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第二十章
ゴブリン五里霧中
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「あー、バレちゃいましたか?」
気づいたのはやはり、カーリー選手だった。この洞察力……やはりリベロとして侮れない相手だ。
「セスの店に来て応援を教えてくれタ、エルフ連れで顔に特徴のない人間じゃないのカ!?」
いやそっちかい! てか顔に特徴がないって久しぶりに言われたわ!
「えっと、そうですけど」
「ここで働いていたのカ? なんで店に来なイ? セスが寂しがっていたゾ!」
なんと! 屋台の店員セス君も俺を覚えていたのか。なんか嬉しいな。
「いや、実はそうじゃなくて……」
「おっぱいは無いけど可愛いエルフの嫁を二人もモノにした手管を教えて欲しいっテ!」
いやそっちかい二度目! 誤解されている事が多すぎるな! 流石にそれは解消せねば。俺はニヤニヤと笑うカーリー選手に説明する事にした。
「すみません、訂正させて下さい。一つには、俺はこのスタジアムの従業員ではなくてエルフ代表チームの監督です。二つには、あの時の二名は嫁じゃなくてガイドとコーチです。あと三つには……えっと……」
彼女たちはおっぱいが無いんじゃなくて控え目なだけです、と続けて良いものか悩んで止まる。
「ええッ!?」
その間に、ゴブリン代表キャプテンの顔から笑いが消え驚愕の表情がそれを覆った。そしてゴブリン特有の、ほ乳類とは虫類の間くらいな目が俺の顔をジロジロと見渡す。
「確かニ……。中継で見た気がするナ。ナイチチ監督だっケ?」
「無い乳じゃないですショーキチです!」
だから彼女達は胸が控え目なだけだって!
「そうカ、それはすまんかっタ! 明日は宜しくナ!」
カーリー選手はカカと笑って――カカとはブラジルの天才MFの名前じゃなくて擬音だよ?――手を差し出した。
「いえいえ大したことないですよ。こちらこそ明日は宜しくお願いします」
相手チームの監督と聞いても別に敵意をぶつけてもこない。カーリー選手もカカほどじゃないが聖人もとい聖ゴブリンだ。俺も微笑みながら手を出し握手した。
「ところデ……ダリオ選手のサインとか貰えるカ?」
結局お前もミーハーかよっ!
俺達は残りの時間、非公開の部分で主にセットプレーの確認を行い練習を切り上げた。物理的な意味でも魔術的な意味でもスパイはいなかったとステフが太鼓判を押したし、コーチ陣も大胸、もとい概ねトレーニング内容に満足したとの事なので安心だ。
しかしカーリー選手におっぱいがどうのこうのと言われたせいで、どうしても胸について考えてしまうなあ。
「むむ? スタジアムは何ともないが、ショーキチから邪な波動を感じるぞ?」
「目がいやらしいっすよ」
「ふっふけつだ!」
タイミング悪く、俺の近くへ来たステフとアカリさんサオリさんがこちらを怪しむような目をして話しかけてきた。まずいぞ、子供みたいな体格のステフに加えてゴルルグ族、蛇人間ゆえ当然胸が無いアカサオまで来てしまった!
「そっ、そんな訳ないだろ! それより各自偵察を頼むよ?」
大胸ではなく小胸が揃ってしまった、と思っていたのがバレないよう、俺は慌ててコンコースの方を指さした。折しも入れ替わるようにアローズとゴブリン代表がすれ違っている。
「ふん、まあいいだろう」
「ゴブリンはイージーっすから」
「しっ、身長だけだよね」
ダスクエルフとゴルルグはそう言って俺の視界から消えた。どこか物陰へ入ってからそれぞれ魔法で姿を消したりゴブリンに変装したりして任務を果たしてくれる筈だ。
「頼みますよ、と。しかし今回は俺がやれる事が少ないなあ」
俺は適当な方向を拝んで手を合わせる。ボクシー女王を相手に選手を使ったチェスでもしていたようなインセクター戦と異なり、ゴブリン戦はそれほど俺が介入する事は無いような気がする。それだけに事前準備が必要で、だがその事前準備においても欠席したりスタッフに任せたりする部分が多くて……。
「まあでも組織としては良い傾向だよな」
思考が二転三転するが、まあ最終的にはポジティブに考えるしかない。俺はいきなりボールを蹴り出したゴブリン代表の方へ目をやった。
「うん、これは低迷するチームあるあるだな……」
申し訳ないが、俺は冒頭から紅白戦を始めたゴブリン代表の練習を見て一人、そう言ってしまった。
割と誤解されている事ではあるが、実戦で高められる『強さ』は思われているほど多くない。例えば軍隊の部隊などは訓練後戦場に出て戦闘力が上昇するものの、すぐ頭打ちになってやがて減少していく一方らしい。
まあそれは命がけの戦闘で肉体的精神的疲労が蓄積し易いという特殊な例というのもあるが、スポーツの方でも実戦や実戦形式の練習ばかりやって明確な目的をもったトレーニングを行わないと、チーム力は落ちていくものなのだ。
理由としてはたぶん、勝負には『不思議の勝ち』というものがあって理由は分からないが運良く上手くいった、という物事が多く含まれるからだ。実戦での経験を重視し過ぎるとその理由のない成功に囚われ、再現性の少ない手法に自信と拘りを持ってしまう。そうなると他の部分ややり方は延びないし、直すべき部分からは目を逸らしてしまう。
そして相手にとっても対策が取りやすくなる。で負けが込むのでより以前の成功体験に縋ってそちらばかり重視しさらに負ける、という悪循環……。
因みにアローズでももちろん試合形式の練習を行うが、それは課題の洗い出しや実戦に近い状況での動きや選手の個性を確認する意味合いが強い。
「カー監督も苦心してんだろうけどね……」
俺はゴブリン代表監督――名前を実際に口に出すとかーかんとくで言い間違えみたいだね――の事を考えつつ、重いため息をつくのであった……。
気づいたのはやはり、カーリー選手だった。この洞察力……やはりリベロとして侮れない相手だ。
「セスの店に来て応援を教えてくれタ、エルフ連れで顔に特徴のない人間じゃないのカ!?」
いやそっちかい! てか顔に特徴がないって久しぶりに言われたわ!
「えっと、そうですけど」
「ここで働いていたのカ? なんで店に来なイ? セスが寂しがっていたゾ!」
なんと! 屋台の店員セス君も俺を覚えていたのか。なんか嬉しいな。
「いや、実はそうじゃなくて……」
「おっぱいは無いけど可愛いエルフの嫁を二人もモノにした手管を教えて欲しいっテ!」
いやそっちかい二度目! 誤解されている事が多すぎるな! 流石にそれは解消せねば。俺はニヤニヤと笑うカーリー選手に説明する事にした。
「すみません、訂正させて下さい。一つには、俺はこのスタジアムの従業員ではなくてエルフ代表チームの監督です。二つには、あの時の二名は嫁じゃなくてガイドとコーチです。あと三つには……えっと……」
彼女たちはおっぱいが無いんじゃなくて控え目なだけです、と続けて良いものか悩んで止まる。
「ええッ!?」
その間に、ゴブリン代表キャプテンの顔から笑いが消え驚愕の表情がそれを覆った。そしてゴブリン特有の、ほ乳類とは虫類の間くらいな目が俺の顔をジロジロと見渡す。
「確かニ……。中継で見た気がするナ。ナイチチ監督だっケ?」
「無い乳じゃないですショーキチです!」
だから彼女達は胸が控え目なだけだって!
「そうカ、それはすまんかっタ! 明日は宜しくナ!」
カーリー選手はカカと笑って――カカとはブラジルの天才MFの名前じゃなくて擬音だよ?――手を差し出した。
「いえいえ大したことないですよ。こちらこそ明日は宜しくお願いします」
相手チームの監督と聞いても別に敵意をぶつけてもこない。カーリー選手もカカほどじゃないが聖人もとい聖ゴブリンだ。俺も微笑みながら手を出し握手した。
「ところデ……ダリオ選手のサインとか貰えるカ?」
結局お前もミーハーかよっ!
俺達は残りの時間、非公開の部分で主にセットプレーの確認を行い練習を切り上げた。物理的な意味でも魔術的な意味でもスパイはいなかったとステフが太鼓判を押したし、コーチ陣も大胸、もとい概ねトレーニング内容に満足したとの事なので安心だ。
しかしカーリー選手におっぱいがどうのこうのと言われたせいで、どうしても胸について考えてしまうなあ。
「むむ? スタジアムは何ともないが、ショーキチから邪な波動を感じるぞ?」
「目がいやらしいっすよ」
「ふっふけつだ!」
タイミング悪く、俺の近くへ来たステフとアカリさんサオリさんがこちらを怪しむような目をして話しかけてきた。まずいぞ、子供みたいな体格のステフに加えてゴルルグ族、蛇人間ゆえ当然胸が無いアカサオまで来てしまった!
「そっ、そんな訳ないだろ! それより各自偵察を頼むよ?」
大胸ではなく小胸が揃ってしまった、と思っていたのがバレないよう、俺は慌ててコンコースの方を指さした。折しも入れ替わるようにアローズとゴブリン代表がすれ違っている。
「ふん、まあいいだろう」
「ゴブリンはイージーっすから」
「しっ、身長だけだよね」
ダスクエルフとゴルルグはそう言って俺の視界から消えた。どこか物陰へ入ってからそれぞれ魔法で姿を消したりゴブリンに変装したりして任務を果たしてくれる筈だ。
「頼みますよ、と。しかし今回は俺がやれる事が少ないなあ」
俺は適当な方向を拝んで手を合わせる。ボクシー女王を相手に選手を使ったチェスでもしていたようなインセクター戦と異なり、ゴブリン戦はそれほど俺が介入する事は無いような気がする。それだけに事前準備が必要で、だがその事前準備においても欠席したりスタッフに任せたりする部分が多くて……。
「まあでも組織としては良い傾向だよな」
思考が二転三転するが、まあ最終的にはポジティブに考えるしかない。俺はいきなりボールを蹴り出したゴブリン代表の方へ目をやった。
「うん、これは低迷するチームあるあるだな……」
申し訳ないが、俺は冒頭から紅白戦を始めたゴブリン代表の練習を見て一人、そう言ってしまった。
割と誤解されている事ではあるが、実戦で高められる『強さ』は思われているほど多くない。例えば軍隊の部隊などは訓練後戦場に出て戦闘力が上昇するものの、すぐ頭打ちになってやがて減少していく一方らしい。
まあそれは命がけの戦闘で肉体的精神的疲労が蓄積し易いという特殊な例というのもあるが、スポーツの方でも実戦や実戦形式の練習ばかりやって明確な目的をもったトレーニングを行わないと、チーム力は落ちていくものなのだ。
理由としてはたぶん、勝負には『不思議の勝ち』というものがあって理由は分からないが運良く上手くいった、という物事が多く含まれるからだ。実戦での経験を重視し過ぎるとその理由のない成功に囚われ、再現性の少ない手法に自信と拘りを持ってしまう。そうなると他の部分ややり方は延びないし、直すべき部分からは目を逸らしてしまう。
そして相手にとっても対策が取りやすくなる。で負けが込むのでより以前の成功体験に縋ってそちらばかり重視しさらに負ける、という悪循環……。
因みにアローズでももちろん試合形式の練習を行うが、それは課題の洗い出しや実戦に近い状況での動きや選手の個性を確認する意味合いが強い。
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