584 / 700
第三十三章
どこもこども扱い
しおりを挟む
店長ディノさんと話はついている。俺は真っ直ぐ、前回で目をつけていた店の奥の個室へ向かった。
「わー聞いてたけどお洒落なお店! あ、ショーキチ先生、待って!」
一方のアリスさんは興味深げに店内を見渡して出遅れていた。確かに間接照明と気の利いたインテリアが並ぶ店内は観ているだけで楽しい。しかし反応がいちいち大きいと言うか初々しいと言うか……。本当に彼氏持ちの成年女性か?
「アリス先生、どうぞ」
俺は個室のドアを開き、押さえたまま彼女を呼んだ。それを見てわぉ、と声を上げ頭を下げつつアリスさんは中へ入る。本当に子供っぽいエルフだ。偏見だが日本の学校の先生って大学から社会人を経験せずそのまま先生になる事が多いので世間知らずな面があったりする。それでいて何時も児童の相手をしてるので、咄嗟にこちらを子供みたいに扱ってくるとか。
彼女にも少し、そんな所を感じる。それを不快と思うよりは、懐かしさを覚えている俺がいた。
「食事と飲み物もある程度、頼んでありますので。もし足りなかったら、勉強の合間にでも追加して下さい」
「ありがとうございます!」
席につき鞄から教材を出していたアリスさんはそれを聞いて一層、顔を明るくした。ぬか喜びさせて悪いが『飲み物』にアルコールは含まれていない。まあ彼女が注文してしまったら仕方ないが。
「あ、俺も本を出さなきゃ」
俺もそう言いながら、借りてきた例の本を取り出す。さあ、勉強会の開始だ!
「デイエルフの文学とドーンエルフの文学における最大の差異は一人称です。前期デイエルフ文学に『私たち』という言葉はありますが『私』という呼称は存在しません。『己』という意味で使われる『エルフ』という呼称が示すものを別表にまとめていますが……」
小一時間後。アリスさんの講義が最高に乗ってきた所で、俺は流石に口を挟んだ。
「アリス先生! ちょっとタイム!」
「はい? 何ですか? 控えを投入します?」
肉付きの良いドーンエルフはそう言いながらメニューを開いた。彼女の言う『控え』とは追加のメニューである。アリスさんは授業をしつつも俺が先にオーダーしていた料理をバクバクと平らげ、なるほどこの食欲で豊かな身体と教師業を行う体力を維持しているのだなあ、と俺を感心させていたのだ。
「いえ、そっちはアリス先生のご自由にして頂いて……。ちょっと講義の内容がですね」
俺は彼女が開いて見せたメニュー表を押し返し、代わりに授業のテキストの方を見せた。
「内容が?」
「ちょっと高度すぎるかな~と」
俺は負けを認めるようでシャクに思いつつも、正直な気持ちを述べた。
「高度、ですか?」
「ええ」
勉強会の出だしは、まだマシだった。予想通りエルフの建国神話――森で原始的な生活をしていたエルフが夜空の月を弓矢で居抜き、降り注いだ破片を浴びて知恵や魔法を会得したとかどうとか――から始まり、様々な氏族に別れていく昔話を紹介していく流れだったからだ。
だが途中から文化比較論や表現の移り変わりの話が入るようになり、やがて内容はより高度に、複雑になっていった。アリスさんの話を止める寸前に至っては、文化論の試験を受ける生徒の様な気分になっていたのだ。
「そこまで詳細じゃなくて良いんですよ。なんかこう、それぞれの時代の代表的な作品の表面的な部分を紹介していく、みたいな形で十分です」
俺は店に入った時に彼女を子供っぽい、と内心で評した事を恥じていた。いや、性格そのものの評価は変わらない。だが軽薄に見えてもアリスさんもやはり教師で、その分野の訓練を受けた専門家なのだ。
「あっ、そうでしたね! すみません、ついつい熱が入って」
アリスさんはそう言いながら廊下へ身を乗り出し、店員さんを呼ぶと身体を戻してこちらを見た。
「でもショーキチ先生も侮っていたでしょ? 子供相手の授業だろう、って?」
いつもはクリクリした大きな目をしているエルフは、目を細め睨むような顔でそう言った。くそ、見抜かれていたか。そしてもしかすると、それを見越して俺が凹むような内容にしていたのか。
「えと……はい。認めます、有罪です」
「ふふん、素直に認めてよろしい!」
アリスさんはその言葉を聞くと俺の頭をワシワシと撫でた。彼女に子供扱いされるとはなんたる屈辱……!
「じゃあショーキチ先生のリクエスト通りにレベルを下げますかー。そのテキストは返して貰って」
「いや、これはこれで」
俺はアリスさんが伸ばした手からブツを遠ざけて言う。
「個人で読み込んで、次までには理解できるようになってきます」
「ほっほう~。男の子だなあ」
そんな俺を見て彼女は嬉しそうに笑った。
「でも私はオトナの女なので、お酒を頼みますね!」
「……はい」
彼女がどんなに勝ち誇ろうと好き放題しようと仕方ない。今の俺は一本、取られた身だ。
「お待たせしました」
「あ、追加注文お願いしまーす!」
そこに店員さんが来て、アリスさんが嬉々としてお酒を頼む。それが届いたら今度は俺が彼女に授業する番だ。
何とか一本、取り返してやるぞ!
「わー聞いてたけどお洒落なお店! あ、ショーキチ先生、待って!」
一方のアリスさんは興味深げに店内を見渡して出遅れていた。確かに間接照明と気の利いたインテリアが並ぶ店内は観ているだけで楽しい。しかし反応がいちいち大きいと言うか初々しいと言うか……。本当に彼氏持ちの成年女性か?
「アリス先生、どうぞ」
俺は個室のドアを開き、押さえたまま彼女を呼んだ。それを見てわぉ、と声を上げ頭を下げつつアリスさんは中へ入る。本当に子供っぽいエルフだ。偏見だが日本の学校の先生って大学から社会人を経験せずそのまま先生になる事が多いので世間知らずな面があったりする。それでいて何時も児童の相手をしてるので、咄嗟にこちらを子供みたいに扱ってくるとか。
彼女にも少し、そんな所を感じる。それを不快と思うよりは、懐かしさを覚えている俺がいた。
「食事と飲み物もある程度、頼んでありますので。もし足りなかったら、勉強の合間にでも追加して下さい」
「ありがとうございます!」
席につき鞄から教材を出していたアリスさんはそれを聞いて一層、顔を明るくした。ぬか喜びさせて悪いが『飲み物』にアルコールは含まれていない。まあ彼女が注文してしまったら仕方ないが。
「あ、俺も本を出さなきゃ」
俺もそう言いながら、借りてきた例の本を取り出す。さあ、勉強会の開始だ!
「デイエルフの文学とドーンエルフの文学における最大の差異は一人称です。前期デイエルフ文学に『私たち』という言葉はありますが『私』という呼称は存在しません。『己』という意味で使われる『エルフ』という呼称が示すものを別表にまとめていますが……」
小一時間後。アリスさんの講義が最高に乗ってきた所で、俺は流石に口を挟んだ。
「アリス先生! ちょっとタイム!」
「はい? 何ですか? 控えを投入します?」
肉付きの良いドーンエルフはそう言いながらメニューを開いた。彼女の言う『控え』とは追加のメニューである。アリスさんは授業をしつつも俺が先にオーダーしていた料理をバクバクと平らげ、なるほどこの食欲で豊かな身体と教師業を行う体力を維持しているのだなあ、と俺を感心させていたのだ。
「いえ、そっちはアリス先生のご自由にして頂いて……。ちょっと講義の内容がですね」
俺は彼女が開いて見せたメニュー表を押し返し、代わりに授業のテキストの方を見せた。
「内容が?」
「ちょっと高度すぎるかな~と」
俺は負けを認めるようでシャクに思いつつも、正直な気持ちを述べた。
「高度、ですか?」
「ええ」
勉強会の出だしは、まだマシだった。予想通りエルフの建国神話――森で原始的な生活をしていたエルフが夜空の月を弓矢で居抜き、降り注いだ破片を浴びて知恵や魔法を会得したとかどうとか――から始まり、様々な氏族に別れていく昔話を紹介していく流れだったからだ。
だが途中から文化比較論や表現の移り変わりの話が入るようになり、やがて内容はより高度に、複雑になっていった。アリスさんの話を止める寸前に至っては、文化論の試験を受ける生徒の様な気分になっていたのだ。
「そこまで詳細じゃなくて良いんですよ。なんかこう、それぞれの時代の代表的な作品の表面的な部分を紹介していく、みたいな形で十分です」
俺は店に入った時に彼女を子供っぽい、と内心で評した事を恥じていた。いや、性格そのものの評価は変わらない。だが軽薄に見えてもアリスさんもやはり教師で、その分野の訓練を受けた専門家なのだ。
「あっ、そうでしたね! すみません、ついつい熱が入って」
アリスさんはそう言いながら廊下へ身を乗り出し、店員さんを呼ぶと身体を戻してこちらを見た。
「でもショーキチ先生も侮っていたでしょ? 子供相手の授業だろう、って?」
いつもはクリクリした大きな目をしているエルフは、目を細め睨むような顔でそう言った。くそ、見抜かれていたか。そしてもしかすると、それを見越して俺が凹むような内容にしていたのか。
「えと……はい。認めます、有罪です」
「ふふん、素直に認めてよろしい!」
アリスさんはその言葉を聞くと俺の頭をワシワシと撫でた。彼女に子供扱いされるとはなんたる屈辱……!
「じゃあショーキチ先生のリクエスト通りにレベルを下げますかー。そのテキストは返して貰って」
「いや、これはこれで」
俺はアリスさんが伸ばした手からブツを遠ざけて言う。
「個人で読み込んで、次までには理解できるようになってきます」
「ほっほう~。男の子だなあ」
そんな俺を見て彼女は嬉しそうに笑った。
「でも私はオトナの女なので、お酒を頼みますね!」
「……はい」
彼女がどんなに勝ち誇ろうと好き放題しようと仕方ない。今の俺は一本、取られた身だ。
「お待たせしました」
「あ、追加注文お願いしまーす!」
そこに店員さんが来て、アリスさんが嬉々としてお酒を頼む。それが届いたら今度は俺が彼女に授業する番だ。
何とか一本、取り返してやるぞ!
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる