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第三十章
帰って来た彼は……
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自分の未熟さを痛感したナリンさんはそのシーズンオフから、他のチームのコーチや姉妹弟子――机を並べてクラマさんからサッカードウを学んだ仲間たちだ――とより積極的に交流するようになった。つまり彼ら彼女らのコーチ業を学ぶようになったのである。その成果がめぐりめぐってニャイアーコーチのスカウトや他種族事情の知識に繋がるのだが……それはまだ別の話。
一方、力不足を恥じたのはリュウさんの方もだったらしい。彼も妹さんを連れて短い旅に出た。
「ナリンのフォローだけでなく、よりサッカードウにダイレクトに貢献できる方法を見つけたかもしれない」
とは彼の言葉だ。
事実、リュウさんはモーネさんを中心とした戦術を引っ提げて帰ってきて、一時は成功を収めた。残念ながら後にその戦術が行き詰まるのは承知の通り。だがナリンさんの感じた印象では、帰ってきた時から彼の様子はおかしかったという……。
「一言で言えば他人行儀になりました。チームでも、プライベートでも」
そこまで語ったナリンさんは当時の痛みを思い出したかのように、シーツの端をギュっと掴んだ。
「コーチというよりは監督みたいになって、距離を置こうとしたのかもしれませんね」
俺は自分の知識を掘り起こしながら言う。それこそ前述の、以前の監督が解任されてコーチが昇格したケースなどで良く聞く話ではある。前までは監督と選手の間に立って繋ぎ役として選手たちの兄貴分みたいな態度で接していたが、監督となると線を引かないといけなくなるので気軽に渾名では呼ばせない……とか。
「でもそれじゃあ、プライベートでもナリンと距離を取った理由にならなくないー? そもそもなんでリュウまで修行に出たんだろー」
シャマーさんが唇を摘みながら問う。
「そこはまあ……。なんと言いますか、ナリンさんが優秀だからそれに負けない自分になりたかったんじゃないですかねえ?」
リュウが修行の旅ってストリートファイターみたいだな、と思いながら俺はそれに答えた。
「負けないって、相手がナリンで?」
「ええ。これも説明し難いですが、男って全般的に割と戦闘的で常に万物に対して『ここは勝ってる、負けてる』て考える生物なんですよ。それが自分の彼女にだってね」
異世界のエルフ男性も同じ精神なのかは知らない。こればかりは脳を解剖しても分からないだろう。だが俺は話の流れ的にこれが正解に近いのではないかと思っていた。
「そーなんだー。じゃあさ、ベッドの中にいる時は、なるべくショーちゃんに負けて『きゃいーん!』って言ってあげるから安心してね!」
シャマーさんはそう言いながら身を縮め震え上がる仕草をする。その演技がかなり真に迫ったものであり、さらに近くに実際にベッドがあるため妙に艶めかしい。俺とナリンさんは共に顔を赤くした。
「要りませんよ! 俺は誰とも付き合いませんし!」
「サッカードウ関係だけでなく、親戚付き合いも悪くなっていたようでした!」
俺たちは顔を赤くしながら、話をなんとか本題へ戻そうともする。しかしそれを黙って許すシャマーさんではなかった。
「そう言えばツキアイって……帰ってきてからエッチはしてたの?」
「シャマーさん何を聞くんですか!?」
ドーンエルフが単刀直輸入を越えて産地直送――違った、単刀直入だ――な質問をするのを聞いて俺は血相を変えた。これはもうセクハラどころではない!
「いいえ、再会後は一度も」
「ナリンさん、言っちゃうんだ!?」
「やっぱりそっかー」
「シャマーさん、気づいてた!?」
「それから今まで一度も性交渉はありません」
「ナリンさん、その情報いる!?」
「ちょっとショーちゃん、静かにしてー」
情報量の多さとかナリンさんはしばらく直入していないとかに動転する俺をシャマーさんが諫める。
「はーはーっ、はい。ええ、こういうので大騒ぎするのもセクハラですもんね! すーはーすーはー」
解剖の最初を見た時よりもアンデッドに話しかけられた時よりも動悸が激しい。俺は息を大きく吸って吐いて呼吸を落ち着かせようとする。
「その情報を加えるとさー。ショーちゃんの見解もちょっと怪しくなるよねー」
「え!? どこがですか?」
呼吸ならまだ怪しいが、見解までそうだろうか? 俺は短く問う。
「だってさー。モーネシステムで勝ってる頃もあった訳じゃん? その時期はナリンにも負けてないでしょー。そりゃ意気揚々と抱くでしょー」
シャマーさんはそれに音楽的な節をつけながら答えた。
「確か……勝っていてもそれほど得意げではなかったですし、触れてくる事も無かったかと」
意気揚々と抱くってどんなだ? と脳内で言葉の処理に苦戦する俺の横で、ナリンさんは冷静だった。
「ナリン的に誘ったり誘導したりしたのー?」
同じくらい冷静に、しかしスゴい事をシャマーさんが聞く。
「そこは……」
やめて、聞きたくない!
「例えば、部屋をこんな風にするとかですか?」
ナリンさんはそう言って室内を眺めた。
「「あー」」
俺とシャマーさんは声を揃えてため息を吐く。そう、ここまであまり目を向けてこなかったが、この寝室はちょっとばかりラブホ……レジャーホテルみたいだった。
ピンクの壁にふかふかのベッド、間接照明に良い匂いのするお湯が湛えられた桶……極めつけは壁に飾られた官能的なエルフの裸婦像だった。
これ本当に急患が出た時の為の部屋でござるかぁ?
「まあ、こんな風ですかね」
「ダリオ、ムッツリすけべだからなー」
その状況で却って俺は冷静になった。冷静になったついでに、もうここに来てかなりの時間が経っている事にも気づく。
「この件はまた後で相談ということにしますか?」
「ええ、自分ももう大丈夫なので、出ましょう」
最終的にナリンさんがそう切り出し、俺たちは同意した。そしてモヤモヤしたものを抱えながら王城を後にするのだった……。
一方、力不足を恥じたのはリュウさんの方もだったらしい。彼も妹さんを連れて短い旅に出た。
「ナリンのフォローだけでなく、よりサッカードウにダイレクトに貢献できる方法を見つけたかもしれない」
とは彼の言葉だ。
事実、リュウさんはモーネさんを中心とした戦術を引っ提げて帰ってきて、一時は成功を収めた。残念ながら後にその戦術が行き詰まるのは承知の通り。だがナリンさんの感じた印象では、帰ってきた時から彼の様子はおかしかったという……。
「一言で言えば他人行儀になりました。チームでも、プライベートでも」
そこまで語ったナリンさんは当時の痛みを思い出したかのように、シーツの端をギュっと掴んだ。
「コーチというよりは監督みたいになって、距離を置こうとしたのかもしれませんね」
俺は自分の知識を掘り起こしながら言う。それこそ前述の、以前の監督が解任されてコーチが昇格したケースなどで良く聞く話ではある。前までは監督と選手の間に立って繋ぎ役として選手たちの兄貴分みたいな態度で接していたが、監督となると線を引かないといけなくなるので気軽に渾名では呼ばせない……とか。
「でもそれじゃあ、プライベートでもナリンと距離を取った理由にならなくないー? そもそもなんでリュウまで修行に出たんだろー」
シャマーさんが唇を摘みながら問う。
「そこはまあ……。なんと言いますか、ナリンさんが優秀だからそれに負けない自分になりたかったんじゃないですかねえ?」
リュウが修行の旅ってストリートファイターみたいだな、と思いながら俺はそれに答えた。
「負けないって、相手がナリンで?」
「ええ。これも説明し難いですが、男って全般的に割と戦闘的で常に万物に対して『ここは勝ってる、負けてる』て考える生物なんですよ。それが自分の彼女にだってね」
異世界のエルフ男性も同じ精神なのかは知らない。こればかりは脳を解剖しても分からないだろう。だが俺は話の流れ的にこれが正解に近いのではないかと思っていた。
「そーなんだー。じゃあさ、ベッドの中にいる時は、なるべくショーちゃんに負けて『きゃいーん!』って言ってあげるから安心してね!」
シャマーさんはそう言いながら身を縮め震え上がる仕草をする。その演技がかなり真に迫ったものであり、さらに近くに実際にベッドがあるため妙に艶めかしい。俺とナリンさんは共に顔を赤くした。
「要りませんよ! 俺は誰とも付き合いませんし!」
「サッカードウ関係だけでなく、親戚付き合いも悪くなっていたようでした!」
俺たちは顔を赤くしながら、話をなんとか本題へ戻そうともする。しかしそれを黙って許すシャマーさんではなかった。
「そう言えばツキアイって……帰ってきてからエッチはしてたの?」
「シャマーさん何を聞くんですか!?」
ドーンエルフが単刀直輸入を越えて産地直送――違った、単刀直入だ――な質問をするのを聞いて俺は血相を変えた。これはもうセクハラどころではない!
「いいえ、再会後は一度も」
「ナリンさん、言っちゃうんだ!?」
「やっぱりそっかー」
「シャマーさん、気づいてた!?」
「それから今まで一度も性交渉はありません」
「ナリンさん、その情報いる!?」
「ちょっとショーちゃん、静かにしてー」
情報量の多さとかナリンさんはしばらく直入していないとかに動転する俺をシャマーさんが諫める。
「はーはーっ、はい。ええ、こういうので大騒ぎするのもセクハラですもんね! すーはーすーはー」
解剖の最初を見た時よりもアンデッドに話しかけられた時よりも動悸が激しい。俺は息を大きく吸って吐いて呼吸を落ち着かせようとする。
「その情報を加えるとさー。ショーちゃんの見解もちょっと怪しくなるよねー」
「え!? どこがですか?」
呼吸ならまだ怪しいが、見解までそうだろうか? 俺は短く問う。
「だってさー。モーネシステムで勝ってる頃もあった訳じゃん? その時期はナリンにも負けてないでしょー。そりゃ意気揚々と抱くでしょー」
シャマーさんはそれに音楽的な節をつけながら答えた。
「確か……勝っていてもそれほど得意げではなかったですし、触れてくる事も無かったかと」
意気揚々と抱くってどんなだ? と脳内で言葉の処理に苦戦する俺の横で、ナリンさんは冷静だった。
「ナリン的に誘ったり誘導したりしたのー?」
同じくらい冷静に、しかしスゴい事をシャマーさんが聞く。
「そこは……」
やめて、聞きたくない!
「例えば、部屋をこんな風にするとかですか?」
ナリンさんはそう言って室内を眺めた。
「「あー」」
俺とシャマーさんは声を揃えてため息を吐く。そう、ここまであまり目を向けてこなかったが、この寝室はちょっとばかりラブホ……レジャーホテルみたいだった。
ピンクの壁にふかふかのベッド、間接照明に良い匂いのするお湯が湛えられた桶……極めつけは壁に飾られた官能的なエルフの裸婦像だった。
これ本当に急患が出た時の為の部屋でござるかぁ?
「まあ、こんな風ですかね」
「ダリオ、ムッツリすけべだからなー」
その状況で却って俺は冷静になった。冷静になったついでに、もうここに来てかなりの時間が経っている事にも気づく。
「この件はまた後で相談ということにしますか?」
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