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第三十八章
死の4分
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散髪サンバが滅茶苦茶に散らかしたゴミと空気を整え、改めて断髪式をやり遂げるには結構な時間がかかったらしい。前も借りた部屋――ツンカさんと一緒に夜遅く、城を訪れた時と同じのだ――のドアがノックされたのは、俺が会場を退出してから小一時間が過ぎた後だった。
らしい、というのはアレだ。俺はこの部屋に逃げ込んですぐベッドに倒れ込み夢も見ない眠りを貪っていたから。
「……さん? ショウキチさん?」
そんな訳で目を覚ましたのは耳元でそんな色っぽい声を聞いた時だった。
「はい? あ、ダリオさん!? もうそんな時間ですか!?」
目の前に悩ましげなダリオさんの顔と谷間が見えて、慌てて身を起こす。いつの間にやら彼女はベッドのすぐ横まで来て、俺の身体を揺らしていたのだ。
あと別の物体も揺れていたけどノーコメントで。
「ええ。報道陣にも休憩が必要なのでインターバルをとっていますが、あと10分ほどで発表会の開始です」
「お疲れさまです」
彼女の疲労の大半は、あの自由な父親――恐ろしい事にこのエルフ国の国王でもある――のやらかしを収拾し、彼に説教する事で生じたものだろう。家族関係に悩む事は俺にはもう無いがチームにとっての大口スポンサーや親会社の社長が余計な口出しや手出しをして来ている、という部分だけでも相当な重みだ。俺は慰労の言葉を投げた。
「交代でここで休ませて下さい」
ダリオさんはそう言って俺の横にゴロンと寝転がった。こちらは物理的な重みがプルン、と器から更に移されたプリンのように震える。
「あっそんな、俺の寝ていた後なんて! せめて退きます!」
姫様にこんな所でお休み頂くなんて不敬の極みだが、隣で寝るのはそれに不貞も加わる。俺は慌ててベッドから降りようとしたが自分のいる側は壁に面しているし、足を降ろせるのはダリオさん側だ。
そちらから降りようとするなら……既に横たわった彼女の身体を跨ぐ事になる。
「別に構いませんよ、10分くらいなら。そうした後は、発表会に出席して頂かないといけませんが」
逡巡した俺の顔を見てダリオさんはからかうように笑いながら言った。そうした後ってどうした後だよ!
「いえすぐ行きます! ただちょっと上を失礼しますが……」
「ええ、どうぞ」
どうぞ、と口にしながら彼女はベッドの上で甘い吐息をはきつつ大きく伸びをし、ただでも少なかった俺が手足を置けそうな空間は更に狭くなった。というかただの伸びでそんな声、出ますか!? あとどうぞってどういう意味で!?
「あれ? ちょっと、無い……」
俺の手は困ったようにスペースを探し、ダリオさんはその手が行く先へ身体を寄せる。どれほど重責を担っていようと彼女もドーンエルフなんだな!
「あん」
「ああ、すみません!」
そして、当然起こるべきアクシデントが起こった。ダリオさんの身体を越える際に自分を支える用に伸ばした手が、彼女の胸に追突したのだ!
「もう、ショウキチさんのえっち……」
「許して下さい! 触る気はなかったんです!」
俺は必死に弁明をする。サッカーでも倒れそうな時に出す手、いわゆる『支え手』についてはボールを触ってしまってもハンドを取る審判さんは非常に少ない。今だって、ダリオさんの身体に覆い被さらないよう伸ばした手がダリオさんの大きなボールに触れてしまっただけなので、これをハンドリングの反則にするのは厳しすぎる!
って何を言っているの俺!?
「だ、め。でも特別に5分間、添い寝して撫で撫でしてくれたら許します」
しかし今日の審判は容赦なかった。しかも俺を5分の懲役刑に処すという。これはラグビーにおけるシンビン――10分間だけ一時退場する罰だ。サッカーにも導入の噂があるかどうなるだろう?――みたいなものか。
「分かりました。でも時間はどう……」
「えい」
俺の疑問にダリオさんは腕を振って答えた。すると彼女の右手の指輪が勢いよく外れ壁に張り付き、空中に5分タイマーを照射し出した。
「あ、そう言えばそんな感じの魔法のアイテム、お持ちでしたね」
時折、お姫様がこの道具で自分のスケジュール等を確認していたのを俺は思い出した。王家としての公務、エルフサッカードウ協会会長としての事務、そしてサッカードウ選手としての練習と試合に追われる日々だ。これくらいの便利ツールが無ければやってられないだろう。
……そう考えれば、激務に疲労している彼女を労ってあげるくらいした方が良いのかもしれない。今ちょっとおかしなテンションなのも、忙しい上に父親の暴走の対処で疲れているからだろうし。
「えっと、では頭で良いんですよね? よしよし、ダリオさんはよくやってますよ」
俺はそう言って彼女の豊かな金髪をそっと撫でた。
「『ダリオさん』じゃなくて~」
「ダリオは良い子だね。頑張り屋さんだよ」
褒める時は躊躇い無くやり切る。これは常々、心がけていることだ。俺は彼女の要求に応えて言い直した。毒を食らわば皿までだしね。
「もう、口が上手いんだから! じゃあこっちは?」
しかしドーンエルフは食ってはいけないモノを俺の口にねじ込んできた! つまり俺と唇を重ね情熱的なキスを始めたのである!
「(流石にちょっとこのシチュエーションはマズいのでは!?)」
「ん……。残り4分30秒だけだから……」
ダリオさんは一瞬、唇を離してそう呟くと身体をぎゅっと寄せ再び舌を絡め始めた。その結果、俺の左腕は彼女を腕枕し、右手は導かれるまま胸の上に置かれているような状態になる。
時間……そうか、時間制限があるならなんとかなる……なんとかする!
俺はその後、今までの人生で最も長い4分を耐え、
「あの、やはり5分延長で……。私、準備はできていますし5分でも……」
と謎の要求をするダリオさんを振り解いて部屋を出た。
らしい、というのはアレだ。俺はこの部屋に逃げ込んですぐベッドに倒れ込み夢も見ない眠りを貪っていたから。
「……さん? ショウキチさん?」
そんな訳で目を覚ましたのは耳元でそんな色っぽい声を聞いた時だった。
「はい? あ、ダリオさん!? もうそんな時間ですか!?」
目の前に悩ましげなダリオさんの顔と谷間が見えて、慌てて身を起こす。いつの間にやら彼女はベッドのすぐ横まで来て、俺の身体を揺らしていたのだ。
あと別の物体も揺れていたけどノーコメントで。
「ええ。報道陣にも休憩が必要なのでインターバルをとっていますが、あと10分ほどで発表会の開始です」
「お疲れさまです」
彼女の疲労の大半は、あの自由な父親――恐ろしい事にこのエルフ国の国王でもある――のやらかしを収拾し、彼に説教する事で生じたものだろう。家族関係に悩む事は俺にはもう無いがチームにとっての大口スポンサーや親会社の社長が余計な口出しや手出しをして来ている、という部分だけでも相当な重みだ。俺は慰労の言葉を投げた。
「交代でここで休ませて下さい」
ダリオさんはそう言って俺の横にゴロンと寝転がった。こちらは物理的な重みがプルン、と器から更に移されたプリンのように震える。
「あっそんな、俺の寝ていた後なんて! せめて退きます!」
姫様にこんな所でお休み頂くなんて不敬の極みだが、隣で寝るのはそれに不貞も加わる。俺は慌ててベッドから降りようとしたが自分のいる側は壁に面しているし、足を降ろせるのはダリオさん側だ。
そちらから降りようとするなら……既に横たわった彼女の身体を跨ぐ事になる。
「別に構いませんよ、10分くらいなら。そうした後は、発表会に出席して頂かないといけませんが」
逡巡した俺の顔を見てダリオさんはからかうように笑いながら言った。そうした後ってどうした後だよ!
「いえすぐ行きます! ただちょっと上を失礼しますが……」
「ええ、どうぞ」
どうぞ、と口にしながら彼女はベッドの上で甘い吐息をはきつつ大きく伸びをし、ただでも少なかった俺が手足を置けそうな空間は更に狭くなった。というかただの伸びでそんな声、出ますか!? あとどうぞってどういう意味で!?
「あれ? ちょっと、無い……」
俺の手は困ったようにスペースを探し、ダリオさんはその手が行く先へ身体を寄せる。どれほど重責を担っていようと彼女もドーンエルフなんだな!
「あん」
「ああ、すみません!」
そして、当然起こるべきアクシデントが起こった。ダリオさんの身体を越える際に自分を支える用に伸ばした手が、彼女の胸に追突したのだ!
「もう、ショウキチさんのえっち……」
「許して下さい! 触る気はなかったんです!」
俺は必死に弁明をする。サッカーでも倒れそうな時に出す手、いわゆる『支え手』についてはボールを触ってしまってもハンドを取る審判さんは非常に少ない。今だって、ダリオさんの身体に覆い被さらないよう伸ばした手がダリオさんの大きなボールに触れてしまっただけなので、これをハンドリングの反則にするのは厳しすぎる!
って何を言っているの俺!?
「だ、め。でも特別に5分間、添い寝して撫で撫でしてくれたら許します」
しかし今日の審判は容赦なかった。しかも俺を5分の懲役刑に処すという。これはラグビーにおけるシンビン――10分間だけ一時退場する罰だ。サッカーにも導入の噂があるかどうなるだろう?――みたいなものか。
「分かりました。でも時間はどう……」
「えい」
俺の疑問にダリオさんは腕を振って答えた。すると彼女の右手の指輪が勢いよく外れ壁に張り付き、空中に5分タイマーを照射し出した。
「あ、そう言えばそんな感じの魔法のアイテム、お持ちでしたね」
時折、お姫様がこの道具で自分のスケジュール等を確認していたのを俺は思い出した。王家としての公務、エルフサッカードウ協会会長としての事務、そしてサッカードウ選手としての練習と試合に追われる日々だ。これくらいの便利ツールが無ければやってられないだろう。
……そう考えれば、激務に疲労している彼女を労ってあげるくらいした方が良いのかもしれない。今ちょっとおかしなテンションなのも、忙しい上に父親の暴走の対処で疲れているからだろうし。
「えっと、では頭で良いんですよね? よしよし、ダリオさんはよくやってますよ」
俺はそう言って彼女の豊かな金髪をそっと撫でた。
「『ダリオさん』じゃなくて~」
「ダリオは良い子だね。頑張り屋さんだよ」
褒める時は躊躇い無くやり切る。これは常々、心がけていることだ。俺は彼女の要求に応えて言い直した。毒を食らわば皿までだしね。
「もう、口が上手いんだから! じゃあこっちは?」
しかしドーンエルフは食ってはいけないモノを俺の口にねじ込んできた! つまり俺と唇を重ね情熱的なキスを始めたのである!
「(流石にちょっとこのシチュエーションはマズいのでは!?)」
「ん……。残り4分30秒だけだから……」
ダリオさんは一瞬、唇を離してそう呟くと身体をぎゅっと寄せ再び舌を絡め始めた。その結果、俺の左腕は彼女を腕枕し、右手は導かれるまま胸の上に置かれているような状態になる。
時間……そうか、時間制限があるならなんとかなる……なんとかする!
俺はその後、今までの人生で最も長い4分を耐え、
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と謎の要求をするダリオさんを振り解いて部屋を出た。
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