358 / 700
第二十章
強い石で跳ね返す
しおりを挟む
『ボナザ!』
高く舞い上がったボールがアローズゴールめがけて飛んでいきニャイアーコーチが叫んだ。高いラインの後ろのスペースを埋めていたGKのボナザさんはバックステップをしながら落下点へ急ぐ。
俺たちの脳裏にドワーフ戦の悪夢――頭上を越えそうなボールを防ぐために後ろへ飛び、後頭部からピッチに落ちたボナザさんの姿――が蘇る。
『心配なさんなって!』
しかし、ボナザさんは綺麗に身体を捩りながら後方へ跳び、ボールをゴールマウスの外へ弾き出しつつ受け身を取った。
「「ゴブーーー」」
観衆がどよめく。今日初めてのチャンスをゴブリン代表が逃した悔しさ、そして意外な事に難しいシュートを止めたボナザさんの美技を賞賛するため息のようだった。
「怖わっ、今の触らなければ入ってましたよね?」
「ええ。ニャイアーもそう言っているであります」
俺がそう言うとナリンさんがGKコーチにわざわざ確認して教えてくれる。真面目だなこのエルフ。
「しかし最初のキックであの精度か。そうなると……」
ピンチを一つ乗り越えたが、引き続きゴブリン代表のCKだ。一般的に言って、フリーキックを担当する選手は蹴れば蹴るほど徐々に狙いが正確になっていく。
さっきは動きがある中で浮き玉を蹴ってあの威力だ。二度目、そして本職のプレースキックならいかほどのものか。
アローズのセットプレー守備が試される瞬間が訪れようとしていた。
『リスト! 難しい事はしなくていいよ!』
『合点承知!』
ボナザさんが何かリストさんに叫び先制点を演出したナイトエルフがそれに応えるのが見えた。
セットプレーの守備にもゾーンとマンマークとそれのミックスがあるが、俺たちは主にゾーンを選択していた。普段と同じくまず危険なエリアに選手を並べ、互いにカバーできる位置をブロックを作る。そして中へ入ってきたボールを跳ね返すのだ
特殊な点は『ストーン』と呼ばれる存在がいる事だ。特に空中戦に強い選手が選ばれ、作った守備ブロックの外に単独で置かれる。皆で守っているエリアの外の、急所となりそうな場所を守る役目を負う。
「守備ブロックが城壁あるいは城で、その守備の穴をカバーするべくポイントに設置される防護塔の様な存在です」
と説明するとファンタジー世界の住人たちはあっさりと理解してくれた。
で、今回の場合ストーンその1を担当するのがリストさんだった。彼女の居場所はボールが飛んでくるコーナー側ゴールポストの斜め前。役割は速いボールがゴール近くに飛んできたら、クリアすること。
ゴール付近に威力が強いボールが入れば軽くコースが変わるだけでもゴールに入るしオウンゴールの危険も高い。なので攻撃側としてはまずそこに入れたい所だ。その場所をリストさんが守るのだ。
『変化……!』
早速、クレイ選手がインスイングのボールを蹴ってきた。それは鋭く曲がりながらニアポストの内側に巻き込みような軌道を描く、ゴールを直接狙うタイプのキックだった!
『御意ーん!』
しかし、ボナザさんの声を聞いたリストさんがヘッドでクリアしゴールラインの外へ弾く。
『リストナイスです! もう一回跳ね返しますよ!』
辛くも守ったがもう一度、ゴブリン代表のCKだ。ゴール前中央でストーンその2を担当するムルトさんがチームに何か声をかけた。
「今の、やっぱ気持ち悪い変化したから?」
「そうでありますね。途中から回転がなくなってブレていたであります」
ベンチ前から素人目に見ていると、普通にセンター方面にクリアしたり運が良ければトラップできそうなボールに見えた。だがリストさんがエンド方向にヘディングして再びCKになったのは、ボールの軌道が予想外の変化をする恐れがあったからだろう。
「ですか。やっぱエルフの目すげーな」
俺は羨ましさを隠さずに言った。近くのボナザさんやリストさんは兎も角、ベンチ前からその回転を見て認識するとは。俺なんか、リプレイのスローでやっと気づくレベルだろう。
「リストをストーンに置いたショーキチ殿も『すげー』でありますよ!」 ナリンさんは笑いながらフォローしてくれた。
「いやまあみんなやってる事ですし」
俺は地球で観てきた試合を思い出しながら言った。ニアサイドのストーンに長身の選手を置くのは基本だからだ。
さっきも言及したように、攻撃側としては第一に速いボールをゴール付近に入れたい。しかしその前に背の高い選手がいると、まずはその選手を越えるボールを蹴らないとそこで止められてしまう。
ではストーンを越える高いボールを蹴る、となるとその系統のは滞空時間が長いので、どうしても速度が遅くなってしまう。そうなると手が使えるGKが余裕でキャッチするという結果になりがちだ。
つまり低くて速いのを蹴ってストーンに跳ね返されるか、高くて遅いのを蹴ってGKにキャッチされるのかの嫌な2択を強いられる。何気に前者を選んでストーンに跳ね返される事も意外と多く、シーズン終了後に統計を見るとセットプレーでのヘディングクリア数はFWが一番多かった、みたいな結果が出る事もある。その不思議な結果のタネは明かすまでもない、該当のFWがストーンを担当していた、だったり。
で、我らがアローズにおいてそのストーンその1の適任者はリストさん以外に考えられなかった。長身とジャンプ力の両方を備えているだけでなく、CBもこなす二刀流の選手だからだ。次点はヨンさんだろう。長身のストロングヘッダーとなるとムルトさんの名も上がるが、彼女はストーンその2――ゴール前のど真ん中に位置して一番広いエリアの制空権を掌握するのが仕事だ――を担当するので除外される。彼女はまたその冷静な頭脳でブロックを外から見て修正し、守備をより強固なものにしていた。
そんな頑健なセットプレー守備を誇るアローズにクレイ選手はどうやって挑むのか? その答えが間もなく明かされようとしていた。
高く舞い上がったボールがアローズゴールめがけて飛んでいきニャイアーコーチが叫んだ。高いラインの後ろのスペースを埋めていたGKのボナザさんはバックステップをしながら落下点へ急ぐ。
俺たちの脳裏にドワーフ戦の悪夢――頭上を越えそうなボールを防ぐために後ろへ飛び、後頭部からピッチに落ちたボナザさんの姿――が蘇る。
『心配なさんなって!』
しかし、ボナザさんは綺麗に身体を捩りながら後方へ跳び、ボールをゴールマウスの外へ弾き出しつつ受け身を取った。
「「ゴブーーー」」
観衆がどよめく。今日初めてのチャンスをゴブリン代表が逃した悔しさ、そして意外な事に難しいシュートを止めたボナザさんの美技を賞賛するため息のようだった。
「怖わっ、今の触らなければ入ってましたよね?」
「ええ。ニャイアーもそう言っているであります」
俺がそう言うとナリンさんがGKコーチにわざわざ確認して教えてくれる。真面目だなこのエルフ。
「しかし最初のキックであの精度か。そうなると……」
ピンチを一つ乗り越えたが、引き続きゴブリン代表のCKだ。一般的に言って、フリーキックを担当する選手は蹴れば蹴るほど徐々に狙いが正確になっていく。
さっきは動きがある中で浮き玉を蹴ってあの威力だ。二度目、そして本職のプレースキックならいかほどのものか。
アローズのセットプレー守備が試される瞬間が訪れようとしていた。
『リスト! 難しい事はしなくていいよ!』
『合点承知!』
ボナザさんが何かリストさんに叫び先制点を演出したナイトエルフがそれに応えるのが見えた。
セットプレーの守備にもゾーンとマンマークとそれのミックスがあるが、俺たちは主にゾーンを選択していた。普段と同じくまず危険なエリアに選手を並べ、互いにカバーできる位置をブロックを作る。そして中へ入ってきたボールを跳ね返すのだ
特殊な点は『ストーン』と呼ばれる存在がいる事だ。特に空中戦に強い選手が選ばれ、作った守備ブロックの外に単独で置かれる。皆で守っているエリアの外の、急所となりそうな場所を守る役目を負う。
「守備ブロックが城壁あるいは城で、その守備の穴をカバーするべくポイントに設置される防護塔の様な存在です」
と説明するとファンタジー世界の住人たちはあっさりと理解してくれた。
で、今回の場合ストーンその1を担当するのがリストさんだった。彼女の居場所はボールが飛んでくるコーナー側ゴールポストの斜め前。役割は速いボールがゴール近くに飛んできたら、クリアすること。
ゴール付近に威力が強いボールが入れば軽くコースが変わるだけでもゴールに入るしオウンゴールの危険も高い。なので攻撃側としてはまずそこに入れたい所だ。その場所をリストさんが守るのだ。
『変化……!』
早速、クレイ選手がインスイングのボールを蹴ってきた。それは鋭く曲がりながらニアポストの内側に巻き込みような軌道を描く、ゴールを直接狙うタイプのキックだった!
『御意ーん!』
しかし、ボナザさんの声を聞いたリストさんがヘッドでクリアしゴールラインの外へ弾く。
『リストナイスです! もう一回跳ね返しますよ!』
辛くも守ったがもう一度、ゴブリン代表のCKだ。ゴール前中央でストーンその2を担当するムルトさんがチームに何か声をかけた。
「今の、やっぱ気持ち悪い変化したから?」
「そうでありますね。途中から回転がなくなってブレていたであります」
ベンチ前から素人目に見ていると、普通にセンター方面にクリアしたり運が良ければトラップできそうなボールに見えた。だがリストさんがエンド方向にヘディングして再びCKになったのは、ボールの軌道が予想外の変化をする恐れがあったからだろう。
「ですか。やっぱエルフの目すげーな」
俺は羨ましさを隠さずに言った。近くのボナザさんやリストさんは兎も角、ベンチ前からその回転を見て認識するとは。俺なんか、リプレイのスローでやっと気づくレベルだろう。
「リストをストーンに置いたショーキチ殿も『すげー』でありますよ!」 ナリンさんは笑いながらフォローしてくれた。
「いやまあみんなやってる事ですし」
俺は地球で観てきた試合を思い出しながら言った。ニアサイドのストーンに長身の選手を置くのは基本だからだ。
さっきも言及したように、攻撃側としては第一に速いボールをゴール付近に入れたい。しかしその前に背の高い選手がいると、まずはその選手を越えるボールを蹴らないとそこで止められてしまう。
ではストーンを越える高いボールを蹴る、となるとその系統のは滞空時間が長いので、どうしても速度が遅くなってしまう。そうなると手が使えるGKが余裕でキャッチするという結果になりがちだ。
つまり低くて速いのを蹴ってストーンに跳ね返されるか、高くて遅いのを蹴ってGKにキャッチされるのかの嫌な2択を強いられる。何気に前者を選んでストーンに跳ね返される事も意外と多く、シーズン終了後に統計を見るとセットプレーでのヘディングクリア数はFWが一番多かった、みたいな結果が出る事もある。その不思議な結果のタネは明かすまでもない、該当のFWがストーンを担当していた、だったり。
で、我らがアローズにおいてそのストーンその1の適任者はリストさん以外に考えられなかった。長身とジャンプ力の両方を備えているだけでなく、CBもこなす二刀流の選手だからだ。次点はヨンさんだろう。長身のストロングヘッダーとなるとムルトさんの名も上がるが、彼女はストーンその2――ゴール前のど真ん中に位置して一番広いエリアの制空権を掌握するのが仕事だ――を担当するので除外される。彼女はまたその冷静な頭脳でブロックを外から見て修正し、守備をより強固なものにしていた。
そんな頑健なセットプレー守備を誇るアローズにクレイ選手はどうやって挑むのか? その答えが間もなく明かされようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる