661 / 700
第三十七章
切ったはったの?
しおりを挟む
落とした! と勇ましく述べたものの、選手が闘うこの神聖なるピッチに俺の身から出たゴミを捨てる訳には――いや選手達は普通に唾を吐いたり口を濯いだ水を捨てたりしているが――いかない。俺は切り離した前髪を自分のスーツのポケットへ突っ込む。
『なにしてんのんショーキチにいさん!』
「ショーキチ、気でも狂ったの!?」
それを見たレイさんとルーナさんが驚きの声をあげ、ミガサさんが慌てながら巾着袋の様なものを差し出す。あ、ポケットじゃなくてこれに入れろって事か。確かにそれが良いな。
「ありがとうございます。で、今のはレイさんの言葉?」
俺はポケットから髪の断片を取り出し袋へ詰めながら訊ねた。
「ううん、この子はもう少しマイルド。今のは私の本心」
聞かれたルーナさんは首を振りながら答える。
「そ、そうか……。まあ何にせよこんな髪になったから、どのみち散髪はしないといけないよね」
今度は前もって袋を前に置き、その中めがけて何束か前髪を切り落とす。
「ルーナさんも前髪切らない?」
「切らない」
『ちょっと!』
俺がハーフエルフに冷たく拒絶されている所に、レイさんが割って入ってきた。
「俺はレイさんに笑ってサッカーをして欲しいんだよ。俺の髪がどうとか気にせず、自由にさ。君が笑えばボールも笑うよ」
そのレイさんに俺は笑ってそう言う。そしてルーナさんの通訳を待つが……彼女は頭をポリポリと掻いていた。
「えっと、翻訳お願い」
「いいけど……。ダサいから最後の部分は省いて良い?」
おっとショックだ。ダサいと言われてしまった。しかし無理強いはできないので、俺は黙って頷く。
「ピッ!」
短い笛が鳴る。そんな間にピッチではPKの準備がなされ、ゴールマウスにはボナザさんに代わってユイノさんが立っていた。その背後のアローズサポーターはPKキッカーの集中を乱そうと大騒ぎをしている。
しかしユイノさんの跳躍もサポーターの奮闘も功を奏する事は無かった。止まった状態で精度の高い作業をするのはドワーフの得意とする所だ。PKキッカーのトミー選手はほぼ助走無しで右足を振り抜き、シュートを左サイドネットの内側へ撃ち込んだ。
「ピピーッ!」
そのゴールを認めると同時に審判さんが長い笛を吹いた。このゴールで前半終了だ。ゲームは2-1でハーフタイムを迎える事となったのだ。
「おおう、終わったか。じゃあ後はロッカーで」
『ショーちゃん、どうしちゃったの!?』
『ひっどい髪型だにゃん!』
そう言って身を起こした俺の方は、選手達の驚きの反応を迎える事となる。
「はいはい、話すのはロッカーで!」
今日はハーフタイムショーの為にこのあと魔法無効化フィールドは一端、切られる予定である。しかし選手が出て行くまでは有効なままだ。まだ翻訳アミュレットは効果を発揮しないので、俺は自分も歩きつつジェスチャーで選手達に移動を促す。
「監督さん、そっ、そちら貰います」
コンコースに入った所でミガサさんが話しかけてきた。その言葉は理解できるようになっていたが、意味が分からず俺は首を傾げる。
「その、袋を……」
「ああ、これ!」
俺は彼女の視線を追って、切った髪を入れた袋をまだ持っている事に気づく。
「どうもです。あ、鋏も」
「いえ。でも乱暴な切り方でしたね。お怪我はありませんか?」
銀髪の美女はそう言って俺の頭部に手を伸ばす。俺は目を瞑り、その手が俺の額付近を探るのに身を委ねた。
「ないと思います。ただ怪我と言うか切った時に落ちた細かい毛が背中に入ってチクチク痛いです」
「でしょうね」
俺の言葉を聞いたミガサさんはくすっと笑って身を離した。
「でも非常に勇敢な行為でした。選手の為に、自分の身に鋏を入れるなんて」
「いや、身というか髪ですよ?」
そう言って俺はロックミュージシャンの様に身を捩った。口にしてしまった事で、なおさら背中に入った毛が気になるようになってしまったのだ。あ、ロックと言えば!
「それに勇敢と言えばミガサさんですよ。この後、ショーのナレーションですよね?」
「ああっ!」
俺の言葉を聞いた美貌の治療士は、それこそ美しい彫像のように身を固めた。そう、この後で音楽のショーがあり、彼女もイベント部で関係があるのだ。
「そっ、そうでした……」
「大丈夫ですよ。さあ、行って下さい! あ、それ預かっておきます」
彼女の背を押しつつ、先ほど渡した袋を受け取る。これは後で別の医療班に託せば良いだろう。
「はい……」
ふらふらと歩き去るミガサさんを見送った所に、入れ替わるようにナリンさんが来る。
「ショーキチ殿、まあ随分と素敵に」
ミガサさんにひけをとらない美貌のエルフは、俺の頭部を見て心からの笑顔でそう言った。
「そうですか~。流行になったらどうしよう?」
俺はそう言いながら改めて自分の前髪に手をやる。右手の方向から斜めに二度、入れられたカットは稲妻の様と言うか作業用に前髪をヘアピンで留めた様と言うか何とも落ち着かない形だ。
「冗談はともかく。この状態じゃ集中できないので、ハーフタイム中にささっとシャワーを浴びて毛を落として着替えもしてきます。間に合うと思いますが、最悪の場合はお任せして良いですか?」
「はい。交代は無しで?」
ナリンさんは快くそれを了承すると、形だけの質問をしてきた。
「ええ。このままで行けば後半早々にレイさんがやってくれますし」
俺は既に歩き始めながら言葉を続ける。
「それでもうウチの勝ちです」
『なにしてんのんショーキチにいさん!』
「ショーキチ、気でも狂ったの!?」
それを見たレイさんとルーナさんが驚きの声をあげ、ミガサさんが慌てながら巾着袋の様なものを差し出す。あ、ポケットじゃなくてこれに入れろって事か。確かにそれが良いな。
「ありがとうございます。で、今のはレイさんの言葉?」
俺はポケットから髪の断片を取り出し袋へ詰めながら訊ねた。
「ううん、この子はもう少しマイルド。今のは私の本心」
聞かれたルーナさんは首を振りながら答える。
「そ、そうか……。まあ何にせよこんな髪になったから、どのみち散髪はしないといけないよね」
今度は前もって袋を前に置き、その中めがけて何束か前髪を切り落とす。
「ルーナさんも前髪切らない?」
「切らない」
『ちょっと!』
俺がハーフエルフに冷たく拒絶されている所に、レイさんが割って入ってきた。
「俺はレイさんに笑ってサッカーをして欲しいんだよ。俺の髪がどうとか気にせず、自由にさ。君が笑えばボールも笑うよ」
そのレイさんに俺は笑ってそう言う。そしてルーナさんの通訳を待つが……彼女は頭をポリポリと掻いていた。
「えっと、翻訳お願い」
「いいけど……。ダサいから最後の部分は省いて良い?」
おっとショックだ。ダサいと言われてしまった。しかし無理強いはできないので、俺は黙って頷く。
「ピッ!」
短い笛が鳴る。そんな間にピッチではPKの準備がなされ、ゴールマウスにはボナザさんに代わってユイノさんが立っていた。その背後のアローズサポーターはPKキッカーの集中を乱そうと大騒ぎをしている。
しかしユイノさんの跳躍もサポーターの奮闘も功を奏する事は無かった。止まった状態で精度の高い作業をするのはドワーフの得意とする所だ。PKキッカーのトミー選手はほぼ助走無しで右足を振り抜き、シュートを左サイドネットの内側へ撃ち込んだ。
「ピピーッ!」
そのゴールを認めると同時に審判さんが長い笛を吹いた。このゴールで前半終了だ。ゲームは2-1でハーフタイムを迎える事となったのだ。
「おおう、終わったか。じゃあ後はロッカーで」
『ショーちゃん、どうしちゃったの!?』
『ひっどい髪型だにゃん!』
そう言って身を起こした俺の方は、選手達の驚きの反応を迎える事となる。
「はいはい、話すのはロッカーで!」
今日はハーフタイムショーの為にこのあと魔法無効化フィールドは一端、切られる予定である。しかし選手が出て行くまでは有効なままだ。まだ翻訳アミュレットは効果を発揮しないので、俺は自分も歩きつつジェスチャーで選手達に移動を促す。
「監督さん、そっ、そちら貰います」
コンコースに入った所でミガサさんが話しかけてきた。その言葉は理解できるようになっていたが、意味が分からず俺は首を傾げる。
「その、袋を……」
「ああ、これ!」
俺は彼女の視線を追って、切った髪を入れた袋をまだ持っている事に気づく。
「どうもです。あ、鋏も」
「いえ。でも乱暴な切り方でしたね。お怪我はありませんか?」
銀髪の美女はそう言って俺の頭部に手を伸ばす。俺は目を瞑り、その手が俺の額付近を探るのに身を委ねた。
「ないと思います。ただ怪我と言うか切った時に落ちた細かい毛が背中に入ってチクチク痛いです」
「でしょうね」
俺の言葉を聞いたミガサさんはくすっと笑って身を離した。
「でも非常に勇敢な行為でした。選手の為に、自分の身に鋏を入れるなんて」
「いや、身というか髪ですよ?」
そう言って俺はロックミュージシャンの様に身を捩った。口にしてしまった事で、なおさら背中に入った毛が気になるようになってしまったのだ。あ、ロックと言えば!
「それに勇敢と言えばミガサさんですよ。この後、ショーのナレーションですよね?」
「ああっ!」
俺の言葉を聞いた美貌の治療士は、それこそ美しい彫像のように身を固めた。そう、この後で音楽のショーがあり、彼女もイベント部で関係があるのだ。
「そっ、そうでした……」
「大丈夫ですよ。さあ、行って下さい! あ、それ預かっておきます」
彼女の背を押しつつ、先ほど渡した袋を受け取る。これは後で別の医療班に託せば良いだろう。
「はい……」
ふらふらと歩き去るミガサさんを見送った所に、入れ替わるようにナリンさんが来る。
「ショーキチ殿、まあ随分と素敵に」
ミガサさんにひけをとらない美貌のエルフは、俺の頭部を見て心からの笑顔でそう言った。
「そうですか~。流行になったらどうしよう?」
俺はそう言いながら改めて自分の前髪に手をやる。右手の方向から斜めに二度、入れられたカットは稲妻の様と言うか作業用に前髪をヘアピンで留めた様と言うか何とも落ち着かない形だ。
「冗談はともかく。この状態じゃ集中できないので、ハーフタイム中にささっとシャワーを浴びて毛を落として着替えもしてきます。間に合うと思いますが、最悪の場合はお任せして良いですか?」
「はい。交代は無しで?」
ナリンさんは快くそれを了承すると、形だけの質問をしてきた。
「ええ。このままで行けば後半早々にレイさんがやってくれますし」
俺は既に歩き始めながら言葉を続ける。
「それでもうウチの勝ちです」
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる