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第二十七章
ドカンと一発
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船がスタジアムへ入ると俺は例によって試合前の準備を軽く眺め、ナリンさんを伴ってピッチへ出た。今日はイベントもあるので試合2時間前でも客の入りは上々、中の空気もいつもと違うものがある。
「ショーキチ殿、これは何でありますか?」
その中でも特にいつもと違うモノを見つけてナリンさんが驚きの声を上げる。因みにまだ魔法は無効化されていないが念のため二人はもう日本語で会話している。
「たぶん、今日のステージのセットですけどなんだろ……あー」
俺はその積み重なった、中空で鼠色の丸太めいたものについて分からないまま説明しようと話し出して天を仰いだ。
「ショーキチ殿!? 大丈夫でありますか!? もし体調不良でしたら医務室へ……」
「いや、大丈夫です」
心配し顔を覗き込むナリンさんに手を振り、俺は眉間を揉む。この頭痛は精神的なモノだし、しばらくは何処のスタジアムのであれ医務室には近寄りたくない。
「えーっと、説明がまだでしたね。これは『土管』と言いまして地球の土木建築で用いられるモノです」
「土木建築でありますか? もしかしてコウヘイが何か工作を?」
美しい切れ目を持つエルフのコーチは眼光鋭く周囲を見渡し言う。コウヘイ? ジェフやサンガで活躍した工藤浩平選手の事か? それともナリンさんに俺以外の日本人の知り合いでもいるのか!?
「ナリンさん、コウヘイさんってどちら様ですか? ご挨拶を……」
俺はやや覚悟を決めながら問う。彼女がこんなに目を輝かせて探すからには、それなりの相手なのかもしれない。
「ドチラ様? いや、自分はショーキチ殿が手配された部隊かと」
一方、ナリンさんもナリンさんで俺の知り合いだと思って問い返す。いやいったい誰なんだコウヘイ……。
「手配されたブタイ? いやこの舞台を発注したのはたぶんステフで……あー」
ナリンさんにそう答えつつ、俺はまた同じタイミングで思い当たり天丼をかます。『コウヘイ』ってたぶん『工兵』だな!? 軍隊で橋をかけたりする兵種の!
「どうしました?」
「いえ、大丈夫です。えっと土管と言うのは土木建築に使う資材ですけど、今回は本来とは違う使い方をしますので工兵はいません。おそらくですけど今日のバード天国の出演者がこの上で歌います」
つまりジャ○アンのリサイタルという事だ。確かに音痴さん達が歌うステージとしてこれほど相応しいものは無いと思うが……分かり難いボケをしやがって!
「この上で、ですか?」
ナリンさんはそこで言葉を止めたが、その顔は何故こんな上で? という無言の問いかけを俺に投げかけていた。
知らんのか? そりゃ知らんわな。しかし一般人には無縁の軍隊用語を教えているのにドラ○もんの基礎知識は伝えてないなんて、クラマさんちょっと日本語教育偏っているよ!
「ええ、まあ訳あって、です。その理由はまた……」
とは言え俺も今後はアリスさんに日本語を教える身だ。これを他山の石として、知識のバランスの良い語学教育を心得る様にしよう。
俺は胸の内でそんな決心を抱きつつ、表向きは曖昧に笑ってナリンさんをピッチ確認の続きへと誘った。
「アレ? 監督ここにいるの?」
ピッチ確認がゴール裏まで進みサポーターの前へ行くと、ジャックスさんがそう声をかけてきた。
「ええ。ベンチには入れないので試合が始まったら観客席ですけど」
熱烈サポーターでアウェイも皆勤賞なジャックスさんはもちろん、俺に起きた事の背景――リーシャさんの負傷に無断でピッチへ進入し退場の罰を喰らった――を知っている。それで俺がここにいる事を疑問に思った訳だ。
「そっか。で観客席? 一緒に観ます?」
俺の言葉を聞いたジャックスさんは手招きしながらそう答える。そして側にいた仲間に耳打ちすると、その男性が太鼓を叩き周囲が一斉に何か叫び出す。
『『カモン、ショーキチ! カモン、ショーキチ!』』
「ナリンさん、これ何て? 俺の名前が含まれているのは察してますが」
「ショーキチ殿、こっちに来いと」
ナリンさんは笑顔を抑えながら俺に耳打ちする。
「いや無理だから! みんな、ちょっと待って!」
俺もつられて笑いながら右手を上げサポーターを制止する。と、一瞬で太鼓と唱和がピタリと止んだ。
「うわ、俺ピクシーみたい! これ気持ち良いなあ」
1998年のW杯直前。テストマッチで日本代表と対戦した旧ユーゴのサポーターは、日本の国歌が流された際に容赦なくブーイングを浴びせた。しかし当時旧ユーゴチームのキャプテンだったストイコビッチ選手――通称はピクシー。種族としての妖精を思い浮かべるが、実は漫画のキャラの名前らしい――がさっと手を振ると、直ちにそのブーイングを止めたのだ。
当時Jリーグでプレイしていたストイコビッチ選手の所属国への気遣いらしいが、俺も見習わないとなあ。
「とか言ってる場合じゃないや。俺は用事で別の場所で観戦するので今回はすみません。また次回に!」
俺がそう叫ぶとジャックスさんとナリンさんが手分けして通訳し、サポーター達は再び太鼓を叩いて了解の返事とした。そういやこれも言っておかなければ。
「お願いばかりですみません! 今日は音楽イベントがありますが、どんな内容であれブーイングとかチャントや太鼓を被せるのは無しで!」
そうお願いしたのには訳がある。一つには、実際に地球でもそういうこと――せっかくの来賓の挨拶やゲストのコンサートに音を被せる――があるから。相手に悪印象与えるだけなのにね。二つには、今日の音楽は、確かにブーイングを投げかけたくなるようなモノが流れる予定だから。
「了解! できるだけ告知しておきます!」
再びジャックスさんとナリンさんが通訳し、同じ様な返事が来た。良かった。音楽でハーピィの調子を狂わせる予定なのにそれが聞こえなかったら何の意味も無いもんね。
「ありがとう! じゃあ宜しく!」
今日は招待客や一般来場者も多く全てをコントロールは出来ないが、ゴール裏が言うことを聞いてくれるだけでも安心だろう。俺とナリンさんはゴール裏サポーター達に頭を下げながら、その場を去った。
「ショーキチ殿、これは何でありますか?」
その中でも特にいつもと違うモノを見つけてナリンさんが驚きの声を上げる。因みにまだ魔法は無効化されていないが念のため二人はもう日本語で会話している。
「たぶん、今日のステージのセットですけどなんだろ……あー」
俺はその積み重なった、中空で鼠色の丸太めいたものについて分からないまま説明しようと話し出して天を仰いだ。
「ショーキチ殿!? 大丈夫でありますか!? もし体調不良でしたら医務室へ……」
「いや、大丈夫です」
心配し顔を覗き込むナリンさんに手を振り、俺は眉間を揉む。この頭痛は精神的なモノだし、しばらくは何処のスタジアムのであれ医務室には近寄りたくない。
「えーっと、説明がまだでしたね。これは『土管』と言いまして地球の土木建築で用いられるモノです」
「土木建築でありますか? もしかしてコウヘイが何か工作を?」
美しい切れ目を持つエルフのコーチは眼光鋭く周囲を見渡し言う。コウヘイ? ジェフやサンガで活躍した工藤浩平選手の事か? それともナリンさんに俺以外の日本人の知り合いでもいるのか!?
「ナリンさん、コウヘイさんってどちら様ですか? ご挨拶を……」
俺はやや覚悟を決めながら問う。彼女がこんなに目を輝かせて探すからには、それなりの相手なのかもしれない。
「ドチラ様? いや、自分はショーキチ殿が手配された部隊かと」
一方、ナリンさんもナリンさんで俺の知り合いだと思って問い返す。いやいったい誰なんだコウヘイ……。
「手配されたブタイ? いやこの舞台を発注したのはたぶんステフで……あー」
ナリンさんにそう答えつつ、俺はまた同じタイミングで思い当たり天丼をかます。『コウヘイ』ってたぶん『工兵』だな!? 軍隊で橋をかけたりする兵種の!
「どうしました?」
「いえ、大丈夫です。えっと土管と言うのは土木建築に使う資材ですけど、今回は本来とは違う使い方をしますので工兵はいません。おそらくですけど今日のバード天国の出演者がこの上で歌います」
つまりジャ○アンのリサイタルという事だ。確かに音痴さん達が歌うステージとしてこれほど相応しいものは無いと思うが……分かり難いボケをしやがって!
「この上で、ですか?」
ナリンさんはそこで言葉を止めたが、その顔は何故こんな上で? という無言の問いかけを俺に投げかけていた。
知らんのか? そりゃ知らんわな。しかし一般人には無縁の軍隊用語を教えているのにドラ○もんの基礎知識は伝えてないなんて、クラマさんちょっと日本語教育偏っているよ!
「ええ、まあ訳あって、です。その理由はまた……」
とは言え俺も今後はアリスさんに日本語を教える身だ。これを他山の石として、知識のバランスの良い語学教育を心得る様にしよう。
俺は胸の内でそんな決心を抱きつつ、表向きは曖昧に笑ってナリンさんをピッチ確認の続きへと誘った。
「アレ? 監督ここにいるの?」
ピッチ確認がゴール裏まで進みサポーターの前へ行くと、ジャックスさんがそう声をかけてきた。
「ええ。ベンチには入れないので試合が始まったら観客席ですけど」
熱烈サポーターでアウェイも皆勤賞なジャックスさんはもちろん、俺に起きた事の背景――リーシャさんの負傷に無断でピッチへ進入し退場の罰を喰らった――を知っている。それで俺がここにいる事を疑問に思った訳だ。
「そっか。で観客席? 一緒に観ます?」
俺の言葉を聞いたジャックスさんは手招きしながらそう答える。そして側にいた仲間に耳打ちすると、その男性が太鼓を叩き周囲が一斉に何か叫び出す。
『『カモン、ショーキチ! カモン、ショーキチ!』』
「ナリンさん、これ何て? 俺の名前が含まれているのは察してますが」
「ショーキチ殿、こっちに来いと」
ナリンさんは笑顔を抑えながら俺に耳打ちする。
「いや無理だから! みんな、ちょっと待って!」
俺もつられて笑いながら右手を上げサポーターを制止する。と、一瞬で太鼓と唱和がピタリと止んだ。
「うわ、俺ピクシーみたい! これ気持ち良いなあ」
1998年のW杯直前。テストマッチで日本代表と対戦した旧ユーゴのサポーターは、日本の国歌が流された際に容赦なくブーイングを浴びせた。しかし当時旧ユーゴチームのキャプテンだったストイコビッチ選手――通称はピクシー。種族としての妖精を思い浮かべるが、実は漫画のキャラの名前らしい――がさっと手を振ると、直ちにそのブーイングを止めたのだ。
当時Jリーグでプレイしていたストイコビッチ選手の所属国への気遣いらしいが、俺も見習わないとなあ。
「とか言ってる場合じゃないや。俺は用事で別の場所で観戦するので今回はすみません。また次回に!」
俺がそう叫ぶとジャックスさんとナリンさんが手分けして通訳し、サポーター達は再び太鼓を叩いて了解の返事とした。そういやこれも言っておかなければ。
「お願いばかりですみません! 今日は音楽イベントがありますが、どんな内容であれブーイングとかチャントや太鼓を被せるのは無しで!」
そうお願いしたのには訳がある。一つには、実際に地球でもそういうこと――せっかくの来賓の挨拶やゲストのコンサートに音を被せる――があるから。相手に悪印象与えるだけなのにね。二つには、今日の音楽は、確かにブーイングを投げかけたくなるようなモノが流れる予定だから。
「了解! できるだけ告知しておきます!」
再びジャックスさんとナリンさんが通訳し、同じ様な返事が来た。良かった。音楽でハーピィの調子を狂わせる予定なのにそれが聞こえなかったら何の意味も無いもんね。
「ありがとう! じゃあ宜しく!」
今日は招待客や一般来場者も多く全てをコントロールは出来ないが、ゴール裏が言うことを聞いてくれるだけでも安心だろう。俺とナリンさんはゴール裏サポーター達に頭を下げながら、その場を去った。
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