540 / 700
第三十章
キュートとパッション
しおりを挟む
「あーいらっしゃい! よく来てくれたね。ドアは開けたままで良いから、座って」
俺はそう言って、入り口でポーズを決めているエオンさんへ椅子を勧めた。
「あとプロデューサーじゃなくて監督です」
そろそろ俺の頭もアルファベットのPの形になってしまうんじゃないか? との危惧を覚えて自分の後頭部をそっと撫でながらそうも続ける。
「エオンの大事な夜の時間を奪ってまで呼んだんだから、きっと大事な話なんでしょうねっ!」
アローズ屈指の演技派MFはいかにも怒っています! という感じにぷりぷりしながらも素直に椅子に座った。ちなみにエンタメとしての演技と相手を実際に騙す為の演技は違う。ゲームによっては前者を「演劇」後者を「演技」とわざわざ違う名前の技能に設定していたりするくらいだ。
それで言うとエオンさんのは「演劇」。つまり真剣に怒っているのではなく、そういう雰囲気を出しているだけである。その目的は……まあ察しがつく。
「ええ、大事な話です。実はエオンさんに……秘密の任務を与えたくて」
俺はその言葉に信憑性を出す為に、少し声のトーンを落として言った
「待ってっ、プロデューサーさん! それってズバリ、試合の前でしょっ!?」
普段はどこから出てんだ? みたいなアニメ声の彼女は今だけ俺に合わせて低い音域で口を挟む。
「お? もしかしてお分かりですか?」
これには正直、驚いて目を見開く。俺は彼女を見誤っていたのかもしれないなあ。まあ食堂であんな騒ぎを起こしたし、予想はつくか。
「まあねっ!」
「では話が早くて助かります。えっと……」
俺はそう言いながら机から資料を取り上げ、エオンさんは立ち上がって腕を振り上げた。
「キックターゲットを」
「コンサートでしょ!」
ん? 俺たちは相手が差し出したもの――俺はキックターゲットの企画書、エオンさんはエアマイクを握った形の手――を見て少し固まった。
「何ですか、それ?」
「これなに、プロデューサーさんっ?」
ようやく時間が動き出した時、互いに口にしたのは質問であった。
「はにゃや?」
「プロデューサーじゃなくて監督、です。あの、先にどうぞ」
演技かリアルか分からない謎の声を出しながら首を傾げるエオンさんに、俺は発言を促した。
「えっと、試合の前のイベントとして、エオンにスーパーライブを開いて欲しいんじゃなくてっ?」
アイドル兼業のエルフはマイク型の手を自分の方へ戻しポーズをつけながら言う。
「え? 何の為に?」
「先週のひっどい音楽で、耳が汚れたオーディエンスの為にですようっ!」
ふむ。彼女が言っているのは音痴大集合のアレのことらしいな。
「あー、バード天国ですか」
「うん! あれで受けた痛みを、エオンのスペシャルステージで癒してあげるのっ!」
いや、アレはアレで終わってみれば楽しかったけどなあ。喉元過ぎれば熱さ忘れる、ではないが。
「残念ながらそれではないです」
俺はとりあえず、エオンさんの推測を否定する。とりあえず、なのは彼女の言うモノの表記の揺れ的なやつが激しいからだ。コンサートなのかスーパーライブなのかスペシャルステージなのか、それぞれにどんな違いがあるのか教えて欲しい。
……いや、冷静に考えたら別に教えていらんわ。TVの音楽番組だって、別に珍しくもなんでもない歌手さんの出演をそう呼んだりするしな!
「ぷう! じゃあ何かしらないけどやんないっ!」
アイドル兼業サッカードウ選手はそう言うと頬を膨らませてそっぽを向いた。ほう、某外国の歌手コンビみたいに出演をボイコットするつもりか? だったらミシェル・プラティニ、じゃなくてミッシェル・ガン・エレファントみたいな代わりを出すだけだが?
「そうですか。観客の目が集まるし、人気も出る任務なんだけどなー」
俺は棒読みでそう言いながら、書類をめくって別の候補を探すフリをする。
「当日のリザーブ選手でキックが上手いとなるとマイラさんかなー。あ、でも控えに拘らないならリーシャさんという手もあるか」
実際には何も書いてないページを見ながら俺が読み上げたのは、エオンさんとキャラが似たドーンエルフと、性格が正反対なデイエルフの名前だった。
「えっ?」
それを聞いたMFは思わず顔をこちらへ向ける。ふふ、狙い通りだ。俺は内心でほくそ笑んだ。
まずマイラさんはエオンさんの数少ない知己である。実際は祖母と孫ほど年齢が違うのだがそれは極秘の話で、表向きには『可愛い』を追求するアローズのキュート担当として――少なくとも当のエルフたちはそう思って――知られている。そんな親友が自分の身代わりになるのは忍びないだろうし、或いは逆に俺の言葉通り人気が出れば複雑な気持ちになるだろう。
そしてリーシャさん。彼女は世代も集団の中でのポジションもエオンさんと近く、あのパッション担当な娘がFWに転向する前はサッカードウ的ポジションも同じだった。客観的に見ればライバル、と言っても過言ではない。
だがエオンさんがリーシャさんをどう思っているかは不明だった。これまで何度かリーシャさんからエオンさんへの見解は聞いていて、彼女が意識しているのは認識していた。ならば逆はどうか?
「リーシャがでちゃうのっ!?」
エオンさんは焦りを隠せない口調で問う。どうやらその答えは明白な様だった。
「ええ、出ちゃっても問題ないでしょう」
俺はやや笑みを浮かべて言う。『出ちゃう』というのはキックターゲットに出場してしまうという意味か、人気かは名言しない。
「分かったわプロデューサーさんっ! エオン、出まーすっ!」
エオンさんはいつになく真剣な目で宣言する。いやーチョロ過ぎて逆に心配になるわこの娘ら。
「ありがとうございます! じゃあ説明しますね」
彼女の気が変わる前に話を詰めてしまおう。俺はさっそく、書類を見せて説明を始めることにした。
あとプロデューサーじゃなくて監督……じゃなくて良いか。今回は。
俺はそう言って、入り口でポーズを決めているエオンさんへ椅子を勧めた。
「あとプロデューサーじゃなくて監督です」
そろそろ俺の頭もアルファベットのPの形になってしまうんじゃないか? との危惧を覚えて自分の後頭部をそっと撫でながらそうも続ける。
「エオンの大事な夜の時間を奪ってまで呼んだんだから、きっと大事な話なんでしょうねっ!」
アローズ屈指の演技派MFはいかにも怒っています! という感じにぷりぷりしながらも素直に椅子に座った。ちなみにエンタメとしての演技と相手を実際に騙す為の演技は違う。ゲームによっては前者を「演劇」後者を「演技」とわざわざ違う名前の技能に設定していたりするくらいだ。
それで言うとエオンさんのは「演劇」。つまり真剣に怒っているのではなく、そういう雰囲気を出しているだけである。その目的は……まあ察しがつく。
「ええ、大事な話です。実はエオンさんに……秘密の任務を与えたくて」
俺はその言葉に信憑性を出す為に、少し声のトーンを落として言った
「待ってっ、プロデューサーさん! それってズバリ、試合の前でしょっ!?」
普段はどこから出てんだ? みたいなアニメ声の彼女は今だけ俺に合わせて低い音域で口を挟む。
「お? もしかしてお分かりですか?」
これには正直、驚いて目を見開く。俺は彼女を見誤っていたのかもしれないなあ。まあ食堂であんな騒ぎを起こしたし、予想はつくか。
「まあねっ!」
「では話が早くて助かります。えっと……」
俺はそう言いながら机から資料を取り上げ、エオンさんは立ち上がって腕を振り上げた。
「キックターゲットを」
「コンサートでしょ!」
ん? 俺たちは相手が差し出したもの――俺はキックターゲットの企画書、エオンさんはエアマイクを握った形の手――を見て少し固まった。
「何ですか、それ?」
「これなに、プロデューサーさんっ?」
ようやく時間が動き出した時、互いに口にしたのは質問であった。
「はにゃや?」
「プロデューサーじゃなくて監督、です。あの、先にどうぞ」
演技かリアルか分からない謎の声を出しながら首を傾げるエオンさんに、俺は発言を促した。
「えっと、試合の前のイベントとして、エオンにスーパーライブを開いて欲しいんじゃなくてっ?」
アイドル兼業のエルフはマイク型の手を自分の方へ戻しポーズをつけながら言う。
「え? 何の為に?」
「先週のひっどい音楽で、耳が汚れたオーディエンスの為にですようっ!」
ふむ。彼女が言っているのは音痴大集合のアレのことらしいな。
「あー、バード天国ですか」
「うん! あれで受けた痛みを、エオンのスペシャルステージで癒してあげるのっ!」
いや、アレはアレで終わってみれば楽しかったけどなあ。喉元過ぎれば熱さ忘れる、ではないが。
「残念ながらそれではないです」
俺はとりあえず、エオンさんの推測を否定する。とりあえず、なのは彼女の言うモノの表記の揺れ的なやつが激しいからだ。コンサートなのかスーパーライブなのかスペシャルステージなのか、それぞれにどんな違いがあるのか教えて欲しい。
……いや、冷静に考えたら別に教えていらんわ。TVの音楽番組だって、別に珍しくもなんでもない歌手さんの出演をそう呼んだりするしな!
「ぷう! じゃあ何かしらないけどやんないっ!」
アイドル兼業サッカードウ選手はそう言うと頬を膨らませてそっぽを向いた。ほう、某外国の歌手コンビみたいに出演をボイコットするつもりか? だったらミシェル・プラティニ、じゃなくてミッシェル・ガン・エレファントみたいな代わりを出すだけだが?
「そうですか。観客の目が集まるし、人気も出る任務なんだけどなー」
俺は棒読みでそう言いながら、書類をめくって別の候補を探すフリをする。
「当日のリザーブ選手でキックが上手いとなるとマイラさんかなー。あ、でも控えに拘らないならリーシャさんという手もあるか」
実際には何も書いてないページを見ながら俺が読み上げたのは、エオンさんとキャラが似たドーンエルフと、性格が正反対なデイエルフの名前だった。
「えっ?」
それを聞いたMFは思わず顔をこちらへ向ける。ふふ、狙い通りだ。俺は内心でほくそ笑んだ。
まずマイラさんはエオンさんの数少ない知己である。実際は祖母と孫ほど年齢が違うのだがそれは極秘の話で、表向きには『可愛い』を追求するアローズのキュート担当として――少なくとも当のエルフたちはそう思って――知られている。そんな親友が自分の身代わりになるのは忍びないだろうし、或いは逆に俺の言葉通り人気が出れば複雑な気持ちになるだろう。
そしてリーシャさん。彼女は世代も集団の中でのポジションもエオンさんと近く、あのパッション担当な娘がFWに転向する前はサッカードウ的ポジションも同じだった。客観的に見ればライバル、と言っても過言ではない。
だがエオンさんがリーシャさんをどう思っているかは不明だった。これまで何度かリーシャさんからエオンさんへの見解は聞いていて、彼女が意識しているのは認識していた。ならば逆はどうか?
「リーシャがでちゃうのっ!?」
エオンさんは焦りを隠せない口調で問う。どうやらその答えは明白な様だった。
「ええ、出ちゃっても問題ないでしょう」
俺はやや笑みを浮かべて言う。『出ちゃう』というのはキックターゲットに出場してしまうという意味か、人気かは名言しない。
「分かったわプロデューサーさんっ! エオン、出まーすっ!」
エオンさんはいつになく真剣な目で宣言する。いやーチョロ過ぎて逆に心配になるわこの娘ら。
「ありがとうございます! じゃあ説明しますね」
彼女の気が変わる前に話を詰めてしまおう。俺はさっそく、書類を見せて説明を始めることにした。
あとプロデューサーじゃなくて監督……じゃなくて良いか。今回は。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる