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第三十七章
越えないドワーフ
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「システムはこちらも1441。ですがいわゆるミラーゲームでは無いであります」
そう言うナリンさんが持つボードには背番号で選手の並びが示されていた。
GKは交代で入ったユイノさん。DFラインはルーナ、シャマー、ムルトと来て右SBにはポリンさんが降りた形だ。
中盤はいわゆるダイヤモンド型で左マイラ、右リスト、底がクエン。トップ下にダリオさんで、1TOPがレイさん。
……それほど珍しい形ではない。だがこのシステムには細かな気配りと目論見が幾つも隠されていた。
「ポリンが右SBまで下がる事で、ドワーフはあの子を追い難くなったであります。その上、右足を防ぐ事が困難になるよう……」
ナリンさんはボードの上で、ドワーフDFの駒をクイクイと動かしたが、その駒はある部分で見えない壁にぶつかったかのように止まった。
俺はそれを見てはっと呟く。
「サイドラインですね!」
「そうであります!」
ドワーフのDFは前半、レイさんへのパスの最大の供給源であるポリンさんを潰しにかかっていた。その中でもっとも意識されていたのは『ポリンさんの右足の前に立つ』である……というのは俺たちが彼女に告げた通り。
それを打ち破る策については、俺も考えていた――本当だよ? ただ前半にはそれを伝える時間が無く、ハーフタイムもティアさん相手でほぼ消えただけなのだ――のだが、ジノリコーチはもっとシンプルでかつ、ドワーフの習性を読み切った対策を与えた。
「ドワーフは線を越えないであります!」
ナリンさんは、彼女もエルフであることを伺わせるような意地悪な笑みを浮かべクククと笑った。
まずごく基本的なルールの話として、選手は勝手にピッチの外へ出てはいけない事になっている。もちろんスローインやCKの時、プレイが止まっている間に給水する、治療の為に外へ出されるなどは別だ。
ここで言っているのはプレイ中にゴール裏を通るとか、ボールだけフィールド内へ残しつつ、自分はサイドラインの外を走るといった行為の事だ。
もっとも例外は多々ある。例えば空中戦で競り合った後、着地した際に勢い余ってゴールラインを越えてしまうとか。サイドをドリブル突破している最中、副審さんに衝突しそうになったので外へ膨らんで避けるとか。そういったケースでラインを踏み越えてしまう事はプレイの一環として認められている。
ただ性格的な話、そんなケースでもなるべく外へ出てしまわないように頑張って踏ん張るタイプと
「仕方ねーじゃん」
とばかりに大きくはみ出るタイプとがいる。
ドワーフは……圧倒的に前者だ。彼女たちは交代を急ぐ時でも勝手に外へ出たりしない。審判の指示があるまで待つし、他にもFKやスローインの位置を誤魔化したりもしない。愚直にルールを守る。その分、ルール外の不正は平気でする。例の送風機とか。あっちの方がよほどヤバそうな行為だが、土の種族の中では正当な努力なのだろう。
話を元に戻そう。そういった性質をジノリコーチはどう利用したか? 同族を良く知る天才コーチはポリンさんをSBに置いて、彼女の右足がサイドライン上に位置するように設定したのである。
対面したドワーフの選手はおそらくポビッチ監督に厳命された通り、自身の身体を常にポリンさんの右足の前へ置こうとする。しかしエルフ少女の右足はサイドラインの上だ。老将の命令を守ろうとすれば、自分の身体の大半がラインの外へ出てしまう。
それが絶対的に駄目な事か? と言われると実はそうではない。プレイの流れ上で自然であれば認められるし、審判さんも早々ファウルをとったりする事もない。
しかしドワーフはドワーフである。身体の一部でもフィールド内にあればセーフだろ? とか注意されるまではやろう! みたいな考え方はしない。生真面目に、自分からはみ出ようとはしないのだ。それがナリンさんの言った
「ドワーフは線を越えないであります!」
と言う言葉の意味だ。
彼女がそう笑った事から分かるようにエルフはするけどね。俺も今さっきだって一線を越えようとするエルフから逃げてきたばかりだしね。
って意味が違うわ! ……ともかく、そんなこんなでポリンさんの右足を封じようとしたドワーフの選手はポビッチ監督の指示と自身のモラルの間で板挟みになった。エルフ少女の右足の前には立ちたい、しかし線を越えてはいけない。
もともとポリンさんの右足封じは無心で遂行するからこそ効力を発揮する策である。加えて言えば愚直に一つの事をやり通す時にドワーフは最大限の能力を発揮する。だがそれが阻害されればどうなるか?
結果かなりぎこちない動きをする事となり、そのドワーフをあざ笑うかの様にポリンさんは対面のドワーフを抜き去り、余裕をもってレイさんへスルーパスを送った。
本来であれば1TOPのFWに、今のような均衡した試合で絶好のスルーパスが通る事は滅多にない。DF陣としてケアしなければならない相手がたった一人であるからだ。しかしパスの出し手と受け手のタイミングが完全に合い、両者に技術があれば可能だ。
ポリンさんとレイさんにはそれら、タイミングを合わせられる相性の良さと技術の両方があった。
そしてGKと一対一になったナイトエルフのファンタジスタはドワーフの頭上を軽く越すループシュートを放って、いとも簡単にゴールを決めてみせた。
ゲームの勝敗を決定的にするゴールを。
そう言うナリンさんが持つボードには背番号で選手の並びが示されていた。
GKは交代で入ったユイノさん。DFラインはルーナ、シャマー、ムルトと来て右SBにはポリンさんが降りた形だ。
中盤はいわゆるダイヤモンド型で左マイラ、右リスト、底がクエン。トップ下にダリオさんで、1TOPがレイさん。
……それほど珍しい形ではない。だがこのシステムには細かな気配りと目論見が幾つも隠されていた。
「ポリンが右SBまで下がる事で、ドワーフはあの子を追い難くなったであります。その上、右足を防ぐ事が困難になるよう……」
ナリンさんはボードの上で、ドワーフDFの駒をクイクイと動かしたが、その駒はある部分で見えない壁にぶつかったかのように止まった。
俺はそれを見てはっと呟く。
「サイドラインですね!」
「そうであります!」
ドワーフのDFは前半、レイさんへのパスの最大の供給源であるポリンさんを潰しにかかっていた。その中でもっとも意識されていたのは『ポリンさんの右足の前に立つ』である……というのは俺たちが彼女に告げた通り。
それを打ち破る策については、俺も考えていた――本当だよ? ただ前半にはそれを伝える時間が無く、ハーフタイムもティアさん相手でほぼ消えただけなのだ――のだが、ジノリコーチはもっとシンプルでかつ、ドワーフの習性を読み切った対策を与えた。
「ドワーフは線を越えないであります!」
ナリンさんは、彼女もエルフであることを伺わせるような意地悪な笑みを浮かべクククと笑った。
まずごく基本的なルールの話として、選手は勝手にピッチの外へ出てはいけない事になっている。もちろんスローインやCKの時、プレイが止まっている間に給水する、治療の為に外へ出されるなどは別だ。
ここで言っているのはプレイ中にゴール裏を通るとか、ボールだけフィールド内へ残しつつ、自分はサイドラインの外を走るといった行為の事だ。
もっとも例外は多々ある。例えば空中戦で競り合った後、着地した際に勢い余ってゴールラインを越えてしまうとか。サイドをドリブル突破している最中、副審さんに衝突しそうになったので外へ膨らんで避けるとか。そういったケースでラインを踏み越えてしまう事はプレイの一環として認められている。
ただ性格的な話、そんなケースでもなるべく外へ出てしまわないように頑張って踏ん張るタイプと
「仕方ねーじゃん」
とばかりに大きくはみ出るタイプとがいる。
ドワーフは……圧倒的に前者だ。彼女たちは交代を急ぐ時でも勝手に外へ出たりしない。審判の指示があるまで待つし、他にもFKやスローインの位置を誤魔化したりもしない。愚直にルールを守る。その分、ルール外の不正は平気でする。例の送風機とか。あっちの方がよほどヤバそうな行為だが、土の種族の中では正当な努力なのだろう。
話を元に戻そう。そういった性質をジノリコーチはどう利用したか? 同族を良く知る天才コーチはポリンさんをSBに置いて、彼女の右足がサイドライン上に位置するように設定したのである。
対面したドワーフの選手はおそらくポビッチ監督に厳命された通り、自身の身体を常にポリンさんの右足の前へ置こうとする。しかしエルフ少女の右足はサイドラインの上だ。老将の命令を守ろうとすれば、自分の身体の大半がラインの外へ出てしまう。
それが絶対的に駄目な事か? と言われると実はそうではない。プレイの流れ上で自然であれば認められるし、審判さんも早々ファウルをとったりする事もない。
しかしドワーフはドワーフである。身体の一部でもフィールド内にあればセーフだろ? とか注意されるまではやろう! みたいな考え方はしない。生真面目に、自分からはみ出ようとはしないのだ。それがナリンさんの言った
「ドワーフは線を越えないであります!」
と言う言葉の意味だ。
彼女がそう笑った事から分かるようにエルフはするけどね。俺も今さっきだって一線を越えようとするエルフから逃げてきたばかりだしね。
って意味が違うわ! ……ともかく、そんなこんなでポリンさんの右足を封じようとしたドワーフの選手はポビッチ監督の指示と自身のモラルの間で板挟みになった。エルフ少女の右足の前には立ちたい、しかし線を越えてはいけない。
もともとポリンさんの右足封じは無心で遂行するからこそ効力を発揮する策である。加えて言えば愚直に一つの事をやり通す時にドワーフは最大限の能力を発揮する。だがそれが阻害されればどうなるか?
結果かなりぎこちない動きをする事となり、そのドワーフをあざ笑うかの様にポリンさんは対面のドワーフを抜き去り、余裕をもってレイさんへスルーパスを送った。
本来であれば1TOPのFWに、今のような均衡した試合で絶好のスルーパスが通る事は滅多にない。DF陣としてケアしなければならない相手がたった一人であるからだ。しかしパスの出し手と受け手のタイミングが完全に合い、両者に技術があれば可能だ。
ポリンさんとレイさんにはそれら、タイミングを合わせられる相性の良さと技術の両方があった。
そしてGKと一対一になったナイトエルフのファンタジスタはドワーフの頭上を軽く越すループシュートを放って、いとも簡単にゴールを決めてみせた。
ゲームの勝敗を決定的にするゴールを。
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