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第三十八章
羨望と寝坊
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あんな時間と行為の後で真面目なセレモニーに出られるのか? と思ったが、会場についてポビッチ監督や尼僧のようなロビンさんの姿を見るとすっ、と心が落ち着いた。
「断髪式では抜けてしまって済みませんでした」
「いや、構わんが。お主の方こそ良かったのか?」
これから速やかに賢者になる必要がある時はこのドワーフ達を思い出す事にしよう、と密かに決意する俺にドワーフ代表監督が問う。
「何がですか?」
「いや、鋏を入れるチャンスを……」
ポビッチ監督は気まずそうにチラっとロビンさんの方に目をやる。ああ、そういう事か。
「俺は別に。そもそも罰ゲームと言うか、敗者を辱める行為全般に否定的な立場なので」
俺は暗にセンシャの事も含めて話す。そもそもこちらはあの儀式の廃止を訴えていて、アローズに破れたチームに対してもそれを要求しない事にしている。自主的にやりたがるオークみたいな存在もいるが。
で今回の敗者、ドワーフについても同様なのだが……ロビンさんの断髪式をやった事で、結果としてセンシャを行ったのと同じような結果になっている。それは俺としては不本意なのだ。
「ふむ。そんなものか」
ポビッチ監督はそう呟いてから、まもなく発表会が開始される壇上の方へ意識を戻した。彼はドワーフ――極めて誇り高く、敵は徹底的に叩き潰す土の種族――であり、その代表監督を長く努めサッカードウ界にどっぷりと浸かっている存在だ。地球のスポーツマンシップ的な考えはそう簡単に理解できないだろうが、俺の考えを尊重してかそれ以上は何も言わずアナウンスを待った。
「お待たせしました。それでは第二部、新製品の発表会を開始したいと思います」
ほぼ間を置かずミガサさんの声が会場に響く。いよいよエルフードワーフ共同開発の新製品、アクリルチャームの発表だ。
「出席者は引き続きドワーフ代表ポビッチ監督並びにアローズのショーキチ監督……」
銀髪のエルフがその美貌と同じくらい美しい声で名を告げた。俺達は歩幅を併せて、ステージの上へ上がった……。
その後の発表会は問題なく終わった。何かの会の後に新製品を発表するのは先日のレジェンドアクスタに続いて二度目、殆どのスタッフも報道陣も慣れたモノである。
因みにアクリルチャームの方のサンプル品はあの時ポビッチ監督が持ってきた物とは別に、改めて作成したのもあった。ドワーフ代表選手達の私服やコスプレ姿を撮った新作だ。
ドワーフ女子は基本的に可愛らしい少女たちで、彼女らの愛くるしい姿に報道陣は大いに唸った。このニュースを目にする一部マニア達の興奮もきっともの凄いものだろう。
もちろん撮影は城の中の、レジェンドアクスタの撮影で使ったのと同じスタジオだ。衣装についても、エオンさんが用意したものの誰も着用しなかった服にサイズ変更の魔法――巨人族のノゾノゾさんを人並みに縮める魔法があるのだ。服など楽勝なのだろう――をかけた後に微調整を加えたモノ。全て流用である。
なんかエルフのお姉さんからドワーフの幼女へだと流用と言うよりお下がりと言った方がしっくりくる気もするが。まあ現有戦力をやりくりして上手く戦果を上げるのも良い監督の特徴ということで。
そうそう、現有戦力と言えばアローズの一大戦力、ジノリコーチもこの新作の制作に一役かっている。不慣れな場内を案内し、エルフ側スタッフとドワーフ代表選手達の橋渡しをし、コーディネートやポージングの助言も行ったのだ。一度、ジノリコーチが練習を抜けていた日があったでしょ? 実はそれの為だったんだよね。
その甲斐もあってアクリルチャームの反応は上々。報道を観たのは夜、クラブハウスに戻って食堂で晩ご飯を食べながらであったが直後から問い合わせが殺到した。またその余波で直前に流されたロビンさんの断髪式については殆ど人々の遡上に載せられる事はなかった。
お金が儲かった上に一名のドワーフの恥ずかしさも軽減させた。良い事尽くしである。
あと俺の髪も首も――そんなに戦績が悪くなかったのに、クラシコに大敗したので首になった監督というのはあるあるだ――守ったし。
全て順風満帆といった所か。俺はかなり気分良く家へ帰り、久しぶりに独り酒盛りをするなどして幸せな気持ちで寝床へ入った。
「カントクー、起きル?」
そんな声が耳元でして、俺は一気に目を覚ました。それだけでなく、さっと上体を起こし両手で顔面をガードする。
「ストップすとっぷ……いててて!」
誰が俺の家に忍び込み枕元へ忍び寄ったか分からないが、ここ最近の傾向から考えて健全な目的とは言いまい。そこで俺は取りあえず唇や首を守る体勢をとったのだが……その手はあっさりと俺のガードを突破し、それだけでなく右手首を掴んで捻り上げた。
「起きます! 起きます師匠!」
その手業の鮮やかさで、俺は幾つかの事に同時に気づく。一つ、相手の狙いはキスやイヤらしい事ではない。二つ、この掴み技の使い手はタッキさんに他ならない。三つ、俺は寝坊して彼女との朝の錬功に遅刻した!
「お酒臭ーイ! 酔拳に手を出すのはまだ早いヨー!」
パーソナルトレーニング――最近は彼女に武術を習っているのだ。護身の為にね!――に遅れた事よりも深酒の方を咎める口調でタッキさんは言う。彼女の本来の職業は修行僧であり酒や姦淫などは御法度なのだ。
まあ俺はあくまでも武術上の弟子でそこまで厳しくないけどね。それにそもそも酒や姦淫にそれほど縁が無いし。
「すみません。久しぶりの平和に気が大きくなって」
そう言い訳しながら窓の外を見ると、日はもう高い所へ昇り切っている。
「もしかしてチームの練習にも遅れています?」
「そこまでではないケド、今日はもう休んだ方がイイネ!」
タッキさんは俺の手を離しつつ、呆れた様子で言った。
「そうですか。じゃあ鍛錬は諦めて、クラブハウスの方へ向かいながら少し話しましょう」
彼女の言葉を聞いて安心し頭の回転も良くなった俺は、ある事を思い出して言った。
「良いヨー。でも何の話?」
そう応えるデイエルフはややしかめっ面だ。泰然自若、心の広いタッキさんにしては珍しい。だがこれは大事な話だ、気にせず進めよう。
「次の試合でのね、タッキさんのポジションです!」
「断髪式では抜けてしまって済みませんでした」
「いや、構わんが。お主の方こそ良かったのか?」
これから速やかに賢者になる必要がある時はこのドワーフ達を思い出す事にしよう、と密かに決意する俺にドワーフ代表監督が問う。
「何がですか?」
「いや、鋏を入れるチャンスを……」
ポビッチ監督は気まずそうにチラっとロビンさんの方に目をやる。ああ、そういう事か。
「俺は別に。そもそも罰ゲームと言うか、敗者を辱める行為全般に否定的な立場なので」
俺は暗にセンシャの事も含めて話す。そもそもこちらはあの儀式の廃止を訴えていて、アローズに破れたチームに対してもそれを要求しない事にしている。自主的にやりたがるオークみたいな存在もいるが。
で今回の敗者、ドワーフについても同様なのだが……ロビンさんの断髪式をやった事で、結果としてセンシャを行ったのと同じような結果になっている。それは俺としては不本意なのだ。
「ふむ。そんなものか」
ポビッチ監督はそう呟いてから、まもなく発表会が開始される壇上の方へ意識を戻した。彼はドワーフ――極めて誇り高く、敵は徹底的に叩き潰す土の種族――であり、その代表監督を長く努めサッカードウ界にどっぷりと浸かっている存在だ。地球のスポーツマンシップ的な考えはそう簡単に理解できないだろうが、俺の考えを尊重してかそれ以上は何も言わずアナウンスを待った。
「お待たせしました。それでは第二部、新製品の発表会を開始したいと思います」
ほぼ間を置かずミガサさんの声が会場に響く。いよいよエルフードワーフ共同開発の新製品、アクリルチャームの発表だ。
「出席者は引き続きドワーフ代表ポビッチ監督並びにアローズのショーキチ監督……」
銀髪のエルフがその美貌と同じくらい美しい声で名を告げた。俺達は歩幅を併せて、ステージの上へ上がった……。
その後の発表会は問題なく終わった。何かの会の後に新製品を発表するのは先日のレジェンドアクスタに続いて二度目、殆どのスタッフも報道陣も慣れたモノである。
因みにアクリルチャームの方のサンプル品はあの時ポビッチ監督が持ってきた物とは別に、改めて作成したのもあった。ドワーフ代表選手達の私服やコスプレ姿を撮った新作だ。
ドワーフ女子は基本的に可愛らしい少女たちで、彼女らの愛くるしい姿に報道陣は大いに唸った。このニュースを目にする一部マニア達の興奮もきっともの凄いものだろう。
もちろん撮影は城の中の、レジェンドアクスタの撮影で使ったのと同じスタジオだ。衣装についても、エオンさんが用意したものの誰も着用しなかった服にサイズ変更の魔法――巨人族のノゾノゾさんを人並みに縮める魔法があるのだ。服など楽勝なのだろう――をかけた後に微調整を加えたモノ。全て流用である。
なんかエルフのお姉さんからドワーフの幼女へだと流用と言うよりお下がりと言った方がしっくりくる気もするが。まあ現有戦力をやりくりして上手く戦果を上げるのも良い監督の特徴ということで。
そうそう、現有戦力と言えばアローズの一大戦力、ジノリコーチもこの新作の制作に一役かっている。不慣れな場内を案内し、エルフ側スタッフとドワーフ代表選手達の橋渡しをし、コーディネートやポージングの助言も行ったのだ。一度、ジノリコーチが練習を抜けていた日があったでしょ? 実はそれの為だったんだよね。
その甲斐もあってアクリルチャームの反応は上々。報道を観たのは夜、クラブハウスに戻って食堂で晩ご飯を食べながらであったが直後から問い合わせが殺到した。またその余波で直前に流されたロビンさんの断髪式については殆ど人々の遡上に載せられる事はなかった。
お金が儲かった上に一名のドワーフの恥ずかしさも軽減させた。良い事尽くしである。
あと俺の髪も首も――そんなに戦績が悪くなかったのに、クラシコに大敗したので首になった監督というのはあるあるだ――守ったし。
全て順風満帆といった所か。俺はかなり気分良く家へ帰り、久しぶりに独り酒盛りをするなどして幸せな気持ちで寝床へ入った。
「カントクー、起きル?」
そんな声が耳元でして、俺は一気に目を覚ました。それだけでなく、さっと上体を起こし両手で顔面をガードする。
「ストップすとっぷ……いててて!」
誰が俺の家に忍び込み枕元へ忍び寄ったか分からないが、ここ最近の傾向から考えて健全な目的とは言いまい。そこで俺は取りあえず唇や首を守る体勢をとったのだが……その手はあっさりと俺のガードを突破し、それだけでなく右手首を掴んで捻り上げた。
「起きます! 起きます師匠!」
その手業の鮮やかさで、俺は幾つかの事に同時に気づく。一つ、相手の狙いはキスやイヤらしい事ではない。二つ、この掴み技の使い手はタッキさんに他ならない。三つ、俺は寝坊して彼女との朝の錬功に遅刻した!
「お酒臭ーイ! 酔拳に手を出すのはまだ早いヨー!」
パーソナルトレーニング――最近は彼女に武術を習っているのだ。護身の為にね!――に遅れた事よりも深酒の方を咎める口調でタッキさんは言う。彼女の本来の職業は修行僧であり酒や姦淫などは御法度なのだ。
まあ俺はあくまでも武術上の弟子でそこまで厳しくないけどね。それにそもそも酒や姦淫にそれほど縁が無いし。
「すみません。久しぶりの平和に気が大きくなって」
そう言い訳しながら窓の外を見ると、日はもう高い所へ昇り切っている。
「もしかしてチームの練習にも遅れています?」
「そこまでではないケド、今日はもう休んだ方がイイネ!」
タッキさんは俺の手を離しつつ、呆れた様子で言った。
「そうですか。じゃあ鍛錬は諦めて、クラブハウスの方へ向かいながら少し話しましょう」
彼女の言葉を聞いて安心し頭の回転も良くなった俺は、ある事を思い出して言った。
「良いヨー。でも何の話?」
そう応えるデイエルフはややしかめっ面だ。泰然自若、心の広いタッキさんにしては珍しい。だがこれは大事な話だ、気にせず進めよう。
「次の試合でのね、タッキさんのポジションです!」
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