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第三十八章
非常識な指導者と指導される者
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「おかげ様で体調はかなり回復しました。ただまだ大声を出すと頭と喉が痛いし風邪がうつっても悪いので、この後の陣頭指揮はザックコーチにお願いする事になります。とりあえず俺からは心配かけて済みませんでした、ミノタウロス戦は見守る立場になりますが宜しく、ということで」
昼食後の作戦室におけるミーティングで、既にスーツに着替えた選手スタッフを前に俺はそう述べた。いつもは茶化してくる連中も俺の様子と、あまり喋れないという事情を察してか特に野次を飛ばさず暖かい拍手と簡単な声援だけを送ってくる。
この辺り、生真面目さというかスポーツマンシップというか……。反論反撃できない相手を一方的に嬲るのを良しとしないエルフの性質なんだろうなあ。偏見だか対戦型カードゲーマーには向かないタイプだな。あとミノタウロス戦で試す戦術にも実は向いていない。アレが極まれば、相手には殆ど何もさせず勝つ事になるし。
「ではここから俺が変わろう。今日はミーティングの直後から船で城へ、瞬間移動の魔法陣でアブリ島へ行き、そこから『サーロ・イン』までは徒歩だ。荷物は牛車に預けられるが30分ほど歩く事になる。各自、スーツの上を脱ぐなり歩き易い靴に履き替えるなどしてくれ」
早速はじまったザックコーチの告知に不平を漏らす選手はいなかった。俺が話せば徒歩の30分へブーイングの一つでも出たところだろう。悔しいがそこは監督としての実績や威厳の差か。もちろん、自分の場合は
「現地の気候対応の為、散歩して身体を慣らす意味もあるので」
と説明して納得させたであろうが。
て徒歩30分!? あ、これ俺が健康な時に立てた計画だ! あの時はまさか自分が風邪をひくなんて考えてなかったからなあ。今の体調で、急に南国へ行って30分歩くのか……。
「次、ミノタウロスチームの現状をアカリ君から」
ザックコーチの呼びかけにゴルルグ族のスカウトが反応し、作戦室のスクリーンが天井から降りてくる。だが考え込む俺に、彼女の話は殆ど耳へ入ってこなかった……。
徒歩30分についての答えは出ないままであったが、とりあえず船で王城まで移動する分には問題は無かった。もちろん今回も運河の岸辺に見送りのサポーターや大量の野次馬が押し掛け、その声援を浴びる事にはなったが。なんならドワーフに勝利した直後という事もあって、普段の数倍の動員だった訳だが。
いや動員と言うと手配したという意味になってしまうな。一部サポーターを除く今回の群衆の殆どは自然発生だったらしい。それだけ宿敵の土の種族をサッカードウで打ち破ったという事は重みがあるのだろう。しかも今回はプレシーズンマッチではなく正式なリーグ戦だし。
そしてそんな栄光を……俺は受けられる状態ではなかった。体調は依然として全快と言えず、この後で魔法の瞬間移動と長距離の歩きがあると分かっている状態で余計な体力を消費する気分にはなれなかったからだ。
よって俺は群衆の最初の方へ軽く手を振った後、甲板下の船室の方へ移って楽な椅子に座り体力を温存した。世の中には他者からの声援でエネルギーを充電できるタイプ――エオンさんが代表例だ――もいるし、もし自分がそちら側なら上にいた方が良かっただろうが、残念ながら俺はそこまで陽の者ではない。暗く静かな所で休んだ方が落ち着くタイプだ。
余談だがプロにまで上り詰めるアスリートとなると、基本的に声援をプレッシャーに感じずエナジーに変換できる人種の方が多いようだ。そりゃそうだよな。トッププロとなると凄い人数の前で大金がかかった勝負をしたりする様になるんだから。
それを考えると俺はまだまだと言うか……。そもそも監督になった経緯からして偶然とか異世界と地球の差がモノを言っただけで、何らかの実力で勝ち得たものでもないし。そんな俺が彼女達を率いて良いものなんだろうか?
…………駄目だ。体調が悪い時に思い悩んでも、悪い方向にしか考えが向かない。俺は思考をシャットダウンし、船縁に当たる水の音に耳を傾けながら少しでも眠る事にした。
「南の島かー。ええなあ! 楽しんできてや!」
瞬間移動の魔法陣がある部屋に着いた俺たちにナイトエルフの少女からそんな声が飛ぶ。制服姿のレイさんだ。決まり通りアウェイには参加しない学生は、いつぞやの様に遠隔地へ飛ぶ俺達をお見送りするつもりらしかった。
「御意! お土産は何が良いでござるか?」
「カメハラミ大王の顔が入ったお菓子以外ならなんでもええで!」
リストさんが呑気に答え、若きファンタジスタは難しい要求をした。カメハラミ大王とはミノタウロスの古代の王様でアブリ島のシンボル的存在であり、あの島の殆どの名産品にその顔が刻まれている。
彼を避けてアブリ島の土産を買うのは、熊本でく○もんを視界に入れず観光する並に難しい事だろう。
「ところでレイちゃん、今日の学校はどうしたんっすか?」
「なんやアリス先生やらが午後のお休みとって自習やってん。『アローズの船に声をかけにいく!』とかなんとか言って」
遅ればせながらクエンさんが常識エルフらしい質問をしてくれたが、残念ながら回答の方は常識的ではなかった。そうか、あの群の中にアリスさんもいたのか。俺が万全の体調で上にいたら、見つけられていたのかもな。
「ショーキチにいさんどしたん? ゲッソリした顔して?」
呆れる俺に気づいたのか、レイさんがこちらに声をかけてきた。まあ体調半分、精神的な疲れ半分なんですけどね。
「レイさん抜きでアブリ島へ乗り込んで強豪ミノタウロスと闘うので緊張しているんですよ」
しかし未成年に心配をかける訳にはいかない。俺はおどけてそう言い返した。
「そうなんや? まあまあ……」
それを聞いたレイさんは一度、驚いた顔になったがすぐに妖しく微笑んで俺に耳打ちする。
「(ウチとアブリ島行くんはハネムーンで、てことで。そこで最初の子を仕込もうか?)」
「ちょっとレイさん!?」
彼女の言葉で赤裸々な想像をしてしまい、俺は顔が真っ赤になる。
「準備できたよ~」
そこへシャマーさんが声をかけてきた。
「ほな! 下調べよろしゅー」
レイさんはそう笑って俺の背中を押す。それに何も言い返せず、俺達は魔法陣の中へ進んだ……。
昼食後の作戦室におけるミーティングで、既にスーツに着替えた選手スタッフを前に俺はそう述べた。いつもは茶化してくる連中も俺の様子と、あまり喋れないという事情を察してか特に野次を飛ばさず暖かい拍手と簡単な声援だけを送ってくる。
この辺り、生真面目さというかスポーツマンシップというか……。反論反撃できない相手を一方的に嬲るのを良しとしないエルフの性質なんだろうなあ。偏見だか対戦型カードゲーマーには向かないタイプだな。あとミノタウロス戦で試す戦術にも実は向いていない。アレが極まれば、相手には殆ど何もさせず勝つ事になるし。
「ではここから俺が変わろう。今日はミーティングの直後から船で城へ、瞬間移動の魔法陣でアブリ島へ行き、そこから『サーロ・イン』までは徒歩だ。荷物は牛車に預けられるが30分ほど歩く事になる。各自、スーツの上を脱ぐなり歩き易い靴に履き替えるなどしてくれ」
早速はじまったザックコーチの告知に不平を漏らす選手はいなかった。俺が話せば徒歩の30分へブーイングの一つでも出たところだろう。悔しいがそこは監督としての実績や威厳の差か。もちろん、自分の場合は
「現地の気候対応の為、散歩して身体を慣らす意味もあるので」
と説明して納得させたであろうが。
て徒歩30分!? あ、これ俺が健康な時に立てた計画だ! あの時はまさか自分が風邪をひくなんて考えてなかったからなあ。今の体調で、急に南国へ行って30分歩くのか……。
「次、ミノタウロスチームの現状をアカリ君から」
ザックコーチの呼びかけにゴルルグ族のスカウトが反応し、作戦室のスクリーンが天井から降りてくる。だが考え込む俺に、彼女の話は殆ど耳へ入ってこなかった……。
徒歩30分についての答えは出ないままであったが、とりあえず船で王城まで移動する分には問題は無かった。もちろん今回も運河の岸辺に見送りのサポーターや大量の野次馬が押し掛け、その声援を浴びる事にはなったが。なんならドワーフに勝利した直後という事もあって、普段の数倍の動員だった訳だが。
いや動員と言うと手配したという意味になってしまうな。一部サポーターを除く今回の群衆の殆どは自然発生だったらしい。それだけ宿敵の土の種族をサッカードウで打ち破ったという事は重みがあるのだろう。しかも今回はプレシーズンマッチではなく正式なリーグ戦だし。
そしてそんな栄光を……俺は受けられる状態ではなかった。体調は依然として全快と言えず、この後で魔法の瞬間移動と長距離の歩きがあると分かっている状態で余計な体力を消費する気分にはなれなかったからだ。
よって俺は群衆の最初の方へ軽く手を振った後、甲板下の船室の方へ移って楽な椅子に座り体力を温存した。世の中には他者からの声援でエネルギーを充電できるタイプ――エオンさんが代表例だ――もいるし、もし自分がそちら側なら上にいた方が良かっただろうが、残念ながら俺はそこまで陽の者ではない。暗く静かな所で休んだ方が落ち着くタイプだ。
余談だがプロにまで上り詰めるアスリートとなると、基本的に声援をプレッシャーに感じずエナジーに変換できる人種の方が多いようだ。そりゃそうだよな。トッププロとなると凄い人数の前で大金がかかった勝負をしたりする様になるんだから。
それを考えると俺はまだまだと言うか……。そもそも監督になった経緯からして偶然とか異世界と地球の差がモノを言っただけで、何らかの実力で勝ち得たものでもないし。そんな俺が彼女達を率いて良いものなんだろうか?
…………駄目だ。体調が悪い時に思い悩んでも、悪い方向にしか考えが向かない。俺は思考をシャットダウンし、船縁に当たる水の音に耳を傾けながら少しでも眠る事にした。
「南の島かー。ええなあ! 楽しんできてや!」
瞬間移動の魔法陣がある部屋に着いた俺たちにナイトエルフの少女からそんな声が飛ぶ。制服姿のレイさんだ。決まり通りアウェイには参加しない学生は、いつぞやの様に遠隔地へ飛ぶ俺達をお見送りするつもりらしかった。
「御意! お土産は何が良いでござるか?」
「カメハラミ大王の顔が入ったお菓子以外ならなんでもええで!」
リストさんが呑気に答え、若きファンタジスタは難しい要求をした。カメハラミ大王とはミノタウロスの古代の王様でアブリ島のシンボル的存在であり、あの島の殆どの名産品にその顔が刻まれている。
彼を避けてアブリ島の土産を買うのは、熊本でく○もんを視界に入れず観光する並に難しい事だろう。
「ところでレイちゃん、今日の学校はどうしたんっすか?」
「なんやアリス先生やらが午後のお休みとって自習やってん。『アローズの船に声をかけにいく!』とかなんとか言って」
遅ればせながらクエンさんが常識エルフらしい質問をしてくれたが、残念ながら回答の方は常識的ではなかった。そうか、あの群の中にアリスさんもいたのか。俺が万全の体調で上にいたら、見つけられていたのかもな。
「ショーキチにいさんどしたん? ゲッソリした顔して?」
呆れる俺に気づいたのか、レイさんがこちらに声をかけてきた。まあ体調半分、精神的な疲れ半分なんですけどね。
「レイさん抜きでアブリ島へ乗り込んで強豪ミノタウロスと闘うので緊張しているんですよ」
しかし未成年に心配をかける訳にはいかない。俺はおどけてそう言い返した。
「そうなんや? まあまあ……」
それを聞いたレイさんは一度、驚いた顔になったがすぐに妖しく微笑んで俺に耳打ちする。
「(ウチとアブリ島行くんはハネムーンで、てことで。そこで最初の子を仕込もうか?)」
「ちょっとレイさん!?」
彼女の言葉で赤裸々な想像をしてしまい、俺は顔が真っ赤になる。
「準備できたよ~」
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