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第二十一章
一週間ぶり
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食堂までの道は一度目の交渉決裂の後で部屋まで帰った時と似たような空気だった。と言うか前回と今回と、流れが一緒だ。俺も学習能力が無いな……。同じミスを繰り返す選手の事を言ってられない。
「なんか、すみません」
せめて今度は自分から口を開こう。そう思った俺は何とも情けない、ふわっとした謝罪を吐いた。
「え!? 何が?」
「いや、その……」
もう少しで彼らと和解できそうな所まで行ったのに、余計な事を言って台無しにしたこと、乱暴な言葉を吐いて怖がらせた事、それを繰り返してしまった事。
「ショーキチさんが謝らなきゃいけないことなんてないよ! それよりお腹空いてない? 私は腹ぺこだよ!」
どれから話すべきか悩む俺にバートさんは明るく微笑みかけてきた。この切り替えの早さというか心の強さは流石、レジェンドサッカードウ選手だ。
「あーよく考えたらまあまあの空腹ですね」
バートさんの気遣いに感謝しつつも、敢えてそれを口にしない方がこの場には相応しい気がして、そういう返事をする。いや時間の流れが滅茶苦茶で分かり難いが、誘拐されてから何も食べていないのは事実だし。
「ここの食堂、料理もだけど景観もなかなかのモノなんだよ? ルーク聖林でも指折りの、背の高い樹にあるし。あ、でもショーキチさんは窓際じゃない方が良いのかな?」
「うっ! そうですね。真ん中の方でお願いします……って何を笑っているんですか?」
「うん、勇気あるのか無いのか分かんないな、て」
「仕方ないでしょ! 人間は高いところが嫌だから猿から人間に……」
と進化論を知らないエルフに持論を述べようとするのを笑ってやり過ごし、バートさんは初めて見る別のタイプの樹木の中へ俺を誘った。
「へいバート! 調子はどうだい?」
「こんにちは、トンカ。こんな時間に来てだけど中央の方のテーブル、空いてる?」
中へ入った俺たちを迎えたのは、エルフにしてはふくよかな体格の大柄なオジサンだった。
「ユーの為ならいつでも空けるぜ。何なら俺のしとねの横もな!」
「いつでも空いてる癖に!」
トンカと呼ばれたそのエルフはいかにもコックらしいエプロンを付け、どストレートなセクハラを言いながら俺たちを大きな食卓へ案内した。
「いつも通りマイ、フェイバリットで良いのかい?」
「うん。あ、君もお任せで良い? 何か好き嫌いある?」
「あ、はい。それで」
俺はバートさんに頷き、トンカさんに会釈をする。彼は
「分かってるぜ!」
というようにウインクを俺にだけ見える方の目で送り、さっと奥へ消えた。
「樹の中で火を使って大丈夫なんですか?」
俺は周囲を見渡して訊ねた。俺たちの以外に4人掛けのテーブルが3つ、窓際に2人掛けのテーブルが5つ。様々な年齢のエルフで何卓か埋まっていて、2名ほどいるウエイトレスさんのがテキパキと給仕をしている。俺のツリーハウスにも火の精霊を封じ込めたストーブがあるが、このレベルの食堂の厨房となると火力が違うだろう。
「基本的には使用しているどの樹にも保護の魔法がかけてあるんだけど、鍛冶場と厨房だけは流石に地面に設置してあってね、出来たモノを昇降機で上げ下げしているんだ。そうだ、見に行く?」
「行きません!」
この樹から見下ろすとなるとかなりの高さだろう。俺は謹んでご辞退さしあげる事にした。
「どうして? 面白いのに! なんて言ってたら自分が見たくなっちゃった! 私は怖くないから久しぶりに覗いてこようっと」
バートさんは俺をからかうようにそう笑うと、席を立ってトンカさんの消えた方向へ歩いて行った。
なんや? 高いところ怖くないでマウントか? と思ったが、実はずっと重かった空気を変える為の気遣いだろう。たぶん。
「良い子だなあ……かなり年上に言うのもなんだけど」
「良い子やね~。あ、お冷やになりまーす」
びっくりした! 唐突にウエイトレスさんの1名が現れ、テーブルに水の入った木製のコップを一つ置いたのだ。
「あ、どうもです」
「いいえ。さあどうぞ」
そのウエイトレスさんは所謂ショート丈のメイド服のようなものを身につけ、ご丁寧にレースのヘアバンドも装着していた。但し前髪で顔の殆どが隠れ、何の為のヘアバンドかさっぱり分からない。
「受け取りま……受け取りますって!」
その子はやや小柄でかなり若そうなエルフだが良く分からない。失礼にならない程度に顔を覗き込もうとしたが、彼女はもう一つのコップを受け取ろうとする手を避け、それどころか身体を俺に押しつけながら器を机に置こうとする。
「距離近っ……ちょ、うわ!」
少し揉み合いのような体勢になり、コップが倒れて水がぶち巻かれた。
「あーすんません」
水はテーブルの上を伝い、俺の膝にまで垂れる。それを見てもウエイトレスさんは一切慌てず、心の籠もっていない謝罪を口にしながら手拭きを取り出した。
「すぐお拭きしますんでー」
「いや、自分でやりますからおしぼりだけ下さ……い!?」
ウエイトレスさんは何故か俺の背後に回り込み、後ろから抱き締めると右手で膝の間を擦り上げる。
「いやそれ却ってやりずらくないですか!? あ、そこは濡れてませんって! 痛っ!」
右手が股間の際どい所まで伸びると同時に、左手が服の上から俺の左乳首を抓った! なんやねん失礼なウエイトレスさんが出てくる昔のコントかよ! あと一発で乳首を当てるなんて凄い空間把握能力だな!
「あ、正解なんやね!」
「なんで乳首当てゲームをしてるんですか!? 貴女は一体……」
「ショーキチさん、何をしているの?」
そこへ、何かの瓶とグラスを二つ持ってバートさんが戻ってきて、呆然とした表情で俺たちを見つめていた。
「なんか、すみません」
せめて今度は自分から口を開こう。そう思った俺は何とも情けない、ふわっとした謝罪を吐いた。
「え!? 何が?」
「いや、その……」
もう少しで彼らと和解できそうな所まで行ったのに、余計な事を言って台無しにしたこと、乱暴な言葉を吐いて怖がらせた事、それを繰り返してしまった事。
「ショーキチさんが謝らなきゃいけないことなんてないよ! それよりお腹空いてない? 私は腹ぺこだよ!」
どれから話すべきか悩む俺にバートさんは明るく微笑みかけてきた。この切り替えの早さというか心の強さは流石、レジェンドサッカードウ選手だ。
「あーよく考えたらまあまあの空腹ですね」
バートさんの気遣いに感謝しつつも、敢えてそれを口にしない方がこの場には相応しい気がして、そういう返事をする。いや時間の流れが滅茶苦茶で分かり難いが、誘拐されてから何も食べていないのは事実だし。
「ここの食堂、料理もだけど景観もなかなかのモノなんだよ? ルーク聖林でも指折りの、背の高い樹にあるし。あ、でもショーキチさんは窓際じゃない方が良いのかな?」
「うっ! そうですね。真ん中の方でお願いします……って何を笑っているんですか?」
「うん、勇気あるのか無いのか分かんないな、て」
「仕方ないでしょ! 人間は高いところが嫌だから猿から人間に……」
と進化論を知らないエルフに持論を述べようとするのを笑ってやり過ごし、バートさんは初めて見る別のタイプの樹木の中へ俺を誘った。
「へいバート! 調子はどうだい?」
「こんにちは、トンカ。こんな時間に来てだけど中央の方のテーブル、空いてる?」
中へ入った俺たちを迎えたのは、エルフにしてはふくよかな体格の大柄なオジサンだった。
「ユーの為ならいつでも空けるぜ。何なら俺のしとねの横もな!」
「いつでも空いてる癖に!」
トンカと呼ばれたそのエルフはいかにもコックらしいエプロンを付け、どストレートなセクハラを言いながら俺たちを大きな食卓へ案内した。
「いつも通りマイ、フェイバリットで良いのかい?」
「うん。あ、君もお任せで良い? 何か好き嫌いある?」
「あ、はい。それで」
俺はバートさんに頷き、トンカさんに会釈をする。彼は
「分かってるぜ!」
というようにウインクを俺にだけ見える方の目で送り、さっと奥へ消えた。
「樹の中で火を使って大丈夫なんですか?」
俺は周囲を見渡して訊ねた。俺たちの以外に4人掛けのテーブルが3つ、窓際に2人掛けのテーブルが5つ。様々な年齢のエルフで何卓か埋まっていて、2名ほどいるウエイトレスさんのがテキパキと給仕をしている。俺のツリーハウスにも火の精霊を封じ込めたストーブがあるが、このレベルの食堂の厨房となると火力が違うだろう。
「基本的には使用しているどの樹にも保護の魔法がかけてあるんだけど、鍛冶場と厨房だけは流石に地面に設置してあってね、出来たモノを昇降機で上げ下げしているんだ。そうだ、見に行く?」
「行きません!」
この樹から見下ろすとなるとかなりの高さだろう。俺は謹んでご辞退さしあげる事にした。
「どうして? 面白いのに! なんて言ってたら自分が見たくなっちゃった! 私は怖くないから久しぶりに覗いてこようっと」
バートさんは俺をからかうようにそう笑うと、席を立ってトンカさんの消えた方向へ歩いて行った。
なんや? 高いところ怖くないでマウントか? と思ったが、実はずっと重かった空気を変える為の気遣いだろう。たぶん。
「良い子だなあ……かなり年上に言うのもなんだけど」
「良い子やね~。あ、お冷やになりまーす」
びっくりした! 唐突にウエイトレスさんの1名が現れ、テーブルに水の入った木製のコップを一つ置いたのだ。
「あ、どうもです」
「いいえ。さあどうぞ」
そのウエイトレスさんは所謂ショート丈のメイド服のようなものを身につけ、ご丁寧にレースのヘアバンドも装着していた。但し前髪で顔の殆どが隠れ、何の為のヘアバンドかさっぱり分からない。
「受け取りま……受け取りますって!」
その子はやや小柄でかなり若そうなエルフだが良く分からない。失礼にならない程度に顔を覗き込もうとしたが、彼女はもう一つのコップを受け取ろうとする手を避け、それどころか身体を俺に押しつけながら器を机に置こうとする。
「距離近っ……ちょ、うわ!」
少し揉み合いのような体勢になり、コップが倒れて水がぶち巻かれた。
「あーすんません」
水はテーブルの上を伝い、俺の膝にまで垂れる。それを見てもウエイトレスさんは一切慌てず、心の籠もっていない謝罪を口にしながら手拭きを取り出した。
「すぐお拭きしますんでー」
「いや、自分でやりますからおしぼりだけ下さ……い!?」
ウエイトレスさんは何故か俺の背後に回り込み、後ろから抱き締めると右手で膝の間を擦り上げる。
「いやそれ却ってやりずらくないですか!? あ、そこは濡れてませんって! 痛っ!」
右手が股間の際どい所まで伸びると同時に、左手が服の上から俺の左乳首を抓った! なんやねん失礼なウエイトレスさんが出てくる昔のコントかよ! あと一発で乳首を当てるなんて凄い空間把握能力だな!
「あ、正解なんやね!」
「なんで乳首当てゲームをしてるんですか!? 貴女は一体……」
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