D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第二十八章

母の愛とスポーツマンシップ

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 MMとは何か? ファンタジー世界で言えばマジック・ミサイル、極めてシンプルかつ代表的な攻撃魔法だ。人名だとマーシャル・マザーズ。有名なラッパー、エミネムの本名かつアルバムのタイトルでもある。そのイニシャルがMMでなまってエミネムというラッパー名になったとか。
 ところが。格闘技の世界でMMと言えばマザーズ・ミルクという少し特殊な締め技の名前になる。どんな技かと言うと、マウントポジションをとってから相手の首の後ろに腕を回し持ち上げ、顔面の向きをロックして自分の大胸筋におしつけ窒息させる……という恐ろしい技だ。もともと柔道などでも、袈裟堅めの際に腋臭のきつい部分を相手の鼻へ押しつける、といった小技はあったので温故知新というか古い技術の再利用でもあるのだが、汗に湿ったラッシュガードが鼻や口を覆うのはまた新しい感覚らしい。
 ちなみにマザーズ・ミルク、その名を直訳すれば『母の乳』ではあるが、もちろん男性同士の試合でも使用される。その際はムキムキの男がムキムキの男の顔を雄っぱいへ押しつけるという地獄のような風景が見られる訳である……。

「(アリスさんギブギブ!)」
 ながながと回想したのは脳内だけの話。現実の俺は早々にタップの合図を胸の大きな天然の女教師へ送った。
 せっかくの感覚を堪能しないのか、って? 確かに惜しい気持ちはある。しかし窒息の感覚を身体が覚えてしまうと変な『慣れ』と言うか、次からは軽く首を絞められただけで卒倒してしまう体質になってしまう……と格闘技の業界では言うのだ。アリスさんのかけるMMはスタンド状態の為かかりは非常に弱いが、これで卒倒して癖になると良くない。
「あ、ごめんなさい!」
 アリスさんはハッと気づいて身を離し、背後を睨んだ。俺たちの様子を伺っていた生徒さんたちが一斉に別の方向を観る。いや自分を棚に上げてなんだけど、試合へ集中しろよ。
「ぷはっ、大丈夫です……。それより、メモを」
 俺は喇叭を吹くような呼吸を一つして、手を伸ばした。アリスさんがその手の平へエルフ語へ書き直した指示書を置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます。それではちょっと」
 俺は一つ断りを入れて、極めて慎重に階段を降りた。まだ少し目眩がする。
『監督、もうあんな事まで? 早いですね!』
 そんな俺を心配してか、受け取り役のヨンさんが少し身を乗り出し手を伸ばしながら声をかけてきた。
「わざわざありがとう。心配ないよ。これをお願いします」
『はい、受け取りました! 見た事は内緒にしておくので、口止め料もいつかくださいね!』
 ヨンさんは何か言って俺にウインクを飛ばし、メモを手にベンチへ向かう。
「ヨンさん、FWにしては真面目過ぎるところが難点だけど、こういう時に気が利くのはありがたいな」
 俺はそう声に出して呟きつつ、アリスさんの待つ席まで戻った。
「おかえりなさい旦那様! ご飯に入ります? お風呂を食べます? それとも……」
「試合を観ます」
 再び情報量の多いボケで迎えるアリスさんに若干の塩対応をして、俺はピッチへ向き直った。ちょうどヨンさんがそのままベンチからピッチ脇のウォーミングアップエリアへ向かい、交代選手の2名に声をかけている所だった。
「やん、さっきは優しかったのに今は冷たい! ……て選手交代まだなんですか?」
 俺が送った指示の中身を知っているアリスさんが不思議そうに問う。
「準備はしているんですが、そうすぐにではないです。一つには、交代選手がスムーズに試合へ入り込めるようアップの仕上げをしているから。もう一つには、そもそも選手交代って試合が途切れたタイミングでないとできないんですよ」
 俺は自分たちの事情とサッカードウの性質との両方の理由を併せて説明した。
「へーそうなんだ! 授業中に『お母さん、トイレ!』とか言って自主的に中断するとかはできないんですね」
 いや異世界でも先生に『お母さん』って言ってしまうのあるんかい!
「自主的に中断と言うか、自分たちがボールを握っている時にワザとにタッチライン外へボールを蹴り出して選手交代を促す、みたいなのはありますが」
 ツッコミたい部分は多々あったが、俺は説明の方を優先した。
「でもそれは誰か負傷した時とかですね。自分で蹴り出すと相手ボールのスローインになってしまうので、戦術的交代ではあまりしません」
 なお負傷した選手の為に片方のチームAの選手がボールを蹴り出した場合、相手チームBは自チームのスローインで始めるが、チームAのGK等へボールを返す習慣がある。『プレゼントボール』というルールに無いルールだ。サッカーが紳士のスポーツであった頃の名残だが、淑女のスポーツであるこの異世界サッカードウにもその精神は引き継がれているらしい。そこはクラマさんを褒めておこう。
「そうなんですね。あ、でもタイミングがきたみたいです!」
 頷くアリスさんがさっと顔を上げてそう叫ぶ。彼女の言う通りガニアさんのクリアボールがタッチを割ってスローインとなり、リザードマンの副審さんが旗を倒してドラゴンの審判さんへ選手交代の合図を送っていた。 
 いよいよ待っていた時が訪れようとしていた。
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