D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十八章

銀の洗礼

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 俺にとって幸運だったのは一番近くにいたのが強さと速さを兼ね備えたリストさんであったこと、真下にアイスバスがあったこと。不運だったのはアイスバスには既に氷が満載されていたこと。
 そんな幸不幸が混ざり合い、落下した俺は空中で咄嗟に動いたリストさんに突き飛ばされ地面ではなく氷水で満たされた大桶に着地、もとい着水した。
「きーーーん」
 という耳鳴りと全身を切り削くような痛みを感じたのは一瞬だけだった。すぐに呼吸と感覚がシャットダウンし、俺の意識は暗闇に包まれた。 


 目が覚めた時、側に見えたのは艶やかな黒髪でも柔らかなピンクの髪でもなく見慣れぬ銀髪だった。
「予想と違った……」
 俺がガラガラの声でそう呟くと、銀の川がうねりこの世のものとは思えない美貌がこちらを向いた。
「良かった、意識が戻ったんですね! あ、まだ動かないで!」
 メディカルルームのベッドに寝かされている事に気づいた俺が身を起こそうとすると、その女性――白衣を着たミガサさんだ。ようやく名前を思い出せた――は慌てて俺を押さえつけた。
「氷水に落ちたショックで一時期、心臓が危うかったんですよ! 無理してはいけません!」
 ミガサさんは有無を言わせぬ口調でそう命じる。役者の時は簡単な台詞もしどろもどろなのに、治療士モードの時は本当に威厳があるな。そして言葉が分かるという事は……俺は緩い服に着替えさせられてはいるが、首に翻訳のアミュレットは着いたままの状態だ。
「ヒートショックみたいなもんですか。でもこの頭痛は?」
「ヒートショック? 何かの魔法ですか? 頭痛の方は単なる風邪のようですが」
 ミガサさんは俺の枕元のボードを手に取り、何か書き込みながら説明する。
「あー確かに魔法っぽい響きがありますね……。日本では冬場、餅という魔物の次に老人を殺している恐ろしい存在です」
 俺は周囲に目をやりながらジョークで返した。彼女には通じないし極めて不謹慎でもあるが、他には誰もいない様なので大丈夫だろう。
「そ、そんな魔物が!? 日本という地方は恐ろしい所ですね……」
「風邪の方はどうですか?」
 特に周辺にEKG――海外のクラブチームの略称っぽいが違う。心電図というか患者の身体に線で繋がって状況をモニタしてピッピとかいう機械だ――も無いが、自分で胸に手を当てた感じでは心臓は普通に動いている。そちらの判断は保留し俺は風邪の方について聞いた。
「何日か前から熱っぽいとか身体がだるいとかありませんでしたか? 正直に言えばその段階で療養せず、放置したツケです」
 はい、心当たりあります! じゃあその熱で頭がぼーっとして、ベランダから落ちてしまったのか。今おもえば練習を眺めている途中から思考がやや異常だった様な気がする。
「済みませんでした」
「自分で言うのは何ですが、このクラブハウスにメディカルルームがあって、私が勤務していて幸いでしたよ? それが無ければどうなっていたことか」
 うむ、それは仰る通りです。
「あはは。俺は準備が良い人間でして。あと水に落ちて意識を失うのも二度目でしてね」
 一度目は選手達とヨットレースをして、フットに当たってシソッ湖に落ちた時だったな。あ、選手と言えば!
「選手達はどうしてます?」
「医務室へ押し掛けようとしていましたが、ナリンさんが寮へ帰らせています。『移動の準備をしなさい』って」
 ミガサさんの話を聞いて俺は有り難さと恐怖を同時に感じた。普段は慈母の様に見守り、しかし俺が不摂生や危険な行為をすると厳父のように静かに怒りをみせるコーチの名と行動を耳にしたからだ。
「選手達は賢く言うことをきいたんですか?」
「ええ」
 と言うことはナリンさんの怒りと迫力は相当のレベルだったということだ。あの連中が従うんだから。
「あら、まだ寒気がしますか?」
「いえ、これは精神的なヤツです」
 震える俺にミガサさんが訊ね、俺は正直に話した。彼女はキョトンとしている。そりゃそうだ。
「ところで移動と言えば、明日にはもうアブリ島へ向かうのですか?」  
 それでも彼女は気を取り直して別の質問をする。
「ええ。温度差がありますので、対応の為に」
 俺は幾つかある理由の中、医療関係者に通じ易い理由を挙げた。今、ミガサさんが口にした『アブリ島』というのはミノタウロスの首都の名だ。かの牛人族は南方の島々に生息しており、その中で最大の島を都とし大多数がそこに住んでいるのだ。
 もちろんスタジアムがあるのも同じ島で、南方にある島と聞いてイメージする通り非常に暑い。その気候に選手の身体を慣らす為、俺達は普段より早く現地へ行ってしまう事に決めていた。
「あの……俺、行けますよね?」
 そんな事を思い出しながら、俺は怖々とミガサさんに聞く。監督としてチームに必ず帯同したいという気持ちが一つ。あとのもう一つは、何というか南方のリゾート島へ是非とも行ってみたい! という邪な願望があるからだ。
 実はそれが早期移動の理由の一つでもあるんだけど! てへっ!
「治療士としてはあまりお勧めできません」
「でも俺には監督としての責任があるんです! ミノタウロス戦は新しい戦術も試しますし、非常に重要な試合で……!」
 俺は少し大袈裟に『責任感の強い監督』風に訴える。コールセンターでは『心から申し訳ないと思っている』風の演技で何度もクレーマーを撃退してきた業前をみよ!
「どうでしょう? 何が別の理由を隠していませんか?」
「ぎく!」
 しかしミガサさんには通じなかった。そうだ、彼女の今の職業は役者さんだった! まだ駆け出しとは言え素人の演技など見破るのは朝飯前だろう。
「……ですがまあ、アブリ島は温暖な気候だと聞きます。遊びに出ず、部屋で大人しくされているなら」
「やったぜ!」
 思わずガッツポーズする俺をミガサさんがジロリと睨む。うお、凄い迫力! 銀色の狼フェンリルに睨まれたらこんな感じか?
「いや、はい。大人しくします。約束します」
 俺は上げた腕を下げて塩らしくする。これは演技ではない。
「良いでしょう」
 それを見たミガサさんが表情を緩め、ふっと笑いながら言った。よし! 彼女もアウェイに帯同するとは言え、メディカルスタッフとしての仕事もあるからずっと俺を監視する訳にはいくまい。ちょろっとビーチへ遊びに行くくらいの隙はある筈だ。
「ただし、ナリンさんには監視の目を緩めぬ様に言っておきますからね」
「ぎゃふん!」
 俺はギャグマンガのオチの様な返事をし、ミガサさんはそれを見てクスクスと笑った。

 くそ、俺がナリンさんに頭が上がらないのを、さっきの態度で既に見抜かれていたのか……。
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