681 / 700
第三十八章
席とオファーと
しおりを挟む
牛車の中が快適なのは間違いない。屋根があるので日差しは遮られるし、それでいて窓もあるので海風が入ってきて涼しそうだ。広さがあってもう一人乗れるのも嘘ではない。実際に座席――籐の様な植物で作られた椅子にシーツが被せてある――は広く、標準的なヒップの大きさなら二人でも楽勝で座れる。おそらくミノタウロス基準なのだろう。
俺が犯した大きなミステイクは、それを全員が聞こえる場で大きな声で言ってしまった事である。
「そっか! じゃあ私が隣に乗って、ショーちゃんにアブリ島のシャーマンの歴史を教えてあげよー」
俺の言葉を聞いたシャマーさんが早速こちらへ駆け寄り、俺のスーツの上着を脱がせようとする。この反応速度はさすがDFリーダーだ。良いリベロは常にアンテナを張っていて、危険を感じたら己の判断で初期の位置を放り出してでも現場へ急行し危機を救うものだ。
もっとも彼女と牛車の個室へ入ったらむしろ何もない所に火の手が上がるだろうが。
「ストップ! 体調が悪い時に難しい話はノーサンキューでしょ? アブリ島はマリンアクティビティが豊富だから、ツンカがガイドしてあげる!」
一方、逆方向からはツンカさんがやってきて、俺の荷物を受け取りつつ腕を絡めてくる。彼女の方はとっくの昔に上着を脱いでおり、それどころかシャツのボタンを大胆に3つほど開け放って胸元がかなり涼しそうだ。こちらも察知能力とレスポンスが早い。
ツンカさんは実家では父親トンカさんの営む食堂を手伝っており、そこではホール係として働いてる。普段は見た目こそアメリカンダイナーで半分水着みたいな格好――そう言えば今、胸元でチラッ見てしまったものは水着だろうか? 水着だよね?――で気怠げに働いているウエイトレスさん風ではあるが、店で養った経験からか意外と視野が広く周囲に目が利く。故にサイドラインに張り付くWGからより中央でプレイするIHになって貰ったのだ。
「マリンアクティビティこそ病人には厳しいのではないかしら? ショウキチさん、私が隣に座ってカメハラミ大王の一族について解説致しますよ?」
少し遅れてダリオさんが歩み寄り、俺の額の汗をハンカチで拭ってくれる。もちろんアブリ島は着いた時から快晴でいかにも南国といった気候だが、この汗は暑さだけで出たものではない。
しかしダリオさんの方は涼しげな顔だ。今の騒動についても早くに気づいていたが、じっくりと様子を伺い遅れて入ってきたのだろう。彼女はエルフ王家の王族として、上に立つ者としての高く広い視野を持っている。それが生まれつき備えていたものか姫として育つ間に養ったものかは分からない。一介の指導者としての俺は
「才能半分、環境半分」
だろうという実に凡庸な予想をしているが。
それはともかく。彼女は同時に強い責任感も備えていて、あれもこれも自分で早急にやってしまおうというタイプでもあった。ある意味ではそれらから彼女を解放するのがアローズ強化プランの軸の一つではあったが……今の様子を見るにそれは一部、成功しているようだった。無闇に突進するのではなく、様子を伺いタイミングを見て現れたのだから。
「お三方のご厚意には感謝します」
そんな諸々を考えつつも、俺は周囲を見渡しながら言う。先ほどの一言で席がある事を知り30分歩かなくて良いんだ! と思って牛車の座席を狙う者、その他の目的で俺の隣に座りたいエルフなど思惑は様々だろうが誰を選んでも禍根を残しそうだ。
「ですが俺の隣にはジノリコーチに座って貰おうかと」
「わしはイヤじゃぞ?」
「はぁ!?」
俺のオファーはドワーフの才女から即座にお断りを受けた。それこそ一時のヴィッセル神戸の様に。
「車上で戦術の詰めができますし、歩かなくても良いんですよ?」
俺は困惑しながら幼女に諭す様に言う。余談だがJリーグ界隈には『尚既神断』という言葉があるのだが――一時期、複数のチームから移籍オファーを受けた選手についての報道で『尚、既に神戸には断りを入れた』というフレーズが毎度お決まりの様に書かれていて出来た言葉だ。神戸の補強が迷走していた頃の話だけどね!――今の俺は正にそんな状態だ。
「こんなおっかない生き物が牽く乗り物に乗りたくないし、わしは狭い所が好きじゃないからの!」
「え? じゃあどうするんです? 歩く速度がだいぶ違うと思うんですけど?」
「いつも通り、ザック君に肩車して貰う!」
俺が訊ねるとジノリコーチは何の躊躇いもなく宣言する。いやゴブリンの街では巨大狼の牽く車で移動したやん! とか牛車が駄目でミノタウロスの肩車はセーフなん? とかドワーフが閉所嫌いってなんやねん! とか色々とあるが、見ると彼女と彼の間では既に話がついているようだ。目が合ったザックコーチはニコリと笑って頷いた。
尚既牛諾、尚、既に牛は承諾済みってヤツか。そこに俺が割り込むのは駄目だな。
「じゃあナリンさん……」
次に俺はエルフのコーチの姿を探した。彼女は俺の個人アシスタントでもあるので、むしろ最初に声をかけるべきだったよな。
「……も駄目か」
しかし、さまよう視線がニャイアーコーチのそれとぶつかり、即座に断念する。彼女の目がハッキリと
「百合に割り込む男は死ぬが良い」
と語っていたからだ。うんまあ、木島君――以前も名前を出した、女性同士の恋愛が好きな友人だ――も赦してくれないだろうしね。
「では私と」
「ツンカとだよ!」
「ショーちゃん、困った時のシャマーさんでいこー?」
事ここに至って、我慢強く待っていた3名のエルフが再びアピールを始めた。この中の誰を選んでもマズい。特に頬を髪と同じピンクに染めたシャマーさんなんか一番、危険だ!
「となると……アガサさんだ!」
と、悩む俺に別のピンクが目に入った!
俺が犯した大きなミステイクは、それを全員が聞こえる場で大きな声で言ってしまった事である。
「そっか! じゃあ私が隣に乗って、ショーちゃんにアブリ島のシャーマンの歴史を教えてあげよー」
俺の言葉を聞いたシャマーさんが早速こちらへ駆け寄り、俺のスーツの上着を脱がせようとする。この反応速度はさすがDFリーダーだ。良いリベロは常にアンテナを張っていて、危険を感じたら己の判断で初期の位置を放り出してでも現場へ急行し危機を救うものだ。
もっとも彼女と牛車の個室へ入ったらむしろ何もない所に火の手が上がるだろうが。
「ストップ! 体調が悪い時に難しい話はノーサンキューでしょ? アブリ島はマリンアクティビティが豊富だから、ツンカがガイドしてあげる!」
一方、逆方向からはツンカさんがやってきて、俺の荷物を受け取りつつ腕を絡めてくる。彼女の方はとっくの昔に上着を脱いでおり、それどころかシャツのボタンを大胆に3つほど開け放って胸元がかなり涼しそうだ。こちらも察知能力とレスポンスが早い。
ツンカさんは実家では父親トンカさんの営む食堂を手伝っており、そこではホール係として働いてる。普段は見た目こそアメリカンダイナーで半分水着みたいな格好――そう言えば今、胸元でチラッ見てしまったものは水着だろうか? 水着だよね?――で気怠げに働いているウエイトレスさん風ではあるが、店で養った経験からか意外と視野が広く周囲に目が利く。故にサイドラインに張り付くWGからより中央でプレイするIHになって貰ったのだ。
「マリンアクティビティこそ病人には厳しいのではないかしら? ショウキチさん、私が隣に座ってカメハラミ大王の一族について解説致しますよ?」
少し遅れてダリオさんが歩み寄り、俺の額の汗をハンカチで拭ってくれる。もちろんアブリ島は着いた時から快晴でいかにも南国といった気候だが、この汗は暑さだけで出たものではない。
しかしダリオさんの方は涼しげな顔だ。今の騒動についても早くに気づいていたが、じっくりと様子を伺い遅れて入ってきたのだろう。彼女はエルフ王家の王族として、上に立つ者としての高く広い視野を持っている。それが生まれつき備えていたものか姫として育つ間に養ったものかは分からない。一介の指導者としての俺は
「才能半分、環境半分」
だろうという実に凡庸な予想をしているが。
それはともかく。彼女は同時に強い責任感も備えていて、あれもこれも自分で早急にやってしまおうというタイプでもあった。ある意味ではそれらから彼女を解放するのがアローズ強化プランの軸の一つではあったが……今の様子を見るにそれは一部、成功しているようだった。無闇に突進するのではなく、様子を伺いタイミングを見て現れたのだから。
「お三方のご厚意には感謝します」
そんな諸々を考えつつも、俺は周囲を見渡しながら言う。先ほどの一言で席がある事を知り30分歩かなくて良いんだ! と思って牛車の座席を狙う者、その他の目的で俺の隣に座りたいエルフなど思惑は様々だろうが誰を選んでも禍根を残しそうだ。
「ですが俺の隣にはジノリコーチに座って貰おうかと」
「わしはイヤじゃぞ?」
「はぁ!?」
俺のオファーはドワーフの才女から即座にお断りを受けた。それこそ一時のヴィッセル神戸の様に。
「車上で戦術の詰めができますし、歩かなくても良いんですよ?」
俺は困惑しながら幼女に諭す様に言う。余談だがJリーグ界隈には『尚既神断』という言葉があるのだが――一時期、複数のチームから移籍オファーを受けた選手についての報道で『尚、既に神戸には断りを入れた』というフレーズが毎度お決まりの様に書かれていて出来た言葉だ。神戸の補強が迷走していた頃の話だけどね!――今の俺は正にそんな状態だ。
「こんなおっかない生き物が牽く乗り物に乗りたくないし、わしは狭い所が好きじゃないからの!」
「え? じゃあどうするんです? 歩く速度がだいぶ違うと思うんですけど?」
「いつも通り、ザック君に肩車して貰う!」
俺が訊ねるとジノリコーチは何の躊躇いもなく宣言する。いやゴブリンの街では巨大狼の牽く車で移動したやん! とか牛車が駄目でミノタウロスの肩車はセーフなん? とかドワーフが閉所嫌いってなんやねん! とか色々とあるが、見ると彼女と彼の間では既に話がついているようだ。目が合ったザックコーチはニコリと笑って頷いた。
尚既牛諾、尚、既に牛は承諾済みってヤツか。そこに俺が割り込むのは駄目だな。
「じゃあナリンさん……」
次に俺はエルフのコーチの姿を探した。彼女は俺の個人アシスタントでもあるので、むしろ最初に声をかけるべきだったよな。
「……も駄目か」
しかし、さまよう視線がニャイアーコーチのそれとぶつかり、即座に断念する。彼女の目がハッキリと
「百合に割り込む男は死ぬが良い」
と語っていたからだ。うんまあ、木島君――以前も名前を出した、女性同士の恋愛が好きな友人だ――も赦してくれないだろうしね。
「では私と」
「ツンカとだよ!」
「ショーちゃん、困った時のシャマーさんでいこー?」
事ここに至って、我慢強く待っていた3名のエルフが再びアピールを始めた。この中の誰を選んでもマズい。特に頬を髪と同じピンクに染めたシャマーさんなんか一番、危険だ!
「となると……アガサさんだ!」
と、悩む俺に別のピンクが目に入った!
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる