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第二十一章
樹になることの数々
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拉致監禁という言葉の剣呑さとは裏腹に部屋の外は幻想的で平和なモノだった。まず俺の推測通りさっきまでいたのは樹木の内側で、出た先はその大木の周りに設置された手すり付き足場の上だった。だがその大木は俺たちがいた一本だけではない。何十本何百本と見渡す限りに広がっていて――夜だったので視界が制限されているというのもあるが――その終わりは見えず、その見える範囲全てに足場や橋が張り巡らされており一つの『街』を形成しているようだった。
住居、商店、何かの作業場……宙に浮かぶ魔法の灯りに照らされたそれらの形は様々だが、樹木本来の姿を最大限に生かし手を加えるのは最小限にしている様だ。木々の上の建築物と言う意味では俺の家とも同じだが、俺のは木の上に船を置いているし、何より高さが違う。
「うわ……ここ、だいたい何mくらいの高度なんすか?」
「最初に聞くのが、それ?」
俺の質問にバートさんはクスクスと笑った。仕方ないじゃん俺、高いところ苦手なんだよ!
「えっとね、ここはルーク聖林という森なんだけど、木々の高さは平均80mくらい。居住区は50mくらいに位置している事が多いかな」
笑いながらも道を先導し続けるエルフは説明してくれた。随分スラスラと出るな。メイドじゃなくてツリーメイト、と言ってたか。バートさんは木々の世話をする職種のエルフなんだろうか。
「そっすか。ここがルーク聖林ですか」
「……あら? 上手く聞き出されちゃった。しかもご存じ?」
平坦な場所で揃うと意外と背が高かったバートさんは、耳聡く俺の言葉を聞きつけ言った。
「仕事柄、地図はよく見る方でして」
監督室の壁の一角には、この大陸全体の地図が張ってあり暇な時に眺めている。主な目的は次の遠征地の確認だったりするが。
「じゃあ知ってる事の上書きになるかもだけど改めて。ここはルーク聖林。真のエルフ達が住む最大の居住区にして魂のふるさと。貴男は必要があってここに呼ばれた。……デニス老公会に」
そうして彼女が教えてくれた事は、予想していたとは言え少しショックな内容だった。
デニス老公会。デイエルフの長老会議的存在。広大な国土に広がり、あまり国家らしい体を成していないデイエルフの集団を緩やかに統率している指導者たちの集まり。だが、サッカードウ的に言えば先だって俺に抗議文を送ってきた連中と説明した方が分かり易いか。
まあその『抗議文』というのも、サッカードウエルフ代表の非デイエルフ化を憂うというか、もっとデイエルフの選手を使いやがれ! 的なただの要望書なんだけどね!
……いや、前言撤回。残念ながらただの要望書ではない。もしこれが『もっと俺たちの好きな選手を使ってくれ』みたいな投書であったなら笑い飛ばすだけで済んだ。実の所、『あの選手を使って欲しい』『こんな戦術を思いついたので試せ』という手紙の類は、ちょっと信じられない量で来ている。そして黙殺している。
当たり前だ。一般の皆さん――ファンや戦術マニアやどこかのお偉いさん――が考える程度の思いつき、俺たちコーチ陣はとっくの昔に検討済みだし、その上で実現可能性や選手との相性や相手やコンディションを考慮した上で今の戦術やシステム、メンバーで戦っている。しかも負けた場合はその責任の全てを負う。内実も知らず責任も取らない方々のご意見などを聞いて動くことはないのだ。
では今回の件はそれらと何が違うか? というと……要望の中身と発信者が問題なのだ。
エルフの中でもデイエルフを優遇し、その他のエルフは補佐の立場で使用するように、と。好みではなく人種、種族で差別しろと言ってきている。
到底、受け入れられない。俺は彼女たちをサッカードウプレイヤーとして公平に扱ってきたつもりだ。もちろん、性格や個性によって接し方――どのタイミングで励ますべきか、どんな時に厳しい声をかけるべきか――は変えている。それが結果として根性論寄りのデイエルフには感情に訴えかける、自分で試行錯誤したいドーンエルフにはアイデアを投げかける、といった傾向はある。また内心でやっぱりこの子はデイエルフだなあ、といった感想を抱く事もある。
だが種族の色眼鏡で決めつけたり、贔屓したりはしていない。そもそもデイエルフだから貴女はスタメンです、と決めたらそれこそ選手に失礼だ。彼女たちはあくまでも自分の実力――と体調と運と相手との噛み合わせが思ったより多くを占めているんだけどね!――でポジションを勝ち取っている。
それにそんな事が勝ち気なリーシャさんや潔癖のムルトさんに知れたら……ぶるぶる。烈火のように怒ったり、氷のような眼で軽蔑してくるだろう。
なので差別的なお年寄り達の要求には断固としてノーを突きつける、予定だ。予定なのだが、ここでもう一つの問題。
繰り返すがデニス老公会は影響力が強い。数の構成比でも国土の面積で言っても最大与党のデイエルフから尊敬されている上に、寿命が長いので積み重ねてきた経験、歴史、知識、敬意の蓄積が膨大だ。おかしな例えだが現代に生きる吸血鬼を描いた小説やゲーム等で吸血鬼の長老が
「それはワシの陰謀。これもワシの計画。あいつはワシが育てた」
と言ってくるようなモノだ。
そんな彼ら彼女らと真っ向から対立するような事があったら、今後のチーム運営に多大な支障が出るだろう。
応援のボイコット、ネガティブキャンペーン……特に心配なのは選手だ。最悪の場合、デニス老公会がデイエルフの子たちにチーム不参加を呼びかけでもしたら、該当の選手達は非常に苦しい立場に追い込まれる。その心労は計り知れない。
かのお年寄り達はそれだけの影響力と、実行力を持っている。老公会に強い尊敬の念を抱くパリスさんを利用し、俺を実際に拐かしここまで連れてきたのだから……。
住居、商店、何かの作業場……宙に浮かぶ魔法の灯りに照らされたそれらの形は様々だが、樹木本来の姿を最大限に生かし手を加えるのは最小限にしている様だ。木々の上の建築物と言う意味では俺の家とも同じだが、俺のは木の上に船を置いているし、何より高さが違う。
「うわ……ここ、だいたい何mくらいの高度なんすか?」
「最初に聞くのが、それ?」
俺の質問にバートさんはクスクスと笑った。仕方ないじゃん俺、高いところ苦手なんだよ!
「えっとね、ここはルーク聖林という森なんだけど、木々の高さは平均80mくらい。居住区は50mくらいに位置している事が多いかな」
笑いながらも道を先導し続けるエルフは説明してくれた。随分スラスラと出るな。メイドじゃなくてツリーメイト、と言ってたか。バートさんは木々の世話をする職種のエルフなんだろうか。
「そっすか。ここがルーク聖林ですか」
「……あら? 上手く聞き出されちゃった。しかもご存じ?」
平坦な場所で揃うと意外と背が高かったバートさんは、耳聡く俺の言葉を聞きつけ言った。
「仕事柄、地図はよく見る方でして」
監督室の壁の一角には、この大陸全体の地図が張ってあり暇な時に眺めている。主な目的は次の遠征地の確認だったりするが。
「じゃあ知ってる事の上書きになるかもだけど改めて。ここはルーク聖林。真のエルフ達が住む最大の居住区にして魂のふるさと。貴男は必要があってここに呼ばれた。……デニス老公会に」
そうして彼女が教えてくれた事は、予想していたとは言え少しショックな内容だった。
デニス老公会。デイエルフの長老会議的存在。広大な国土に広がり、あまり国家らしい体を成していないデイエルフの集団を緩やかに統率している指導者たちの集まり。だが、サッカードウ的に言えば先だって俺に抗議文を送ってきた連中と説明した方が分かり易いか。
まあその『抗議文』というのも、サッカードウエルフ代表の非デイエルフ化を憂うというか、もっとデイエルフの選手を使いやがれ! 的なただの要望書なんだけどね!
……いや、前言撤回。残念ながらただの要望書ではない。もしこれが『もっと俺たちの好きな選手を使ってくれ』みたいな投書であったなら笑い飛ばすだけで済んだ。実の所、『あの選手を使って欲しい』『こんな戦術を思いついたので試せ』という手紙の類は、ちょっと信じられない量で来ている。そして黙殺している。
当たり前だ。一般の皆さん――ファンや戦術マニアやどこかのお偉いさん――が考える程度の思いつき、俺たちコーチ陣はとっくの昔に検討済みだし、その上で実現可能性や選手との相性や相手やコンディションを考慮した上で今の戦術やシステム、メンバーで戦っている。しかも負けた場合はその責任の全てを負う。内実も知らず責任も取らない方々のご意見などを聞いて動くことはないのだ。
では今回の件はそれらと何が違うか? というと……要望の中身と発信者が問題なのだ。
エルフの中でもデイエルフを優遇し、その他のエルフは補佐の立場で使用するように、と。好みではなく人種、種族で差別しろと言ってきている。
到底、受け入れられない。俺は彼女たちをサッカードウプレイヤーとして公平に扱ってきたつもりだ。もちろん、性格や個性によって接し方――どのタイミングで励ますべきか、どんな時に厳しい声をかけるべきか――は変えている。それが結果として根性論寄りのデイエルフには感情に訴えかける、自分で試行錯誤したいドーンエルフにはアイデアを投げかける、といった傾向はある。また内心でやっぱりこの子はデイエルフだなあ、といった感想を抱く事もある。
だが種族の色眼鏡で決めつけたり、贔屓したりはしていない。そもそもデイエルフだから貴女はスタメンです、と決めたらそれこそ選手に失礼だ。彼女たちはあくまでも自分の実力――と体調と運と相手との噛み合わせが思ったより多くを占めているんだけどね!――でポジションを勝ち取っている。
それにそんな事が勝ち気なリーシャさんや潔癖のムルトさんに知れたら……ぶるぶる。烈火のように怒ったり、氷のような眼で軽蔑してくるだろう。
なので差別的なお年寄り達の要求には断固としてノーを突きつける、予定だ。予定なのだが、ここでもう一つの問題。
繰り返すがデニス老公会は影響力が強い。数の構成比でも国土の面積で言っても最大与党のデイエルフから尊敬されている上に、寿命が長いので積み重ねてきた経験、歴史、知識、敬意の蓄積が膨大だ。おかしな例えだが現代に生きる吸血鬼を描いた小説やゲーム等で吸血鬼の長老が
「それはワシの陰謀。これもワシの計画。あいつはワシが育てた」
と言ってくるようなモノだ。
そんな彼ら彼女らと真っ向から対立するような事があったら、今後のチーム運営に多大な支障が出るだろう。
応援のボイコット、ネガティブキャンペーン……特に心配なのは選手だ。最悪の場合、デニス老公会がデイエルフの子たちにチーム不参加を呼びかけでもしたら、該当の選手達は非常に苦しい立場に追い込まれる。その心労は計り知れない。
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