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第三十章
相馬と?
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遺体解剖のこちら側の参加者は俺、ナリンさん、ダリオさん、シャマーさんの予定だった。だがまずダリオさんが脱落した。公務がある筈のレブロン王の姿が少し前から見えない! と女官さんが訴えにきたのである。 ちなみにだが先ほどの式典には最初から出ていなかった。
「こういう辛気くさい行事は嫌いだしダリオが出るし」
だそうだ。……あのエルフ、アレでどうやって王様やってんの?
ついで、シャマーさんも脱落した。例の砂の運搬に用いられる魔法陣が安定していないと自ら気づいたそうだ。
「大丈夫かもだけどー。失敗したらショーちゃんからお礼貰えないから、念のためー」
と言って中庭の方へ消えた。
かくして残った俺とナリンさんはたった二人で、地下の一角にある控え室で着替えを行う事となっていた。
「あの、ナリンさん?」
「はい?」
「そこに……いますよね?」
俺は衝立の向こうにいるであろうナリンさんに声をかけた。衣装チェンジに用意された部屋は幾つかの籠があるだけの殺風景な場所で、男女――と言っても俺とナリンさんしかないが――の間を遮るのもそれしかなかった。
「ええ、おりますよ」
そう答える声は僅かに笑い声を含んでいたが、決して嘲るような響きは感じられない。
「良かった……これでナリンさんまでいなくなって俺一人で行く事になったら、流石に心が折れそうです」
そもそもの話、今回の解剖には俺だけが参加する予定だった。言い出したのは俺だし、人間の身体とエルフの身体を解剖学的に――と大袈裟に言えるほど分かってないけどね!――比較するにもまず人体についての知識があっての話だ。ナリンさん達にはたぶんそれが俺以上に無い。彼女達も同席するという状況は異常なのだ。
……なのだけれど。この話をゴルルグ族の街グレートワームで持ちかけた時、彼女らも来てくれると聞いて俺は大いに安心してしまった。それが今度はいなくなってしまうのである。不安になっても仕方ないだろう。いやそもそもシャマーさんは勝手に生えて勝手に抜けたのだが。
「これでもご心配ですか?」
そんな声と同時に、たおやかな腕が二本すっと延びてきて俺を背中から抱き締めた。当然だから言うまでもなかったが、俺は衝立の方を見ていなかった。いくら視線を遮るモノがあるからと言っても女性が着替えをしている方を向いて話せる訳がない! よね?
「なっ、ナリンさん!?」
「それにあの時、お伝えしたではありませんか?」
不意を打たれ動揺する俺に、心優しいエルフは囁く様に続ける。
「自分は何処へでもご一緒します、と」
そうだった。あの時というのは俺がこの城で代表監督の契約を結ぼうとした夜の事で、俺は彼女を個人的なアシスタントとして雇いたい! とお願いしたのだった。
「そうですね……」
俺はしみじみと呟く。ナリンさんはオファーを快諾し、そこから俺たちはずっと一緒だった。この世界を知る為に方々を旅し、時には火を持った暴漢に囲まれ、時には変装して握羽会に潜入したりもした。今回対戦するノートリアスの基地の壁に登って、アンデッドと戦う兵士達を遠くから見守った事もある。
他にも全裸のゴブリン集団と騒いだりとか、BLのラブシーンを演じているのを近くに潜んだナイトエルフ達に凝視されたりとか、あとアホウではカップルに偽装してなんかこう……アレしたりもしたな。
ん? なんでこんなに過去を思い出しているんだ? 走馬燈かな? やっぱり『死』というものを意識すると出るんだ。ただそれにしては、後半がちょっと特徴的だけど……。
「ありがとうございます。ずっとお世話になりっぱなしで、いくら感謝してもしたりないですよ!」
「いえ、そんな! お役に立てているなら嬉しいです……」
そう言う間にも、彼女の腕は力を増して俺の肩を強く締める。元気や勇気をチャージしてくれているのだろう。本当に優しいな。
「……それはそうとして、ナリンさんその、お気替えに戻られては?」
感謝しつつも俺は一番、触れても大丈夫そうな手の甲を軽く叩いて呼びかける。何故そんな事を気にしたかと言うと、俺を背後から抱きしめた腕が何も着けていなかったからだ。
いや腕が何も着けていないのは普通の話だ。スポーツの選手ならば試合中にアームスリーブなどを使用している――ちなみにサッカー選手でも腕に着ける意味はある。筋肉や体温をコントロールして疲労を軽減させられすし、ユニフォームよりもずっと掴まれ難い――かもだけど。
ただナリンさんは儀式中は例のワンピースで長袖だったし、解剖に立ち会う為の着替えはエルフの王国の軍服だ。手首まで覆うしっかりしたものなのだ。
つまり今の彼女はその中間ポジション、ってサッカー用語的に言うDF同士の間くらいでどっちがマークにつくか迷う位置の事じゃなくて、着替えの途中で半裸状態の筈である!
「あ、すみません! 自分とした事が!」
俺の指摘で初めて、
『自分が半裸で男性を背後から抱き締めている』
事に気づいたらしいナリンさんは、慌ててその身を離した。因みに俺の方はまだスーツのジャケットを脱いだだけだったので、肌と肌が直接ふれあうような状態ではなかったのは不幸中の幸いと言うか幸い中の不幸と言うか……。
「いえいえ、こちらこそ……。あの、大丈夫ですか?」
その後のナリンさんのドタバタした物音を聞いて、思わず声をかける。
「はい、いえ、見ちゃだめですぅ!」
「はい! 見ません!」
正直、選手の下着姿は何度か見てしまっているし、リーシャさんは根強い
「スポーツブラはエロくない」
論者だが、ナリンさんのはたぶん見たことない筈だ。今後もそれを貫く事にしよう。
その後、俺たちはなんとか気持ちを立て直し、解剖室へ向かう事となった。いよいよご対面だ!
「こういう辛気くさい行事は嫌いだしダリオが出るし」
だそうだ。……あのエルフ、アレでどうやって王様やってんの?
ついで、シャマーさんも脱落した。例の砂の運搬に用いられる魔法陣が安定していないと自ら気づいたそうだ。
「大丈夫かもだけどー。失敗したらショーちゃんからお礼貰えないから、念のためー」
と言って中庭の方へ消えた。
かくして残った俺とナリンさんはたった二人で、地下の一角にある控え室で着替えを行う事となっていた。
「あの、ナリンさん?」
「はい?」
「そこに……いますよね?」
俺は衝立の向こうにいるであろうナリンさんに声をかけた。衣装チェンジに用意された部屋は幾つかの籠があるだけの殺風景な場所で、男女――と言っても俺とナリンさんしかないが――の間を遮るのもそれしかなかった。
「ええ、おりますよ」
そう答える声は僅かに笑い声を含んでいたが、決して嘲るような響きは感じられない。
「良かった……これでナリンさんまでいなくなって俺一人で行く事になったら、流石に心が折れそうです」
そもそもの話、今回の解剖には俺だけが参加する予定だった。言い出したのは俺だし、人間の身体とエルフの身体を解剖学的に――と大袈裟に言えるほど分かってないけどね!――比較するにもまず人体についての知識があっての話だ。ナリンさん達にはたぶんそれが俺以上に無い。彼女達も同席するという状況は異常なのだ。
……なのだけれど。この話をゴルルグ族の街グレートワームで持ちかけた時、彼女らも来てくれると聞いて俺は大いに安心してしまった。それが今度はいなくなってしまうのである。不安になっても仕方ないだろう。いやそもそもシャマーさんは勝手に生えて勝手に抜けたのだが。
「これでもご心配ですか?」
そんな声と同時に、たおやかな腕が二本すっと延びてきて俺を背中から抱き締めた。当然だから言うまでもなかったが、俺は衝立の方を見ていなかった。いくら視線を遮るモノがあるからと言っても女性が着替えをしている方を向いて話せる訳がない! よね?
「なっ、ナリンさん!?」
「それにあの時、お伝えしたではありませんか?」
不意を打たれ動揺する俺に、心優しいエルフは囁く様に続ける。
「自分は何処へでもご一緒します、と」
そうだった。あの時というのは俺がこの城で代表監督の契約を結ぼうとした夜の事で、俺は彼女を個人的なアシスタントとして雇いたい! とお願いしたのだった。
「そうですね……」
俺はしみじみと呟く。ナリンさんはオファーを快諾し、そこから俺たちはずっと一緒だった。この世界を知る為に方々を旅し、時には火を持った暴漢に囲まれ、時には変装して握羽会に潜入したりもした。今回対戦するノートリアスの基地の壁に登って、アンデッドと戦う兵士達を遠くから見守った事もある。
他にも全裸のゴブリン集団と騒いだりとか、BLのラブシーンを演じているのを近くに潜んだナイトエルフ達に凝視されたりとか、あとアホウではカップルに偽装してなんかこう……アレしたりもしたな。
ん? なんでこんなに過去を思い出しているんだ? 走馬燈かな? やっぱり『死』というものを意識すると出るんだ。ただそれにしては、後半がちょっと特徴的だけど……。
「ありがとうございます。ずっとお世話になりっぱなしで、いくら感謝してもしたりないですよ!」
「いえ、そんな! お役に立てているなら嬉しいです……」
そう言う間にも、彼女の腕は力を増して俺の肩を強く締める。元気や勇気をチャージしてくれているのだろう。本当に優しいな。
「……それはそうとして、ナリンさんその、お気替えに戻られては?」
感謝しつつも俺は一番、触れても大丈夫そうな手の甲を軽く叩いて呼びかける。何故そんな事を気にしたかと言うと、俺を背後から抱きしめた腕が何も着けていなかったからだ。
いや腕が何も着けていないのは普通の話だ。スポーツの選手ならば試合中にアームスリーブなどを使用している――ちなみにサッカー選手でも腕に着ける意味はある。筋肉や体温をコントロールして疲労を軽減させられすし、ユニフォームよりもずっと掴まれ難い――かもだけど。
ただナリンさんは儀式中は例のワンピースで長袖だったし、解剖に立ち会う為の着替えはエルフの王国の軍服だ。手首まで覆うしっかりしたものなのだ。
つまり今の彼女はその中間ポジション、ってサッカー用語的に言うDF同士の間くらいでどっちがマークにつくか迷う位置の事じゃなくて、着替えの途中で半裸状態の筈である!
「あ、すみません! 自分とした事が!」
俺の指摘で初めて、
『自分が半裸で男性を背後から抱き締めている』
事に気づいたらしいナリンさんは、慌ててその身を離した。因みに俺の方はまだスーツのジャケットを脱いだだけだったので、肌と肌が直接ふれあうような状態ではなかったのは不幸中の幸いと言うか幸い中の不幸と言うか……。
「いえいえ、こちらこそ……。あの、大丈夫ですか?」
その後のナリンさんのドタバタした物音を聞いて、思わず声をかける。
「はい、いえ、見ちゃだめですぅ!」
「はい! 見ません!」
正直、選手の下着姿は何度か見てしまっているし、リーシャさんは根強い
「スポーツブラはエロくない」
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