D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第十八章

新たな武力

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『ふ~~!』
 そのエルフは腰を落とし両手を前に伸ばしつつ、静かに息を吐いていた。背は高くないがデイエルフには珍しい筋肉質で体幹もかなり強そうだ。アローズの中では若い部類に入るが、顔には歴戦の戦士のような経験と少しの緊張が刻まれている。試合前の女格闘家、といった感じだ。
「タッキさん、寺院で蟷螂拳とか蠍とかの象形拳って習ってる?」
 いや事実、彼女は格闘家なんだけどね。俺は今期初出場となる小柄なFWをリラックスさせようと、まずは雑談を投げかけた。
『タッキ、覇霊寺の修行では……ちょっと待って』
 が、通訳を始めたナリンさんは途中で少し詰まり俺に尋ねてきた。
「あの、ショーキチ殿、とうろうけんとかしょうけいけんって何でありますか?」
「あそっか、そりゃ知りませんよね」
 俺は納得して自分の頭を叩く。ナリンさんの日本語はクラマさんから学んだものだ。中国拳法やジャッキー映画までは聞いてないだろう。
「虫や動物の動きを武術に取り入れたのを象形拳って言うんですが、タッキさんのいた寺院の流派にありますかね?」
『タッキ、貴女の学んだ技術では……』
 ナリンさんが身振り手振りも交えて質問している間に、俺はタッキさんの後ろ姿を見る。長い黒髪を複雑な形で編み込みお団子にしてまとめた頭部、植物のツタの様な謎の入れ墨が走る首筋、ナリンさんの言葉を聞きながら柔軟に動かされている見事な僧帽筋、そして背中には9の数字。
 背番号9。そう、紛れもなくエースストライカーがつける番号だ。
「余所ではそういったモノもあったそうですが、彼女のいたイグア院では教えてないそうであります」
 余所にはあるんかい! 俺は思わず小さな笑いを漏らし、うろ覚えながら格闘ゲームで見た蟷螂拳の構えをとる。
「じゃあこれをチャンスにラーニングしてみても良いかもね?」
『この機会に技を盗んでみてはどうか? と』
『あはっ、カントクー! それじゃ駄目ネ』
 タッキさんは俺の動きを見て思わず笑い出し、近寄り太股と腰に手を沿える。
『カントクー、もっとココとココ、ちから抜いテ!』
 そう言って彼女はその手で俺の身体をゴシゴシとこする。近くで見るタッキさんの顔には首筋と同じ植物の入れ墨が入っており、もともと彫りの深い顔立ちと合わさってかなりエキセントリックな美少女さんだ。
 こんな娘が恐ろしい武術の使い手、モンクなんだよな……。俺はそのギャップにおののきながら彼女の来歴に思いを馳せた。

 モンク。元の言葉の意味では特定宗教の修道士を意味するが、ゲームではしばしば僧兵や武術家といった職業を指す。武器や防具はあまり装備せず代わりに気や体術を使い、身軽なので行動の幅が広く変化球的な個性も多いのでなかなかの人気クラスだ。
 そんな仕事というか生き様というかは、この世界にも存在する。その最大手が『覇霊寺(ばれいじ)』という寺院でタッキさんもそこに所属していた。
 ちなみに寺、とナリンさんも翻訳の魔法のアミュレットを言っているが特定の神やら仏やらを信仰している訳ではないようだ。瞑想と武術の訓練を通じて肉体と精神を研ぎ澄ませ心の面では霊的な高みを目刺し、俗世においては虐げられし衆生――しゅじょう、生きとし生けるすべてのもの、くらいの意味だ――を守るのが本懐使命らしい。
 その役割や名前のイメージから受ける通り寺院は人里離れた山岳に存在し難攻不落。まれに逃げ落ちた存在を追ってどこぞの軍隊やモンスターなどが攻め込む事もあったが、モンクたちと寺院の鉄壁の守りで一度もその地を汚された事はないらしい。
 また虚無の砂漠から生じるアンデッドとの戦いにも積極的。徴兵されたり喰うためにノトジアへ来たりした兵士よりよほど役に立っているそうだ。
 と、長々と回想したがつまりタッキさんはそんな所からやってきているエルフのモンクなのである。

「こうですか? あ、動き易い!」
 不思議と彼女に擦られた部分が暖かくなり、可動域が広くなっている。気でも送り込まれたか!?
『それとネ、カントクー。腕のカクドはコー』
 タッキさんは続いてその手を俺の背に沿って這わせ、肩から指先まで撫でる。うわ、なんかゾクゾクするぞ? でもこれはあくまでも武術なので大丈夫ですよー、ね? なんか意外と柔らかい身体も密着して、良い匂いがするけど。
「あの! ショーキチ監督、そろそろ……」
 流石にスタッフ、もとい赤い顔をしているナリンさんからストップがかかった。見ると第4審判さんの用意も整い、交代可能になっている様だ。
「じゃあ行っといで! あ、あとタッキさん、見てたと思うけど今日の審判はファウルとるから。足をあまり上げないようにね」
『タッキ、同じ間違いはしないように!』
『分かってるヨー。カントクもナリンもいじわるデス』
 俺の言葉が伝わるとタッキさんは拗ねた顔になってトボトボとセンターラインの方へ歩いていった。肉食獣のようなしなやかな筋肉を持つ、首や顔に入れ墨が入った幼い顔立ちの美少女、がふくれっ面をすると情報量が多くて頭がパンクするな。
「あー、サッカー面でのアドバイス何もできなかったけどー」
「まあ、タッキでありますし……」
 俺とナリンさんはそう言ってお互いを納得させた。程なく、その考えが間違いでなかったと知る事となる……。
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