書類の締め切りを延ばしたり修正を手伝ってくれたりするので一部――不備だらけの申請書を出したり用途の説明が難しい領収書を出したりする俺のような野郎ども――に大人気であった。そうでなくても拝み倒せば何とかなりそうな女子って人気だしね! 何がだ?
「まあ今日も出番は無しか」
いま、トイレへ行く暇があると言うことはコーチ陣の交代策にも入っていないって事だろう。彼女は事務の仕事だけでなくサッカードウのプレイもムルトさんとは違う。頭脳的ではあるがサイズも身体能力も先輩ほどではなく、リーシャさんに代表されるような戦闘的なアタッカーのメンタルもない。むしろ身を粉にして他者の為に尽くすタイプなので、中盤で周りを助け廻る役割に向いていた。
あと事務員としてはムルトさんの後輩だが、アローズの選手としては彼女の方が先輩だ。昨シーズンもスタメン出場はゼロだが交代で10試合ほど出場している。ムルトさん加入の際、シノメさんが相談に乗ってあげたであろう事は想像に難くない。
「って交代策どうなってたんだっけ!」
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