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第十九章
古いスタジアムと爆弾
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残りの日々は問題なく過ぎて、試合の前の日を迎えた。俺たちは例によって前日練習を行うべく、試合会場でありゴブリン代表のホームスタジアムでもある『フィフティフフティスタジアム』に足を踏み入れた。
「ほほう、これはなかなか……」
選手達をウォーミングアップの為にピッチへ送りながら、俺は驚きの声を上げた。外観や更衣室からも想像はついていたが、スタジアムはかなり使い込まれている味わい深い建物だった。屋根はメインしかカバーせず座席は堅いベンチだけ。ゴール裏に至っては立ち見専用で椅子は無く身体を預ける手すりしかない。コンコースの屋根も着脱式で、観客のいない今は取り外されてぞんざいにベンチに立てかけられている。
総じて増改築が繰り返された跡が見えるが、その分ゴブリンさんたちの手間と愛着を感じた。
「ほっほっほ、アレはかなりの手練れの絵師と見たでござるぞ!」
俺の隣でリストさんが足を止め楽しそうに叫ぶ。愛と言えば様々な壁にかけられた横断幕――横長の布に選手の名前や格好良い異名を書いて応援するもので、サポーターが手作りしチームから許可を取ってスタジアムの各所に貼ったりぶら下げたりする物だ――にもそれが込められてそうだった。
名前だけのシンプルなモノから、可愛いイラストが添えられた力作まである。またその絵のレベルは漫画にうるさいナイトエルフの指摘通りかなり高そうだ。まあ俺は美術苦手だったし知らんけど。
「こういうの、前の日から用意しておいたりするもんなんっすね」
リストさんと共に横断幕を見渡しつつクエンさんが呟く。彼女を始め地下のエルフの面々は大洞穴でずっと似たような相手と、似たような場所でしか試合を行っていない。見るもの全てが珍しいのだろう。
「いや、ずっと掲げたままだと濡れたり汚れたりするので一般的には試合開始当日に、できれば早期入場とかしてセットするものなんですけど……」
サポーターとクラブの関係性によって、具体的に言えば癒着しているかビジネスライクな付き合いかによってこっそりか追加料金を払ってかの違いはあるが、たいていは一般客より先に入って目立つ場所を占有するのが普通である。
普通ではあるが……今は尋常な状態ではなかった。ことゴブリン代表については。
「けど今は特に応援が必要な時期なんでね」
「あ、連敗中だったすか?」
「ええ……」
開幕三連敗、1部昇格後、一度も勝利なし。それが熱い応援を受けるゴブリンチームの現状であった。
「およよショー殿、少し浮かない表情でござるな? お気に入りの絵師が望まないカップリングを描き始めたような顔でござるぞ?」
リストさんが俺の様子に気づき、こちらにはまるでピンと来ない表現でたぶん心配してくれた。
「うんまあ、これはこれで悩ましくてね」
俺がそう言うとクエンさんまで肩を落として続く。
「確かに対戦相手とは言え、連敗中のチームを抱える監督の心境なんか想像しちゃった日には、胃が痛いっすね……」
ナイトエルフは文化思想とも地上のエルフより比較的日本人に近く、クエンさんに至っては何日も共に旅をして苦楽を共にした仲だ。俺の心持ちを容易に察してくれたのだろう。
「そうなんですよ。負けが込むとチームも暗くなるし何をやっても成功しないような気分になるし……」
ウチだって開幕戦から対戦相手に恵まれてきただけで、初っ端からフェリダエに当たって粉砕でもされてた日には同じ末路を歩んでいたかもしれないのだ。そこはこの世界の日程君――Jリーグの対戦カードを決めるシステムの愛称だ。そう言えば異世界ではどうやって決めているのだろう?――に感謝だな。
「くっ、暗くなるのはごめんでござるな……」
いや地下のエルフかつ陰キャのリストさんが言うなや! と思ったものの、あまり沈まれても困るので俺は明るい声で話を続けた。
「あと全然逆だけど、爆弾処理班になるのが怖いって面もあります」
「はあ。爆弾処理とは何っすか?」
「クエン、声が大きいでござる!」
クエンさんが疑問を口にするとリストさんが慌てて後輩を押さえ小声で続ける。
「あまり構って貰えてない女の子の不満が溜まると爆弾という兵器になって破裂してしまうので、それが爆発しないように適度にデートしたりすることでござる!」
いやあってるけど違う! それはギャルゲーの話だろ! リストさん本当に知識が偏っているな!
「ああ、つまりショーパイセンがリアルタイムでやってる事っすね!」
してへんわ!
「違います! 地球では連敗中のチームをその爆弾に例える言い回しがあってですね、その連敗を止める……つまりそのチームに負けてしまって、遂に勝利を与えてしまう事を爆弾処理と言ったりするんです!」
この場合の爆弾、本物と言うよりはパーティーゲームで使われる風船とか音の鳴る玩具のイメージなんだろうけどね。
「なるほど。確かに連敗が止まるとニュースになって注目を集めますし、負け続けで調子が悪い筈のチームに負けるといろいろと言われそうっすよね」
変なジャンルでなければ基本的に理解力の高いクエンさんがそうまとめた。
「そうなんですよ。そしたら今度はこっちが爆弾になっちゃう可能性もあります……」
「あ! ゴブリン爆弾が来たでござる!」
ゴブリン爆弾? なんかTCGのカードみたいだな、と思う間にナイトエルフ2名は素早くピッチに走り、残された俺は去り際にリストさんが指さした方を見た。
メインスタンドの記者席付近が騒がしい。そちらには俺たちの次に前日練習を行う筈のゴブリンチームが既に揃っていた……。
第十九章:完
「ほほう、これはなかなか……」
選手達をウォーミングアップの為にピッチへ送りながら、俺は驚きの声を上げた。外観や更衣室からも想像はついていたが、スタジアムはかなり使い込まれている味わい深い建物だった。屋根はメインしかカバーせず座席は堅いベンチだけ。ゴール裏に至っては立ち見専用で椅子は無く身体を預ける手すりしかない。コンコースの屋根も着脱式で、観客のいない今は取り外されてぞんざいにベンチに立てかけられている。
総じて増改築が繰り返された跡が見えるが、その分ゴブリンさんたちの手間と愛着を感じた。
「ほっほっほ、アレはかなりの手練れの絵師と見たでござるぞ!」
俺の隣でリストさんが足を止め楽しそうに叫ぶ。愛と言えば様々な壁にかけられた横断幕――横長の布に選手の名前や格好良い異名を書いて応援するもので、サポーターが手作りしチームから許可を取ってスタジアムの各所に貼ったりぶら下げたりする物だ――にもそれが込められてそうだった。
名前だけのシンプルなモノから、可愛いイラストが添えられた力作まである。またその絵のレベルは漫画にうるさいナイトエルフの指摘通りかなり高そうだ。まあ俺は美術苦手だったし知らんけど。
「こういうの、前の日から用意しておいたりするもんなんっすね」
リストさんと共に横断幕を見渡しつつクエンさんが呟く。彼女を始め地下のエルフの面々は大洞穴でずっと似たような相手と、似たような場所でしか試合を行っていない。見るもの全てが珍しいのだろう。
「いや、ずっと掲げたままだと濡れたり汚れたりするので一般的には試合開始当日に、できれば早期入場とかしてセットするものなんですけど……」
サポーターとクラブの関係性によって、具体的に言えば癒着しているかビジネスライクな付き合いかによってこっそりか追加料金を払ってかの違いはあるが、たいていは一般客より先に入って目立つ場所を占有するのが普通である。
普通ではあるが……今は尋常な状態ではなかった。ことゴブリン代表については。
「けど今は特に応援が必要な時期なんでね」
「あ、連敗中だったすか?」
「ええ……」
開幕三連敗、1部昇格後、一度も勝利なし。それが熱い応援を受けるゴブリンチームの現状であった。
「およよショー殿、少し浮かない表情でござるな? お気に入りの絵師が望まないカップリングを描き始めたような顔でござるぞ?」
リストさんが俺の様子に気づき、こちらにはまるでピンと来ない表現でたぶん心配してくれた。
「うんまあ、これはこれで悩ましくてね」
俺がそう言うとクエンさんまで肩を落として続く。
「確かに対戦相手とは言え、連敗中のチームを抱える監督の心境なんか想像しちゃった日には、胃が痛いっすね……」
ナイトエルフは文化思想とも地上のエルフより比較的日本人に近く、クエンさんに至っては何日も共に旅をして苦楽を共にした仲だ。俺の心持ちを容易に察してくれたのだろう。
「そうなんですよ。負けが込むとチームも暗くなるし何をやっても成功しないような気分になるし……」
ウチだって開幕戦から対戦相手に恵まれてきただけで、初っ端からフェリダエに当たって粉砕でもされてた日には同じ末路を歩んでいたかもしれないのだ。そこはこの世界の日程君――Jリーグの対戦カードを決めるシステムの愛称だ。そう言えば異世界ではどうやって決めているのだろう?――に感謝だな。
「くっ、暗くなるのはごめんでござるな……」
いや地下のエルフかつ陰キャのリストさんが言うなや! と思ったものの、あまり沈まれても困るので俺は明るい声で話を続けた。
「あと全然逆だけど、爆弾処理班になるのが怖いって面もあります」
「はあ。爆弾処理とは何っすか?」
「クエン、声が大きいでござる!」
クエンさんが疑問を口にするとリストさんが慌てて後輩を押さえ小声で続ける。
「あまり構って貰えてない女の子の不満が溜まると爆弾という兵器になって破裂してしまうので、それが爆発しないように適度にデートしたりすることでござる!」
いやあってるけど違う! それはギャルゲーの話だろ! リストさん本当に知識が偏っているな!
「ああ、つまりショーパイセンがリアルタイムでやってる事っすね!」
してへんわ!
「違います! 地球では連敗中のチームをその爆弾に例える言い回しがあってですね、その連敗を止める……つまりそのチームに負けてしまって、遂に勝利を与えてしまう事を爆弾処理と言ったりするんです!」
この場合の爆弾、本物と言うよりはパーティーゲームで使われる風船とか音の鳴る玩具のイメージなんだろうけどね。
「なるほど。確かに連敗が止まるとニュースになって注目を集めますし、負け続けで調子が悪い筈のチームに負けるといろいろと言われそうっすよね」
変なジャンルでなければ基本的に理解力の高いクエンさんがそうまとめた。
「そうなんですよ。そしたら今度はこっちが爆弾になっちゃう可能性もあります……」
「あ! ゴブリン爆弾が来たでござる!」
ゴブリン爆弾? なんかTCGのカードみたいだな、と思う間にナイトエルフ2名は素早くピッチに走り、残された俺は去り際にリストさんが指さした方を見た。
メインスタンドの記者席付近が騒がしい。そちらには俺たちの次に前日練習を行う筈のゴブリンチームが既に揃っていた……。
第十九章:完
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